いさお
いさお
1年以上前
「ワンナイト・ラブ」というテーマがあります。恋人でない男女が一夜限りの関係を持つ。一夜限りであるがゆえに激しくて、はかない。だからドラマが生まれるのです。 本作は、そんな男女の特別な夜ではなく、その翌朝に2人がともにする朝ごはんを描く短編集です。 夜って不思議な時間です。世界が暗がりに沈むと、人は社会的動物であることから解放されます。大いに食べる、大いに飲む、大いに遊ぶ… 自分の本能に従って生きることを許されるのです。 そして、男女が2人になったら… 夜は時にその暗がりに紛れて、2人の背中を様々な形で、半ば強引に押してくれます。ずっと言えなかった想いを伝えることができたり、大切な人に救いの手を差し出す勇気を持てたり、はたまた体の関係を持ったり… しかし、再び朝は来るのです。そして、2人が朝最初にともにする行為が、「朝ごはん」です。 朝ごはんを自分のために、あるいは他人にために作り、そして食べる姿。それは、暮らしをともにする人にしか普段は見せない、無防備で、かざらなくて、現実的で、そしてあたたかな生活感にあふれたものです。 そんな朝ごはんの食卓でそれぞれの一夜を振り返りながら、おいしいね、とか、眠いね、とか、とりとめのない会話を紡ぐ。 そんな時間の中で、日の光に強く照らされながら、2人は試されるのです。 わたしたちは、特別な一夜のおかげで少しの間だけつながれた、かりそめの関係なのか? それとも、昼の世界をともに生きていける、かけがえのない関係なのか? 朝ごはんとは、ある特別な一夜を過ごしてしまった2人の関係を試す、神聖な最後の審判なのです。 卵雑炊、ハニートースト、コンビニの肉まん、梅干しのおにぎり…本作の描く朝ごはんはほんとうにおいしそうで、あたたかで、リアルで、彼ら彼女らの生活感にあふれています。 そんな朝ごはんが、2人の関係に先がないことを暴いてしまうなら、そのはかなさに想いを馳せる。 朝ごはんが2人の明るい未来を予感させるなら、お互いを見つけることができた2人を祝福する。 「朝ごはん」から人の関係の機微に心うばわれる、すばらしい作品です。 ぜひ、ご賞味あれ!
sogor25
sogor25
1年以上前
昔気質の硬派な高校3年生・鬼城御伽。彼の幼馴染でロシア生まれの女の子・ポーニャ。実は2人は結婚していて、同級生の間でもそれは周知の事実。この作品は、高校生2人が結婚生活にカチコミを入れ、家族や仲間と共に生き、そして"幸せに死ぬ"までの物語。 というとちょっと物騒に聞こえるかもしれないけど、元々ツイ4で連載されていた4コマ作品なだけあって作品全体が持つオーラはとても明るい。ただその中で、御伽とポーニャ、そして彼らを支える仲間それぞれにフォーカスされる瞬間があって、各々が内に秘める思いや感情がモノローグのような形で語られ、それを読むと毎話ごとに強い確かなメッセージを持ってこの作品が描かれていることが感じられる。モノローグなだけにその思いが言葉となってキャラクターから他の誰かに伝えられることはないのだけど、1人ひとりが熱い思いを抱えながら生きているからこそこの楽しい物語が成立しているのだと思うと、読んでいるこちらも自然と胸が熱くなる。コメディの中に高い熱量とメッセージを忍ばせた、つい見逃されてしまいそうだけど素晴らしい作品。 全3巻読了