19時半から打ち合わせ【描き下ろしおまけ付き特装版】

漫画家と編集者のケミストリー

19時半から打ち合わせ【描き下ろしおまけ付き特装版】 坂倉オサム
兎来栄寿
兎来栄寿

会社の人には内緒にしながら漫画家としても活動している名倉と、その担当編集である携帯向け漫画担当の近藤(非オタク)、ゲームコミカライズ担当の荒山(重度のオタク)の3人がマンガの打ち合わせをする様子を描いていくマンガ創作コメディです。 今回、描き下ろしを含めて特装版としてまとめられました。 「少女マンガに登場する″ごく普通の女子高生″は、概して美少女であったりコミュニケーション能力がバグっていたり決して普通ではない」 というような、マンガ好きなら誰しもうっすら考えたことがあるようなツッコミどころであったり妄想であったりが3人の話の中で次々と繰り出されていきます。 学園もの、異世界、BL、忍者、狼男などさまざまなジャンルの話から、時にVR4Dなど最新の企画にまつわるものまで毎回多種多様なネタが登場して楽しめます。 激しい脱線もありますが、意外とそういうところから新しいアイディアが出てきたりもするので雑談も大事ですし、漫画家と編集者の打ち合わせは側から聞いていても面白いものが多いです。 「イケメンがどういう職業に就くかじゃない―― 職業からイケメンを錬成するんです!!」 と、女性向けのマンガにおけるイケメンに向く職業/向かない職業は、創作論の一環として確かにと頷くところもあり。 屋上は立ち入り禁止で、校舎裏は公道に面していて告白も喧嘩もできず、テストの順位は貼り出されず、校則により髪色も髪型もみんな一律。そんなリアルな学園ものを読みたいか、と考えるとマンガならではのウソは一体何のためにあるのかというところを改めて考えさせられます。 「美容マンガは少年マンガと心理がシンクロしている」 というシャープな着眼点から生まれた、快作熱血美容マンガは必見です。 基本はコメディなのですが、個人的に一番好きで共感したのは 「現実に打ちのめされた私を癒してくれたのも やはり漫画でした」 という荒山さんの言葉。マンガに救われたからこそ、大変でもマンガのために、そしてこの世のどこかにいるこれからマンガに救われる人のために頑張れるんですよね。ゲームアプリのリリースメールを「復縁メール」と呼び二次元の彼氏を家族に紹介することを憚らない荒山さん、推せます。 小ネタも多いですし、名倉に好意を寄せる瀬古との関係などラブコメ要素も散りばめられており楽しめるポイントが多々ある作品です。

俺はまだ本気出してないだけ

俺もまだ本気だしてない件

俺はまだ本気出してないだけ 青野春秋
六文銭
六文銭

この本読むと謎に元気が出る。 中年のおっさんが、急にサラリーマン辞めて一念発起して漫画家になろうとする話。 突拍子もない展開だが、プロの漫画家にすんなりなれるわけもなく、当然父親にブチぎれられたり、世間とか社会の厳しさとか、そういうのが普通にやってくる。 バイトで糊口をしのぐのだけど、バイト先でも年下にからかわれたり(例えば店長と呼ばれる。ポジションではなく年齢的な意味で)、バイト先のメンバーと合コン行っても合コン相手にディスられる。 逆に、娘だったり、友人だったり、元会社の後輩だったり、応援してくれる人もいる。 人間同士のつながりみたいなのが色濃く出て、主人公を小馬鹿にする人と、そうじゃない人の対比が良い。 最初のうちは、何の根拠のない自信をもっている主人公を薄目でみているんだけど、抜けているけど味のある人間味にだんだん応援したくなってくるから不思議。 周囲の人間に恵まれてて、これはこれで楽しそうとか思ってしまう。 ダメでもいいじゃない、人間だもの、みたいなフレーズが浮かぶ。 俺はまだ本気出してない と思いながら、その可能性の中で生きていくのも、ある意味幸せなのかもなぁ。

人生最大の嘘ついた

最高の芸術は美しく人を騙す #1巻応援

人生最大の嘘ついた 梅サト
兎来栄寿
兎来栄寿

『緑の罪代』や『お兄ちゃんは今日も少し浮いてる』など、主に女性向け雑誌で活躍されていた梅サトさんが青年誌での初連載を始めた時はビックリしました。 安藤ゆきさんが『ビッグコミックスペリオール』で『地図にない場所』を始めた時も同様の衝撃がありましたが、しかしそれまでの作品の素晴らしさや男女の枠組を越えて普遍的な面白さを描かれていたことから、青年誌でも確実に面白いものを描いてくださるだろうという期待もありました。 梅サトさんに関してもほぼ同様で、かつ梅サトさんは絵的にも男性でも非常に読みやすいタッチなのでまったく問題ないだろうと思っていました。 蓋を開けて1話を読んでみれば、期待以上の面白さ! 30半ばにして何者でもなかった画家崩れの主人公・前田薫が、オリンピック開会式総合演出の女性に見初められたことで突然のスターダムに乗せられて一躍有名になってしまうものの、本人はその「嘘」をどうしたものかと悩んでいるという物語です。 そんな彼が出逢うのが、学食で蕎麦を茹でている津崎さん。栄養士である彼女との出逢いを通して、自分の原点に立ち返り再起していく薫の物語から目が離せなくなります。 1話で描かれる津崎さんのとある「拘り」、そしてそこから生じる「行動」がとても特徴的で、小学生のころから人一倍栄養学に興味のある私はとても深く共感してしまいました。 薫は祖父が昔住んでいた家をシェアハウスとして解放しており、そこの住人たちとの日々の生活やそれぞれのキャラクターも見どころとなっています。天才・泉真之介など魅力的な人物も後から増えてきます。 そして、最大の見どころはタイトルにもなっている「嘘」との向き合い方です。世の中には「嘘から出た真」という言葉もあり、また『エアマスター』の深道いわく「それしかないなら 人間は…最後は″ハッタリ″で動く」。何が嘘で何が真実かを決めるのも、最終的には自分。 梅サトさんの作品らしい、読みやすいネームやところどころでのユーモアもとても心地良く、安心して浸ることのできる物語です。 薫と津崎さんの関係性も含めて、今後どうなっていくのかとても楽しみです。