ビッグコミックスピリッツの感想・レビュー879件<<2829303132>>理不尽な社会で生きるために、心に気高き物語をテレキネシス 山手テレビキネマ室 芳崎せいむ 東周斎雅楽兎来栄寿> 「大人になるとどうなるんです?」 > 「人生が理不尽だと理解できる。希望をかなえるためには、失敗や恥をたくさん経験しなくちゃならないことがわかる。だから理不尽な人生を許せるし…他人を許せるようになる」 歳を重ね、大人に近付くごとに実感したことがあります。 それは今回紹介する『テレキネシス~山手テレビキネマ室~』で交わされる上記の会話にあるような、世の中の理不尽さです。 私は「大人になる」とは、襲い掛かる理不尽や伸し掛かる責任と上手く折り合いを付けて生きて行く能力を得ていくことだと思います。 人は生まれた時から不平等な理不尽さに晒される運命にあります。 子供の頃から家庭や社会といった枠組みの中で、大小様々な摩擦や軋轢を経験して成長して行きます。自分が悪くなくとも叱責・罵倒され頭を下げなければいけない時、やりたくない事をやらねばならない時、どうしようもない災難に見舞われる時…… そんな「酒!飲まずにはいられないッ!」というような瞬間が生きていれば幾らでもやって来ます。 特に、社会に出て勤め始めれば、そういった機会は高校生・大学生の頃より格段に増えるでしょう。 「生きることは不本意の連続で、時には全く理不尽な仕打ちもある」と赤木しげるも言っています。 それでも辛抱し、本当に自分が望む自分の姿を心にしっかりと定めて真っ直ぐに生きていれば、生を肯定できるような輝ける瞬間に達することができる。 『テレキネシス』では、そんな風に謳われます。 とは言っても、辛いものは辛いですし、死にたい時は本当に死にたくもなってしまうものですよね。 そんな時、誰か寄り添ってくれる人、支えとなる人がいてくれれば、そんな幸せなことはないのですが…… もし、そういった人が身近にいないとしても、精神的に寄り添ってくれるのが「物語」です。 漫画や映画などの究極的な価値は、そこにあるのではないかと思います。 ですから、マンガソムリエの私としては、そういった苦境に立たされた人にこそ漫画を読んで欲しいと願います。 そこで紹介するのが、この『テレキネシス~山手テレビキネマ室~』(全四巻)です。 左遷が決まり妻にも逃げられた男、短大卒だからと上司や同僚にナメられどうでもいい雑用ばかりを大量に押し付けられるOL、どうしても企画が通らない男性、付き合って一年で彼氏との今後に悩む女性、会社を辞めて何もする気が起きない若者…… そんな、仕事や人間関係で悩みを持つ多くの大人達が映画を紹介され、その映画から人生のヒントを得てブレイクスルーを果たして行く、という連作短編の形を取った物語です。 今作で描かれる人々の様々な思い煩いは、どこかしらで共感できる部分、あるいは人生の予習となる部分があるでしょう。 登場する映画作品は1940~70年台のものが多く、『大脱走』や『ニューシネマパラダイス』などの超有名作品を除くと、大半の作品を知りません。 知りませんが、そこで熱を持って語られるストーリー、人間の生き様には引き付けられます。各話の後には、その話に登場した映画の詳しい紹介コラムも付いており、実際にその映画を観てみたくなります。漫画も映画も、人類の生み出した文化の極みです。 そして、この作品自体も人間ドラマが面白く、仕事を頑張る全ての人に読んで欲しい名言のオンパレード。 > 仕事はなあ…たった一人自分自身の責任においてやるものだ。 > 孤独を背負えない奴は、絶対仕事ができない! 社会人になると、沢山の責任を抱えることになります。 ただその分、誰かの為になる仕事・誰かに感動を与える仕事ができるようになっているはずです。 人は不思議なもので、自分の為よりも他人の為の方が頑張ることができてしまう生き物。 誰かの為になっているという実感は、そのまま生きる活力に直結して行きます。自分一人の為に生きるのはしんどいので、孤独に仕事をしながらも世の為人の為に生きるのが理想的ですね。 又、組織に属した時にどうしても遭遇するのが、反りの合わない上司や同僚。「辞職」という盾を振りかざせばどんな言動も無敵になりますが、それはあくまで最後の手段。『テレキネシス』においては、会社を辞めることなく、それでも歪んだ論理に屈せず自分の理想を貫き通すための敢然たる闘いが幾つか描かれます。 > 人は、一度や二度闘わなきゃいけない時がある。 闘うのにはとてもエネルギーが要ります。社会人ですから、ある程度の不平不満は飲み込む局面も必要でしょう。それでもやるべき時にはやるべきなのです! 又、「管理職論」的な話も幾度か登場します。そういった理由もあり、この作品は新社会人はもとより多くの人に触れてみて欲しく思います。 > 能力あるリーダーは不良を飼う余裕がある。 > 部下に疑心暗鬼にならない! > 部下がやなこと言っても耳を傾ける! > 能力のない管理職は、会社の論理を咀嚼できないまま、無意識に不誠実で嫌な奴に変貌する。 > でも才能ある人は意識して自分を変えて行く。 > 自分のやるべき仕事がわからない管理職ほど、ヒマだから部下をいじめる… > 嫉妬して企画を潰す。 > そんな奴は辞めちまえ! 立場によって感じる所の違うセリフでしょう。あるいは未来の自分がそうならないように、自分が理想とする姿、初心と共に常に心の片隅に留め置いておくと、良い指標になります。 基本的に他人を非難して得をするケースってほとんどありませんので、そんな暇があったらそれこそ漫画や映画に触れて粋なセリフの一つでも心のメモ帳に記録しておく方が、余程人生を豊かにするでしょう。 『テレキネシス』には仕事のみならず、友情や恋愛についても咄嗟に言えると格好良い名言だったり、深く感じ入ったりするエピソードなどが盛り沢山。とても良いメンタルの栄養剤になります。 ちなみに、この作品の二巻後半には「理不尽な人生に立ち向かう魔法の言葉」も書かれています。 正直、私は初めて読んだ時にはその言葉がピンと来ませんでした。 ただ、ある程度人生を重ねてから再読した時「ああ、そうだなあ」とその言葉を噛み締めました。 それがどんな言葉かは……是非読んで確かめてみて下さい!自分のことが書いてあったマンガ 何かを愛する者たちの物語トクサツガガガ 丹羽庭たか2014年、本屋で立ち読みしたスピリッツに載っていたのが、トクサツガガガ9話(1巻最終話)。 当時大学生だったわたしは、仲村さんの母親への複雑な感情と、対立を避けて合鍵を渡してしまうシーンを読んで「うっそ…わたしのこと書いてあんじゃん🤭」と震え、共感120%で一瞬でファンに。母親に合鍵渡しちゃう系女子ってわたしだけじゃなかったのかよ…! まるで吉田さんとイクトゥスした仲村さんのような感動でした。 仲村さんが、周りにいる何かを愛する友人たち(特撮・女児アニメ・フィギュア・男性アイドル)とあるあるの悩みを共有して、「それってこういうことじゃない?」と、愉快に語り合うところが何より面白い!! そしてときには(っていうか大体)根本的に問題を解決せず先送りにするけれど、毎回ちゃんと悩みに向き合い「もやもやした気持ちに蹴りをつける」ところが素晴らしい!何よりその問題を整理するときの、仲村さんやみんなの思考回路と会話が最高にコメディしてて笑ってしまう。 永遠に仲村さんとみんなが楽しく趣味に没頭しているところを見ていたい。 最終回が来ないでほしいマンガNo.1。 読むたびに新たな視点や考え方を得ることができる。 悩める全ての愛する者(オタク)たちへのアンサーがある作品。 それが、トクサツガガガ。 (画像は1巻4話 仲村さんと吉田さんを結びつけたイクトゥス)だめだめな五代くん、でもそんな彼が愛おしいひとが集まるスレめぞん一刻 〔新装版〕 高橋留美子ぴっぴ私は初期の五代くんが好きです。だんだんイケメンになってくんだけども。保育士の勉強をがんばる彼も好きだけど、誰にもでも優しいそんな彼が好きです!!藤田和日郎伝統の鬼カッコイイジジイが見れます邪眼は月輪に飛ぶ 藤田和日郎ANAGUMA米空母から脱走した殺人フクロウと人類が壮絶な戦いを繰り広げるという マックスB級感あふれるあらすじから繰り出される今作のジジイは 盲目となった伝説のマタギスナイパー!!もうカッコイイぞ!! 見るだけで人を殺せるフクロウのカジュアルな強さに絶望しながらも、 つらい過去をそれぞれに抱えた主人公たちが腕を取り合い、立ち向かう姿に自然と目頭が熱くなります。 藤田和日郎の描くジジイにハズレ無しです。 あと個人的にはX-FILESとか好きな人に読んでほしい。 ご飯漫画だけど忘却のサチコ 阿部潤名無しご飯ものだし、キチンと毎回おいしそうなもの非常に好き。だけど、序盤のいかにも失恋後って感じで自分を制御できなくなっている感じもっと好き。トクサツガガガトクサツガガガ 丹羽庭むNHKでドラマやるんですね http://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/22000/305024.html この前ライダーショーやってる横通ったら若い女性ばっかりだったから特オタのOL少なくはないと思ってる。本格ボルダリング漫画壁ドン! 佐久間力starstarstarstarstar吉川きっちょむ(芸人)ここ数年でちょいちょいボルダリング漫画が始まってたりしますが、個人的には一番楽しみ。 というのも、他のボルダリング漫画は、わりとフェチの方に振っていたり、かわいい女の子たちが青春していたりするから、なんとも言えないなーと思って読んでた。 けど、この「壁ドン!」はメジャー誌っぽく本格派でやっていきそうだから楽しみ。 自分でもボルダリングやってるから分かるけど、痩せ型なのはわりと武器。 でも筋肉も必要になってくるわけで、文字通り壁に当たってどう鍛えていくのかなという。 あと、やっぱりオリンピックを目指すという目標が明確なのがいい。 ヒロインもかわいいし、今後この漫画からボルダリングへ入る人口が増えたらいいなと願ってます。 三千年紀の新たな神話王様達のヴァイキング さだやす 深見真mampukuアメリカ合衆国が定義した、陸・海・空・宇宙空間に次ぐ「第五の戦場」ともよばれる"インターネット空間"を舞台とし繰り広げられるサイバーバトルの漫画。エンジェル投資家・坂井に才能を見出された天才ハッカー少年・是枝は、全く新しい形のサイバーセキュリティを立ち上げ様々な犯罪者たちと対峙していく。 我々の祖先が「集合的想像」による虚構の世界(宗教・国家・貨幣経済など)を獲得したことで核家族や小さな村落の枠を超え数千人、数万人を超える協力のネットワークを生み出すことに成功したことで、彼らはネアンデルタールをはじめとするほかの霊長を滅ぼし地球上の覇者となった。そして2千年紀の終わり、人は新たな世界「情報通信網」を作り上げた。何万年もの昔に生まれた「集合的想像」の虚構は、「情報通信網」によって急速に拡散し共有され、文化という文化を均した。インターネットの出現は、宗教や貨幣が世界を変えたことと等価かもしれない。 急速な変化に苦しむ旧い社会・体制はやがて淘汰され、「第五の戦場」を征服した者が新たな世界の王となる。ロマン主義の思想は人々に自由と幸福の追求を促し、そのために人々は富を蓄え、それを消費した。新しい虚構世界の誕生はそうした旧来の幻想を壊し誰も想像してこなかった価値観をも生み出しうる。 そうした新しい空間の冒険者である是枝そしてライバルの笑い猫やValkyriaと、彼らの手綱を引き、貨幣と法の支配する現実社会に繋ぎとめる役割をする坂井、サイバー空間を征服することで世界の王になろうとしている魔王のようなラスボス──。日本にはハッカーが足りないとは耳にするけど、案外いま一番必要なのは坂井さんみたいな人なんじゃないかなぁ あと一番重要なポイントですが、ヴァルちゃん可愛すぎません?めっちゃ好み。。いくえみ節にのまれる夜おやすみカラスまた来てね。 いくえみ綾むこういうゆったりした夜の群像劇みたいなものを心地よくかけるのはすごい。 そう、心地よいです。雰囲気が! ザ、恋愛!みたいなものよりも遊びがたくさんある方が好きだったりします。 主人公がバーをやることになった経緯が素敵だし、ショートカット女子が可愛い。いくえみ男子もいいけどいくえみ女子も好きです。 こういう陽気なバーテンダーがいるカウンターで飲んでみたいものです、、、侍の長屋にすねに傷を持つ人々が集うこはぜ町ポトガラヒー ~ヒト月三百文晦日払~ 昌原光一たか昌原光一ってすごい。 昌原先生の作品は「江戸の告白」がモーニングで掲載されていたのを見かけたことがあるだけで全く読んだことがなかった。 自由広場(https://manba.co.jp/free_spaces/15703) のカキコミでこの作品のタイトルは知っていたが、本屋で平積みにされた表紙を見て、「あー! あの顔が四角い人(の作品)だ」と気づき購入。 ポトガラヒーのタイトルに偽りなく、読んでいるとキャラクターがデフォルメされていることも忘れるほど写真のような生々しさを感じた。 陰と光の描き方が独特で、読み終わるころにはすっかりこの絵柄に惚れてしまった。 最初は流し読みしていたのに、大家・弥一郎の義理がたさに感化され気付けばがっつり集中して読んでいた。 各話の間にフランス人写真家らしき人物の手紙らしきものが挿入されており、それがいい味を出していたのだが、巻末の参考文献の1つにイザベラ・バードの日本紀行が入っていたのを見て納得。 歴史好きな人はぜひ手にとってください 読むと運動したくなる 三人三様のフィットネスfit!!! ウラモトユウコたか表紙のスポーティな色使いに惹かれて表紙買い。 左からジムインストラクターのユイ先生 中央がラーメン大好き即断即決主人公・テンポ 右が小柄でクールなサナちゃん 同じジムに通う3人だけど、運動する理由はみなそれぞれ。 ラーメンを食べるためにジムに通うテンポ(しかもそのラーメンは味のために食べてるわけじゃない)と、小さいがゆえにモデルや女優のように大きく見せたいと自分を磨き続けるサナちゃんという、運動初心者2人のキャラ対比がすごくよかった。 ユイ先生の「『不安だ』って口に出してよかったんだ」というモノローグには、こちらも読んでいて確かにそうだなと腑に落ちた。 短編も2本収録されていて、寿司の方の話は本当にありそうで可愛かった。 女子がいる野球部高校球児 ザワさん 三島衛里子タモリ最初は、野球部の中で女子が頑張る話かと思ったら、ちょっと抜けてるザワさんの日常ギャグっぽくて、でも最後の方はちゃんと青春してた。 とりあえず、ザワさんがかわいい男子の体と日常生活に女子の体と銀河系規模の問題が乱入してくる漫画鉄腕バーディーEVOLUTION ゆうきまさみ名無し※ネタバレを含むクチコミです。 岩明均の魅力とは七夕の国 岩明均影絵が趣味ことしも夏がやってきます。何やらことしは猛暑になるそうで、夏を迎える準備は出来ているでしょうか? 夏の情景を想像してみてみましょう。まだ夜の涼しさをのこした光りかがやく希望に満ちた朝、狂ったような太陽に照らさせて蜃気楼さえ見えてしまいそうな日中、沈みかけの夕陽が乱反射してちょっぴり切ない夕方、冷えたビールをゴクリと酔いも手伝い不埒な予感な熱帯夜などなど。夏、夏、夏、ほんとうに夏って魅惑されますね。どの瞬間を切り取っても胸を鷲掴みにされてしまいます。さて、私の夏好き話はこのぐらいにしておいて、皆さんにはこんな経験がお有りでしょうか? 暑い夏の昼下がり、涼しい部屋のなかで映画なり漫画なり小説なりを見たり読んだりして、物語の世界に入り込んでいる。読み終えて現実の世界に戻ってくると、どこからか蝉の鳴き声が聴こえてくる。立ち上がり、窓を開けると猛烈な熱気と狂ったような蝉の声がクーラーで冷えた身体を直撃する……。そんな時って、一瞬、現実と非現実の区別がつかなくなったりしないでしょうか? そんな夢まぼろし、白昼夢のような世界へと貴方をいざなう一夏の物語が『七夕の国』です。 作者は『寄生獣』や『ヒストリエ』でお馴染みの岩明均。乾いた作風なのに不思議な後読感を残す、ドロドロした内容なのに妙に風通しが良い、なんとも掴みどころがないんですよね、この人の作品は。もっというと、絵もそんなに上手いわけではないし、だからといってヘタウマな魅力があるわけでもない。特徴といったら、多用する苦笑いみたいな表情くらいのもので、なんだかな~という感じです。でも、不思議と彼の創り出す世界には引き込まれてしまいます。 何年か前に江口寿史が漫画の背景がトレース技術の向上と多用によって写実的になっている傾向に対して、浅野いにおや花沢健吾の名前を出して批判したことを発端に大きな論争になったことがありました。その際、江口寿史は岩明均の名前を出して「岩明均さんという漫画家さんがいらっしゃいますね。あの人の絵はこう言っちゃなんだけど、そんなに上手じゃない。絵も構図も演出も簡素です。なのに、何十億もかけて撮った映画以上にドキドキハラハラ面白く、感動させる物語を見せてくれる。僕はここらへんに漫画表現というものの謎というか秘密というかパワーを感じるんです。」といっていたのです。これを見てなるほどな~と感心しまして、改めて岩明均の宙ぶらりん(あるいは唯一無二)な魅力を再確認したのです。 そんなわけで岩明均の魅力を説明するのは大変そうなのですが、それでもひとついえそうなのは、苦手な部分を長所で補っているということだと思います。漫画表現力、江口寿史が挙げていた絵や構図や演出、その他にも幾つかの要素があるとは思いますが、岩明均はそれらの能力の殆んどが平均値かそれ以下なんですよね。いわゆる、人気漫画家という方々はこれら漫画表現力の各要素が総合的に高いのでしょう。では何故、岩明均の漫画が魅力的なのか?それは、ほとんどの能力がダメでも、いくつかの部門で圧倒的に突出した強みがあり、さらに、それを魅せるのが上手いということなのではと思うのです。逆にいうと、ダメな部分を隠すのが上手いとも言えるかもしれないです。何しろ、弱みに対して強みが圧倒的なので、他の人気漫画家のそれと比べても、より深く読者をエグることができるのでしょう。 浅野いにおにしても花沢健吾にしても各能力が高いだけに作品自体が放つ雰囲気が華やか(内容とは関係なく)ですよね。対して、岩明均の作品はどうあがいても地味な雰囲気が漂っているのですが、ひとつの道を極めた魅力というものには凄みがあり、"いぶし銀"といった言葉が良く似合います。 何はともあれ、『七夕の国』に話を戻しますと、時期的には『寄生獣』と『ヒストリエ』の間に描かれた作品です。SFと歴史物ではずいぶん差があるように思うかも知れませんが、作者本人にしてみれば過去も未来も同じように未体験で未知な領域であるからして似たようなものなのでしょう。『七夕の国』はそんな気分を象徴するかのようにSFと歴史を一緒くたに引き受けたトンデモ誇大妄想物語です。それを現代目線であっけらかんと描いてしまうから不思議なものです。 最初にもいった通り、ひとときの夢まぼろし、白昼夢のような世界へと誘ってくれること間違いないでしょう。一番最後のページで、浴衣姿でうちわを持ったヒロイン的な女の子が「ようこそ。」って言うのがすごく効くのです。これほどまでに夏を感じさせる漫画はなかなかないのではないないでしょうか。いや、実はぜんぜん夏っぽくはないんですけど、やっぱりそこここに夏が漂っているような気がするんですよね……。 お習字ではない「書道」の世界とめはねっ! 鈴里高校書道部 河合克敏たか主人公の設定が、「ガチャピンみたいな顔した大人しいカナダ育ちの帰国子女」ってそれだけでもう面白い。絵に描いたような文系少年と、柔道全国レベルの体育会系少女が出会う王道のボーイ・ミーツ・ガールが、書道というテーマがあることでいっそう面白みが増している。舞台が鎌倉なのも洒落てる。 「書道って読めないし、昔の詩を書いてるし難しそう…」と尻込みしてしまうが、海外育ちで全く書道の知識がない縁(ゆかり)が主人公のおかげで、初歩からすんなりと楽しみながら学ぶことができるのがいい! お習字の先にある書道という世界を垣間見たいなら読むべし!サッカーを通す熱い青春物語アオアシ 小林有吾 上野直彦みかん坊や主人公あおいが、その才能を活かして、日本一のユースに入る話。 あおいは才能を開花させるが、多くの壁が立ちはだかる! 最高のサッカー漫画です。 高校生の繊細な感情を撫でるような作品前略、前進の君 鳥飼茜starstarstarstarstar吉川きっちょむ(芸人)しん、と空気が冷えた部屋で隣近所が寝静まった真夜中に読みたいなと思った。 もしくは早朝の誰もいない公園のベンチ。 この漫画には、十代の純粋で無邪気で困惑していて憧れて焦って嫉妬して絶望するような息苦しさの中でもがく美しさがあった。 誰かに無遠慮に無関係に傷つけられても本来文脈の無いそこで悲しむことはないんだけど、そんなこと言われたところで意味は分かっても飲み込むのは大概難しい。 同調圧力は、自分が最も毛嫌いしていることの一つで、どこかのだれかが「普通」を免罪符にお前はどうなんだと脅してくる。 「普通」であることは何も偉いことではないし、安心することでもないが、何か縋りつける指標でもないと安心できないというのも分からないでもない。 自由を生きるのは恐ろしいものだ。 制服を脱ぎ捨て自分を生き始める前、既製服に包まれ親や学校に守られている間、大多数が現状と自分の未来に不安を抱き「普通」を求める。 人によっては、その後もずっとだ。 高校の頃、自分が何を考えていたのか少し思い出せた気がする。 いまの高校生が読んだら、具体的にこれと言葉にできなかった不安や焦燥、哀しみを自覚できるのかもしれない。「パリピ」たのしい人たち全然怖くないヨアフターアワーズ 西尾雄太mampukuラップ漫画は流行ってますが、DJやパリピ漫画は意外と珍しいんじゃないでしょうか。しかも百合。 主人公のエミは初心者ながらVJとして夜の世界にのめり込んでいきますが、DJやVJとしての面白さを追求していく漫画というよりは、クラブを取り巻くいろんな人々と出会い交流しながらイベント開催をめざし奮闘する話になっています。遅れてきた青春って感じ。しかも百合。 ただの百合じゃないです。年の差ラヴです。とくに2巻のセックスシーンが尊すぎて爆発しました。絵が良いのは表紙見れば一目瞭然なので言うまでもありませんが、セリフもセンス抜群で最高です。編集王ぉぉお編集王 土田世紀名無し元上司に飲みから帰る電車待ちのホームで言われた「編集王って漫画があってさぁ…」正直内容なんて覚えていない。特別好きな上司でもないけれど嫌いでもない上司。誰にでも装うのがうまかったし上にも下にも世渡り上手だった。しかし人が好きな漫画を語るときは素が出ると思ってる。しかもここが好きとか内容について詳細に語るとき。そんなにいいなら一回読んでみよう。携帯の画面にメモしたと思う。機種変して残ってないけど。タイトルはこれだったはず。編集王。一巻を読み終わって泣いている。全巻揃えます。 漫画に対する意見がいいアイアムアヒーロー 花沢健吾霧兵衛よかった点 ・そこそこ長く続いていただけあって面白い 総評 ・あの終わり方にみんな納得しているのか? ・本編とはあんまり関係ない登場人物の漫画に対する意見はよかった。 走りたくなる!かなたかける 高橋しんむずーっと走り続けるマンガ! 箱根といえば箱根駅伝ですがこれ小学生! 技術とか体力づくりとか難しいこと語るのは容易いですが「走るの楽しい!」をこれだけストレートに表現されるとこっちもスカッとします! 箱根駅伝すごくしんどそうであまり好きじゃないのですがこの作中のキャラみんな楽しそう。小学生が無邪気に走ってるのを見るのは和みます。読んだでェあげくの果てのカノン 米代恭正解は越後製菓最後、ワシは好きやで 色んな想いが交錯しとるんやけど ワシは好きやで?ナァ? 一気に読みたい20世紀少年 浦沢直樹名無し携帯の機種変待ちで置いてあったから読んでみた 映画も漫画も中途半端にしかみてなくて、ぼんやり流し読みした。 今こんなスムーズな導入で知らないうちに時間が立ってるほど引き込まれる漫画ってあるか? 面白いよね…めっちゃ哲学してる!!!!みんな生きてる 原克玄かしことある大学の生物教授であり変人〈ながつね〉と、彼に振り回されまくる助手〈ののや〉の周りにはヘンな生きものが集まってくる。 ヘンな生きものとは…例えばアル中のイカ(笑)つねに酔ってて自分の足(ゲソ)をつまみに飲んじゃう。しかもそのゲソ、実は超まずい!!! このマンガの素晴らしさは上記のような字面にすると突拍子もないギャグと無数の下ネタから、急に哲学し始めるところなんですよ~人間本来くそ袋という禅語もありますが、それでも私達〈みんな生きてる〉とながつね教授が諭してくれるんです。もう、助手ののやと一緒に号泣ですよ!<<2829303132>>
> 「大人になるとどうなるんです?」 > 「人生が理不尽だと理解できる。希望をかなえるためには、失敗や恥をたくさん経験しなくちゃならないことがわかる。だから理不尽な人生を許せるし…他人を許せるようになる」 歳を重ね、大人に近付くごとに実感したことがあります。 それは今回紹介する『テレキネシス~山手テレビキネマ室~』で交わされる上記の会話にあるような、世の中の理不尽さです。 私は「大人になる」とは、襲い掛かる理不尽や伸し掛かる責任と上手く折り合いを付けて生きて行く能力を得ていくことだと思います。 人は生まれた時から不平等な理不尽さに晒される運命にあります。 子供の頃から家庭や社会といった枠組みの中で、大小様々な摩擦や軋轢を経験して成長して行きます。自分が悪くなくとも叱責・罵倒され頭を下げなければいけない時、やりたくない事をやらねばならない時、どうしようもない災難に見舞われる時…… そんな「酒!飲まずにはいられないッ!」というような瞬間が生きていれば幾らでもやって来ます。 特に、社会に出て勤め始めれば、そういった機会は高校生・大学生の頃より格段に増えるでしょう。 「生きることは不本意の連続で、時には全く理不尽な仕打ちもある」と赤木しげるも言っています。 それでも辛抱し、本当に自分が望む自分の姿を心にしっかりと定めて真っ直ぐに生きていれば、生を肯定できるような輝ける瞬間に達することができる。 『テレキネシス』では、そんな風に謳われます。 とは言っても、辛いものは辛いですし、死にたい時は本当に死にたくもなってしまうものですよね。 そんな時、誰か寄り添ってくれる人、支えとなる人がいてくれれば、そんな幸せなことはないのですが…… もし、そういった人が身近にいないとしても、精神的に寄り添ってくれるのが「物語」です。 漫画や映画などの究極的な価値は、そこにあるのではないかと思います。 ですから、マンガソムリエの私としては、そういった苦境に立たされた人にこそ漫画を読んで欲しいと願います。 そこで紹介するのが、この『テレキネシス~山手テレビキネマ室~』(全四巻)です。 左遷が決まり妻にも逃げられた男、短大卒だからと上司や同僚にナメられどうでもいい雑用ばかりを大量に押し付けられるOL、どうしても企画が通らない男性、付き合って一年で彼氏との今後に悩む女性、会社を辞めて何もする気が起きない若者…… そんな、仕事や人間関係で悩みを持つ多くの大人達が映画を紹介され、その映画から人生のヒントを得てブレイクスルーを果たして行く、という連作短編の形を取った物語です。 今作で描かれる人々の様々な思い煩いは、どこかしらで共感できる部分、あるいは人生の予習となる部分があるでしょう。 登場する映画作品は1940~70年台のものが多く、『大脱走』や『ニューシネマパラダイス』などの超有名作品を除くと、大半の作品を知りません。 知りませんが、そこで熱を持って語られるストーリー、人間の生き様には引き付けられます。各話の後には、その話に登場した映画の詳しい紹介コラムも付いており、実際にその映画を観てみたくなります。漫画も映画も、人類の生み出した文化の極みです。 そして、この作品自体も人間ドラマが面白く、仕事を頑張る全ての人に読んで欲しい名言のオンパレード。 > 仕事はなあ…たった一人自分自身の責任においてやるものだ。 > 孤独を背負えない奴は、絶対仕事ができない! 社会人になると、沢山の責任を抱えることになります。 ただその分、誰かの為になる仕事・誰かに感動を与える仕事ができるようになっているはずです。 人は不思議なもので、自分の為よりも他人の為の方が頑張ることができてしまう生き物。 誰かの為になっているという実感は、そのまま生きる活力に直結して行きます。自分一人の為に生きるのはしんどいので、孤独に仕事をしながらも世の為人の為に生きるのが理想的ですね。 又、組織に属した時にどうしても遭遇するのが、反りの合わない上司や同僚。「辞職」という盾を振りかざせばどんな言動も無敵になりますが、それはあくまで最後の手段。『テレキネシス』においては、会社を辞めることなく、それでも歪んだ論理に屈せず自分の理想を貫き通すための敢然たる闘いが幾つか描かれます。 > 人は、一度や二度闘わなきゃいけない時がある。 闘うのにはとてもエネルギーが要ります。社会人ですから、ある程度の不平不満は飲み込む局面も必要でしょう。それでもやるべき時にはやるべきなのです! 又、「管理職論」的な話も幾度か登場します。そういった理由もあり、この作品は新社会人はもとより多くの人に触れてみて欲しく思います。 > 能力あるリーダーは不良を飼う余裕がある。 > 部下に疑心暗鬼にならない! > 部下がやなこと言っても耳を傾ける! > 能力のない管理職は、会社の論理を咀嚼できないまま、無意識に不誠実で嫌な奴に変貌する。 > でも才能ある人は意識して自分を変えて行く。 > 自分のやるべき仕事がわからない管理職ほど、ヒマだから部下をいじめる… > 嫉妬して企画を潰す。 > そんな奴は辞めちまえ! 立場によって感じる所の違うセリフでしょう。あるいは未来の自分がそうならないように、自分が理想とする姿、初心と共に常に心の片隅に留め置いておくと、良い指標になります。 基本的に他人を非難して得をするケースってほとんどありませんので、そんな暇があったらそれこそ漫画や映画に触れて粋なセリフの一つでも心のメモ帳に記録しておく方が、余程人生を豊かにするでしょう。 『テレキネシス』には仕事のみならず、友情や恋愛についても咄嗟に言えると格好良い名言だったり、深く感じ入ったりするエピソードなどが盛り沢山。とても良いメンタルの栄養剤になります。 ちなみに、この作品の二巻後半には「理不尽な人生に立ち向かう魔法の言葉」も書かれています。 正直、私は初めて読んだ時にはその言葉がピンと来ませんでした。 ただ、ある程度人生を重ねてから再読した時「ああ、そうだなあ」とその言葉を噛み締めました。 それがどんな言葉かは……是非読んで確かめてみて下さい!