あらすじ

ヨーロッパを代表する漫画家マヌエレ・フィオールの恋愛漫画ついに初邦訳イタリアの肌を刺すような日差しの中二人の少年と一人の少女が恋に落ちるイタリア、ノルウェー、エジプトと場所を変えながら三者三様の人生が淡く交わる20年を描く恋愛漫画この傑作グラフィック・ノヴェルを美麗なフルカラー印刷でお楽しみください巻末には訳者である栗原俊秀の詳細な解説付き栗原俊秀「フィオールに魅せられて―文学、美術、建築が綾なす漫画の世界―」<推薦のことば>フィオールさんの作品が翻訳されて、日本で読めるようになったのは本当に嬉しい!作品の中にゆったりと流れる時間と、美しい色彩には映画とも小説とも漫画ともつかない、独特の気持ち良さがあって眺めているだけで幸福感を覚えます。―――伊坂幸太郎(小説家『重力ピエロ』『クリスマスを探偵と』)<担当編集者より>『秒速5000km』にはナレーションがありません。登場人物のセリフだけで構成されています。フィオールは「あれから10年…」といった野暮な文章は入れずに、ルチアとピエロの人生の6つの場面を断片的に見せることで、わずか140ページで20年の月日を描き切ります。その6つの場面は、イタリア、ノルウェー、エジプトと地理的なヴァラエティに富んでおり、1つの章に1つの舞台だけが描かれるという制約が課せられています。そのため離れ離れの2人をつなぐ、電話や手紙といったコミュニケーション手段が印象的なガジェットとして描かれます。書名の『秒速5000km』は、オスロ(ノルウェーの首都)とエジプトの発掘現場の物理的な距離=5000kmと、国際電話のタイムラグ=1秒に由来しています。またこの地理的な国際性から、イタリア語、ノルウェー語、フランス語、英語、エジプト語の5つの言語の使用する規格外の試みが導かれます。ヨーロッパでは、EUによる「移動の自由化」(ノルウェーはEU非加盟国)や移民の増加などで他国籍、他言語の人と共生するのが日常になり、自らが他国で労働/生活することもありふれた人生の選択になっています。このような現実の反映が『秒速5000km』の国際性につながっているのでしょう。日本でも外国人労働者の数は、本書が出版された2010年から増え続けており、今後、国力の低下により国外で働く日本人の数も増え続けるでしょう。
秒速5000km
ヨーロッパを代表する漫画家マヌエレ・フィオールの恋愛漫画ついに初邦訳イタリアの肌を刺すような日差しの中二人の少年と一人の少女が恋に落ちるイタリア、ノルウェー、エジプトと場所を変えながら三者三様の人生が淡く交わる20年を描く恋愛漫画この傑作グラフィック・ノヴェルを美麗なフルカラー印刷でお楽しみください巻末には訳者である栗原俊秀の詳細な解説付き栗原俊秀「フィオールに魅せられて―文学、美術、建築が綾なす漫画の世界―」<推薦のことば>フィオールさんの作品が翻訳されて、日本で読めるようになったのは本当に嬉しい!作品の中にゆったりと流れる時間と、美しい色彩には映画とも小説とも漫画ともつかない、独特の気持ち良さがあって眺めているだけで幸福感を覚えます。―――伊坂幸太郎(小説家『重力ピエロ』『クリスマスを探偵と』)<担当編集者より>『秒速5000km』にはナレーションがありません。登場人物のセリフだけで構成されています。フィオールは「あれから10年…」といった野暮な文章は入れずに、ルチアとピエロの人生の6つの場面を断片的に見せることで、わずか140ページで20年の月日を描き切ります。その6つの場面は、イタリア、ノルウェー、エジプトと地理的なヴァラエティに富んでおり、1つの章に1つの舞台だけが描かれるという制約が課せられています。そのため離れ離れの2人をつなぐ、電話や手紙といったコミュニケーション手段が印象的なガジェットとして描かれます。書名の『秒速5000km』は、オスロ(ノルウェーの首都)とエジプトの発掘現場の物理的な距離=5000kmと、国際電話のタイムラグ=1秒に由来しています。またこの地理的な国際性から、イタリア語、ノルウェー語、フランス語、英語、エジプト語の5つの言語の使用する規格外の試みが導かれます。ヨーロッパでは、EUによる「移動の自由化」(ノルウェーはEU非加盟国)や移民の増加などで他国籍、他言語の人と共生するのが日常になり、自らが他国で労働/生活することもありふれた人生の選択になっています。このような現実の反映が『秒速5000km』の国際性につながっているのでしょう。日本でも外国人労働者の数は、本書が出版された2010年から増え続けており、今後、国力の低下により国外で働く日本人の数も増え続けるでしょう。
試し読み
秒速5000km
恋愛における速度差が浮かび上がらせる本質
秒速5000km マヌエレ・フィオール ディエゴ・マルティーナ 栗原俊秀
兎来栄寿
兎来栄寿
新海誠さんの『秒速5センチメートル』は2007年公開。 この『秒速5000km』は2010年に出版。 タイトルをどれだけ意識して付けたのかは不明ですが、少なくともこの両作品の間には『君に届け』と『島耕作』くらいのスピード差があります。それは、実際の日本と海外における恋愛の速度差がかなり如実に表れている部分で興味深いです。 ただ、どちらも作品を彩る独特の色合いのセンスが抜群で、かつ存在する男女感の甘苦さという点で共通しているのは面白いです。この重なりから、場所を隔てても変わらない人間の本質が浮き彫りになってきます。 本作は2011年のアングレーム国際漫画祭最優秀賞を受賞した作品で、ここマンバでも原正人さんがかねてより注目しており邦訳化したいと仰っていた作品でもあります。今回、この日本語訳版が出たのは海外マンガファンからすれば念願が叶ったというところでしょう。 透明水彩で描かれるオスロのフィヨルドや、エジプトの黄砂に咽せるような熱気と夜の寒さは非常に鮮やかです。筆者のマヌエルさん自身が「知らないことについて語ることはできない」という教えからオスロやヴェネツィア、また建築家としてアスワンに住んでいた経験を元に描いており「たぶん、漫画を描くことを通じて、これらの土地をより深く、それまでとは違った仕方で理解するようになるのだと思います」と語っているのは興味深いです。 求めていたはずの幸せをどこかで見失いながら生きる人間たちの姿は、国境を越えて読む者の胸に響きます。 「私はまた息ができるようになった」 のような印象的な言葉のセレクトが、そうした感情を増幅させています。 普段、海外作品にはあまり触れないという方もこの機会にいかがでしょうか。