海が見える大井町~岩本ナオ作品集~

岩本ナオさんの歴史を辿れる1冊

海が見える大井町~岩本ナオ作品集~ 岩本ナオ
兎来栄寿
兎来栄寿

2019年に発売された『岩本ナオ古今東西しごと集』に収録されていたものの、電子化はされていなかった 「紅い果実と花飾り」 「夏の桜」 「6日しかない一週間」 「100年生きた猫」 に加えて、2021年に20人の有名漫画家(浅野いにお 安倍夜郎 石黒正数 石塚真一 市川春子 岩本ナオ 太田垣康男 大童澄瞳 奥浩哉 小畑友紀 黒田硫黄 咲坂伊緒 出水ぽすか 萩尾望都 昌原光一 松井優征 松本大洋 望月ミネタロウ 山下和美 吉田戦車)が参加した漫画「もしも東京」展(『もしも、東京』として単行本も発売されています)にて描かれた表題作 「海の見える大井町」 を収録した電子短編集です。 岩本ナオさんといえば、『町でうわさの天狗の子』や『雨無村役場産業課兼観光係』など日本の田舎町を舞台にした作品を経て、『金の国 水の国』や『マロニエ王国の七人の騎士』などファンタジーの方向へと舵を切ってきていますが、その分岐点となっていることを感じられるのが2012年に発表された「紅い果実と花飾り」です。異国の地とそこに根付く文化を、鮮やかに目も楽しませてくれながら描いた一篇です。明らかに、伸び伸びと筆が乗っているさまが伝わってきます。 また、個人的に大好きなのが「夏の桜」。この短編のヒロインである白石さんは、すべての岩本ナオ作品のキャラクターの中で一番好きです。この時代の絵も好きで、その画風で描かれる黒髪ロングストレートがかわいいことはもちろんですが、ヒーローの松方くんが白石さんに心惹かれるようになった理由の核心にある部分が最高です。83ページのセリフは、なかなか普通の少女マンガのヒロインが言うものではなくて大好きです。 この短編集は「海の見える大井町」「夏の桜」「6日しかない一週間」など、タイトルだけで何だろうと興味を惹かせてくれる作品が多いですね。 2015年の「6日しかない1週間」、2016年の「100年生きた猫」、2021年の「海の見える大井町」と、岩本ナオさんの歴史と変遷を1冊で感じられるのも味わい深いです。その表題作も和ファンタジーに独自の着想がスパイスとして加わった実にらしい作品で、「う〜ん、好(ハオ)!」となります。 美しいイラストも見たくて紙で持っておきたいという方には『岩本ナオ古今東西しごと集』の方を薦めますが、そうでない方はこの機会にいかがでしょうか。

地域の相楽さん

カムバック新連載「地域の相楽さん」

地域の相楽さん 花木アツコ
かしこ
かしこ

短期集中連載されていた「地域の相楽さん」がシーズン2として新たにスタート!これまでの計4回のお話がとても面白かったので、連載復活は嬉しい限りです。だいぶお隣さんと仲良くなりましたが、まだ設楽さんの素性?は知らないようですね…。 ちなみにこれまでのあらすじ。町内会に新しく入ってきた相楽さんは中性的な見た目でかっこいい。引っ越してきた当初は一軒家にひとり暮らしなんて…と、近隣住民に不思議がられていましたが、町内のゴミ拾いでの仕事っぷりのよさ、回覧板まわし騒動で見せた意外な熱血さ、大晦日に神社で配る豚汁作りでの機転のきかせ方、を経て徐々に受け入れられてきた模様。 実は…という程でもないかもしれませんが相楽さんは女性です。あまりにもクールなので、第1話では町内会の全員が「男性なのかな?女性なのかな?でもすごく聞きにくい」と悩んでいて、そこがすごく面白かったです。私も正直どっちなんだろうって思いながら読んでいました。相楽さんはあらゆる物事を推理するクセがあることがずっと描かれていましたが、それも職業がミステリー作家だからということがシーズン1の最終話で判明してます。そのことをお隣さんはまだ知りません。 毎回クスッと笑えるところがあって個人的に激推しの新連載です!!

アンミックス 当麻ゆいこよみきり集

新進気鋭のセンス溢れる短編集 #1巻応援

アンミックス 当麻ゆいこよみきり集 当麻ゆいこ
兎来栄寿
兎来栄寿

当麻ゆいこさん、新連載の「超局地的つぶ!」が始まると共に待望の作品集が発売となりました! 待ち望んでいた方も多いのではないでしょうか。 表題作である「アンミックス」と、その次の「雨上がりのピィちゃん」だけは続き物で、 ″双子の近くには異星人がいる″ という独特の設定を描いた日常系SFです。 擬態して地球人に紛れ込んでいる異星人もおり、友好的な種から敵対的な種までさまざま存在しているという世界を舞台に、一卵性双生児の新と朔が異星人と関わったり影響を受けたりして暮らす様子が描かれます。 暖かさと不穏さが同居するこの2話からして独特のセンスが溢れていることがうかがえます。 そして、その次の「アルパカおばけ」でそれは更に加速します。アルパカのストラップに3年前に死んだ元恋人が宿るストーリー。見た目は滑稽でかわいらしいですが、宿る感情は切実そのもの。溢れる想いに感じ入ってしまいます。当麻ゆいこさんはモノローグに味があり、読後感が非常に良いです。 浮遊体質がある女の子とその幼馴染の絆が描かれる「祝福」は、メインの二人の個性と関係性だけでご飯が食べられます。大変美味しくいただきました。 最後の「フラワーシャワー」も独特の設定とヴィジュアルで楽しませてくれる作品です。そして、最後のモノローグがまた良いです。 Unmixはmixの逆で分離させること。この1冊の中で繰り広げられている物語たちにとって意味深いタイトルとなっています。分離はしても、隣り合ったままのものもあるこの世の中のさまざまなものに想いを馳せます。 フレッシュな才能が生み出す少し奇妙だけど優しい世界、覗いてみてはいかがでしょうか。