悪女

本当の「悪女(わる)」とは誰?

悪女 深見じゅん
名無し

1988年というバブリーな時代真っ只中に連載が始まったOL漫画です。当時、テレビで流行していた"トレンディドラマ"の漫画版という感じかな。「悪女(わる)」という題名に目を引かれて手に取ったのですが、表紙には題名にはそぐわない可愛い女の子の絵。そのギャップに興味を持って読み始めました。 コネで商社に入社した麻理鈴がひょんなことから社内で出会った男性に一目惚れ。その人物探しから始まって、同時に麻理鈴が優秀なOLとなっていく様を描いています。その中で、恋や仕事のライバルに邪魔されたり、意地悪されたりするのですが、天性の天使爛漫さとお気楽さ、人の良さでライバルたちの心も和ませていきます。全37巻とかなりの長編ですが、クセのない画風とテンポの良さ、そしてコミカルなシーンも多いので、軽ーく読めます。 私の場合、題名の「悪女」の意味が最後まで気になっていました。麻理鈴は天然で悪女とは程遠いし、意地悪なライバルたちのことを指すのかと思ったのですが、実はみんな良い人たちで、最終的には麻理鈴と親しくなってしまうし、結局最後まで「悪女」らしい悪女は登場せず。でも、待てよ。天真爛漫さという武器で、誰もの荒んだ心や悲しみまでもやっつけて(=癒して)、みんなを味方にしてしまう麻理鈴こそが本当の「悪女(わる)」なのかなぁ。恋の行方の結果は、最後の最後までお預けです。バブリーな時代のOLを垣間見つつ、麻理鈴の恋が果たして実るのかをドキドキ待ちつつ、最後までとても楽しく読めた作品でした。

天使禁猟区

懐かしいと思って読んだら時間泥棒されています

天使禁猟区 由貴香織里
さいろく
さいろく

どうやら続編が出たと。 そのためか、キャンペーンで1・2巻が無料公開中(2023年7月現在) むかーし読んだと思っていたもののどうやらソレは一部だったのか、どこを読んだかも憶えてないうろ覚えぶりだったので、エイッと勢いで購入して読み途中。 当時、今で言う"厨二病"な女子を大量生産していた一端となる本作。 年代の背景が見えてくるのはビジュアル系とかメディアとのリンクを知ってるか否かで結構変わっちゃうとは思いますが… マンガ自体は一回読み出すとずーっと同じテンションで物語が進み…と思いきや唐突に緩急が出てきたり、著者の試行錯誤が目に見えて楽しい。 序盤のマンガとして古臭くて恥ずかしい!くすぐったくて読めない! みたいな世代的な苦行パートを抜けるまでちょっと大変でした。 (まだ電子愛蔵版?の6巻ですが、この辺でようやく抜けてきたかもと感じる) ちなみに1冊で2〜3巻分の厚みがあります。400Pぐらい。 なんだか褒めてない気がしてきたんですが、絵はキレイだし(上手いとは言わないでおくけど)キャラもいっぱい出てきて好みが刺さるのがきっと見つけられると思います。 あと少女マンガのバトルとか呪い系好きだったらなお刺さるかなと。 ただ、物語の内容が非常に癖があり、愛憎乱れ撃ちな天使のシガラミが多方面を巻き込みまくってエライコッチャなお話。 各天使と天界設定など、盛りだくさんではありますが主軸は兄弟愛。 読んでると頭が90年代になるんだけど、この空気感はやっぱり90`sの良さだと思います。 ※このシーンは台詞がめちゃくちゃ多くてネタバレを含まないフキダシがほとんどない本作において珍しい見開き

十角館の殺人

動機変更が影を落とす

十角館の殺人 清原紘 綾辻行人
名無し

原作が映像不可能とされて来たトリックは漫画しか出来ない手法で頑張ってたのではないかと思います。絵も綺麗ですし良くコミカライズされているなと(一部キャラクターの性転換もそんな違和感ない)。 けれども、核心となる動機面が原作よりページ割いてスポットを当てられているにも関わらず、改悪としか言えないものになっていました。 警察から誰も悪くない真相が関係者には既に告知されていたのですが(解決編パートで警察が調べてない訳ないだろと強調され)、自分達が殺したんだみたく何故だか皆で騒ぎ合い続けて(エラリィなんかは殺される最期まで自分が殺したと言い張る)、聞きつけた犯人が復讐に及んで勘違いオチになっていたのはなんだかなあと・・・。ショック受けて自殺に走りますが滑稽に見えます。 原作のも被害者からすれば殺されるほどのことかと主張したくなるものでしたが、犯人からすれば成立し得なくもないものではありましたし(現実に問題になった大学サークルトラブル)、島田の追及さえも証拠がないとかわしきって安心した後に、犯行前に良心として瓶詰めした流した計画書が戻ってた運命を悟ることで、「あの人にこれを渡してくれないか」が清涼感すら覚えるラストになったのですが、漫画版では台詞は同じでも情けなく後味悪さを覚えてしまいました。

リビドーズ

性と愛と

リビドーズ 笠原真樹
六文銭
六文銭

広告で大きなイチ◯ツみたいなのがまわってきて、矢も盾もたまらず読んでしまった作品。 全7巻読んで、当初想定していた以上に壮大なテーマだったなというのが率直な感想。 作者が『群青戦記』の人だと読んでから気づき、妙に納得した。 さてその内容ですが、 「リビド」と呼ばれる謎のウィルス?みたいなものに感染すると、異性に性的興奮を覚えると自身の欲望をコントロールできずに襲いかかり、粘膜経由から相手にも感染させる。 特に男性の場合は、体が膨張し(要はアレのように)、肉体的にも強靭な感じになる。 主人公もひょんなことで、バイトによくくる風俗嬢から感染してしまうが、他のリビド感染者と異なり、自我が一定保てて、肉体的にも常に変化しているわけではなく、ある程度制御がきく状態。 幼馴染で長年の思い人であった初瀬が、リビド感染者に襲われそうになったところ、リビド感染によって手にした力で助けることから物語は進む。 主人公と同じようにリビドの能力はあるが自我が保てている人も現れ、その能力を使って革命を起こそうとする集団が現れたりします。 彼らから勧誘的に主人公の力を求めてきたり、ないしは上述のように特別な肉体であるから「リビド」の抗体をつくるため、人類存亡のために国家に狙われたりする。 このあたりはパニックホラー系やディストピア系な物語では醍醐味ですよね。 主人公は、初瀬さんへの思いを武器に闘うわけですが・・・ この思いというのが、ただの性的なものなのか愛なのか?そんなことを終始考えている。 性的興奮しなければ強くなれず、強くなければ守れない。 本人を前に欲情などしていいのか、など葛藤しているわけです。 彼女への思いはピュアゆえに、苦悩も大きい。 読み進めていくうちに、自分自身 性は汚いもので、愛は綺麗なものと思い込んでいたけど、そもそも性と愛は切っても切れないものではないのか? とか、色々考えてしまいました。 ただ、そんな小難しい話よりも、登場人物は良い味だしているし(初瀬さんは天然で可愛いし、クセのあるキャラたちは皆信念があって愛着もてる。AV監督の人とか)パニックホラー的な、パンデミックな状況下のバトル漫画として十分面白いので、この手のジャンルが好きな人にはオススメできる作品だと思います。 裏にありそうな、性と愛とかいう壮大なテーマはスパイス的に楽しんでいただければと。

守娘

台湾怪奇譚と抑圧される女性 #1巻応援 #完結応援

守娘 シャオナオナオ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『陳守娘(タン・シュウリョン)』の伝説を題材にした物語は、墨っぽい美麗な作画で幻惑と苦悩の物語へと私を誘う。 舞台は清代の台南。不思議な祈祷師・守娘と出会うのは、名家のお転婆お嬢様。彼女は謎の水死体を皮切りに、様々な女性の苦しみの声を聞き、寄り添い、行動し……そうしてある巨悪の構造に巻き込まれてゆく。 彼女は当時の女性達がする、纏足をしていない。その分自由に走れる彼女は「女性のために」走る存在。一方で守娘は主人公を導くが、彼女自身も元は苦しむ女性であり、意外と無力な存在でもある。 描かれるのは、女性にあまりにも厳しい家父長制社会。そこで女性達は神や霊に縋り、まじないに頼り……その社会構造を恨むのではなく、その社会構造をなんとか生きのびようとする。その理不尽に、男である私は言葉を失う。 さらに描かれるのは、人間社会の恐ろしさに対する霊的存在の無力さ。膨大な怨念が、せいぜい足に痣を付けて何かを知らせることしかできない。でも、それをきっかけに何かが変わる時……そしてやはり無力な守娘がお嬢様に「諦めない事」を伝える時、そこに残る僅かな希望に安堵する。 しかしその希望を前にして「この時代に生まれなくて良かった」と男の私は言いたくない。この怨念と希望は、何千年も受け継がれ、そしてこのままでは、これからも受け継がれる物だから。 この物語にある「女性の抑圧」は、恐らくあらゆる時代の女性に接続する。『アンナ・コムネナ』は千年前の皇宮でも女性は不自由だった事を描き出す。そして『女の子がいる場所は』は現代の世界中・そして日本の少女への抑圧を描く。 今を生きる男の私は「抑圧はなくなった」「差別は解消しつつある」と簡単に言ってしまいそうになる。しかし現在も抑圧される女性は存在し、その言葉は彼女たちにも届くかもしれない。彼女たちははどう思うだろうか。 この事はあらゆる差別・抑圧に通じる。苦しみは私に見えない所で生まれ続けるだろう事を、忘れずに言葉を紡ぎたい。