CUE COMICSの感想・レビュー26件続きを予想しよう。預言者ピッピ 地下沢中也二階堂こんなに面白いマンガが、続きが出なそうと思うと、苦しい。 せめて好きな人で予想しましょ〜21世紀、最も手塚治虫に近づいた漫画家預言者ピッピ 地下沢中也ぴっぴマンガコンシェルジュさんに21世紀、最も手塚治虫に近づいた漫画家さんですと紹介されました。読んだひとは感想を一緒に語りませんか?もしかしてAIが発達したらこうなるんじゃね?預言者ピッピ 地下沢中也starstarstarstarstarかしこマトグロッソさんのインタビューで預言者ピッピの続きについて触れられていたので久しぶりに読みたくなりました! https://manba.co.jp/manba_magazines/25517 自然災害を予知する為に作られたロボットのピッピ。災害に対するあらゆるデータをインプットし予測の実験を繰り返すことで大地震の発生を3ヶ月前に予知することにも成功していました。ピッピを作り出した科学博士の息子タカオは「ピッピが願ったから多くの人を助けられたんだ!」とまるで兄のように慕っていましたが、交通事故によりピッピの目の前で亡くなってしまいます。自分の予測に反した出来事が起きたことで一時的に活動を停止してしまいますが、再起動したピッピの中にはなんとタカオの人格が生まれていたのです。そしてピッピは自然災害の予知以外にも自分の能力を使いたいとデータの入力制限の解除を求めてきて…。 AIが発達した社会はこうなるんじゃないかと予知していたかのような内容です。読んでいて最初は人知を超えた力を持ったピッピのことを畏怖しますが、だんだんとそれに振り回される人間の集団心理の方が恐ろしく感じられるようになります。ピッピがデータの入力制限の解除をすることに反対していた博士の「人間には迷う自由、間違う自由がある」という言葉に今は共感するけど、今よりAIが発達するであろう10年後の自分が全然違うことを感じたらどうしよう。これが人類の末路・・・?預言者ピッピ 地下沢中也starstarstarstarstar_borderこめつぶ地震予言ロボットとして生まれたピッピがあるきっかけで人の未来、人類の未来を予言していくようになる 話の展開が凄まじくて、まったく予想できない内容にめちゃくちゃ引き込まれます! 厄災を防げるなら。不治の病が治せたとしたら。人類への命題が提示されたとき、何を指針に私たちは進む道を決めるのか。 不幸とは。人の死とは。連続する時間とは。 叡智をもってしても定量化できない、割り切れないものってなんなのか。 進化とは? 新しい人類とは? どういう話になるのか楽しみこっ、これ完結するんでしょうか・・・??預言者ピッピ 地下沢中也starstarstarstarstar_border酒チャビンてっきり完結していると思ったのですが、未完です!!(ですよね??多分、この作品はまだ描き切ってないと感じたのですが。。)完結してほしい!完結しないとなんかモヤモヤが激しく残ります!!! 他にも未完の作品をいくつか読んできましたが、本作品は、かなり謎を後半に引っ張っているので、それが気になって気になって、本当に完結しないならしないでいいので、どういう感じのストーリーで締めくくりなのかだけ教えてほしいです!!マンガはネームにペン入れなど大変でしょうから、最悪口頭とかでも大丈夫です!!! 内容は結構考えさせられるもので、生きすぎた文明への警鐘的な感じで、コンピューターとか自然法則とかの理系的な話も多く出てくるのですが、そこはあくまで調味料で、全体の真髄は哲学や宗教や愛や思念であったりという文系的な部分にある思います。続き気になる〜。 まぁでもわたしがいくら焦っても原稿ができてくるわけではないので、気長にフォローしながら新刊通知を待ちたいと思います。たまに続きを予想したりもしようと思います。 いい短編集だった空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集 スズキスズヒロ名無し文化庁メディア芸術祭受賞作品ということで気になっていました。「トレインスポッティング」「タクシードライバー」「キッズリターン」の有名映画タイトルから着想を得て描かれた短編シリーズがどれも面白かったです。単行本の表紙で女の子が映画館にいるのはそういう理由だったのか!これはかっこいい!変な漫画がいっぱい黒船 黒田硫黄starstarstarstar_borderstar_borderかしこなんか記憶違いだったら申し訳ないんだけど、ちょっと前にマンバの思い出せないマンガの質問の一つに「人魚に精液をくれと頼まれる漫画」を探してる人いなかったっけ…?その時はそんな変な漫画がこの世にあるんだと思ってたんだけど、こないだ久しぶりに「黒船」読み返したらあったよ!そんな変な漫画が!しかも精液の代わりにカルピスをあげるってオチで、人魚も「初恋の味…なるほどね…」って納得してたよ!久しぶりに読んだら変な漫画がいっぱいあって楽しかった。肉じゃがやめろ!黒船 黒田硫黄名無しこれ読んでから肉じゃが喜べなくなってしまった面白さが説明が出来ないトコトコ節 いましろたかしstarstarstarstarstar_borderマンガトリツカレ男全然良い話もないしすごい感動する話あるわけではないが無茶苦茶面白い。絶妙な間と会話の繰り返しといえばいいのかな 特に好きなのは「隊長」生死に関わる重要な場面なのにかっこ悪い会話をさせようと考えられる作者はすごいな このマンガの短編を読みその後作者の後書きを読むとこのマンガの凄みがわかったような気がするこんな風に生きていたいトコトコ節 いましろたかしhysysk最年少で世界記録樹立とか、30歳未満の優秀な人物30人とか、数億円の資金調達だとか、こんなに素晴らしい人がいるんですよ、皆も頑張ろう!夢を持とう!世界をより良い場所に!努力・友情・勝利!…生きていると日々そういった煽りが目に入ってくる。もちろんそれ自体は悪いことではないし、勇気づけられることもある。 でも別に、毎日だらだらしたり、親戚の伝手でたまに仕事したり、友達と別れる時はちゃんと見送ったり、迷った末に5000円貸してあげたり、大麻吸ってゲロ吐いたり、それで良くないか? こんなことを言うと冷笑的だととられそうだが、自分はどちらかというと熱血的でマッチョな方だと思う。努力しなければ現状維持すらままならないと思っている。でも「本当に」それが、そんな世の中が望ましいのかと聞かれたら、違うと言うだろう。誰もが慎ましく生き、他人の価値観に左右されず、ちょっとだけ悪いことをするような世界が好きだ。もったいないの極致江口寿史のお蔵出し 江口寿史hysyskちょっと『童夢』みたいな『POCKY』やエッセイマンガなど、こんなのも描けるんだ!という驚きに満ちた短編集。間違いなく才能があるんだけど、それゆえに完成させられないなんて、こんな皮肉なことがあっていいのだろうか。 椿屋の源こと狩撫麻礼と組んだ『平成大江戸巷談 イレギュラー』なんて、描き切ってれば実写化とかされて歴史的作品になってそうな勢い。でも狩撫と組んでも完成させられないとしたら、一体どうすればいいのか。それでも多分、みんなが待たずにはいられない、ずるい魅力がある。コスモスってタイトルってさコスモス 光用千春さんだる※ネタバレを含むクチコミです。ネコノヒーで人気の著者のシュールすぎる世界チャチャ・チャー子 キューライスさいろく世界観が意味わからないことは置いといて… ネコノヒーの著者キューライスさんが描くヒトが意外と可愛い。 チャー子単体での作品もあるのだがそっちは未読だった…立ち読みした感じ、そっちの方が先のもので今は絵がうまくなってるのがわかる。世界観も繋がっているようで登場するキャラも同じ感じ。 雰囲気というか空気が独特でついついずっと読んでしまう引力のある作品。 素朴で安心する手触りの短編集空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集 スズキスズヒロ兎来栄寿マトグロッソで連載していた物に、表題作の描き下ろしを1つ加えたスズキスズヒロさんの短編集。 とりわけ個人的に好きなのは、「銃声を削り出す」。ヤクザになり下手を打ってしまったかつての悪友のために、昔馴染みの友人たちがそれぞれの得意分野を生かして拳銃を拵える話なのですが、友情や人生を感じられる味わい深い物語となっています。銃を作る過程の工具の説明の専門性よ高さにも惹かれます。 また、全編を通してスズキさんのマンガは勿論、解説文にも惹かれます。後書きも含め、きっと長い文章を書いても面白いのだろうな、と。 仙台に住む高校生がカメラのオフ会で東京に行って、webで交流していた綺麗なお姉さん含む同好の士に逢う「TRAINSTOTTING」の後書きで、筆者自身が高校生の時に夜行バスで初めて東京に行った際に、あらゆる不安が新宿に着いた瞬間に「手塚治虫の人間昆虫記に出てきた所だ!」という興奮に変わる所など大きな共感を得ました。 絵柄も優しく、穏やかなハウスミュージックを聴いてコーヒーを飲んでいる午後のような気持ちになる一冊です。表紙買いして良かった漫画空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集 スズキスズヒロnyae読んでてもしかしたらと思いましたが、プロフィールに 保有資格:「第二種電気工事士」「危険物取扱者」と記載が。笑 マトグロッソに載ってたということも知らず、石山さやかさんが帯コメント書いてたのと、表紙の雰囲気が良くて買いました。表紙を見ていいなと思った人読んでは損しないと思います。 いわゆる、派手じゃないけど登場人物それぞれの心情やドラマを上手く描いてる系の漫画です。これからも好きなものを好きなように描いてほしいなと思います。手塚絵の完コピという禁じ手神罰 田中圭一マウナケアまさに禁じ手。でも誰も真似できない真似。『デビルマン』や『ワイルド7』などのトリビュート作やオマージュはありますが、それはあくまで描き手の画風での作品。こちらは手塚治虫画風、というより絵の完璧コピーでオリジナルをやるという、日本漫画界の歴史の中でも他に類を見ない画期的な作品なのです。などと大仰に書いてみましたが、中身はそうとうお下劣。このあたりの感覚は、手塚コピーに転向する前の話題作「ドクター秩父山」を彷彿とさせるものがあります。というかいつもそうか。巻頭の間黒男とロックがエロゲーを攻略する話以外は、まったく手塚キャラは出てきませんが、まあ、それは内容が内容だけに配慮しているのでしょう。ちなみに昔の画風や本宮ひろ志、福本伸行のパロディもあり、2巻はほぼ昔の画風の短編が収録されています。しかし、これを読んで再確認したのは、手塚女性キャラというのはかなりエロ要素がある、ってこと。この内容で有名キャラを…って思ってると神罰が下りますかねぇ。表情が見えづらいから話に集中できるのかも。コスモス 光用千春アリクイお父さんとの二人暮らしをしている小学生の女の子が主人公のマンガ。このマンガは登場人物の表情が見えづらい(マンガに表情があまり描かれていないから)。しかし登場人物の表情を見なくても登場人物の発言やまわりにあるもの、雰囲気などで登場人物の気持ちや、どんな話なのかが何となくわかるような。表情がなかなか見えづらいからこそ、表情以外の表現や話に意識がいく、集中して読むことができる感じがするなと。パッと見は淡白な感じの絵なので好き嫌いは分かれるかも知れませんが。このマンガの雰囲気にハマるとマンガが頭の中に残ります。わかり合えなさを小学生の目線で描くコスモス 光用千春nyaeとにかく思考する小学三年生の花ちゃんが主人公。 カレーに餃子を合わせてくる父親 両親に甘やかされる親戚の子供 自分の都合に合わせて親に離婚して欲しいと言う同級生 片親についての持論を展開してくる転校生 クラス替えで疎遠になった親友 両親が離婚したことによる身の回りの変化と、家族や親戚、同級生たちとの関係性。人間同士、わかり合えなくて当たり前なんだと小学生に教えてもらったような気持ちになりました。磨き上げたセンス江口寿史のお蔵出し 江口寿史(とりあえず)名無しマンバで江口寿史の作品一覧見たら、『パイレーツ』と『ひばりくん』と『キャラ者』と、この『お蔵出し』しか登録されていなくて驚いた。 ほとんどクチコミも書かれていない。 つい最近も、雑誌のillustration (イラストレーション)2019年3月号【特集:江口寿史】がよく売れて増刷されたとか聞いていたので、人気は衰えないなあ…と感心していたのだが、やはり漫画家としては、忘れられた存在になっているのだろうか…。 江口寿史って、むちゃくちゃ「センスの良い」漫画家です。 「センス」という曖昧な言葉が、なにを意味しているのかは、実は結構難しい問題なんですが、やっぱり江口寿史は、「センスが良い」としか言いようがない。 私見ですが、「センス」には二種類あると思ってます。 例えば、ジャンプで同時期に活躍した鳥山明みたいな、もう「生まれつき」としか言いようがないような才能を持った天才タイプのセンスの良さ。 もう一方は、自らの趣味性や嗜好を大切に捉まえて、その大きくはないかもしれないけれど堅固な才能を、多様な方法で一所懸命に磨いて磨いて、「センス」として花開かせた努力型のタイプ。江口寿史は後者だと思うのです。 漫画家としてもイラストレーターとしても、江口寿史は本当に磨き上げたセンスを持つ、優れた表現者です。 絵については、多くのかたが今も魅了されていて知られていると思うのですが、ホント、ギャグ漫画のセンスが良いんですよ。 テーマも演出もすごく考えられていて、読んでいてとても快適で、ちゃんと笑えて、読後こちらもセンスが良くなったように思える、風通しの良さがある。 もちろん、いろいろ「悪名高い」人ですから、未完の作品も多いですし漫画を描かなくなって長いので、作品世界の風物に少しアウト・オブ・デイトなところもありますが(ジャンプ系は特に)、彼のイラストは好きだけど漫画を読んだことがないというかたがもしいたら、とりあえず、この『お蔵出し』とかショー3部作(『寿五郎ショウ』『爆発ディナーショー』『なんとかなるでショ!』)あたりの短篇集で、そのセンスの良さに触れていただきたいです。素敵な短編集ベランダは難攻不落のラ・フランス 衿沢世衣子starstarstarstarstar吉川きっちょむ(芸人)どこか海外の香りがするなーと思っていたらロンドンで美術学んでらしたんですね、衿沢世衣子さん。 いろんな雑誌に載っていた短編をギュッと集めた短編集。 表紙の素敵さがヤバい。 ポスターにして飾りたい。 タイトルは掲載された短編のタイトル3つを合わせたもの。 衿沢世衣子さんを初めて知って読んだのが、『うちのクラスの女子がヤバい』だった。 思春期の性だったり関係性など彼女らにそっと寄り添ったような悩みを淡々としているようですごくいいバランス感覚で描くなーと思っていたんだけど、それももしかしたら海外にいたことで培えたものもあるのかもしれない。 すごく勝手な話だけど、こういう価値観をもって描けるような大人が親戚の叔母あたりのポジションで自分と仲良かったらいいのになと思ってしまう。 いや、違うか、こういう人と結婚したい。 短編はどれも素敵で健やかで愛しい。 8本ある短編だけど、ちょうどタイトルの ・ラ・フランス ・難攻不落商店街 ・ベランダ が好きだった。 その中でも特に「ベランダ」。 たわいない会話にグッとくる。 そして見た目から推測できることはあくまで推測でしかなく、心配することは大人の自分勝手な善意の押しつけのようなもののしんどさや重さと表裏一体だ。 何かから逃げてきた子供の「別の国じゃなくなっちゃった」のセリフを描けるのは本当にすごい。 自在に特定の年代の人間と同じ目線になれるんだろうか。 よっぽど深く潜れないとその言葉は引き出せないと思う。 しかし、ここで見せたいのは少女の方ではなく、あくまでそれを聞いた大人の女性の表情だ。 僕たち読者は一緒にハッとさせられる。 それまで呼んでいた「テキサス」というおちゃらけたあだ名が耳の奥で響き宙に浮く。 このあと、結局最後までストーリーには一切関わってこなかった主人公の杖が気になるようになった。 彼女も過去に何かあったのかも、とは深読みのし過ぎか。 誰にだって何かの事情はあるものだ、ということかもしれない。 梅雨が明けた頃、この短編をもう一度読もうと思った。 画像は僕が一番好きな、なにげない会話のシーン。天才×天才破戒 ~ユリ・ゲラーさん、あなたの顔はいいかげん忘れてしまいました~ 山本直樹 松尾スズキかしこ※ネタバレを含むクチコミです。電子書籍向きトラベル 横山裕一🐤このスピード感とか世界観は電子書籍でページめくりのアニメーションもなしで読むのが合うこの紛れもない感触大王 黒田硫黄影絵が趣味このザラザラとした手触り感、それはまさしくこの作品群が紛れもない本物であるという証拠に他ならないと思います。 ある作家が自らの好みをどこまでも厳密極まりなくその作品内に構築すると、そこには外部から遮断された閉じた世界ができあがる、しかし、それはあまりに厳密に閉ざされているが故に、かえって、この現実という名の途方もない世界の何とも関係を持たない独立したひとつの生き物としてそこらを闊歩しはじめる、これこそが黒田硫黄の作品群から感じられるザラザラとした生々しい感触であるのではないでしょうか。 その意味で、黒田硫黄が、手塚治虫、大友克洋、高野文子らの系譜に連なる、マンガの境界線の探索者と言われるのは実にもっともなことだと思います、この手触り感は境界線に住まおうとする作家に特有なにおいであると思います。世界の変革が抉りだす人間の本質『預言者ピッピ』預言者ピッピ 地下沢中也兎来栄寿一体、これは何なのか。 ページを捲り、フキダシの中の台詞を追う度に、脳髄を殴られるような衝撃。 初めて『預言者ピッピ』を読んだ時、あまりにも面白過ぎて目眩がしました。 私はマンガソムリエ活動の一環として、日々漫画のレビューを行っています。 その中で100点満点で80点を超える作品は稀で、90点台ともなると年に1冊出るか出ないかという位です。 しかし、この『預言者ピッピ』には1巻90点、2巻95点という最高の評価をしています。 今世紀刊行された漫画の中でも個人的ベスト1候補の、最高に物凄い作品です。 『預言者ピッピ』が掲載されていたCOMIC CUEという雑誌を知っている方は、かなりの漫画好きでしょう。 マイナーではありますが、大友克洋先生、松本大洋先生から安野モヨコ先生、羽海野チカ先生まで実に幅広く錚々たる大家が寄稿していた、特濃の漫画雑誌です。 1999年に出たその6号目。 『火の鳥』のロビタを表紙に据えた、「手塚治虫リミックス」という特集号から『預言者ピッピ』はスタートしました。 実際、初めて単行本で読んだ時に「手塚治虫作品クラスの圧倒的な領域に達している」と感じたので、この表紙を見た時は感慨深いものがありました。 そう、今作は『火の鳥』で描かれているような、人間や生命、社会や世界に対する深い洞察に満ち満ちているのです。 それまでギャグ漫画をメインに描いてきた地下沢中也先生が、こんなにもシリアスで重厚なSFを描くのか! と非常に驚愕しました。 手塚治虫先生の諸作品も、何かが取り憑いて描かせたのではないかと思うような超越性を半ば感じますが、それに似た印象をこの『預言者ピッピ』からも受けるのです。 同じ99年開始の『愛人[AI-REN]』以上の曰くつき作品でもあります。 CUEに五話目が掲載されたのが、2001年。 そして、そこまでを収録した単行本第一巻が出たのは、2007年。 何と、実に六年の歳月を要しました。 その段階で未掲載分が二話分ありながらも、連載が止まってから四年も経っていては続刊は絶望的かと思われていました…… が、2011年10月に奇跡の2巻が刊行! しかも、84ページの描き下ろしを伴って! これには私を含むファンが熱狂的な喜びを以って迎え入れました。 そして、4年ぶりの新刊、実に8年ぶりとなる続きが、また想像を超えてくる出来でした。 息もつかせぬ、とは正に『預言者ピッピ』の為にあるような言葉。 途方も無い領域まで話は突き進んで行き、ただただ圧倒されます。 アイザック・アシモフが50年前に想像した2014年の様子が現在に照らしてみると驚くほど的中しているように、この作品で呈示されているものも本当に実現するのではないか、と思わされます。 今、世界で一番続きが読みたくて狂おしい漫画です。 それにしても、岩手県出身である地下沢中也先生が、2011年にこの物語の続きを刊行したことは、大変に意義深いことです。 3.11から今日で丸三年。 あの災禍、そして断続する余震や原発事故。 私も、親しい人を喪いました。 世界の関節が外れ、当たり前が当たり前でなくなり、それまでとは理が一変してしまったように感じました。 ともかくもう二度と、こんな悲劇が起こらないで欲しい…… そんな願いがある種実現されているのが、現代を舞台にした『預言者ピッピ』で描かれる世界です。 ピッピは地震予知の為に開発された予言ロボット。 彼のお陰で3ヶ月前に大地震が起こると予知された地域の住民は避難し、死傷者ゼロという快挙を成し遂げます。 しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるように、予知できるようになった災害はやがて世界的な見せ物へと変貌して行きます。 人口350万人都市ロサンゼルスが一瞬にして滅び行く中継映像を狂騒的に見つめる者達と、故郷が瓦礫の山へと変わって行く姿を涙を流して悲しむ者達の対比は、非常にそら恐ろしいものです。 「忘却も能力」と作中の科学者が言いますが、辛い記憶と共に大切なことすらも忘れてしまう愚かさ。 どんなに科学技術が進歩しても、変わらず自分の信じたいものだけを信じる愚かさ。 自らのポジションに利することにしか興味のない政治家やマスコミの愚かさ。 作中では、様々な人間の愚かさが抉り出されて行きます。 そして、地震予知のみに制限されていた能力を、そんな人の愚かさ故に解除されたピッピは、やがて人間や世界の全ての未来を演算してしまいます。 そこに使える技術があるのに使わない、救える命があるのに救わない、人間にはそんな選択はできません。 その結果として全ての運命が予め判明してしまった世界で、人はどう生きるのか、生きるべきなのか…… 先の見えない未来こそが、逆説的に人の希望その物なのだということも、本を置いた時に実感として噛み締められます。 一つ一つの会話も哲学的で味わい深く、読むことで自らの深淵と向き合うことをも可能にする稀有な書です。 かといって難解になり過ぎることもなく、可愛い絵柄とのバランスが絶妙と言えます。 こういう作品がある限り、私はこれからも漫画を読み続けるでしょう。 「第3巻は、そこまでお待たせしない予定です」 という担当編集者の言葉に期待を高まらせつつ、今年で3年目を迎えますが…… 是非とも読んで、そして「早く3巻を」という声を一緒に発して欲しいです そして、地下沢中也先生になるべく早く続きを描いて頂きましょう。 この作品は間違いなく現代漫画界の掛け替えの無い財産です。 3月11日ということで、『預言者ピッピ』とは関係無いですが、以下の作品も推薦します。 売上の一部が義援金に回されるので、募金と思って購入するのも良いのではないでしょうか。 <<12>>