正常生活 ノーマルライフ

ネコに嘔吐されながら人生を想う #1巻応援 #完結応援

正常生活 ノーマルライフ 川口まどか
兎来栄寿
兎来栄寿

『死と彼女とぼく』シリーズでお馴染みの川口まどかさんの最新作で、1巻完結です。 代表作がホラーなので、完全な日常生活のお話に新鮮さを感じながらも、従来の心に響く作風は健在です。 本作は、新卒から2年で鬱になり引きこもりとなった息子と、2匹のネコと暮らす半世紀を生きた女性の物語。若干シリアスな設定ですがコメディ基調でお話は進行しつつ、しかし時折しんみりと感じ入らせてくれます。 川口まどかさんももう還暦を過ぎてらっしゃいますが、それにも関わらずVRでドローンを操作して遠隔でネコに薬を飲ませたり、お絵描き教室の子どもたちにリモート授業やVRお楽しみ会をやったりする話を描く感性は流石だなと感服しました。 50年も生きると、嬉しいことも楽しいことも辛いことも哀しいこともたくさん経験して達観してしまうでしょうが、それでもその先にあるものを(特に最終話で)見せてもらった想いです。 「このあいまいな世界でつくづく思う  よくぞ みんな生き残ってるよね  偉いよね」 という6話のモノローグも、とても優しく心に響きます。 50,60,70……といくら年を重ねても人間は不惑とは程遠い存在でしょう。それでも、たとえ正常であろうとなかろうと笑顔が1つでも増やせる人生を過ごせたら良いですね。 なお、ネコを飼っている方であれば共感必至であろう、顔面への唾液スプラッシュや絶妙な場所への嘔吐、病院へ連れて行ったり薬を飲ませたりするときの苦労などが解像度高くコミカルに描かれます。犬しか飼っていない私でも、仕える従者口調で語り掛けるところなどうんうんと頷いてしまう描写が多々ありました。強いネコ愛を感じます。 「人は世界を広げた方がいいけれど  ペットは世界の広さより  ご主人の愛の深さだよ」 は蓋し名言です。

誰も懲りない

「世代を越えて引き継がれてしまう負の連鎖」を描いた機能不全家族漫画

誰も懲りない 中村珍
名無し

「家族」によって押し込まれ、ねじ込まれ、見放され、将来の蓋を閉められたある女の物語。 「ギリギリの正気と生命を保っているだけでも心の底から凄い」と思ってしまう程の極限とも言える理不尽な精神・身体への暴言・暴力(精神的虐待・身体的虐待・性的虐待)を「家族(および近親者だった人)」から受けている女性の主人公が、親族同様に自分勝手に生きようとせず、理性・常識性をギリギリに保ちつつも狂いきってしまわないどころか、そこかしこに自分を責めてしまうほど脆い心を持つ上、家族がクズになり下がるほど歪んでいようとも、家族との縁を切りきっていないところは読んでいて苦しかったです。 主人公が抱える怒りは、途中までは各々が努力して上手く機能していた家族が有る出来事を発端に崩壊した事に依るものです。 主人公が抱える「家庭崩壊のトラウマ」や「信じて居た者からの裏切りと置き去り」によって湧いた怒りは、幼少時~少女時代に家族から与えられていた「一家の誇り」と「幸福」の記憶が残っているだけに性質が悪く、その感情がコントロール出来なくなった時に、主人公自身もまた暴言・暴力を弱き立場になった者へと振るう…あれほど忌み嫌っていたにも関わらず。 モノクロ(ほとんど白い背景)で構成されたシンプルな作画である一方、チクチクする感覚と、ガンガンと殴られる感覚が半端ないです。 かきおろしパートでの主人公の言葉は何度読み返しても「経験した人にしか口に出来ない言葉なのだろう」「現代の悲惨な精神構造がここにある」と感じてしまいます。 ニーチェが指摘した「奇妙な自己虐待の本能」、あるいはフーコーが言った「生-権力による自己監視システム」の苦しみが、本作ではこれでもかとばかりに描かれている…そんな漫画作品です。 重すぎる上に辛すぎる機能不全家族漫画ですが、私は思うところがあってたまに読み返しています。

ハコニワノイエ

難易度の高い疑似家族 #1巻応援

ハコニワノイエ 小森江莉
兎来栄寿
兎来栄寿

『いつも月夜に米の飯』の小森江莉さんによる新作は、かなり重いテーマに取り組んでいます。 主人公の天根清子(あまねきよこ)は、他人の考えていることや空気を読むことが極端にできない、神経質で短気で正義感は人一倍強い心理学者。対人スキルが絶望的であるが故に孤独を愛し、 「私だけの小さな世界を守れればそれでいいと思っていた」 というモノローグから物語は始まります。 しかし、そんな他人との関わり方が極端に下手な彼女が、ある日突然自殺した友人の遺志により遺児である14歳の息子・悠斗(はると)と4歳の娘・凛音(りおん)を引き取り共同生活を営んでいくことになります。 本来は独りで生きていくべき人間であり、今後もそうしようと思っていた 彼女の小さなハコニワ。そこにやってきた少年少女。近年多い疑似家族ものの中でも、最初から用意されているハードルが多く高い作品だな、というのが第一印象でした。 まず、母親を喪ってしまった少年少女の哀しみが丁寧に描かれます。 「僕は何で母さんの生きる理由になれなかったんですか」 という問は14歳が背負うには重すぎますが、ましてや4歳の妹の方はまだ永遠の死という概念すら理解が覚束ない状況。亡くなった直後だけではなく、その後に尾を引くように波打つ感情が連綿と描かれます。悠斗はかなり上手にそれをコントロールしようと取り繕おうと努力しますが、その営為がまた哀しさを呼び起こします。周囲との差異などから不意に呼び起こされてしまう理不尽さを抱えて生きていく困難は終わることがないものでしょう。天根は、心理学者としての知見はありながら親を亡くした子供相手にはそれが通じないことを痛感する場面もあり、そこにどうやって向き合っていくのか。 そして、肝心の新たな共同生活については、案の定天根の性格に起因する問題が多発していきます。最初に問答無用で引き取る決意をした天根はシンプルに格好良かったのですが、その後は人としてどうかという言動もその性格から取って行ってしまいます。感情移入しきることはできない、しかしだからこそ目が離せない部分も大きいです。子供たちとの生活という天根の人生にこれまで全く存在しなかった体験を通して彼女自身どのように変わっていくのか。 本作は表紙が美しく店頭で目を引きますが、小森江莉さんの絵が前作からますます綺麗でスタイリッシュになっており、天根さんの凛とした表情などとても魅力的です。 14歳と4歳、今後さまざまなライフイベントもある中でこの家族がどのように立ち行くのか。どうか、ハコニワのような作り物の家族であったとしても、彼らに幸せな時間が訪れますようにと祈るような気持ちで見守っていきます。

はらへりエイリアンとひよっこごはん

料理が苦手な人にこそピッタリ #1巻応援

はらへりエイリアンとひよっこごはん ぼく 子新唯一
兎来栄寿
兎来栄寿

ハンバーグを作ったら「ダークマターバーグ」と呼ばれてしまうほど料理オンチな少女・摩訶子の家が宇宙人に侵略されてしまい、美味しい料理を提供しないと愛犬もろとも殺されてしまうという状況で、料理オンチでも作れる美味しいメニューを必死に作り続けるSF要素を交えたグルメマンガです。 1巻の目次は 第1話 UFOとスパニッシュオムレツ 第2話 大葉香るガパオライス 第3話 ピリ辛! 鶏チリかた焼きそば 第4話 ◯◯◯でルーローハン!? 第5話 リベンジ! 煮込みハンバーグ おまけ漫画① ふかふか野郎 おまけ漫画② プチバナナパンケーキ となっており、全部で7品のお手軽レシピを知ることができます。 友達の料理上手な栞奈ちゃんのヘルプを受けて料理がまったくできず苦手意識のある主人公でも作れる簡単なレシピとなっており、第1話のスパニッシュオムレツなどはフライパンも使わずに作れるので、料理初心者や苦手意識のある方こそ読んで作ってみて欲しい内容です。メニュー自体も小洒落ていて、味はもちろん見目も良さそうなので、家族や友人に作っても喜ばれるのではないでしょうか。 私も◯◯◯を使ったルーローハンは作ってみたいなと思いました。日本ではなかなかルーローハンを出してくれるお店も少ないですからね。なお玉子は半熟派です。 長ねぎや玉ねぎの簡単なみじん切りの仕方、チューブでないしょうがやにんにくの扱い方、料理酒と清酒の違いなどなど、幅広いメニューに使える知識や技術も少しずつ学んでいくことができます。一人暮らしを期に自炊を始めてみようか、という方にもお薦めです。 子新唯一さんの絵が、女の子も犬のバルバルもかわいくて良いです。帰ったときにすぐ駆け寄ってこず「あ、寝てたな」となるのはあるある。