なんかイソップ童話みたいな追放モノ
※ネタバレを含むクチコミです。
魔力を使い武器や防具を強化する強化魔術師レインは、ある日ギルド内の全ての武器防具が十分強くなったという理由で所属ギルドから追放されてしまう。あまりの理不尽な仕打ちに、レインはこれまで強化していた魔力を返してもらうことにした。これまで様々な装備に付与してきた膨大な魔力。とりあえず適当な銅の剣に付与したら、強化ポイント+10000のチート装備が誕生してしまい!? 戦闘経験ゼロの魔術師が、どんなものでもチート装備にできる魔法で新たな冒険者ライフを気ままに生きることに!!
未読者向けに「チー付与」の話をしましょう
知ってますか?「チー付与」。まぁ私も知ったのは最近なのですが…
タイトルをみれば分かるとおり、本作は、いわゆる「なろう」系を原作にしています
原作の方は、わりとタイトル通りの内容で、あまり癖はなく、読みやすいです(なお、単行本2巻まで出てますが、未完で、現在も「なろう」連載中)
https://ncode.syosetu.com/n7050gs/
「追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。 ~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~」という長いタイトルですが、略して「チー付与」
ところで、「なろう」系のコミカライズには、当たりハズレがあります
つまり、技量の高い漫画家さんがコミカライズするか、そうではない漫画家さんがコミカライズするかで、面白さが全然違ってしまうのです
たとえば、「絵が上手いか否か」は分かりやすい
でも、それだけでなく、同じ文章を原作としていても、それを漫画としてどう落とし込むのか、エピソードの取捨選択、コマ割りや構成を中心とした漫画力の違いなどで、全然違う作品になってしまいます
では、本作は?
これは、まぁ、「当たり」か「ハズレ」かでというと、おそらく「当たり」です
絵も上手いし、漫画も読みやすい。漫画としての完成度が高い
ただ、普通の「当たり」作品は、基本的には原作に忠実にコミカライズします
ところが本作は、全然忠実ではないです
いや、初期は(比較的)忠実だったのですが、途中から異常な改変が加えられ、結果として、他に類をみない怪作に仕上がっています
その結果、一部のマニアにはメチャクチャ好評で、「このマンガがすごい!(2025)」では、オトコ編21位に入りました
ストーリーの話をしましょう
ただ、これは、基本的にはタイトルのとおりです。「追放」モノですね
剣と魔法のファンタジー異世界が舞台になっていて、「王獣の牙」というギルドに所属する強化付与魔術師(武器とか防具を強化する)が主人公です。名前は「レイン」
彼が、「もうお前はいらない」とギルドから追放されるところから物語が始まります
レインは、付与した「強化ポイント」を全部回収し、自分の武器とか防具に付与することで、圧倒的な戦闘力を得ることになり、別のギルド(青の水晶)で活躍を始めます
そんな中で、世界の危機に立ち向かったりとか、まぁそういう話
原作と漫画版のストーリーは、いろいろな設定の違いはあるものの、最初の頃は、大筋では一致していました
ただ、完全に世界観を壊すような描写がされてから、雲行きが怪しくなってきます
具体的には、燐光竜という強い竜があらわれて、レインらがそいつを倒すのですが、死んだと思った燐光竜が、実はサブマシンガンを隠し持っていて、レインらを射殺しようと画策していたことが分かる、というシーンなのですが…(添付)
サブマシンガン?
もちろん、剣と魔法のファンタジーにサブマシンガンが存在してよいはずもありません
一応、この時点ではシュールなギャグの一種として処理されたのですが、そのほかにも、平然とパチンコが出てきたりとか、「皇帝の盾」というギルドは「CEO」と呼ばれるギルドマスターがいて、構成員全員が普通にスーツを着ていたりとか、ブラック企業みたいに全員でギルド訓唱和を始めたりとか、どんどん世界観が壊れ始めます
まぁこれはもう、そういう作品なんだな、シュールコメディの一種なんだろうと読んでました。この時点では
同時並行で、作品の方向性も変わっていきます
「王獣の牙」には、「グレンダ」という幹部がいて、まぁこいつは死んでしますのですが(ちなみに原作では死なない)、それを契機として、グレンダを慕う一団が王獣の牙を脱退し、反社のような存在になっていきます
この集団の代表は、「俺の半分はグレンダでできている」が口癖で、「半分」と名乗っています
グレンダを慕う「半分」とその一団は、こう呼ばれるようになりました
「半グレ」
そして、レインの能力を知った「半グレ」は、レインを仲間に取り込もうと画策するようになり、「半グレ」との戦いが始まります
ところが、恐ろしいことに、「半グレ」は原作には存在しません(なお、ほかに、「暗殺の母」という人気キャラもいますが、こいつも原作にいない)
このあたりで、原作との乖離が決定的になったように思います
そして、それなのに、「半グレ」編が圧倒的に面白い
「半グレ」の一団は、かなり戦闘力も高く、「魔法」も使えます
すなわち、冒険者は「魔力」を使って戦うのですが、「魔力」は身体強化に使えるほか、それぞれが固有の「魔法」を使って戦います。ただし、どんな「魔法」を持っているかは、切り札なので、みな秘密にしている
つまり、「冒険者」同士の戦いは、モンスター相手の戦いとは違って、対人頭脳戦の様相を呈してくるわけです
さらにその過程で、魔力と文明の関係が明らかにされたり(先ほど言及したサブマシンガンやパチンコと世界観の関係が(後付けかもしれませんが)説明されます)、レインの付与能力が、「どのような意味で」チートなのかが明らかにされたりとか、世界観や設定がどんどん拡張されていくのです
「半グレ」連中の造形も良くて、こいつらは悪事ばかり働くロクデナシなのですが、友情はすごく大事にしていて、それがどこか魅力的でもあります
作品が進んでいくにつれ、こいつらの性格も見えてきて、どんな魔法を使うのかも分かってきて、そして、だからこその、半グレ編の「あの終わり方」は本当に衝撃的でした(47話)
そして、それまで、コメディ寄りだった作風は、半グレ編のなかで、かなりシリアス寄りに変化していきます(…と思ったら、半グレ編が終わった次の話はヤケクソみたいなコメディだった)
あと、テーマ的なお話を
本作は、いわゆる「ざまぁ」ではありません。いや、原作はその要素が強いのですが、コミック版は、おそらく敢えて、その要素を排除している
その代わりにテーマとなっているのが、「セカンドライフ」です
いろいろな事情で、第二の人生に踏み出さざるを得ないということは、多々あります
主人公のレインはそうですし、そのほかの仲間たちも、さらには「王獣の牙」のギルマスですらギルド崩壊後の、第二の人生を踏み出します
因果応報を前提に据えつつも、どのようにセカンドライフを踏み出すのか、第二の人生をどう生きる(べき)かということが、本作のテーマになっているようです
実は、根本では結構まじめな作品なんですね
一方で気になるのは、原作との関係
いや、普通はここまで改変したら原作者は怒るはず(というか許可しないはず)なんですよね
ところが本作では、原作者である六志麻あさ先生は、むしろ積極的に本作を応援していて、更新のたびにツイートしてくれます
内心ではちょっと思うところはあるのかもしれませんが、何にせよ、原作者がこんなに堂々と推してくれるなら、読者としても堂々と応援できるというもの
なお、さんざん改変の話をしましたが、実は、地味に原作要素は拾っているんですよね…
保持者(ホルダー)、天の遺産(レリクス)、光竜王とか、「この先の原作展開」につなげる要素が拾われていて、大筋は外さないようにしているところが伺えます
あと、この漫画家さん、何者なのか?という話
コミカライズを担当した業務用餅先生は、覆面作家。これ以外にどんな作品を書いているのかとか、出自とか、全然明らかになっていません
このへん、メタ的に、これがこの漫画家さんの「セカンドライフ」そのものなのかも、という感じもするところです
そうすると、その正体を暴くのはヤボな気もしますが、いろいろ調べている人たちもいるので、気になればそちらから探してみてください
たとえば以下のスレからとか
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本作は、イカれた怪作でもありますが、同時に、圧倒的な漫画力を誇る名作です
年末年始、ぜひ読んでみてください!