実際に花屋さんで働いていて『ハナハダハナヤ』という花屋マンガも描かれていた若菜さんが、その草花の知識を生かして今度はファンタジー世界の花屋を描く新作です。 昨今のファンタジーといえば転生して人生をやり直したりループしたりという作品が多いですが、そんな中で本作はファンタジー世界でありながら上手くいかない、けどリセットできないシビアな人生を送る青年の物語です。 モンスターを狩って得た素材で人々の生活に貢献する「コレクター」という職業がヒーロー的扱いを受ける世界で、コレクターになるため生まれた街を飛び出したウーノ・フォスフォラス。しかし、11年目になっても下級クエストしかこなせない低級コレクターだった彼は、母親からもう潮時であろうと実家の花屋を継ぐように言われ、帰省してきます。 誰しも人生で夢を抱くことと思いますが、必ずしもその夢が叶う訳ではなく努力が実らないこともあります。その後は、望まなかった道を第二の人生として歩まねばなりません。諦めようと思っても、本心では諦めきれない。そんな姿に胸を掴まれる、多くの人が共感しそうなエピソードからお話が始まります。 しかしながら、人生とは自分が考えてもみなかった方へと転がっていくもの。ウーノの運命もこの先どうなっていくかはまだ神のみぞ知るところですが、花屋として最初は不慣れながらも少しずつ成長して色々な人の役に立っていきます。元々、ウーノがコレクターになりたかった理由は「人を笑顔にしたい」という想いから。それをコレクターでなくとも叶えられるなら、花屋としてでも人を笑顔にできるなら、夢の一端は実現できているということになるでしょう。現実の人生においても、彼のように違う道で咲かせた花で人を幸せにして生きて行ける人は多いはずです。そういう意味で、多くの人の人生にエールを送る物語になっています。 また、後輩でありながら既に上級コレクターとなっていたベルジュロネットは、密かにウーノに行為を寄せるかわいくて強いヒロイン枠で魅力的です。少し抜けていますが、そこもまた良し。ラブをコメらせながら、いずれ幸せになって欲しいです。名門ハーヴィ家の秀才である同期のファルコなど、周囲の脇役も良い味が出ています。 そして、やはりそれぞれのお話に登場する各種の花の設定は流石です。現実に存在する習性を元にしながらファンタジー色と面白みのあるものにしており、今後どのような花が登場するのかも見どころとなっています。 余談ですが、マンドレイクの走りのフォームが良いなと思ったら「ウサイン・ボルトを参考にしました」とあって笑ってしまいました。
兎来栄寿
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