2023年の話題作の一つでしたねにコメントする
※ご自身のコメントに返信しようとしていますが、よろしいですか?最近、自作自演行為に関する報告が増えておりますため、訂正や補足コメントを除き、そのような行為はお控えいただくようお願いしております。
※コミュニティ運営およびシステム負荷の制限のため、1日の投稿数を制限しております。ご理解とご協力をお願いいたします。また、複数の環境からの制限以上の投稿も禁止しており、確認次第ブロック対応を行いますので、ご了承ください。
いろんな私が本当の私

超豪華アンソロジー第二弾

いろんな私が本当の私 丹羽庭 米代恭 雁須磨子 コナリミサト 鶴谷香央理 三本阪奈 長嶋有
兎来栄寿
兎来栄寿

吉田戦車、ウラモトユウコ、オカヤイヅミ、河井克夫、島崎譲、衿沢世衣子、カラスヤサトシ、島田虎之介、100%ORANGE、よしもとよしとも、フジモトマサル、陽気婢、小玉ユキ、うめ、萩尾望都、藤子不二雄A。 前作にあたる『長嶋有漫画化計画』に筆を寄せた目が眩むような錚々たる面々です。 それから11年が経ち、遂に第2弾となる本著が発売されました。 今回の描き手は 『あした死ぬには、』の雁須磨子 『凪のお暇』のコナリミサト 『トクサツガガガ』の丹羽庭 『メタモルフォーゼの縁側』の鶴谷香央理 『ご成長ありがとうございます』の三本阪奈 『往生際の意味を知れ!』の米代恭 の6名。今回は全員女性作家ですが、全員実に絶妙な「今」を描いている方々。長嶋有さんがずっとマンガを愛し続けて広く読まれているであろうことが伝わってくる、一マンガファンとして心が躍る陣容です。 米代恭さんの「三十歳」は、シンプルに米代恭さんの描く表情が良いです。無機質な表情も、真逆の感情を全開にした表情も。主人公の瞳にハイライトが宿る瞬間が堪りません。タイトルにある三十という年齢の、歳を重ねて至る諦観とその裏にまだ残る稚さ。幼い子供のように在れる相手ができて時間を共に過ごすようになる過程、伸びやかになる心の描写も好きです。こういう男女の関係を今描いてもらうなら米代さんというのは非常にしっくりきます。 三本阪奈さんの「舟」の主人公の妄想癖、個人的にはとても共感します。昔から現実を差し置いて空想の世界へ行ってしまうところがありました。妄想ができる脳がひとつあれば、永遠に暇にはならないなと思います。本著の中では最も新しい2022年の短編ということで、マスクを着けた登場人物たちとそれを利用した演出がとてもよく利いていました。思春期の矯正は、特に女の子にとっては外見上の面で嫌な部分もあるものですが、マスクはそれを隠せるという意味では少しありがたい存在でもあるのだなと。リフレインする特徴的なフレーズなども小気味いいです。大人へと漕ぎ出していく彼女たちの姿に、在りし日を重ねます。「表現は読者と年をとっていくだけではダメで、ときには若者に向けて放っていないとダメだ」という、長嶋さんの感性も素敵です。 丹波庭さんの「今も未来も変わらない」は、レンタルビデオ屋でDVDを借りるというほんのひと昔前にあった風景がとても懐かしく感じられる一篇です。私の家の近所のレンタルショップも時代の波に呑まれて潰れてしまいましたが、100円の日にたくさん借りたり延滞金を払わないように必死になったしたことを久しぶりに思い出させてもらいました。 ″僕は映画を観た時の「情景」も含めて「映画」だなって思うんです″ というセリフはマンガにも完全に同じことが言えて、いつどこでどのようにして誰との関わり合いの中で読んだのかという記憶と共に自分の中に残っています。それ故に、マンガの帯も挟まっているチラシも私にとっては大事な欠片なのです。余談ですが ″ガムと締切はよくのびるんだよ″ のセリフも好きです。 鶴谷香央理さんの「問いのない答え」は、311の震災を描いた作品。長嶋さんと鶴谷さんの出逢いが、震災の翌日からTwitter上で行なっていた言葉遊びだったそうでそんな現実も上手く反映させた物語となっています。10年前のTwitterは、今より人が少なくて3000RTもされたら珍しいことでした。他愛もない好きなことを介して生まれる緩い繋がりが非常に愛しい自由な場でした。ただ、今はかなり変質してしまってかつてあった楽園の心地良さに想いを馳せます。あの頃から繋がり続けてくれている方に感謝しつつ、繋がりが解けた方々もどこかで元気に暮らしていて欲しいなと思います。日常の細やかな所作や機微が、落ち着いた筆致で描かれ鶴谷さんの良さが短編の中にもよく表れています。コロナなどで塗り潰されてしまった部分もありますが、いつまでも留めておくべき記憶がここにあります。 雁須磨子さんの「三の隣は五号室」は、チャレンジングな原作小説を巧みにマンガに落とし込んでいます。なぜか四号室がないアパートの五号室に住んだ歴代の住人たちのザッピング的な物語です。村田沙耶香さんが原作に寄せたあとがきに書かれている通り、「前の人」というのは不思議な関係です。私も以前住んだ家では引っ越したばかりのときに、ずっと前の人への郵便物が届き続けたことがあります。まったく縁もゆかりもないけれど、同じ空間を共有する他人。内装や機能など知らない間に継承をしていて影響を与え合うひとつなぎの関係。同じ景色の中で何を思い、どのように暮らして生きていったのか。人生のどこかで一瞬でも交わった人ともまた違い、直接関わっていないけど生まれる不思議な関係。小さなアパートの一室がまるで社会の縮図のような人間模様を描いているさまは、奇妙な面白みがあります。 コナリミサトさんの「もう生まれたくない」は、このタイミングで単行本化されたことに運命を感じました。「歯の欠けたベーシスト」「セガサターンのゲーム」と言って、あるバンドを即時に連想できる人は今どれくらいいるのでしょうか。奇しくも一昨日、そのバンドのリーダーは誕生日を迎え、その1週間ほど前に歯の欠けたベーシストの後釜に座ったベーシストが逝去したという報が出て、私は数日間号泣しながら彼の仕事を振り返っていました。そして、昨日バンドリーダーによりベーシストを弔うイベントの発表が行われました。そう、X JAPANです。作中に登場するセガサターンのゲームは『X JAPAN Virtual Shock 001』でしょう。私は人生で初めて行ったライブがXだったので、育ててくれた親のようなバンドです。奇跡の再結成からずっとずっとニューアルバム発売を待ち続けて十数年経ってしまいました。唯一ずっと「コンサートをやりたい」と言ってくれてきたHEATHが8月にYOSHKIと共演してセッションした時も泣きました。そして、この短編でまたXやHEATHのことが思い出されて涙を堪え切れませんでした。ふとしたことで、人はあっけなく死ぬ。そして、永遠に拭えない後悔をする。もう少し、違う選択肢を採れたかもしれないと思いながら……。 長嶋さんのあとがきや、それぞれの作品へのコメントも実に味わい深いです。「漫画は暗くて愉快」という概念、真諦を突いています。 原作ファンの方やそれぞれの作家のファンの方はもちろん、そうでない方も今をときめく感性豊かな方々による豪華なコラボレーションを味わってみてはいかがでしょうか。

先生の子を妊娠しました

不朽の名作が電子で復活 #1巻応援

先生の子を妊娠しました
兎来栄寿
兎来栄寿

きづきあきらさん&サトウナンキさんの過去作品『いちごの学校』が、改題され電子書籍として刊行されました。 きづきあきらさん&サトウナンキさんといえば、人間の闇や病みを描くことに定評のあるコンビで私は名前を見掛けたら必ず作家買いするほど好きです。代表作は『ヨイコノミライ』や『うそつきパラドクス』などが挙げられると思いますが、場合によってはこちらを最高傑作と推す人もいるほどの名作です。 改題された新タイトルの通り、本作は女生徒が先生と関係を持ち子供を孕んでしまう物語です。一般的な恋愛マンガでは、男性教師×女生徒という組み合わせはそれなりにポピュラーなジャンルです。しかし、本作の場合はそれが非常にリアルで重いものとして描かれます。 特に印象的なのは、女生徒を妊娠させた主人公の「責任」。「責任を取る」と口で言うのは簡単でも、実際にそうなってしまった時にどうするのが「責任を取る」ことになるのか。相手に対して、相手の親に対して、自分の親に対して、学校に対して、同僚に対して、生徒に対して、そして自分の子供に対して。 愛する気持ちがすべてに勝る甘美で絶対的なものだったとしても、その先にある果たすべき道義や免れない誹りと向き合った時に、生身の人間はどうしたって削れます。現実がそれほど容易くないことを、重みを持って描いています。 主人公が受け持つ現国のテストのように曖昧な部分はあったとしても、それでも学校のテストには答があります。しかし、人生には定型の答はありません。幸せとは相対比較したり誰かに決められるものではありませんが、それでも愛する人と結ばれ愛する人との間の子を授かった彼らが、本当に幸せと言えるのだろうかと考えずにはいられません。 引用される『星の王子さま』や『ひかりごけ』やボードレールなども人によって解釈が様々に分かれる作品であり、そのことを一層強調しているように感じます。 1話ラストの ″自分の命が自分のために存在しなくなった とりあえず今 それだけはわかるんだ″ というモノローグが昔からとても好きでしたが、かつて読んだときよりも実感を伴っています。 余談ですが、甘々な夫婦生活部分と学生時代のツンツンな時の対比をシンプルなラブコメとして描いたら今のTwitterではバズりそうだなぁと詮無きことを思いました。

本棚に追加
本棚から外す
読みたい
積読
読んでる
読んだ
フォローする
メモを登録
メモ(非公開)
保存する
お気に入り度を登録
また読みたい
※本棚・フォローなどの各アクションメニューはこちらへ移動しました(またはフローティングメニューをご利用ください)