旅に出るのは僕じゃない

近未来の世界旅行 #1巻応援

旅に出るのは僕じゃない いけだたかし
兎来栄寿
兎来栄寿

昔、PS1の『MYST』、『RIVEN』や『ワールドツアーコンダクター』といったゲームをプレイしながら「世界中をリアルな3D映像で自由に巡れるゲームがあったら良いな」と思いました。何なら、他にやらない人がいれば将来自分で作ってみたいと思ったほどです。 しかし、2006年にはGoogle earth日本語版が出現、その後street viewも登場し革命が起きました。今では当たり前のことで普通に使われていますが、最初に触ったときの感動の大きさは今でも覚えています。そして、近年でもたまにエズの街を散策したり、マチュピチュを遊歩したりします。果たして、私は満足してその道に進むことはなくなりました。 本作は、コロナウイルスが変異して世界中でまだ蔓延している2040年前後の近未来が舞台。VR技術が発達して、リアルな質感や匂い、温度などを感じる旅行を自宅で楽しめるようになった時代の物語です。 人々に仮想空間での旅行体験を提供するため、その元データとなる「旅の体験」を収集する新しい仕事が「無名旅行人」。その新時代の職務を背負う青年が、1話ごとにいろいろな国を巡る様子が描かれていきます。 ソーラーパネルが敷き詰められたパルテノン神殿前であったり、そこかしこにドローンが飛び交うセントラルパークであったり、その他の近未来ガジェット(翻訳機の設定なども凝っていて楽しい)が溢れている、世界各国の名所を眺めているだけで楽しいです。表紙も一生に一回は行きたいと思っていたギリシャのサントリーニ島っぽい景色で、思わず惹かれてしまいました。 時代が経っても変わらない名所や各国のグルメもいいのですが、旅の最大の魅力は「人との出逢い」だなあと感じます。私自身の海外旅行を思い返してみても、その土地その土地で出逢った優しい人達(あるいは犬や猫たち)との思い出が強く残っているのを思い起こされました。その部分がしっかりと描かれているのが好きです。 近未来の海外旅行を楽しんでみたい方にお薦めです。

葬送のコンチェルト

台湾の葬儀がわかる物語 #1巻応援

葬送のコンチェルト 串山大 韋離若明
兎来栄寿
兎来栄寿

台湾の作者によって描かれた、台湾の葬儀社を舞台にした作品です。美しい表紙絵に惹かれながら手に取りました。 先日も『葬儀屋タケコ~あなたの最期、叶えます【電子単行本版】』のクチコミを書きましたし、『おくりびと』以降は葬儀にまつわる職業を描いた作品も一際増えた印象です。 ただ所変われば品変わるという言葉の通りで、隣国でかつ同じ島国である台湾ですが日本とは違うところがいくつもありとても興味深いです。 ・葬儀屋が特殊清掃も兼ねる ・台湾ならではの風水を意識した墓作りとその職人 ・遺族に代わって泣く仕事「孝女白琴(こうじょはくきん)」 ・スイカに顔を描いて水中に投げる「西瓜招魂」 ・死者の足元で紙幣を燃やしてあの世への旅費とする「脚尾銭」 などなど…… この辺は国ごとにかなり事情も違いそうなので、他国ではどのようにしているのか気になります。 物語としてもターミナルケアを受ける少女や、とある理由で心中しようとした男の子たちなど生死にまつわる上質な人間ドラマが繰り広げられていき、沁みます。 余談ですが、ちょくちょく出てくる「紅豆車輪餅」、日本ではいわゆる大判焼きや今川焼き、回転焼きなど地方によってさまざまな呼ばれ方がされる仮称ベイクドモチョチョは台湾にもあるんですね。お餅が入っているのはとても美味しそうで、台湾に行く機会があれば食べてみたいです。