吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
1年以上前
こんな素晴らしい作品に限ってなんで僕は電子で買ってしまったんだろう。 いや、電子が悪いとかじゃない、紙で持ちたかった作品だったんだ。 早く短編集出してほしい…。 ある母子家庭の、子供ににつかわしくないような冷静かつ論理的かつ諦観した少年視点で淡々と話は進んでいく。 母に何かある度に少年は反省部屋送りと称して部屋につっかえ棒をされて閉じ込められてしまうが、度々そういうことがあるので、少年は過ごしやすいように食料や布団を持ち込んで部屋をこっそり改造している。 そんなある日、反省部屋に訪れた一人の大人によって止まっていた少年の世界は変わり始める。 少年のポジティブな小憎たらしさみたいな部分がとても可愛いし、この歳でどこか諦念を憶えているような部分には悲しみを感じざるをえない。 また、淡々とした日常のセリフのやりとりがたまらなくいい。 シンプルな絵が、読み手の気持ちを乗せやすく想像の余地を残してくれているという部分では小説のような読み心地もあるかもしれない。 たまに挿入されるコマ枠が無い絵が印象的に使われている。 説明しすぎないのも素晴らしいし、それで分かりづらいということもない絶妙な情報量が適切にその場面場面で出てくる気持ちよさがある。 一本の映画を観たような気分にさえなるなーと思ったんだけど、本当に映画的な手法で描かれているのかもしれない。 僕が好きな映画で、小学生男子が主人公の『どこまでもいこう』というのがある。 75分の短めの映画なのだが、セリフが説明臭くなく、淡々としているがちょっとしたことでも彼らなりに懸命に考え、答えを出して歩んでいく。 見た当時、その姿に共感を覚え強くノスタルジーを感じてグッときた。 また、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』という映画が、本作と同じく母子家庭を描いた作品でこの最後のシーンが、もう、素晴らしいのだ。 そして、映画とこの漫画にも共通するものとして、弾かれたように「疾走する」のはたとえどんな理由でも、子どもの子どもらしさを最大限に出していて最強だと思う。 読んでいて、ぶるっときた。 子どもは子どもという理由だけで主役になれないわけじゃないんだ。
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
1年以上前
『豪雨』http://www.moae.jp/comic/morningzero_gouu 『固定編成』http://www.moae.jp/comic/chibasho_koteihensei 桃山アカネの短期集中新連載。 過去2作の読切はどちらも考えさせられる素晴らしい読切で、絵も漫画の描き方もどんどん上手くなっている。 今回の『海の境目』は前作の『固定編成』の状況をや取り巻く環境を少し変えつつ掘り下げる形、もしくは前日譚的な立ち位置になっていると思う。 事後そして解決をロードムービー的に描く『固定編成』に対して、そこに至るまでも描く『海の境目』。 読切を読んだときも感じたのは、こんな作品を20歳、21歳で描けるのはとんでもないなということ。 ゴロッとした自分の中で処理しきれないような感情、どうしようもなく忘れたい記憶、逃げ出したくてもその糸口さえ見えない日常、どこまでいってもつきまとう血縁、家族ということ、親ということ、無力な子供ということ。 誰にも言えない、理解されえない、逃げられない「孤独」。 登場人物の息苦しさや生きづらさが生々しく表現されているのは今作にも共通する。 ふと、松本剛を思い出した。 短期集中連載のまだ1話目。 これから冒頭で明かされた結末へ向けて物語はどう進むのか。 どうか、由美子にも時田にも救いがあってほしい。 終わっている家族に何を想うか。 怖いもの見たさで楽しみだ。
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
1年以上前
なんとなく普段あまり読まないヤングアニマルをパラパラっとめくっていたら目に留まった読切作品。 女子高生が放課後に好きな男子の下駄箱に「ラブレター」を入れようと決心して入れたらちょうど本人が来てしまったところから始まる小さな恋の物語。 美しく描き込まれた背景、豊かな表情、人物の可愛いデフォルメ具合のバランス、グッとくる構図が素晴らしい! 効果音はあれど基本的にはサイレントで話が運ぶのに空気感がとても良く伝わってくる。 少女が猫へ向ける表情一つで何を考えているか伝わって来る気がする。 猫缶に夢中になっている猫へ「お前はいいよな、恋とかそんな心配しなくていいんだもん」っぽい顔がとてもいい。 そしてそれを察知したらしい粋な猫。 熱海の海岸沿いの立体感のある土地柄も伝わってくるし、美しい夕方のちょっぴり切ない雰囲気も感じ取れる。 特にラスト4ページが素晴らしい! 最後にして最初に発する言葉、その一言が、そう、それだよね! 言ってる表情が見えないのもまたいい! タイトルが「ラブレター」だからお話はここまでなのだ! ここから先も読みたいけど、読みたいけど、余韻を残すこれがいい! 作者さんが映画等の映像作品を良く見ているのかなと思う。 なんとなく構図的やカメラワークのカメラが見えるから。 すごく映像的な漫画なので、3分ほどのアニメーションでも見てみたくなる。 雑誌の巻末作者コメントにて 「はじめまして。僕の初恋は熱海でして、その時の気持ちを描いてみました。よろしくお願いします。」 とある。 熱海での初恋の爽やかさ甘酸っぱさ、伝わってきました! ありがとうございます!
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
1年以上前
良い読切! 頭がハッピーで独特な感性の女の子の視点と語りで話は日記のように淡々と進むので、事件も軽く流してたりしていて彼女の目から見る世界は新鮮で楽しい。 日常で起きたちょっと嫌なことも事件も彼女の中ではたぶん同じレベルなのだ。 だが、最後まで読んでから見返すとあの場面、そうか、あれそうだったのね、と納得する部分もあって楽しい。 気を抜くと必然性もへったくれもない並べられた出来事に捕らわれていて、そもそも何の話だったっけと忘れてしまいかねないように誘導しているのがすごく上手いなーと思ったけど、これを記録だと思えばそういうものなのかもしれない。 最後までマクロな視点は入り込まず、圧倒的かつ完全な主観なので本来大きく描かれるべきポイント(彼氏の変わり様)はさほど触れず、妙な場面でドラマティックに盛り上がっている構図が面白かった。そこじゃないぞ、と。 一貫して客観的な解説も視点も一切持ち寄らせない良さがあった。 また読みたい。 過去の読切も独特の感性で面白い。 『女子大生と1円玉の神様 (第71回ちばてつや賞佳作)』ふくもとまさひさ http://www.moae.jp/comic/chibasho_joshidaiseito1yendamanokamisama
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
1年以上前
例えば『からかい上手の高木さん』のアダルト版のような良さがある。 色気のあるタッチ、夏の暑さを感じさせる温度感、どこか涼し気な美女、手玉に取られてしまうちょっとダメな男性。 なんでだろう、吸い付くように読んでしまう。 余裕と少しの陰がある三十路美女にダメな自分の欲求を見透かされて気持ちよくコロコロ転がされたい男性諸君は読むべし。 主人公(男)が人生めちゃくちゃになって自殺する前に蟹食べたくなったけど金無くてセレブ妻脅したら逆にマウント取られてなぜか一緒に蟹食べに車で北海道に向かうちょっとエッチで闇が垣間見えるロードムービー的なお話。 女性が描いてそうで実は男性が描いてるのかなと思ったら、ちゃんと女性が描いているという部分になんでだか妙に興奮してしまう。 ここで出てくる美女は意識的にか、なんでも許してくれちゃう「嘘のような」母性を見せてくれるし、男性のすべてを見透かし幼稚な欲求さえも叶えてくれるミューズを演じてくれてるので、非常に性的に消費しやすい。 だからこそ、達観したような全く見えてこない本心の部分にやきもきしてしまうし、何が目的か分からないミステリアスさにもんもんとさせられるが、それも気づけば目の前の性欲にかき消されてしまう巧妙さもある。 この女の前だと男はみんな、なんだかよく分からないけど事態は進んでるし気持ちいいからいっか、みたいに思考をスポイルされてアホな感じになってしまう。 この美女は凄まじく出来た女なのだ。 果たしてこれは、上手く行ってない旦那への憂さ晴らしなのか、自分だけを見てくれる純情青年の新鮮さ、嬉しさから振り回しているのか、今後の展開で描かれていくかと思うと楽しみだ。 「幻想ですよ、三十路の女に貞操観念なんて・・」 序盤で事後に出るこのセリフのすごいのは、金の為に強盗した男が人妻と半ば無理矢理にセックスした罪悪感を(じゃあいいか、と)軽減させる謎の効果があることと、ここまで肝が座ってるこの女はなんだか普通じゃないぞ、思わせてくれてワクワクすることだ。 このあたりから毒のようにじわりじわりと効いてきて気づいたらいいように気持ちよくマウント取られて自分では舵を切れなくなってしまっている。 死ぬための旅だと忘れて読んでいてエッチなシーンでドキドキしながら感情移入していると、たまに旅の終わりの死に向き合ったときにとんでもなく気持ちが落ちるので、その感情の落差で頭がクラクラする。 しかしエッチなシーンではどうしても感情移入せざるを得ないので、引き込んで一緒に落とすというすごく上手な作り方だなーと思った。 この手法ってホラー映画でよくある、序盤で若い男女がエッチなことしてると殺人鬼に殺されるみたいなベタなあれと同じ効果なのかもしれない。 それにしても、こんだけ肉体的にも精神的にも良くしてもらったらそこらの男は簡単にコロっと好きになっちゃうわけで、でも相手には世間的に成功している立派な旦那がいるのに比べて自分は北海道にゴールして蟹食ったら自殺するわけで、そして好きになった美女は旦那のもとに帰ってしまうということを考えると、死んでも死にきれないというか、なんて残酷なんだ、と。 もう、恋と性と愛と性と嫉妬と絶望と憧憬と性がぐちゃぐちゃに混ざっていて混乱しまくりの楽しさがあります。