逢沢小春は死に急ぐ

メメントモリな青春 #1巻応援

逢沢小春は死に急ぐ 胡原おみ
兎来栄寿
兎来栄寿

胡原おみさん、以前に描かれていた『赤毛のアンの食卓から』や『みけねこ鍼灸院』などが隠れた良作で大好きだったので、新作も楽しみにしておりました。 すると、期待以上に素晴らしい作品が登場して嬉しい限りです。 『逢沢小春は死に急ぐ』は、日本でも安楽死が法的に認められるようになった世界の物語です。有名人を多数含んだ集団自殺が契機となり、本人の意志を尊重して自由意志により安楽死を選択することが可能となっています。 世界的にも類を見ない少子高齢化社会であり、労働人口は減る一方であるのに対して医療費は青天井である日本。今後ますます医療技術が発達して平均寿命が伸びていけば同時に尊厳死の問題も広がり、安楽死に関する議論もより活発になっていくことでしょう。本作は、そんな社会を先取りした思考実験的な作品でもあります。 端的に言えば、本作のヒロインである逢沢小春はタイトル通り「高校を卒業したら安楽死する」と決めています。その理由は、聞けば理解できてしまうものであるため、主人公の柏原常(とき)も軽々に止めることは難しい。しかしながら、常もとある理由により小春の安楽死を止められるものなら止めたいと強く思っています。 そんな彼らにより、限られた時の中での青春が繰り広げられていきます。高校生の頃なんて時間は無限にあるように感じられるのが普通で、無為に時を過ごすのも青春の一部という感すらありますが、死を意識している状態だからこそ日々を無駄にしないように大切にやりたいことに全力で生きる彼らは輝いて見えます(純粋に胡原おみさんの絵がかわいいのもあります)。 この作品が良いなぁと思うのは、周囲の脇役たち。ヤンキーやカースト高め女子など、普通の作品であれば悪役や嫌なキャラとして配置されそうなところが、徹底的に良いヤツらとして描かれる優しい世界であるのが、逆に今の時代のリアルも感じさせます。色々な人たちと徐々に繋がって、助け合って。そういう学生生活の描写が本当に気持ち良いんですね。 普通、良いヤツだけだと盛り上がりに欠けそうなものですが、本作は主軸となるテーマとそれに寄り添った全力の青春の気持ち良さだけで十分素晴らしいものになっています。 果たして、小春の死を止めることはできるのか。彼らの時が終わらないことを祈りながら、続きを楽しみに待ちます。

たぬきときつねと里暮らし

かわいい動物たちと田舎暮らし…かと思いきや。#1巻応援

たぬきときつねと里暮らし くみちょう
nyae
nyae

表紙のかわいいふたりは、たぬきときつねが人間に化けた姿。主人公・泰葉がうっかり餌付けをしてしまったばかりに懐かれてしまいます。泰葉とこのふたりが織りなすほのぼの田舎暮らし漫画、かと思いきや、伏線ぽいものが張られていたり、ビックリなことが急に判明したりします。 元々ブラック企業に勤めていた泰葉でしたが、きっぱりと仕事を辞めて心機一転、秩父に住む祖母の家に引っ越してのんびり田舎暮らしを始めた初日にふたり(2匹)に出会います。 いかにも天然アホの子なたぬき・ももと、しっかり者と見せかけてこちらも天然アホの子なきつね・いち。このふたりの可愛いこと。もうそれだけで読む価値があると言い切れます。なのである意味ただのほのぼの漫画としても読めます。 泰葉が元社畜というのもあり、ちょっと顔が疲れてるところとかがやけにリアルで、泰葉が心穏やかに過ごしてるのを見るだけでなんだかこっちもストレスが減るような気持ちに。 3人以外にも、おおらかな泰葉のおばあちゃんや、幼なじみ(らしい)祐介くんの活躍も楽しみですし、まだビックリが隠されているような雰囲気があるので先が気になります。

かがみの孤城

原作ファンでしたが良かった

かがみの孤城 武富智 辻村深月
六文銭
六文銭

元々作家さんのファンだったこともあり、約4年前に本屋大賞受賞と同時に読んだ本作。 久しぶりに読んだこのコミカライズも、当時の思い出がよみがえり、とても丁寧かつキレイに表現されて大満足でした。 内容は、何らかの理由で不登校になった中学生7人が、部屋の鏡から通じる異世界のような謎のお城で出会い、あるゲームをするという流れ。 そのゲームとは、城の中にある「開かずの部屋」があって、その鍵をみつけるというもの。 しかも、鍵をみつけた人は何でも願いがかなうという。 城にいる狼姿の少女に招かれ、7人の冒険が始まる・・・と思っていましたが、「冒険」というか「人間模様」を描いた感じが本作のポイント。 上述のとおり、皆なんらかの理由で学校にいけず、城内でも似たような境遇から、時にこじれたり、時に支えあったり、ファンタジー要素がありながら、どちらかというと思春期の苦労を描いたヒューマンドラマの要素が強くて、ここが面白かったんですよね。 特に、いじめなどを苦に学校に行けなくなってしまった人が、城の中でできた人間関係(友人)を、自信や勇気に変えて、再出発する姿はグッときました。 また、ミステリー的な仕掛けも色々あって、例えば 7人同じ中学に通っていながら現実で出会うことができない とか 全員不登校だと思ったら実は1人、別に不登校ではない人がいた とか これらの、秘密が徐々に明らかになっていくストーリー展開は純粋に面白いです。 ネタバレされれば、すごくシンプルな展開なんですけど、 キャラクターがすごく魅力的だったからか、すんなり感情移入できてあっというまに読めてしまいます。 『この話が誰かの「城」のような居場所になればいい』https://booklog.jp/award/2018/winner/book という思いで、書いた本作ですが、 学校を行くことに悩んでいる人、またはその親はもちろんですが、それだけでなく人間関係に全般に不安を抱えている人に、希望を与えてくれる内容だと思います。 余談ですが、コミカライズの風花の設定が、現代風に変えたんでしょうかね。ここらへんが原作と少し違うかもです。