江戸城再建

これはワクワクする…!

江戸城再建 三浦正幸 黒川清作
さいろく
さいろく

この漫画はベンチャー企業に務めた経験がある人には刺さるんじゃないだろうか。 もちろん、それ以外の人にも普通に面白いし、ザーッと流し読みするだけでもどうなっていくんだろうと展開が気になってくると思う。 物語の大半は主人公である堀川が「自社役員会」や「取引先」ひいては「国民」「皇室」を相手取って立ち振る舞う大活劇。 (皇室を相手取るというと不敬に聞こえるかもしれないけど他意はないです) 実際にハードルとなるのはどういうところなのか?現代に江戸城再建したい、しかも皇居内に、となると「そういう問題もあるのか」と全く知りもしなかった障壁がどんどん出てくる。 もちろん日本という国のもとに生まれ育った日本人ならではの感性であったり、東京で暮らしている人たちは肌で感じているであろう皇居という存在と尊厳の重要さ、さらには現代におけるジャパニーズエンペラーが世界中にとってどういった可能性を持つ存在なのかをしっかりと描いてくれている。 モニュメントがない!と言われる東京。東京タワーやスカイツリーなんかはあくまで高い塔で、心で支えられていない。これも他意はないんだけど、日本という国の象徴にはならないであろう。 何故なら日本の象徴は皇居内にあるもので、目に見えているものではなかったりするから。この曖昧さが逆に日本人の自由さかもしれないけれど。 色々と考えさせられるし、堀川の背景も深いものを感じる。 適当に取って付けたような設定ではなく、本当にやろうとしたらこうなるだろう、こういうのが必要だろう、というのがしっかり描かれていてとてもとても興味深い(本当に足りてるかはわからないけど) あとテンポもいい、すごくサクサク進むし、面白い。 これを学生時代に読んだ若者の誰かが偉業を成してくれると日本の未来は明るいだろうな。 追記:1巻のあとがきにある「誕生秘話」がちょっと良い。こういう感じならここまで真剣なのも納得できるなと思った。

塀の中の美容室

心も美しくなる女性刑務所の美容室のお話

塀の中の美容室 小日向まるこ 桜井美奈
兎来栄寿
兎来栄寿

『ぼくの忘れ物』、『アルティストは花を踏まない』の小日向まるこさんの新作。本作は、桜井美奈さんの小説をコミカライズしたものとなっています。 原作は未読なのですが、女子刑務所内で受刑者が美容師を務める美容室という題材の非日常感で興味深く読めました。受刑者との雑談は禁止であるためお客さんは横につく刑務官としか話してはいけない(でもそれは受刑者を守るためでもある)、900円という料金の安さなどなど初めて知ることが多々ありました。 ただ、何と言ってもこの作品の魅力は人間の繊細な心の機微です。これまでの作品でもそうでしたが、小日向まるこさんは写実的でありながら優しい絵柄があいまって心の奥深くにまで沁みる空気感を醸成してくれます。 本作も、悲しい瞳が印象的な受刑者で美容師の葉留(はる)から発される嫋やかな言葉が、雑多な日々にささくれた心を穏やかに慰撫してくれるようです。 また、刑務官の菅井さんや78歳のお客さん・鈴木さんなど、歳を重ねた登場人物たちのエピソードは絶妙で巧いです。とりわけ、鈴木さんのお話では「生きる」ということそのものを感じさせられ、今後高齢化がますます進行する社会にあって大切なものを描いていると思いました。読む人の年齢によってさまざまな心情を寄せながら読める作品でしょう。 残念なことに短期集中連載のため全1巻なのですが、もっとずっと読んでいたい魅力に溢れていました。 幸いにもTwitterでご本人による1話試し読みが広く拡散され、多くの人が知るところとなりましたが、SNSなど使ったことのないような方、普段マンガを読まないであろう方にもお薦めしたい、優れた作品です。