てがきのエデン

ただの三角関係じゃない。 #1巻応援

てがきのエデン 眞山継
兎来栄寿
兎来栄寿

美術系学校を舞台にした作品がここ最近非常に増えてきました。 絶対的な答が存在しない世界での葛藤、創作の困難さと喜び。 それらを共に乗り越えたり挫折したり高め合ったり傷つけ合ったりする仲間。 物語の題材としては、非常に美味しいものが詰まっていると言えます。 本作は、デザイン専門学校の代々木美術学園に入学した新入生・森谷みのり。 みのりは出来る姉と比べられては貶められてきて、かつてやっていたバレエも途中で止めてしまうなど、色々なことから逃げ出し続けてきたことから自信を持てないでいる女の子です。 彼女は代々木美術学校で、ふたりの男子に出会います。 一人は、名前からもそこはかとなくジャイアニズムが溢れる藤岡猛(ふじおかたける)。 もう一人は、「ストイック系王子」と称される、爽やかな優等生、鹿上透真(かがみとうま)。 しかし、これらはあくまで第一印象の話。読み進めていくにつれて、それぞれのキャラクターの深い部分が徐々に見えてきて、それが物語の妙味へと直結していきます。 ヒロインに対してイケメン二人ということで否が応でも三角関係を想像しますし、そういう面ももちろんあります。そういうタイプの恋愛マンガが好きな方にはお薦めできます。が、単純な三角関係に留まっていないところも本作の見どころとなっています。 悩みながらも自分の真っ直ぐな感情によって前へと進んで行くみのりを応援したくなる作品です。

THE ALPINE CLIMBER 単独登攀者・山野井泰史の軌跡

読むと指懸垂がしたくなる #1巻応援

THE ALPINE CLIMBER 単独登攀者・山野井泰史の軌跡 よこみぞ邦彦 山地たくろう
兎来栄寿
兎来栄寿

登山家のアカデミー賞と言われるピオレドール賞の、ピオレドール生涯功労賞をアジア人として初めて受賞した登山家・山野井泰史さんの登山人生を描いた作品です。 登山マンガにハズレ無し。 近く、劇場版が放映される『神々の山嶺』を始め、『岳』や『孤高の人』など圧倒的な名作も枚挙に暇がありません。 同じ人間でありながら、極限の環境である山に挑む者たちのドラマにはいつも心が奮え、血が滾ります。 この作品がすごいのは、上記の作品のようなドラマが描かれるのですが、それが山野井さんが実際に経験したものであること。 中学生にして34箇所の打撲と裂傷を負い、親に命の危険があるからと反対されても「自分から登山を取ったら心が死ぬ」として頑として譲らず、「大人の登山クラブで基礎から学ぶ」ということを条件に、日本登攀クラブに入会してそのキャリアを始めていくという出だしです。 登山に命を賭ける人を見て、「なぜそんな危険に進んで身を晒すのか?」と理解できない人も一定数いると思います。しかし、本当に命を賭けても良いほど好きなものがある人にとっては、この気持も理解しやすいのではないでしょうか。 特に、登頂を完了した時に見える至高の景色と共に訪れる達成感は、その気持ちへの共感を掻き立ててくれます。常人の身体能力では無理なことは解っていますが、読むと自分でも指懸垂などで体を鍛えて岩壁に挑んでみたい、こんな景色を見てみたいという気持ちにさせられるくらい、読んでいて熱く掻き立ててくれる作品です。

月曜日が待ち遠しくて

ピカピカの新星が送るピュアピュアな物語群 #1巻応援

月曜日が待ち遠しくて 旗谷澄生
兎来栄寿
兎来栄寿

好きな人がいて、月曜日に学校に行くのが待ち遠しい……早く月曜日担って欲しい…… そんな感情を抱いたことは皆さんありますか? それとも、月曜日なんて永遠に来ないでくれと願う大人になってますか? 世俗の汚泥に塗れ、穢れ切ってしまった大人にとっては、『天空の城ラピュタ』でポムじいさんが飛行石を見て「すまんが……その石をしまってくれんか。わしには強すぎる……」と言った時と同じような反応を取りたくなるくらい、瑞々しさ・若々しさ・ピュアさに満ち満ちた、旗谷澄生さんの初単行本となる短編集です。 「中庭には猫がいて」 「恋は四角く切り取って」 「永久不変のきらきら星」 「きみだけに春が来る」 の4編が収録されていますが、どれを取っても「そう、こういうの!」と膝を秒間16連打したくなるような学園恋愛物語です。 ヒロインと、その相手役の関係性はどれも異なりますが、それぞれの良さみが非常に深い。 短編集ではありますが、9月にはシリーズ連載として描かれた4編が収録予定の2巻も発売予定ということで①がついています。 旗谷澄生さん、短編も良いですがきっと長編でも悶えるような恋のお話を描いてくださると思うので、今後のご活躍も楽しみです。

READY BRAVO

下請けゲーム制作会社の逆襲 #1巻応援

READY BRAVO 古谷野孝雄
兎来栄寿
兎来栄寿

『ANGEL VOICE』や『GO ANd GO』など、30年以上ずっと少年マンガのフィールドで描いてきた古谷野孝雄さんが描く初の青年マンガの舞台はゲーム業界。 本作で描かれるゲーム開発会社ジオ・ギアは、かつてはオリジナルゲームも作ったことがあるものの惨敗し、今や下請けの作業がメインの零細企業(この辺りは『東京トイボックス』のG3スタジオと似ている状況ですね)。そんな社員数20名にも満たない小さな会社が、新たな人材獲得を切っ掛けに社運を賭けて再びオリジナルの大作に挑戦していく物語です。 本作の主人公はプロデューサーでもディレクターでもない、大学生4年生の新人アルバイトである青年・有馬祐介。 元々は別の業種を目指していたものの、留年を切っ掛けに子供の頃から好きだったゲーム業界に入ろうとしたという経緯ですが、根本的に真面目で熱い人間であり、その熱が周囲にも伝播していきます。 祐介と同じくバイトで入ったにも関わらず、初日から連日遅刻を繰り返す問題児の美女・折原彩都(あやと)のとある秘密も、物語を盛り上げていきます。 面白いなと思ったのが、祐介に最初に課せられたミッション。 「15世紀後半に使われていた西洋の壺はなぜか同じような所に剥がれ痕があるが、それは何故なのか」を調べろというものです。 その謎を追う実作業の様子自体も面白いですし、ゲーム中のリアリティを生み出すためにそんな所まで本気になるこの会社は本質的に面白いものを作れるポテンシャルを秘めていると感じるエピソードでした。 挑戦に賛同するもの、家庭を守るために安定の道を進みたい者など社内の思惑もそれぞれですが、このチームが今後どんな困難を乗り越えてどんな作品を生み出すのか、とても楽しみです。 余談ですが、PS1の『バイオハザード』を見て「ほぼ映画じゃん!」と思ったという幕間のお話にも親近感が湧きました。