しおやてるこさんの百合からしか得られない栄養素、あると思います。 昨年、発表された読切「ホントのキモチ」をベースにした連載作品で、全1巻で完結しています。 田舎から上京してルームシェアしている大学生で"親友"同士の杏子と律を中心に描かれる物語。友人同士ではありますが律は大きな感情を中学時代からずっと秘めている、というところからスタート。 律の姉を好きで、それが高じて律にも手を出してくる第三のキャラ真琴も現れ、混沌の様相を呈していきます。 個人的にとてもツボなのは、律と杏子の馴れ初めが「14歳の時に丸尾末広先生の本をチェックしていた」という所から始まっていることです。その年頃だと、その趣味を理解してくれるのってクラスにひとりいるかどうかではないかと思います。マンガ以外でも小説・ゲーム・芸人などあらゆる趣味が合致するふたりの関係、推せますよそれは。 そして、本作の最大の魅力は主人公たちがとても個性豊かで生き生きと生きていること。特に、 「単位とオトコは落としてナンボじゃい」 と普段の性格も性に関しても自由奔放で、そのくせ嫉妬深い律。彼女の豊かな表情や、現代的な気取らない女子像は紋切り型のキャラクターとは一線を画した存在感を放っています。私のタイプとは全然かけ離れている人物像なのですが、それを超えて魅力的だと感じます。律の友人たちもまた類友的な感じで、良いキャラをしています。 人間の綺麗な部分だけでなく、猥雑な部分も含めて清濁併せ呑んだ上で、しっかりと人を愛して、たまに上手く行かなくて、それでも愛し抜いてという部分を描いているのがとても、とても良いです。 七夕に読むのも乙な、上質の百合です。
主人公は自分で言う程、悪くない、と思いたい。 高三の冬、彼女は酷く身勝手な「親友」を切り捨てる。その復讐自体は余りにも真っ当に思え、主人公と一緒にこちらも嬉しくなる程だ。しかしそこに、親友の幼馴染が絡まる事で、事態はおかしな方向にエスカレートしていく。 幼馴染の好意じみた感情の闇と、親友の闇。そして二人の根底にいる、今は亡き親友の弟。 闇が暴かれる程に、苦しくなる。主人公の「この二人に、関わるべきじゃなかった」という巻き戻せない絶望を思うと、背筋が凍る。 圧倒的な闇の前に、主人公と共にこちらの冷静さを試されている様な感覚があった。手に負えない闇に飲まれた時、私ならこれ以上何が出来ただろうか? こんな怖い物は、創作物だけで充分だ。
高校に入学したばかりの塚本は、三年の岡崎先輩が吉田先輩に裸にされ、弄ばれているのを目撃する。何とかしなきゃ……と思う以上に、塚本は同じ女子である岡崎先輩に、初めての欲情を覚える。 状況に介入を始める塚本。しかし次第に明らかになる、危ない執着と救いようの無い変態性。思いもよらない事実にゾッとさせられる。 しかしこの状況に塚本は、最初の衝動のまま、純粋な初恋で立ち向かう。歪んだ危険な思考に対して、あくまでも「私を見て!」と言う塚本。そこにあるのは、美しい恋ではない。人と向き合う事の困難さと、それを強い想いで突破しようとする、苦しく見苦しく息苦しく、そして切実な恋だ。
マンガベスト100を選べと言われても、これだけはどうしても選べない、という作品がある。それはあまりに辛くて、大切だけれども「好き」と軽々しく言えない作品。(例えば武富智先生の『EVIL HEART』等)『アオとハル』も、その様な作品の一つだ。 ▲▲▲▲▲ 高三男子のハルは、図書館で美少女のアオと出会う。実は二人は過去に会っていて、それを思い出してからハルは、アオの面倒な内情に巻き込まれる。あまりに酷い境遇のアオを助けたいハルだが、彼は子供で無力。その絶望感と、絶望を乗り越える為に心を寄せ続ける二人の切なさ……。 せいぜい少し逃げて、恋心を確かめる様に抱き合う位しか出来ない彼ら。胃が痛い。私は共に、絶望的な涙を流す事しか出来ない。 何も解決しない中、二人の心に灯る決意の火。そこへの希望だけで、私はこの物語を離れなくてはならない。とんでもなく苦しい。でも、忘れられない物語だ。
舞台は東京と神奈川の県境を跨ぐ丸子橋。広大な多摩川は気持ち良さそうで、橋の下の空気感はユルく、子供と遊ぶチャランポランな大人がいても、何となくおかしくない雰囲気がある。 そんな所で小学生と遊ぶ三十路男は、小学生の姉の女子高生と出会う。女子高生はひたすら男に恋するが、三十路男ははぐらかすばかり。 この作品、男性陣にかなりモヤっとする。大切な物に向き合わない三十路男、女子高生に迫るチャラ男、横から覗くばかりの女子高生のファンクラブ等々。それに対する女子高生の、キラキラした真っ直ぐさに胸を掴まれる。 しかし三十路男に関してはその背景が描かれ、スレた大人のこんがらがり方に共感してしまう。純粋な女子高生とその弟に安らぎ、大切にしたいと思っている男は、様々なこんがらがった物を解いて、女子高生と向き合う時は来るのか……愛らしい恋愛コメディの尊い瞬間の向こうに、疲れた三十路男の安楽がある。
親友同士のヨーコとマキは、中学に上がって一人の先輩男子に出会い、少しずつすれ違っていく。先輩が苦手なヨーコは、先輩に惚れたマキに複雑な感情を抱くが、ある時自分の独りよがりと、本当の気持ちに気付く。 ♡♡♡♡♡ ほのぼのタッチで描かれる、中学生の関係性はかなり、ほろ苦い。 登場人物はそれぞれ何処か無神経で、人を傷つける。主人公・ヨーコの苛立ちに感情移入してしまうと、ある時急に彼女の身勝手さ、一方的な物の見方に一緒に気付き、共に反省させられる不思議。 誰もが報われない恋の中で、切なさを抱えているのが見えると、今までイラッとさせられてきた子にも共感できてしまう不思議。そんな「悪い見方への囚われ」と「そこへの気づき」が一冊通して描かれ、結構ハードだ。 親友のマキが、自分を差し置いて別の人を見る事にヨーコは苦しみ、二人の親友関係は揺らぐ。その心が何処へ辿り着くのか……至高の感慨のある結末は、苦しんだ分だけ優しい。
子供の恋だってそれなりに打算はあるのだろうが、それでも大人のややこしさからは、随分遠かったなぁ、と今になれば思う。そんな子供時代の、複雑な心と純粋な恋を描いた中編1編+幾つかの短編集。 中編『チョコレート』は、田舎の中学生の物語。東京からやって来た転校生女子は、あまり笑わない。彼女に惚れてしまった男子は少しずつ打ち解けるが、彼女の抱えるものを知る。 二人で少し、はみ出しながら、縮める距離。 抱える苦い物を吐き出す女子と、受け止めようとする男子の、切なさと優しさが胸に染みる。 削ぎ落とされたカワイイ絵は、ウブな恋心の純粋さをストレートに伝えてくれる。そして背後にある複雑な苦さも、何故か少し際立って感じられる。まるで、それも含めてチョコレートの味、と言う様に。 他の短編も、とにかく純度が高く、甘く時々苦い。恋心に浸りたいと思ったら、もうこれ一冊だけでいい。
女子大生の一人暮らし初日に、突然現れたメイド服の少女は、狸が変化した姿だった!恩返ししたい狸と女子大生は、一緒に暮らし始める……と言うお話。とても愛らしいコメディ小品だ。 狸はメイド少女の姿で、女子大生にアタック!良い仲になろうと頑張る……狸なのにね。一方の女子大生は、ケモノ大好き!隙あらばメイド少女の変身を解いて、狸姿をモフモフする。 生活を共にしながら、百合になりたい狸vsモフモフしたい女子大生の、欲望は交わらない。そんなチグハグコメディがゆる〜く楽しい!しおやてるこ先生の作品の中でも一番削ぎ落とした、カワイさとコメディに全振りした絵柄がどえらくキュート!
しおやさんの絵柄ってどちらかというとコメディ向きだと勝手に思っているのですが、その絵柄でかつ細かいギャグを挟みつつエロ含めてのドラマチックな百合展開、緩急の付き方が凄くて引き込まれる。最初、絵柄でちょっと油断させておいて唐突なイジメの過激シーン、そして後半になるにつれて関係性がどんどん変化して見える構成も素晴らしく、圧巻の約300ページ。 前作『アオとハル』と比較するとギャグ要素を少なめにして、登場人物の心情描写に重点を置いた内容。それだけに導入部分を越えたら読者に隙を作らせず、一気に怒涛の展開に引き込まれる。 『アオとハル』が好きな方ならもちろん、読後感だと『にいちゃん』も近い感覚があるので、そいうった作品が好きな方なら是非読んでみてほしい。 全1巻読了
しおやてるこさんの百合からしか得られない栄養素、あると思います。 昨年、発表された読切「ホントのキモチ」をベースにした連載作品で、全1巻で完結しています。 田舎から上京してルームシェアしている大学生で"親友"同士の杏子と律を中心に描かれる物語。友人同士ではありますが律は大きな感情を中学時代からずっと秘めている、というところからスタート。 律の姉を好きで、それが高じて律にも手を出してくる第三のキャラ真琴も現れ、混沌の様相を呈していきます。 個人的にとてもツボなのは、律と杏子の馴れ初めが「14歳の時に丸尾末広先生の本をチェックしていた」という所から始まっていることです。その年頃だと、その趣味を理解してくれるのってクラスにひとりいるかどうかではないかと思います。マンガ以外でも小説・ゲーム・芸人などあらゆる趣味が合致するふたりの関係、推せますよそれは。 そして、本作の最大の魅力は主人公たちがとても個性豊かで生き生きと生きていること。特に、 「単位とオトコは落としてナンボじゃい」 と普段の性格も性に関しても自由奔放で、そのくせ嫉妬深い律。彼女の豊かな表情や、現代的な気取らない女子像は紋切り型のキャラクターとは一線を画した存在感を放っています。私のタイプとは全然かけ離れている人物像なのですが、それを超えて魅力的だと感じます。律の友人たちもまた類友的な感じで、良いキャラをしています。 人間の綺麗な部分だけでなく、猥雑な部分も含めて清濁併せ呑んだ上で、しっかりと人を愛して、たまに上手く行かなくて、それでも愛し抜いてという部分を描いているのがとても、とても良いです。 七夕に読むのも乙な、上質の百合です。