劇画 蟹工船 覇王の船

覇王とは

劇画 蟹工船 覇王の船 小林多喜二 イエス小池
ウマタロ
ウマタロ
小林多喜二の「蟹工船」を、ジョージ秋山のアシスタントを長年務めるイエス小池がコミカライズした作品。もともと読切作品だったが、2008年の蟹工船ブームの折に文庫化された。 出版に至った経緯はドラマチックだ。詳しく知りたい人はたけくま先生のページを読むとよい。 http://memo.takekuma.jp/?p=1217 読んでみての感想としては、個人的には原作とは大分違う印象を持った。 過激な描写が多いものの、表紙の罰河原赤蔵(ばつがわらあかぞう)のクレイジーなキャラと、不屈のヒーロー龍さん(オリジナルキャラ)の存在が痛快で面白い。 過去にも蟹工船系作品には触れてきたものの、プロレタリア文学とか格差社会という固まった評価の中で理解していただけだったかもしれない。 イエス小池バージョンでは、罰河原中心の視点で、世界が孕む狂気そのものを描いていて、そこはかなり際立っていて良かった。この漫画はとにかく、ラストの罰河原赤蔵の咆哮がすべてなんじゃないかと思う。これから大東亜共栄圏に突き進む歴史をも示唆していて、そこまで通して考えると、「おい、地獄さ行くんだで!」という書き出しの意味しているものが変わってくるようにも思えた。
さよならにっぽん

人情味のある話がまとまっている、大友克洋の短編集

さよならにっぽん 大友克洋
地獄の田中
地獄の田中
大友克洋といえば『AKIRA』『童夢』の超能力とか近未来SFっていう印象が強かったけど、「さよならにっぽん」はそういうSF要素はない。 収録されているのは『East of The Sun, West of The Moon』『さよならにっぽん』『聖者が街にやって来る』『A荘殺人事件』の4作品で、『A荘殺人事件』だけがミステリー調で他は人情味溢れるいい話。だから、大友克洋=AKIRAって期待するとちょっと外れるかも。少なくともでかいクジラがNYを押しつぶす話ではない。 ただ、『East of The Sun, West of The Moon』『さよならにっぽん』『聖者が街にやって来る』の3つは大友克洋の初期に、社会の闇の部分とか退廃的な人間とかを多く描いていた頃よりももっとライトに読みやすくなって、じんわりと心に残るとてもいい短編だと思う。 『さよならにっぽん』が1〜5まである連作。『East of The Sun, West of The Moon』と『聖者が街にやって来る』は内容的なつながりはないけど登場人物がかぶる。『聖者が街にやって来る』が一番好きだな。 『A荘殺人事件』はカツ丼が出て来るから『GOOD WEATHER』って短編の『カツ丼』と繋がっているのかもしれない。 値段もそんなに高くないからおすすめ。