野愛
野愛
1年以上前
音楽を題材にした漫画は多数あるので忘れてしまいがちだけれど、漫画で音楽を表現するのって物凄いことじゃないですか? なずなのねいろ、物凄い漫画に出会ってしまった気がしています。 ギター少年の伊賀が三味線を弾く少女なずなに出会い、三味線を教わろうとするところから物語は始まります。 なずなの三味線に感動し、自らも三味線の魅力に引き込まれていく…のは間違いないのですが、一筋縄ではいかないのがこの作品。 なずなには三味線を弾かなければならない理由と、三味線を弾くことができない理由がありました。 何故なずなは三味線を弾くのか、何故なずなは三味線を弾けないのか、なずなが抱えているものは何なのか。 多くは語られないまま、揺れ動くなずなの心だけをたっぷり描写して物語は進んでいきます。 真実が明らかになり、動き出したなずなの音色は静寂を切り裂くように鳴り響きます。 漫画だから音が聞こえることはありません。それでも、自分自身の音を見つけたなずなの姿が心を震わせる音楽そのものに見えました。 なずなが子どものような容姿で描かれているのにもしっかり意味があって驚きました。何から何までよくできている…。 本当に本当に出会えてよかった作品です。ぜひ多くの人に読んでほしい!
野愛
野愛
1年以上前
狂おしいほどの、身を焦がすほどの恋に出会うこと。それは幸せなことなのでしょうか。 何もない日々を過ごす真面目な高校生・利也が謎の美女・七彩と出会い、性に目覚め恋に落ちる物語。 七彩との出会いによって、年下の恋人や母親と過ごす利也の日常は変化していきます。 知り得なかった彼女たちの女の顔を知り、穏やかな居場所を失くし、日常を失くし、七彩以外見えなくなっていく利也。 恋を知らなかった頃と知ってしまった後の利也の顔つきの変化が素晴らしく、艶々先生の表現力に改めて感嘆させられました。 艶々先生の描く生命力に満ち溢れていながらも、儚くて美しい女性が好きなのですが、この作品は少年から大人へと変化していく利也の表情が何より印象的でした。 狂おしいほどの、身を焦がすほどの恋。 溺れている間は幸せなのでしょう。 しかし、ひとつの恋を終えて焦がれた身体と甘い記憶だけを抱えて生きるのはあまりにも辛く苦しいことのように思えます。 それでも、ラストシーンの利也は穏やかな笑みを浮かべているように見えました。 物語を見届けて、艶々先生の言葉を読んで、ひとつの恋を終えたあとの甘い痛みのようなものが、胸を締めつけて離れないのです。
nyae
nyae
1年以上前
ただのひとつ屋根の下ラブストーリーでもシンデレラストーリーでもないです。名作という言葉だけでも片付けられない、人の心を掴んで離さない何かがありました。読み終わってから数時間経ちますが、この漫画のことばかり考えている。 「愛されキャラ」という言葉がありますが、簡単に言うと主人公のゆりはそれで、でも世間が想像できるレベルの「愛され」とはかけ離れている。じゃあ何という答えが出ない。ゆりって子はなんなんだ?天使?もしくは神か? 漫画では登場人物たちがゆりに対して抱いた感情の正体がわからず戸惑う描写がありますが、読者である自分も、ゆりに恋をしてるのか、愛しているのか、羨望か、妬みか嫉みか、もう分からない。 https://manba.co.jp/manba_magazines/5189 このマンバ通信の記事にもありますが、この漫画はゆりが花屋敷家の人間を「救った」という話なんじゃないでしょうか。見た目が美しいかどうかなんて話を超越する“人間力”を発揮して、周りにいる人々を全員幸せにしてみせた。読んでる途中、登場人物全員幸せになる結末なんてあり得ないだろうと思っていたけど、ゆりはそれをしてみせたんです。16巻も続けるような話なのか?と思っていたけど、最後の方は読み終わりたくなくて泣いたんです。それって結局は吉村明美先生が凄いという結論に行き着いてしまうんです。 …ただ、ちょっとこれだけ言わせて欲しい。各話のあいだにあるコラムに書かれてる作者像のしょうもなさ、あれ何なんですか。漫画を読んでうわぁ〜…となってる時にあれ読むと、頭が混乱するんですよ!この人がこれ描いてるの?嘘でしょ?と何度思ったことか。 その辺も含めてこの漫画が完成してるんだろうか。うーん、いやでも正直な話、コラムで中和しなかったら、この先どう生きれば良いのか分からなくなっていたかもしれないくらい、人生観が揺らぐ漫画だったなぁ。