ピーチガール 新装版

ガングロギャルとか

ピーチガール 新装版 上田美和
ゆゆゆ
ゆゆゆ

元水泳部でこんがり焼けた肌、塩素で赤くなった髪の毛と、一見遊んでいそうな見た目、吊り目で強気そうな顔立ちの、内面は純粋で真面目なもも。 そして、もものオトモダチとして仲良くする、なんでも欲しがる、分かりやすく悪役の(なので見ていてイラッとしてくる)さえ。 ももが好きな同じ中学校出身のとーじ。 とーじを奪われまいと適当に指さしてしまった、学年一のモテ男の岡安。 彼女たち4人による、ドキドキハラハラ恋愛漫画「ピーチガール」。 帰省して、ふと思い出したこの漫画。 たしかガングロと呼ばれたお肌こんがりファッションが若者の間で流行っていた頃に本誌で読んでいた漫画だ。 あの頃テレビでは、ヤマンバのような髪型をしたチョコレート色の顔のギャルが「黒人みたいになりたーい」と言って、日焼けサロンに通う姿を特集していたのを覚えている。 今だと、プールで日焼けして、色素が抜けているくらいでどうして主人公は勘違いされてるの?となるかもしれないけど、当時はそう見られ得る時代だった。 漫画では読むにつれて、読者側としてはその容姿はだんだん気にならなくなり、(ももは日焼けした肌を嫌がっていたが)他のキャラクターも強いて気にしておらず、普通の恋愛漫画と変わらなくなったように思う。 ガングロギャルの時代はおわり、美白の時代へ移り変わっていったせいもあるかもしれない。 読み直してみたら、さえはお友達にみえるときもあるけど、やっぱりムカつくなあと思ってしまった。

サバキスタン

ロシア人が描く独裁否定の寓話 #1巻応援

サバキスタン ビタリー・テルレツキー 鈴木佑也 カティア
兎来栄寿
兎来栄寿

ロシアによりウクライナ侵攻が開始されて1年半。現在もなお毎日さまざまな情報が飛び込んできます。 そんな今であるからこそ読まれるべき作品がロシア人の手によって描かれ、そして邦訳されました。本作は、架空の独裁国家サバキスタンを舞台にフルカラーで描かれる寓話です。 ロシアマンガを読んだことがある人は非常に少ないかと思いますが、翻訳も良いですし日本のマンガを読み慣れている方であれば苦もなく読める上手さを感じます。 物語は、サバキスタンを訪れるジャーナリストであったり、国内で忠誠を誓って働く人であったり、また独裁者本人であったり、さまざまな視点から多角的に描かれて進行していきます。その中で描かれる国家としてのさまざまな矛盾や差別、不条理は現実の写鏡のよう。キャラクターが動物の擬人化として描かれているからこそ、逆にありありと現実を思い起こさせます。それらは、日本で生まれ育っていると想像しにくい現実です。 何より帯文にも引用されている ″なぜ、不幸の中の自由は幸福の中の不自由よりも良いと、お前たちは考えるのだ?″ という、同志相棒ことサバキスタンの長であるドゥルジョーク・トレザロヴィチ・シャリチェスク=ライコフスキーのセリフが、この作品に強靭な骨格を与えています。 かつて、『銀河英雄伝説』でヤン・ウェンリーは「私は最悪の民主政治でも最良の専制政治に勝る思っている」と言いました。一方で、本作では「清廉でも公正でもなくとも君主独裁政治の方が、不幸の中にある自由たる民主共和政治よりも幸せではないか?」と独裁者が主張してくるわけです。 この論理に外側から反駁することはできるでしょう。しかし、当人の中では絶対的で揺るがない正当性を持って断行しているわけです。独裁を否定する物語でありながら、非常に強固な行動原理を持つ独裁者が据えられている。彼の言動もまた作中を飛び越え、資本主義社会に生きる私たちも射程に入れて脅かしてきます。そこを否定する論理の帰結が、果たしてどのように描かれるのか。 3ヶ月連続刊行予定ということですが、この物語がどんな形で結ばれるのかは今を生きる者として見届けねばならないと感じます。