失敗家族

共通の敵によって結束する人類の本質 #1巻応援

失敗家族 小宮みほ子
兎来栄寿
兎来栄寿

6年間引きこもっている上に月に20万以上の請求を負わせる息子。 高校を中退しそうになっているパパ活をしている娘。 そんな子供たちを放棄して不倫に専心する夫。 よそからは「子供が2人いて順風満帆の家庭を営んでいる主婦」と思われていながらも、内情は完全に破綻した「失敗家族」となっていて、半ば諦念しており限界に近づいていた妻が主人公の作品です。 ある日、夫が連れ帰ってきた上司の傍若無人な振る舞いに遂にブチ切れてしまい発作的に殴ったら死んでしまって、それまでバラバラだった家族が「殺人を隠蔽する」という目的で結束していくクライムサスペンスです。 普段、いがみ合っていたり無関心同士であったりしても、そこに共通の外敵となる存在が現れると結束して対処に向かうのは非常に人間的だなと思いました。 『マイホームヒーロー』はまだ明確に自分の家族が下手すると殺されるかもしれない危機が迫っていましたし相手はプロの手合いでしたが、本作は日常の延長線上にある言ってしまえば「嫌な言動をされただけ」で一般人を殺してしまっているところが差異化されているところです。 推理小説に造詣が深いでもなく、特殊な環境で鍛えられた経験もないごくありふれた家族が、自らが犯した犯罪をどう露見させずにやり過ごしていけるのか。 それまでバラバラだった家族が殺人を機に結束する部分もあれば、それを機に決定的に壊れてしまうものもあり、そこの収集もどうなっていくのか気になります。

ヘブンリーブルー

青く美しい島の青い子供たちの謎 #1巻応援

ヘブンリーブルー 脇田茜
兎来栄寿
兎来栄寿

『妖精のおきゃくさま』や『ライアーバード』の脇田茜さんの最新作1巻が発売となりました。 美しい青い海に浮かぶ青い屋根の建物が並ぶ島・アージュア。 その島には魔法の修練に取り組む青い髪の子供たちがいて、主人公のリンドウもそのひとり。けれど、リンドウは他の子たちのように上手く魔法を使うことができず、空気も読めないので孤立してしまっている存在です。いつも一緒の人並外れた魔法が使える赤い髪のキキョウを除いては。 アージュアには謎や秘密も多く、第一話から不穏な描写が複数現れます。 夜の外出禁止は何のためなのか。 空に現れる巨大な虫は何者なのか。 リンドウの周りで起こる不可解な現象はどんな因果で起こっているのか。 島の子供たちは何のために魔法の訓練をさせられているのか。 なぜキキョウだけ髪が赤いのか。 二話、三話と読み進めていくと、更にさまざまな設定が明かされていきます。そして、衝撃と共に謎が謎を呼ぶ展開が巻き起こります。 脇田茜さんの画風はやはりファンタジー描写との親和性が高く、世界観にとても合っていると感じます。サントリーニ島やミコノス島を思わせる冒頭や表紙絵でカラーで描かれるアージュアの景観が好きです。また、三話に登場する″空″と″星″を見分けられるおじさんのように、綺麗なキャラだけじゃないのも良いです。個人的には本だけ読んで暮らすヒキコモリになりたいジュークくんを応援しています。 また、巻末の等身低めおまけマンガもとてもかわいいです。 サスペンスフルなファンタジーを読みたい方にお薦めします。

WHITE BLUE PINK

女3人×シェアハウス×恋愛譚 #1巻応援

WHITE BLUE PINK 原川ユキ
兎来栄寿
兎来栄寿

「ミスキャン→キー局アナ→プロスポーツ選手と結婚→海外移住→お城のような豪邸でお姫様のように暮らす」という完璧な人生設計を、まずミスキャンになるところまでクリアしてIT企業の社長からアプローチを受けるも、気になる男性が現れる20歳の亜矢。 27歳で、結婚までいくと思っていた同じ会社の男性と別れて疲弊している中で、後輩に言い寄られる亜矢の従姉でグラフィックデザイナーのマコ。 入社時から片思いしていた上司が結婚式を挙げることになった、OLでマコの友達の吏佳。 そんな3人が、シェアハウスをして暮らしていく中で、互いの恋愛模様も含めた共同生活の様子が描かれていきます。 最初は亜矢の視点から物語が始まりますが、他のふたりの視点からの物語を読むと、亜矢のときの物語で抱いた印象とはまったく異なる内面が見えてくる多面的な構成が面白いです。たとえ、一緒に暮らすような仲であっても他人に見せない部分はある、むしろ取り繕うために他人と一緒に暮らすというのはリアルさを感じます。 恋愛模様も三者三様ですが、しかし共通しているのは3人とも元々抱いていた理想ではない方向へと転がっていくところです。ここも非常にわかりみが強く、恋愛に留まらず人生全体にも言えることですが、時として全然予想しなかった方に向かって行き、まさかそんなところに道があるなんて想像もしなかったようなところに道が拓けていくものなんですよね。若い時分に「自分は絶対に○○にはならない/やらない」などと考えていたことがいかに覆されていくか。それは本当に「あのネクタイの色好きだな」くらいの軽さから動かされ転げていくものです。 それでも、何かあったときに共有できる人間が身近にいるというのはやはり心が助かるものだなあと読んでいて端々で感じました。実際は苦労も多かろうと思いますが、それでも得難いものがきっとあることでしょう。 「クレマチスは冬にこそ水やりが大切なのだと思い出した  落葉している間にも根を枯らさないように」 など、ところどころのモノローグもじんわり響いてくるフレーズがあり好きです。 大人の恋愛物語を読みたい方に薦めたいです。