台湾の作者によって描かれた、台湾の葬儀社を舞台にした作品です。美しい表紙絵に惹かれながら手に取りました。

先日も『葬儀屋タケコ~あなたの最期、叶えます【電子単行本版】』のクチコミを書きましたし、『おくりびと』以降は葬儀にまつわる職業を描いた作品も一際増えた印象です。

ただ所変われば品変わるという言葉の通りで、隣国でかつ同じ島国である台湾ですが日本とは違うところがいくつもありとても興味深いです。

・葬儀屋が特殊清掃も兼ねる
・台湾ならではの風水を意識した墓作りとその職人
・遺族に代わって泣く仕事「孝女白琴(こうじょはくきん)」
・スイカに顔を描いて水中に投げる「西瓜招魂」
・死者の足元で紙幣を燃やしてあの世への旅費とする「脚尾銭」
などなど……

この辺は国ごとにかなり事情も違いそうなので、他国ではどのようにしているのか気になります。

物語としてもターミナルケアを受ける少女や、とある理由で心中しようとした男の子たちなど生死にまつわる上質な人間ドラマが繰り広げられていき、沁みます。

余談ですが、ちょくちょく出てくる「紅豆車輪餅」、日本ではいわゆる大判焼きや今川焼き、回転焼きなど地方によってさまざまな呼ばれ方がされる仮称ベイクドモチョチョは台湾にもあるんですね。お餅が入っているのはとても美味しそうで、台湾に行く機会があれば食べてみたいです。

読みたい
空の音色
心が晴れやかに澄み渡る音がする #1巻応援
空の音色
兎来栄寿
兎来栄寿
『姫ちゃんのリボン』で一世を風靡した水沢めぐみさんも、昨年で還暦を迎えられたという事実に隔世の感があります。私が生まれる前からずっとマンガを描き続けられている水沢さんですが、未だに作品には優しさや瑞々しさが溢れており敬服するばかりです。 『空の音色』、どうしたって『空色のメロディ』を思い出さずにはいられないタイトルですが、内容は異なります。 漫画家として10年目を迎えるものの直近はぱっとせず行き詰まりを感じていた主人公・花音(29)。ある日、姉夫婦が事故で他界し5歳の姪・音色を引き取って育てることに。仕事や恋愛も大変な渦中で、さらにまったくの未経験である子育てが加わりてんてこ舞いになる花音の奮闘の日々が描かれていきます。 身内が亡くなったことを悼む暇もなく、忙しない上に神経を使い続けなければならない日々の到来。父と母がなくなったという事実すら受け止めきれていない5歳児との向き合い方の難しさが伝わってきます。 お弁当の中では特にたまごやきが好きだという音色のために、たまごやき入りのお弁当を作って持たせるものの残され続けてしまい、些細なことであると頭では理解しながらも心にダメージを負って荒んでいってしまうさまなどはリアリティがありました。子供に悪気はまったくなくても、削られてしまいますよね。 ただ、そうした辛さや大変さを乗り越えて、道端の何気ない風景をゆっくりと眺めながらふたりが段々と距離を縮め家族となっていく描写の暖かさには心をほぐされます。 彼氏がまたダメな男で無神経に人の心を削ってくるのですが、幸いにして友人には恵まれており多香ちゃんのような子が側にいてくれるのはありがたいことだなぁと思います。 かわいくて読みやすい絵柄と水沢めぐみさんらしいハートフルさは、本作でも十二分に堪能できます。ファンの方はもちろん、そうでない方もここから水沢めぐみさんの世界に入るのも良いでしょう。
ワンショットロマンス
6つの青春恋愛短編 #1巻応援
ワンショットロマンス
兎来栄寿
兎来栄寿
『やっと君とめぐり逢えたんだ』、『そんなことより今すぐあそぼ!』、また『マーガレット』にて新連載の「かいじゅうの花束」も始まっている雨花深衣さんによる恋愛短編集です。 本書ではフレッシュな高校生たちによる6つの物語が繰り広げられます。それぞれ簡単に紹介していきましょう。 「瞳のシャッターを押して」 負けず嫌いな性格の詩穂が、高校入学直後に成田先輩に煽られて写真部に入るお話。 詩穂の真っ直ぐで気取らない性格が良いです。そのせいで証明写真が酷いことになっているのも含めて好きです。 「オン ユア マーク」 陸上部で″魔女″の異名を持つ高2の一夏と、保健室の宮城先生に恋するエース大樹のお話。 最後の方の一夏のセリフがとても好きです。こういうの、こういうのが良いんですよ。 「君のこころ」 バスケ部2年の龍二が、隣のクラスの小田原さんはもしかしたら自分に気があるのでは? と思い悩むお話。 皆さんも経験ありますでしょうか。年頃の子は、さり気ない一言や一挙手一投足にさまざまな想像を巡らせてしまうらものですよね。それが勘違いだとしたら恥ずかしいし、勘違いでなかったらそれはそれで大変なのですけど。 「エキストラの心がけ」 自分をモブ自認する16歳の栞里が、バスケ部キャプテンのイケメンを″推し″として強火でファン活動していくお話。 ″神様と付き合いたいとか思う!?″ という言説は、推し活と恋愛の差、より宗教に近い推しへの感情が明瞭に表されていて好きです。 「ふたりで帰ろう」 乃木坂にいそうと頻繁に言われる人気者の美憂が、中1からずっと同じクラスで同じ地元ながら自分を嫌っている青山がいるバスケ部のマネージャーになるお話。 「エキストラの心がけ」と同じバスケ部の物語です。嫌われている所から始まる関係や、メガネ男子が好きな人に刺さるであろう一篇です。 「あの子の元カレ」 友人の千果が、彼氏の高槻くんを差し置いて別の男子と両思いになってしまった報告に付き合わさせられる友理葉のお話。 あまりにあっさりと引き下がってくれた高槻くんの真意がどこにあるのか。それを探る途中でちょくちょく出てくる変顔が好きです。 すべて独立した1話完結のお話たちですが、うっすらとお話とお話の間の関係もあって1冊として読むとまたより楽しめます。 決めシーンの表情の描き方など、雨花深衣さんの絵の魅力も作品を盛り立てています。 真っ直ぐ過ぎず、かといって拗らせ過ぎず。ちょうどいい塩梅のさまざまな青春の光耀を浴びることのできる短編集です。サクッと読める良い恋愛少女マンガはないかとお探しの方にオススメです。
群青のカルテ
精神科医の娘が自殺しかけた理由とは #1巻応援
群青のカルテ
兎来栄寿
兎来栄寿
『37.5℃の涙』の椎名チカさんの新作は、精神科医。 精神科医の夏島凛子(35)は、離婚して娘・悠里(15)の親権を持つ女性。悠里は父親との板挟みには遭っていながらも特に大きな問題なく学校生活を送っていると思っていたある日、悠里が突然ベランダから飛び降り自殺未遂を図り、気がつくと悠里の体に意識が入れ替わってしまったというサスペンスミステリです。 4月の新入シーズンで退職代行も話題ですが、名の知れた大企業のブラックさが露わになることもいまだに日々起きている昨今。本作でも1話からブラック企業で働かされ日々大きなストレスをかけられて病んでしまった女性のケースが取り扱われますが、さまざまな精神科の患者、また精神科に行くべき症状を持つ人の様子も描かれていきます。 実際に精神科医による医療監修も入れて描かれているということで、ケアが必要な人に対しての診断やかける言葉などは本格的です。 「もっと精神病患者が増えればいい」 と『Shrink(シュリンク)~精神科医ヨワイ~』でも言われていましたが、まさにその最初に行くときのハードルの高さ的な部分が描かれています。精神科に行くという行為自体が特別で恥ずべきもの的な意識がある方も多いかもしれませんが、作中のあるキャラクターのように「これは治るもの」という意識を持ててもっと気軽に病院に行くという選択肢が取れるようになれば良いと思いますし、そういう社会を形成していくことを助けてくれる作品です。 友人や知人にも仕事や人間関係の問題で心を悩ませて苦しんでいる人は多いですが、人の心があまりにも軽視され蹂躙されることもある社会で、どうか何より大切な命や心が脅かされすぎないようにして欲しいです。 悠里に何があったのかという物語の根幹の謎が強い引きとして作用しながら、個々のエピソードで人の心の動きに寄り添ってくれる部分が多々ある今の時代に価値を放つ物語です。
ふくふくまんぷく
江戸×人情×料理 #1巻応援
ふくふくまんぷく
兎来栄寿
兎来栄寿
歴史に詳しくなくても楽しめる、心温まる人情グルメマンガです。 江戸後期、文化文政の時代を舞台にした料理人の娘である「ふく」が主人公の物語。母親を亡くして家のことも父の手伝いも率先してこなす健気な偉い子です。彼女が最も興味を示すのは料理。料理本を読み漁って読み書きを覚えてしまったほど、料理にのめりこんで育ちました。 元々は殿様にも仕えて料理を作っていて、 ″お殿様でも棒手振りでも うまいうまいと毎日笑って飯が食えりゃァ それが一番幸せよ たった4文の串にだってそんな力はあるのさ″ という尊敬できる父親と何年も休みなく働いて、遂に念願の料理店を居抜きで開業したものの、宣伝が足りず閑古鳥が鳴き父親は急逝。 ふくは残った借金のカタとして、料理茶屋という名目で女の子たちが男性を接待する店で働かされることになっていきます。 なかなか逆境の多い人生ですが、父親譲りの技術と人を喜ばせたいという想いで料理を作れるふくが、さまざまな人の心を動かす料理を作っていくさまにはカタルシスがあります。始めは偏屈だった人も、ふくの作ったものを頬張った瞬間にそれまでにない表情を見せるのが痛快です。 巻末の参考文献の多さからも解るように、江戸の風俗や食文化を丹念に研究して描いているのが伝わってきます。実際に現代でも手に入る食材を使った料理の数々は、シズル感が強くて幕間ではレシピもマンガで描かれているので実際に作って食べてみたくなります。口の中でしゅわしゅわ溶けると評される霰豆腐など、いいですね。 また、一方で人間ドラマとしての魅力も大きい作品です。食べることは生きること。人が食をきっかけに生きる力を得るシーンもたくさん描かれていて、読んでいるだけでも胸が一杯になります。五話のエピソードなど、特に好きです。 タイトル通り、読むと福を得られた気分になれる作品です。時代的には女性が料理人をやるのには数々の困難があると思いますが、すべて乗り越えていってたくさんの人をますます笑顔にしていく料理を作っていくさまを見続けたいです。
さうのあっ!
きらら発JK×サウナマンガ! #1巻応援
さうのあっ!
兎来栄寿
兎来栄寿
世は大サウナブームです。子供のころは熱いだけで一体何が良いのかまったくわからなかったサウナ。しかし、気付けばいつの間にか私も同年代の方々も30代くらいからみなサウナの虜になっています。しきじにもDESSEにも足を運びました。これが加齢……もとい歳を重ねるということでしょうか。 ところで、マンガ界の鉄板といえば「美少女」と「おっさんの好きなもの」の掛け合わせ。故に、こうした作品が出てくるのも時代が生んだ必然と言えましょう。 今までも「美少女×お風呂」というマンガはいくつかありましたが、完全にサウナに特化した「美少女×サウナ」マンガの真打がきららから登場しました。その名も『さうのあっ!』。フィンランド語にある「サウナに入る」という意味の動詞だそうです。 ゲームや動画鑑賞が大好きで、その時間を削られるお風呂は嫌いで数日に1回しか入らない景山こかげ。 フィンランドからやってきて銭湯に居候しているサウナ大好き少女のリューディア・アラヤ。 クラスの委員長でサウナ知識を語り出すと早口になる清水芹香。 ひとりだけ他クラスで、スーパー銭湯の娘でお嬢様口調の高野槇。 4人の高校1年生たちを中心とした、サウナコメディ4コマとなっています。 ・サウナの効用 ・交互浴の基礎 ・ととのうとは ・フィンランドのサウナと日本のサウナの違い ・アウフグースやヴィヒタについて ・野外でのテントサウナ などなどについて、サウナ初心者であるどころか、そもそもお風呂に入る時間ももったいないという主人公のこかげの視点からサウナに関する知識を0から学んでいくことができる内容となっています。 サウナ後はオロポも良いですが、作中で紹介されるフィンランドコーヒーも飲んでみたいです。その際の「飲料を提供する場合は保健所の許可や手洗い設備などの設置が必要〜」という件からは、昨今の情勢を鑑みた細かい配慮を感じました。 シンプルにキャラクターたちがかわいく、きららジャンプをしているところなどもあり、青春の1ページが楽しく描かれています。 「怪我人の救急搬送」 「歩きスマホに注意のポスターみたいですわ」 など、ちょくちょく挟まれるツッコミにもセンスを感じるものが多くクスッとします。専門知識ネタに偏りすぎることもなく、しっかりとツボを押さえながらメインテーマをバランス良く描いている作品です。 最近はなんだかんだ若い女性でもサウナ好きが増えていますが、この作品がアニメ化されて更なるサウナブームが起こったらますます老若男女問わずサウナに入るようになる世界が訪れるかもしれませんね。元々日本人はお風呂好きですし、それによって健康が増進されていったら良いことだと思います。
薔薇なまいにち
このタイトルとこの表紙で #1巻応援
薔薇なまいにち
兎来栄寿
兎来栄寿
『まんまるポタジェ』や『魔女のてしごと』、『 天使にお願い』や『ビーズの指輪』のあいざわ遥さんの最新作です。 その情報と、このタイトルと少女マンガ的なかわいくファンシーな表紙や扉絵のメインヴィジュアルから一見して看破できる人はあまりいないでしょう。この物語の主人公こまちが、ギャンブル中毒の貧乏少女であるとは。 水原一平さんの事件もあり、今注目を浴びるギャンブラー。最近発売された『ヤングマガジン増刊カケヒキ』では、超人気ギャンブルマンガのシリーズ最新エピソードとなる「エスポワール前カイジ」が掲載されました。人間は根本的に、ランダムから快楽を得る瞬間が好きなんですよね。 特に2割以下の人は非常にギャンブラーに向いたリスクテイカーの遺伝子を持っていると一説には言われています。狩猟採集時代は定住していては枯渇する資源を得るべく、リスクを冒してでも新天地で獲物や食べ物を発見できた者が英雄であったためだとか。多くの人にはギャンブル中毒者のことが理解できなくても、それは生存戦略的に必要な資質であったというわけです。もしかしたら、こまちもそういう遺伝子を持っているのかもしれません。 そうして開始2ページで競馬でスり無一文で食うや食わずの生活をして家賃の支払いも滞りながらも優しい大家さんなどに助けられて何とか生きながらえていたこまちは、バラの育種農場でバイトをすることになります。 その農園にいた育種家の青年・園生は、あけっぴろげな性格のこまちとは対照的に対人スキルに乏しく、しかしバラへの情熱は揺るぎないもの。そんな不思議な凸凹コンビが、まだ見ぬ新種のバラを生み出そうと奮戦していく物語です。 まず、バラの育種というテーマが珍しくて面白いです。そもそもどうやって育てているのか、バラごとにある特徴や高く評価されるためにはどうすればいいのか、ミステリーローズとは何なのかなどなど、読んでいて楽しくなる知識が満載です。 また、主軸となるふたりのキャラクターがとても立っていて、どちらも難があるもののこのふたりの掛け合いだけでも永遠に楽しく物語を引っ張っていけそうだなと感じました。 時折ギャンブルも交えながら展開していく異色の作品となっており、バラの育種に興味がある方、ギャンブラーのヒロインに興味がある方、少し変わった少女マンガを読みたい方などにお薦めです。
大きくなったら女の子
「座席」議論に加わっている人に読んで欲しい #1巻応援
大きくなったら女の子
兎来栄寿
兎来栄寿
数日前から、新幹線の自由席で横に乗ってきた異性の話を巡ってネット上で大激論が巻き起こっています。 「男性は〜」「女性は〜」という主語で意見を述べている人に1度この作品を読んで欲しいなと思います。 本作は、人間が皆″男性″として生まれてきて、その中の1割が14〜20歳ごろを境に性転換して″女性″になり、声が低くなり乳房が大きくなり子宮が発達し男性器が縮小し筋肉・脂肪が増加していくという世界を描いています。社会は″女性″が主導していくもので、″男性″はそれを支える存在。 ただ、少しややこしいのですがこの作中での″男性″は現実世界の女性的な外見をしており、″女性″は男性的な外見で発達した乳房を持っています。 最後にあとがきで明示されているように、単なる男女の反転ではなくマーブルな状態を描いているのが特徴です。 この作品の中で、それぞれのキャラクターが語る性別ごとの役割の話や、「″女性″は」「″男性″は」という話や異性に対する態度は、読み手に応じてさまざまな感情を引き起こしてくれるであろうと思います。現実世界に照応してある人にとっては何も引っ掛からず、ある人にとってはこの上ないもやもやが生じるであろうことをつぶさに描いています。 男性だから、女性だから、″女性″だから、″男性″だから有利なこともあれば、不都合なこともある。ときにはそれに対して、過去から長い時間大量に蓄積したものも含めた不平不満を述べたくなることもあるのは否定し得ません。 ただ、筆者の御厨さんが ″性別や属性で人の中身ややるべきことをひとくくりにするのは、個人の理解をなまけたいがための単なる省エネモードのおこないだと思っています。  何かを集団でくくって語るとき、「今の自分は省エネモードになっている」という自覚はしていたいと思います″ と述べたあとがきにあるように、より本質的には個々人に依拠するものに対して意識せずに大きい主語で語ってしまいがちな状況はあると思います。 どういったものに対して自分の心はどういった動き方をするのか。その形を改めて把捉しておくのに、この作品はとても優れています。 何も個人としての意見を表出するなという気はまったくありませんが、省エネモードで雑な結論に結びつけて誰も幸せになれない不毛なやり取りに発展する前に、今一度立ち止まって一呼吸を置いて本作を読んでから、改めて熟考した後に言葉を紡いで発しても遅くはないでしょう。
ただ大きな猫になりたい
恋愛できない猫好きふたりと保護猫2匹の新生活 #1巻応援
ただ大きな猫になりたい
兎来栄寿
兎来栄寿
恋愛関係でない男女の描き方と、愛を持って描かれる猫にまつわる諸々がとても良いなと感じさせてくれる作品です。 男性からの恋愛や性愛に応えられないという悩みを持ち、両親が残してくれた一軒家に女友達のみおと二人暮らししていたものの、そのみおも3年で彼氏ができて出ていき独りになってしまった公務員の黒木里香。 彼女が保護猫をお迎えしようとするもの、譲渡会で単身者で一緒に世話できる家族も近くにおらず、自分の仕事が大変なときや体調を崩したときに責任が持てないようでは厳しいと断られてしまうところから始まる物語です。 猫が好きだからこそ、ペットショップで買うのは嫌で不幸な子をひとりでも減らしたいという里香の気持ち、同じように保護犬を迎えた身としてとても好感が持てます。しかし、ボランティアの言うことも至極もっとも。命に対して責任を負うということはそれだけ重いものですから。しかし、その後に譲渡会で出会った男性と共に助けた猫を育てていくこととなります。 恋愛関係ではなく一緒に暮らし始める男女の関係を描いた作品としても秀逸です。 互いに異性として恋慕することはできない。でも、日常の些細なことを共にして共感したり、「おかえり」「ただいま」と言える相手がいると安心できるという気持ちは確かに存在する。何より、互いのライフスタイルによって猫のサポートを補い合える。 そうした利害の一致から始まる共同生活の様子もいいです。理想的な部分だけでなく、赤の他人と一つ屋根の下で暮らすことの大変さもしっかり描かれます。それでも、猫たちの存在が潤滑油となり新生活が少しずつ回っていく様子を見ていると、世の中にはこういう形があっても良いと思わせてくれます。 私自身、結婚はするまで微塵も考えていませんでしたが、最近骨折した際にはとても助けられて独り身のままだったら相当大変だっただろうなと思いました。保護犬を迎える際も夫婦であるからと安心された部分もありました。何だかんだで共同生活は助かる部分が多いというのは身に沁みます。 また、猫の育て方や猫との暮らし、保護猫への解像度の高さも本作の美点です。原作者の筒井テツさんは実際にボランティア活動をしているそうで、幕間では保護猫をお迎えしたいと思っている担当編集のFさんとの実録保護猫マンガも描かれます。 作中で保護される要介くんと要美ちゃんはそれぞれの個性と共にとてもかわいく描かれ、このまま何事もなく元気で成長してほしいと願うばかりです。
わたしのお母さん
残酷な現実へ手向けられた願い #1巻応援
わたしのお母さん
兎来栄寿
兎来栄寿
世の中には、最早どうしようもなく距離を置く以外に対処のしようがない人や物事が存在します。しかし、それが実の親であり自分がまだ経済的に自立できない子供であった場合は最悪です。絶対に離れた方が良いのに、離れる術がなくその手段を考えることすら封じられたままそれが当たり前なのだと刷り込まれて心身を壊されていってしまいます。 本作の第1話はとにかく読んでいて辛いものでした。小学生の少女トワが、毒親の極みのような実母の星羅とその愛人であるみちおから最悪の虐待を恒常的に受け続ける惨状が描写されます。ゴミ屋敷でまともな暮らしもできず、学校に通う時間に酒を買いに行かされ、些細なことで当たり散らされ暴力を振るわれ、あまつさえ……。現実にも、今も同様の被害を受けて生きている子がいるのだろうと思うと居た堪れなくなります。 この物語は、そんな残酷な現実へ手向けられたひと匙の希望であり救いです。リカワリ星からやってきた異星人によって、母親の存在は乗っ取られ、体はそのままでも中身はまったくの別人になりかわりトワは新たな生活を歩み出すこととなります。 虐待だけでなく、保護者間のカーストやそれが子供たちに伝播してのいじめなど現代社会の闇の部分が多く描かれます。子供同士のやり取りや、心の移り変わりの部分にもリアリティを感じます。ただ、そうした不条理をリカワリ星人が縦横無尽に切り開いていってみせてくれる様はカタルシスがあります。 兎屋まめさんの絵も綺麗で、序盤の星羅の描き方のおぞましさの迫力、さまざまなヴィヴィッドな表情の描き分けも良いです。 余談ですが、街並みの様子からも治安の悪さで知られる東京の某所を舞台にしていると感じられるのは気のせいでしょうか。
ねずみロワイアル
かわいい恐怖の殺し合い #1巻応援
ねずみロワイアル
兎来栄寿
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『ムムリン』や『オオカミの子』の佐々木順一郎さんのかわいい絵柄で描かれる、残酷なバトルロワイアル。 そう、まさに高見広春さんの『バトル・ロワイアル』と同じようなクラスメイト同士の殺し合いが描かれていきます。1999年に出てリアルタイムで読んだ小説が、四半世紀経った今でもこうして色濃く影響を与え続けてフォロワーを生んでいるのは感慨深いです。 基本的なルールも『バトル・ロワイアル』に準拠しており ・殺し合いは島で行われる ・生徒たちには全員爆発する首輪が付けられている ・島にはランダムで刃物や銃器など武器が配置されている ・1日ごとに禁止エリアが設定され行動エリアが狭まっていく といった具合です。進化しているのは、スマホのような携帯端末でさまざまな情報を得られるということ。ただそれもどこかで充電ができないとずっと使い続けることはできないという制約も面白いです。 殺し合いのゲームが進行する傍らで頻繁にエモーショナルな回想が挟まっていく構成もまた『バトル・ロワイアル』を思い出します。それぞれの同級生たちが、普段の学校生活では見られない陰の姿を持っていたり、非日常だからこそ剥き出しになる感情を表したりといった醍醐味の部分もしっかり描かれていて刺さります。本家も、もちろんゲーム的な部分の面白さもありつつ思春期の少年少女たちが織りなす人間ドラマの模様が名作を名作たらしめた部分ですからね。 同じネズミでありながらそれぞれのキャラクターがしっかり描き分けられているのもすごいです。外見は似ているにも関わらず、それぞれがちゃんと個性的に立てられています。そして、このかわいさがあればこそ本家さながらの酷薄な展開が引き立ちます。 血と裏切りに塗れた島で、彼らの運命はどうなるのか。どのような結末を見せてくれるのか。目が離せません。
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幽霊はどこへ?

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日本時代と現代、二つの時代を描く 台湾発 至上の百合漫画  昭和11年。「高等女学校」「日本への進学」「職業婦人」といった「新しい未来」が少女たちの前に輝かしく提示され、それでもその未来への扉を開くか否かの選択は決して少女たちの自由意思にはゆだねられていなかった時代。
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西暦2043年12月1日、未知の生命体「Baby」が地球に侵攻する。「Baby」に寄生された人類は人間でもロボットでもない、凶暴で残酷な「機人」に変異し、無差別虐殺を行う。人類が絶滅の危機に直面する中、「Baby」に寄生されても人間の姿を保ったままのエレットラは、わずかに残る生存者を探しながら、自身の体内に寄生した「Baby」の秘密を解こうとする…。2011年に台湾漫画界における最高評価「金漫奨最佳年度漫画大奨」を受賞した作品が、いよいよ日本上陸です!
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仕事に追われる日々を過ごす梵 孝太郎(そよぎ こうたろう)に突如訪れた母親の死。初めての葬儀に戸惑う梵の前に現れたのは、弔いのプロフェッショナル・嗣江宗助 (しえ そうすけ)。故人・遺族・参列者の想いが交叉する、弔いの場の裏方「葬儀 屋」の世界を新鋭が描き出す――命の終わりのヒューマンドラマ。
遺書、公開。

遺書、公開。

灰嶺中学2年D組は新学期に「2-D序列」と題したクラス全員の序列が記してあるメールが届く。しかし、“序列1位”の姫山椿はクラスの不穏な空気を打ち破る。姫山のおかげで普通のクラスになったかと思われた11月──。姫山が校内で自殺してしまう…。葬儀の帰りに教室に戻ったクラスメイト達の机に姫山椿から「遺書」が置かれていた! 死者からの「遺書」を巡り2年D組の闇が暴かれる!? ※本商品は、デジタル版限定カバーのデザインを表紙・特典に収録した特装版です。※こちらの商品には、巻末にebookjapan限定描き下ろし特典イラストが収録されています。※
しめっぽい話ですが

しめっぽい話ですが

町の小さな葬儀社のバチ当たりコメディ! 「生前のお姿が忍ばれる」 なんて言うじゃない? お葬式って人生の最後に待っている たった一度っきりのメモリアルイベント。だからその人のホントが見えるのかも。町の小さな葬儀社さんで、葬儀の世界に身をおくことになった今野、まだまだ半人前なヤツですが、温かく見守ってあげてください
それでもしますか、お葬式?

それでもしますか、お葬式?

向井朝子は葬儀社「羅生苑」の新米社員。サクラを使って会員増を目論む腹黒上司や、戒名付けを葬儀社に押し付ける僧侶に唖然としつつ、「本当にお葬式は必要なのか?」と自問自答を繰り返す日々。孤独死したキャバ嬢の姉の葬儀をあげる金が無いと、涙を流す女性に朝子が提案したプランとは…!?
お葬式にJ-POP

お葬式にJ-POP

亡くなった人へ、あなたはなんと言いますか? 葬儀社に就職したあかりは人生ではじめて「お葬式」を目の前で見ることに気づく。夫を亡くした認知症のおばあちゃんは棺の中の夫に向けて今日の夕飯をどうするか尋ねたり、電車に飛び込み自殺した一家の主の葬儀では参列者が自殺の原因をこそこそ噂し続けたり、最愛のペットの死に飼い主の様子がおかしくなったり、大家族の騒がしすぎる葬儀だったり…。人は誰でも死ぬ。最後の別れのお葬式には人それぞれ、様々な感情があふれる時間だった。元・葬儀社勤務の作者がえがく、リアルお葬式ドラマ! フルカラーコミックです!(このコミックスには「お葬式にJ-POP[ばら売り][黒蜜]第1~4話」を収録しております)
大安仏滅

大安仏滅

バイトを掛け持ちする勤労青年・青木が連れ込まれた先は… 葬儀屋の霊安室!? 結婚からお葬式まで手広く展開する若狭セレモニーの若狭にスカウトされた青木は葬祭屋で働くことになった。絶対に笑ってはいけない葬式や、トラブル満載の結婚式等、様々な人が駆け抜ける「お見送り」ストーリー第1巻!! 電子限定おまけ付き!!
ペットのおくりびと~ペット葬儀社ピースリー物語~

ペットのおくりびと~ペット葬儀社ピースリー物語~

ペットのおくりびとの著者が、ペット霊園ピースリーでの感動物語やペット葬儀への想いをつづるほんわかエッセイ集をコミカライズ。<企業案内>株式会社ピースリー石川県能美市にあるペット葬儀社です。「和気の岩」という大地の基礎となった岩がある横に位置する場所にあります。https://p3pet.jp/このような大地の基礎となる岩のふもとでペットの魂を眠らせようと、全国からでも納骨が出来る「ペット納骨便」という企画もしています。https://sweetmemories.pet/
はじめまして さようなら

はじめまして さようなら

「亡くなった人と“はじめまして”って 出会ってすぐに“さようなら”。限られた時間の中で最高の“さようなら”をしてあげることがお葬儀の仕事なんだ。」片思いの相手・岸川君への気持ちから彼の実家まで押しかけたタマ子はドラマ溢れるお葬儀の世界に触れて…!
台湾の葬儀がわかる物語 #1巻応援にコメントする