あらすじ

人が変わったように理性的で優しくなった龍一に不安を覚える母と妹のマリエ。水野も龍一の態度に不信感を感じていた。マリエ達の泊まるホテルで須貝と会う約束をした龍一のもとに、元刑事の男が現れる。強盗殺人の真犯人が龍一なのではないかと疑っている男に龍一は…。
新訳罪と罰 1
ロシアの文豪、フョードル・ドストエフスキーの名作小説「罪と罰」を、柳沢きみおが現代日本に置き換えコミック化。 数多の風俗店がひしめく町・日暮里。T大法学部を休学中の大学生・瀬島龍一は、日々の食事も事欠くような赤貧生活を送っていた。その彼が意を決し、ある計画を実行する。その計画とは…
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新訳罪と罰 2
T大を休学し、貧しい生活を送る瀬島龍一。彼のもとに届いた母からの手紙には、田舎に暮らす母と妹マリエの近況が書かれていた。「ようやく運が上向いてきた」―そう語る母だが、手紙を読み進めていくと、到底許しがたい事実が判明し、憤る龍一。「自分ができることは、やはりアレしかないのか――?」自問自答を繰り返し、苦悩する彼はとうとう…
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新訳罪と罰 3
ついに恐ろしい強盗計画を実行に移した龍一は、様々な複雑な感情に駆られながらも震える手で金庫を開ける。しかし、そこに店主の妹が帰ってきてしまう。涙を流し訴える妹に対し、龍一は…!? 全く予期せぬ事態に茫然自失となった龍一は急いでその場から去ろうとするが、玄関にはまたしても人の姿が――。
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新訳罪と罰 4
質屋の店主を殺害し、2日間眠り続けていた龍一のもとに妹の婚約者・須貝が訪ねてくる。須貝に母の悪口を言われ激昂した龍一は須貝を追い返し、心配して見舞いに来た唯一の友人である水野も突き放す。殺人の証拠品を片づけるため外出するが、その足は鶯谷の居酒屋へ向かっていた。
新訳罪と罰 5
変わらず優しく接してくる水野に強盗殺人の真犯人は自分であると告白した龍一。冗談を言っているのだと話を信じない水野とともに自宅へむかうと、消したはずの部屋の明かりが付いていた。警察ではないかと身構える龍一は、ドア向こうにいた人物を見て気を失い、倒れるのだった…。
新訳罪と罰 6
人が変わったように理性的で優しくなった龍一に不安を覚える母と妹のマリエ。水野も龍一の態度に不信感を感じていた。マリエ達の泊まるホテルで須貝と会う約束をした龍一のもとに、元刑事の男が現れる。強盗殺人の真犯人が龍一なのではないかと疑っている男に龍一は…。
新訳罪と罰 7
いつの間にか夜の町中に立っていた龍一に謎の人物が手招きをしている。そのまま付いて行くと、そこには殺したはずの老女の店主が座っていてた。 錯乱した龍一は店主の頭に斧を振りかざすが、店主は不気味な笑みを向けるのだった――。
新訳罪と罰 8
水野と共に、妹・マリエの婚約者・須貝との話し合いに赴く龍一。マリエは龍一と須貝に和解を求めるが、貧しい母娘が自分から離れらないと確信している須貝は逆上し二人を脅して、支配下に置こうとする。紳士的だった須貝の素顔を見たマリエは…。
新訳罪と罰 9
龍一を強盗殺人の犯人だと確信した水野。婚約者と兄に捨てられたマリエとその母を見た水野は、龍一の代わりに息子と兄になることを決意する。一方、家族の前から姿を消した龍一は自首を思い悩むが、自宅の前に若い刑事が待っていて…!?
新訳罪と罰 10
幼い妹達や病弱な母の為に風俗で働く千加は聖書が心と支えとなっていた。その聖書を千加に与え、話し相手になっていた人物が自身が殺害した質屋の店主の妹だと知った龍一。店主の妹が優しく良い人だったと話す千佳に龍一は…。
新訳罪と罰 11
貧しくなる一方の母と妹、その貧しさから助けるという名目で妹に近づく須貝、そして核心に迫りくる警察――。追いつめられた龍一は部屋を飛び出し、千加の元へ向かうが…。
新訳罪と罰 12
千加に自らの罪を告白した龍一。抱えきれない苦しみから「見捨てないでほしい…」と呟く龍一に、千加はある提案をするが…。
新訳罪と罰 13
龍一から質屋の強盗殺人事件を告白された千加は、悔い改めるよう強く迫る。しかし龍一の心は頑なで…。
新訳罪と罰 14
須貝との婚約破棄を知ったヒロシは、またしてもマリエに近づき始める。龍一の起こした事件についても真相を知っているようで、その手は思わぬところにも伸びようとしていた…。
新訳罪と罰 15
「キミと私はよく似ている」――ヒロシにそう言われた龍一は強く反発するもののはねのけられずにいた。事件の真相を知ったヒロシは更に龍一に近づき…。
新訳罪と罰

弱者の魂なんぞ救ってやらんとでも言わんばかりの

新訳罪と罰 柳沢きみお ドストエフスキー
野愛
野愛
柳沢きみお先生にとっては格差社会も資本主義も大した問題じゃないのだろう、強者の理論で生きてる人だ、と思わせる作品。 原作を読んだのは数十年前なのではっきりとは覚えていないが、ドストエフスキーは強者の理論の人だと思った記憶はない。つまりこれは柳沢きみおオリジナルだ。 舞台は現代の東京に置き換えられているけれど、ストーリーはほぼ原作通りである。でもオリジナルだと言いたい。 苦悩の果てに殺人を犯す主人公・龍一がひたすら醜悪で傲慢で、とても有能な人物には見えない。やれ貧困だ不幸だと言うが、同情する気にはとてもなれない。 ラスコーリニコフが強迫観念に囚われ、狂気に取り憑かれていく様とはまた違った印象を抱いた。 雑な言い方をすると、龍一はただのちょっとヤバいやつ程度の描かれ方だと感じた。 それでこそ柳沢きみお先生だよなあ、と思った。 弱者に寄り添うような視点なんて、格差社会や資本主義に対する疑問なんて、描かれなくていい。いつまでもマッチョで家父長制の権化みたいな作品を作り続けてほしい。 そんな人じゃないのかもしれないけど、そんな人で居続けてほしい。 価値観や常識は時代に合わせてアップデートしていくべきものだと思っているけど、表現活動についてはその限りではないとも思っている。 良くも悪くも人の心に棘を刺せる作品は、凄いものだ。 このまま魂の救済されないまま終わらないかな。それぐらいのことをしても柳沢きみお先生なら許されるのでは。