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アラフィフ、独身、持病あり。震災、離職、両親の介護、そしてコロナ禍。岩手県宮古市在住男性が、愛しい景色と日々の無常をあたたかな筆致で綴る珠玉のノンフィクション。普通なら感動に寄せがちなところをそうならないところがちほちほさんの凄さだと思います。日々の生活の時間、その流れの静けさを漫画表現で味わえる驚き。偉大なる平凡さ。(山田参助) 特別ドラマチックなことが起きるわけではないんですけど、それが良くて。作者の価値観が普遍的で地に足がついています。一度読んじゃうと親身になってずっと読んでいたくなる。これからもぜひ描き記し続けてほしい。(雲田はるこ) ★第2回 トーチ漫画賞「準大賞」受賞作
ちほちほ先生は、岩手県宮古市在住の漫画家です
主として日常エッセイ漫画を描いています
私が先生の作品に初めて触れたのは、「好日(前編)」という短編エッセイでした
ツイッターで話題になってたのかな…?当時はpixivで読めました
内容は、東日本大震災の話です
宮古市は、津波でかなりの被害を受けた地域。そこにいた人のエッセイ漫画というと、やはり、ものすごくドラマティックなというか、衝撃的なというか、そういうものを、読み手としては期待してしまう
でも、そういうものではありませんでした
ちほちほ先生の描く震災は、当事者目線でありながら、どこか乾いた感触で、淡々としていて、でもだからこそ、ものすごくリアルだった
もちろん、これは、ご自宅も家族も無事だったからこそ、という背景があると思うのですが、それにしても、「震災をこういうふうに描ける」というのは、かなりの衝撃でした
実は私、東日本大震災のときには気仙沼に住んでました
幸いにして、自宅は無事、身内で亡くなった人もいなくて、被災者のような被災者でないような、不思議な立場でした
そんな立場の人間の感じる、震災に対する距離感というか、視線というか、そういったものも、見事に描写している作品でした
3.11当日、テレビでは、火の海に包まれた気仙沼の空撮映像を流し、「気仙沼市全滅!」みたいな報道をしていたそうです
しかし、現地にいた私は、テレビもうつらないし(停電)、携帯電話も繋がらないし(基地局が潰れた)、仕方ないから、懐中電灯の明かりの中で、自宅で「バイオレンスジャック」を読んでました(でも怖いから10分おきに外に出て津波の様子を確認していた)
そして、ああいう災害を経験すると感じるのは、災害と日常は地続きなのだということ
そこにははっきりした境は無くて、災害はいつ起きるか分からないし、災害と日常は、実は、同居しうるものであるということ
この作品を読むと、そのことも思い出されます
ところで、ちほちほ先生は、「好日(前編)」を含む作品群をコミティアで発表していたのですが、その後いろいろあってトーチで賞を貰い、さらにはトーチで連載を持ち、コミックが3冊発売されました。それが本作「みやこまちクロニクル」です
私、「好日(前編)」を読んだあとは、恥ずかしながらちほちほ作品を追ってなかったのですが(『「好日(前編)」は良かったけど、それ以外は読まなくてもいいかな…』とか思ってた)、現在、リイド社の電子書籍がセール中とのことで、せっかくなので全部買って読んでみました
1冊目(震災・日常編)は、コミティアで発表していた作品群の再録。「好日(前編)」もタイトルを変えて収録されています
2009年~2016年まで描かれており、震災の話、復興の話、そしてその中での日常が描かれます
2冊目と3冊目はトーチ連載分。「コロナ禍/介護編」「父ありき編」です
2019年~2023年まで描かれています。内容は、主として、親の話。ちほちほ先生は、両親と同居して暮らしているのですが、特に父親について、介護が必要になって、次第に、状態が悪くなっていく描写が描かれます
正直、かなり重い話です
でも、不思議と暗くはない。また、やはり描き方は淡々としているので、比較的あっさり読めてします
でも実は激重なので、読んでいると、気づかない間に、どんどん心が重くなっていく
変な例えですが、「軽く飲めるのにアルコール度数高いお酒」みたいな作品…というか
また、これは私の個人的な問題なのかもしれませんが、非常に強く感情移入できてしまう
ちほちほ先生と自分は、きっと、似た感性をしているのだろうなとか、私も同じ状況に置かれたら、きっと私もちほちほ先生のように感じるんだろうなとか、そんな気持ちになってくるのです
思考がトレースできるとか、人生を追体験できるとまで言うと大げさですが、それにしても、あまりにも強く共感しすぎてしまう
作中で、登場人物(特に親)が、強めの訛りを使うのもポイントですね。私も岩手出身なので、登場人物が、何を言っているか、どういうアクセントなのか、はっきりわかってしまう。ちょっと、リアルすぎる
私は、結局、東北を離れ、今は関東で暮らしています
この作品を読んでいると、これは、「もし自分が東北に残ったら」という、ifの物語なのかもしれない、とも思えてきて、他人事とは思えなくなってしまうのです
あと、うちの親はまだ元気ですが、将来の親との関係も考えなくちゃいけないなとか、そういうことも考えさせれました。まぁこれを言い出すと今度は「父を焼く」の話になるのですが、ここでは触れません
何を言いたいのかというか、この作品は傑作だということです
「好日(前編)」だけでも傑作だったのですが、「コロナ渦/介護編」「父ありき編」は、別ベクトルで傑作です
そして、この作品は、私にとっては、忘れられない作品になりました
3巻の「続き」はまだ描かれていないようです。続きを読める日を待ち続けたいと思います