疲れた人に夜食を届ける出前店

他人が作ってくれるご飯は美味しい

疲れた人に夜食を届ける出前店 中山有香里
ゆゆゆ
ゆゆゆ

疲れたときは食べて一息つくのが一番ですね。 ひたすらさまざまなシチュエーションで、さまざまな料理が提供される。 ただそれだけなのに、ほのぼのします。 料理がつやつや美味しそうなのも良いです。 ウィンナー目玉焼き丼と私が呼ぶ、『よつばと!』のとーちゃんが作っていたご飯が出てきて、「このごはんは元気が出るよね〜」と思ってしまいました。 半熟目玉焼きに醤油をたらりして、黄身を崩して卵かけごはん風に食べても、ウィンナーにケチャップをつけて、ケチャップライスになったところを食べても、目玉焼きとウィンナーだけを食べる贅沢をしても美味しいので好きです。 この漫画が、「食えば元気出る。元気が出ればがんばれる。がんばれ!!」と押し付けがましく感じないのは、くまさんのおかげでしょう。 がんばれないときは立ち止まって休めばいいんです。 ちなみにこの本がレシピ系漫画本と気づかず、最初の「料理をする上での注意事項」がどんな意味を持つのかわからず、まじまじ読み込んでしまいました。 料理をする上での注意事項だけが書かれていました。 めんつゆの濃度は確かに重要です。我が家は4倍濃縮でした。

乱れ咲きNight

他人の隠された個性を発掘する義弟

乱れ咲きNight さかたのり子
ゆゆゆ
ゆゆゆ

近所でも評判の有能な主婦が主人公のホームドラマ&コメディです。 旦那さんが海外出張中に、突然やってきた美形の義弟を中心に、話は進みます。 主人公はハーレクインのようなロマンス系書籍が好きみたいですが、その秘事はソファ下の収納にビッシリ隠しています。 そして、平日の日中は庭の草むしり、教養番組、書道などして過ごすのだそうです。 人間味をすべて隠して、有能な主婦を演じているようです。 有能な主婦なので、義弟がきててんやわんやする中、当たり前のように家事をこなしつつ、ロマンス系小説に登場しそうな義弟にかき乱されるストーリーが展開します。 主婦と義弟、これからどうなるんだろうとドキドキします。 ちなみに、主人公の名前が出てくるのは、実は最後のほうだけ。 それまでは奥さんか義姉さんとしか呼ばれません。 主人公の名前を呼ぶのはもちろん、あの人です。 このさりげない設定は、きっと意図した伏線なのでしょう。 なにかのドラマで聴いたセリフ「バカボンのパパは、自分の名前でなく、バカボンのパパとしか呼ばれないことが嫌にならないんでしょうか」を思い出しました。 ちなみに、読切一話のみの作品です。 一話とはいえ、37ページあるのでボリュームはありますよ。

おいしい二拠点 単行本版

憧れの田舎暮らしと都会の利便性の両立 #1巻応援

おいしい二拠点 単行本版 イシデ電
兎来栄寿
兎来栄寿

都会に住む人が、田舎にしかない自然や忙しなくない時間の流れに憧れを抱くケースは多々あります。かくいう私もそのひとりでした。 本作の冒頭で、長野の名もなき林の中で裸足で川に入り青空の下で清冽な空気に全身を浸した瞬間に主人公の麻胡(まこ)が ″困ったな まだ帰ってもないのに  またすぐここに来たい″ という想いが浮かび上がり、そしてその直後に ″そっか  「また来たい」んじゃないや″ と気付いて、夫に「東京で働いて長野に住む」と宣言し二拠点での生活を始めていくシーンが描かれます。ここにまず大きな共感を覚えました。 私も吉野山の世界遺産になる程の絶景と空気の美しさにほぼ同様の想いを抱いて、移住しつつ何かの際には東京へ出向いていた経験があるので正に「まだ帰ってもいないのにまたすぐここに帰りたい」「何なら永住したい」という感覚になりました。コンクリートの山によって空も狭まった場所で疲弊していると、緑の中で呼吸することで人間に還れる感覚があるんですよね。 ただ都会には都会にしかない便利さや人が集まっているが故に催される営みもあり、それはそれで大きな価値です。仕事を含めた多くのことがインターネットを介しリモートで行えるようになってきてはいても、どうしても大きなイベントは都会中心で(最近はそういったものもオンラインで行われるようになってきましたが)、リアルの場に行かないと人との生の交流という真価は味わえません。田舎に憧れ田舎で暮らしてみてから初めて解る都会の良さや田舎の大変さもあります。 ″梅ささみ一本だけ焼いてもてなしていただくのって  都会のうれしさだったのね″ の部分も高解像度です。 そしてこの作品でも描かれている部分ですが、人付き合いは田舎で暮らす上での大事な課題です。最近でも話題になっている事件がありますが、その土地の権力者が大変な人物だと大きな苦労を強いられることになります。上手く行けば良いのですが、ずっと住む上では死活問題です。 しかしながら、そういった部分はあったとしても、夜に見える美しい星空ひとつでお釣りがくるものでもあるんですよね。人の世の事柄など、全て些末になり吹き飛んでしまうような。私も引退したら田舎に居を構え直したいです。 この物語の中ではコロナ禍という状況というのがひとつのキーポイントとなっており、その中での夫婦間の関係の亀裂の入り方、そこから取り直して共に進んで行こうとする瞬間の細やかな機微などにイシデさんらしい良さがよく出ています。夫婦に留まらず、人と人とが上手くやって行くために大切なことがいつも描かれているところが好きです。 また、木曽の名産「酸茎(すんき)」を使った新たな名物を作ろうとするところの楽しさなども。麻胡のフードライターという職業はイシデさん自身食べるのが大好きであることから設定されたそうですが、同じく食べることが大好きな私は豊かに描かれた食べ物のシーン全般興味深く読めました。 舞台となる長野も個人的に思い入れのある地なので、非常にfor meな作品でした。麻胡と扇の夫婦が、どのような壁にぶつかってどのように乗り越え、どのように人生を満喫していくのか。続きもとても楽しみです。

タワマンに住んで後悔してる

魑魅魍魎跋扈する魔塔 #1巻応援

タワマンに住んで後悔してる グラハム子 窓際三等兵
兎来栄寿
兎来栄寿

「お前なんて安い低層階に住んでるくせにっ!」 子供同士の喧嘩ですら、こんなセリフの出てくる世界の何と歪なことか。 Twitterで大人気の窓際三等兵さんが原作の、タワマンを舞台にした群像劇です。 野球少年の息子を持つ九州から引っ越してきた淵上家の舞の視点から始まり、瀧本家、堀家の3つの家庭の様子を中心に描いていく構成となっています。 田舎では誰もそんな話はしていなかったのに、東京に来たら皆が子供の受験の話で持ちきりというのは大いにあるあるでしょう。私も、都心で育ち小学校6年生のころには半分くらいの生徒が登校しなくなりそれぞれ家庭教師や塾で毎日12時間以上勉強しているような環境にいたので、理解できる部分は非常に多いです。 夫の勤め先・年収・学歴や、子供の成績・特技、住んでいる階層など、すべてにヒエラルキーを作り終わりなき不毛なマウント合戦が繰り広げられる世界はそこらのホラーよりよほど恐怖に思えます。これが現実にも存在するので恐ろしいです。読んで、恐らく死ぬほどマウントを取られ続けて心を擦り減らしてきたであろう母に思わず改めて感謝してしまいました。 ただ、この作品の面白いところはステレオタイプなマダムとマウントバトルするだけではなく、それぞれの家庭の外から見た部分とは違う内情が描かれていくところです。どんなに華やかに思えたり羨ましいと思えるところでも、その裏には何があるか解らないというのもまたリアルです。そして、逆に元々は普通の田舎の家庭であった淵上家が都会の文化に染まり狂っていくところも見ていて苦しいですが見ものです。グラハム子さんのかわいい絵柄がクッションになっていますが、総じて現代の「人間」が色濃く描かれています。 ある種、今のタワマン最高層並に豪奢な生活をしていた友人の家庭の闇を直視した経験もあるので「幸せとは何だろう」「それは相対比較し続けた先に見つかるものなのだろうか」と考えずにはいられません。タワマンに限らず、SNS全盛で人間は羨望や嫉妬という感情を抱きやすい時代です。皆『ブッダ』や『咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A』を読んで、他人と比べて苦しむことから解き放たれて生きれば良いのにと思わざるを得ません。それができないから苦労するのもまた真理なんですけれども。 余談ですが、「第4章 嫌よ、埼玉なんて住みたくない」というサブタイトル、そして「埼玉はね みんな色々抱えてるのよ」というセリフが愛しくて堪りません。

気になってる人が男じゃなかった

二人の関係性が最高に心地よい

気になってる人が男じゃなかった 新井すみこ
六文銭
六文銭

いわゆる陽キャのグループに属するあやが気になっているのは、自分の好みの音楽がかるCDショップのクールな店員さん。 しかもその店員は男だと思ったら実は女性で、クラスでは目立たない、どちらかという陰キャな同級生みつきだったという話。 対照的な2人だが、ニルヴァーナやレディオヘッドなどの洋楽ロックが好きという共通点で少しずつ心を通わせていく流れ。 この関係性、もう最高でした。 百合的な作品で紹介されてて、自分はあまり百合系の作品は好んで読むタイプではなかったのですが、本作は刺さりました。 個人的に百合というか、友情として捉えるほうが正しい気がしますし(最初は男だと思っていたし)、それぞれが大事にしているものがあって、どんなものであっても尊重し合う姿は友情そのものだなと思います。 同じ価値観を強制される同調圧力の激しい学校という場所では、自分の好きを貫くのが難しい。 自分もマイナージャンルが好きだっただけによくわかります。 自分の価値観に従うのって勇気がいりますよね。 批判されると人格否定された気分になるし。 だからこそ、それが少しでもわかってくれる人がいる喜びは何事にも代えがたいですよね。 2人の関係がまさに、この価値観の共有にあって、少しでもこの経験があった人には共感できると思います。 まだ、物語は動きだしたばかりですがハイセンスな絵柄で、テンポよく進む展開はやみつきになりそうな予感です。