若くして成功を収めた作家に対して、その才能を讃えたり、羨望の眼差しで見つめても、その労苦へと想像力の翼を伸ばすことは難しいのではないかと思います。
作品がヒットして経済的な成功を得たとしても、その裏でどのような苦労を抱えたり葛藤を抱いているのか、受け手が知ることは叶いません。勿論、クリエイターに己の事情を明かす義務は存在しませんし、秘すべき事柄であるのかもしれません。
ただ、どれほどの才能を持っていても、彼ら彼女らも人間です。嬉しいことがあれば喜び、悲しいことには涙する。そんな素顔が垣間見えることが、漫画家マンガというジャンルの魅力の一つなのではないかと思います。
この作品は細野不二彦先生(作中では細納不二夫)がデビューに至る迄の物語です。進路に迷い、不確かな未来への夢と現実との間に揺れるその様は、多くの人々と変わらない、等身大の青年の姿です。
一人の青年の青春譜は、その時代を瑞々しく描いており、当時の世相を知ることが出来る一級品の資料としての価値もあると断言します(ヤマトからガンダムへの間を知ることが出来る作品を、自分は寡聞にして知りません)。
同級生の天才達(河森正治さんと美樹本晴彦さん)やトップランナー(高千穂遥さんや宮武一貴さん達)との交流は、自分の知らなかったことでしたし、日本のサブカルの歴史のページとして広く知られ、読まれて欲しいと願う作品でした。長々と書いてきましたが、シンプルに面白い作品なので、まずは試し読みから是非。

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魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春
長い時を経て #1巻応援
魔境斬刻録 隣り合わせの灰と青春
ナベテツ
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原作小説を読んだのは中学生の頃、近所の図書館で借りたことがきっかけでした。30年後にこの作品がコミカライズされると聞かされたら、少年はどんな感想を抱いたのでしょうか。 ドラクエなどのRPGに多大な影響を与えたウィザードリィ。死亡したキャラの蘇生に失敗すると灰になり消滅してしまうというシビアな設定が、この世界を伝える物語のタイトルとなり、やがてコミックへと転生を遂げました。 版権の都合で、ウィザードリィの固有名詞は一切使えず、アイテムや呪文、固有のモンスター名などは全て変わっています(ガディは原作よりだいぶおっとりしてる気もします)し、気を抜くと先の展開のネタばらしをしてしまいそうになりますし、ここでもなるべく注意をして言葉を選びたいと思います。 昭和~平成のファンタジーのコミックも好きなタイトルはあります。ただ、令和に描かれるとやはり迫力が違うなあと感心しますし、(物語を既に知っているとはいえ)迷宮での冒険がどのように描かれるのか、展開を楽しみにしています。ペース的に、原作を描ききるには相応の話数が必要だとは思います(稲田先生はかなり丁寧にストーリーを紡いでいますし、連載の継続の一助にでもなれば、との思いでこの口コミを投稿しています)。 魅力的なキャラはこれからも沢山登場しますし、日本のファンタジーの金字塔として語り継がれるベニー松山さんの傑作を、1人でも多くの人に知って貰えれば(原作小説、紙だと高騰してるんですよねえ。電子で簡単に買えるんでまあ良い時代になったなあと思います)。 続編の「風よ、龍に届いているか」や外伝の「不死王」もコミカライズされて欲しいもんだと、古いオタクは願ってます(不死王はKindleで100円ですからほんと良い時代です。一応紙でも持ってます)。
機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還
幻獣達の物語
機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還
ナベテツ
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ジョニー・ライデンという名前を知ったのは、テレビのガンプラのCMでした。アニメには出ない、設定先行のキャラであり、知名度と実像が一致しない、謎めいた呪文のような存在でした。 ガンダムを下敷きにしたアンソロジーなどでその姿を描かれることがあり、短編は幾つか持っていますが、26巻ものサーガになるとは思ってもみませんでした(沖一さんの短編集が佳作であると思います)。 一年戦争の最中、エースパイロットを集めたジオンのキマイラ大隊。多くの謎を残したまま闇に消えた「幻獣」。エース達を率いたジョニーに関しても、様々な噂が錯綜しており、それが様々なジョニー像の由縁であると作中で語られます(この辺がアークさんの作劇の巧みなところだと思います)。 作中はZZから逆シャアの間の時期であり、他の 作品で語られて来なかった空白の時代でした。制約のある中、過去作の登場人物やMSを絡め、先行作品へのオマージュやアークさんの過去の作品との関連性もあり、宇宙世紀に描かれた新たな歴史の一篇として、この作品の完結を祝いたいと思います。宇宙世紀の物語を知らない人にはちと勧め辛い作品ではありますが、戦闘シーンの格好良さも含め、ガンダム好きに勧めたい名作です。
がんばりょんかぁ、マサコちゃん
誠実な官僚と陥穽 #1巻応援
がんばりょんかぁ、マサコちゃん
ナベテツ
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以前に赤木雅子さんと相沢冬樹さんのノンフィクションを読んでおり、連載が始まったと知った時、単行本を楽しみにしていました(確か6月くらいに発売予定が出たので、伸びたのにやきもきしていました) 流石に森友事件を知らない人はいないと思いますが、幸福な夫婦を襲った不幸な事件であることは、論を俟たないところです。 赤木さんという人は、官僚として誠実に職務を果たそうとした人でした。本来の官僚というのは全体への奉仕者であり、特定の人間への利益を優先させるようなことを許容することは自己の存在を否定する事になります。己の職務が犯罪へと繋がるとなれば、官僚でなくとも耐え難いことでしょう。まして、仕事にプライドを持つ人であれば、その苦痛からの解放のために「最後の手段」を用いてしまったことへ何か言うことは出来ないと想像します。 ただ、遺された家族は違います。誠実に生きた人生に何が起きたのか、その事を知り、故人の名誉や尊厳を取り返す権利があります。たとえそれが権力者にとって不都合な出来事であったとしても。 この物語は、遺された妻の戦いの物語です。これからどれほど険しい旅路が待つのか、読者はただ見守るとしかできません。でもささやかながら、マサコちゃんへエールを送れればと思います。
「神様」のいる家で育ちました ~宗教2世な私たち~
彼らの存在
「神様」のいる家で育ちました ~宗教2世な私たち~
ナベテツ
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7月の銃撃事件が起きたことにより、本来著者が描きたかったこととはまた別の意味を持つことになったことが、作品にとって幸福なのか不幸なのかは分かりませんが、この国において、他者を搾取する新興宗教が存在する限り、この本は読まれ続けるべきだと考えます。 実在の宗教団体の信者を親に持つ、7人の体験を元にしたノンフィクションは、読者にとって決して遠い出来事ではありません(実際、それらの教団の施設は、身近な所に存在しています) 人間の悩みを減らし、心を救済することが、宗教の本来の目指す姿だと、個人的には考えます。ここで描かれる宗教は、共同体によるぬくもりを与えながら、そこではお布施という名前の収奪が繰り返される、どこまでも「汚い」現実が描かれています(お布施以外にも、様々な形での収奪が描かれています)。 最初の連載が、ある団体からの圧力で中止に追い込まれたことが、後書きにより明言されています。恐らく、広告出稿という形で、様々なメディアに圧力がかけられているであろうことも、容易に想像させられます。 言うまでもないことですが、人間は生まれてくる場所を選ぶことは出来ません。全ての宗教2世に、魂の休まる日が 訪れることを、願います。

1978年のまんが虫

せんきゅうひゃくななじゅうはちねんのまんがむし
最新刊:
2022/12/28
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バブル・ザムライ

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最強大学生がバブル日本の悪を斬る! キラタケトはちょっと変わり者の大学生だが、その正体は不明…人並み外れた嗅覚を持ち特殊な武術の使い手で、とある人物の紹介で探偵・高平と組まされ様々な事件に挑むことに…日本がギラギラしていたアノ時代、その輝きの陰で跋扈する「悪」と戦う男たちがいた―――
恋とゲバルト

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昭和43年4月。世界各国で学生運動が拡がり続け、日本でも大学などを中心に嵐が吹き荒れていた。右翼の学生活動部隊の切り札として招集され仙台から上京した純朴な青年・東儀ひろしは左翼や右翼の学生たちが入り乱れるカオスなキャンパスで運命的な出会いを果たす。荒れる大学構内で植物を育てる可憐な女性・北条美智子。彼女に惹かれ始めるひろしだが、彼女もまた人知れず左翼の秘密兵器として活動していた――。激動の時代、恋と革命のドラマが動き出す!!
細野不二彦初期短編集

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お宝本!ガンモvs.肉丸in令和を収録! 大好評の『細野不二彦短編集』1~3集の続編として、ファン待望の、珠玉の初期短編集が2冊同時に登場です! 本書の「A面」では、『白x墨』…… eスポーツ、ゲーム実況中継が花開く前夜、まだ未来を知らない少年少女の交流を描く、ビッグコミック掲載の最新読切を冒頭に収録! また少年ビッグコミック掲載の単行本未収録作『ありさ☆ありさ』、『マイ・ホームティーチャー』ほか、少年サンデー・デビュー作の『恋のプリズナー』や、学園マドンナが男子ラグビー部に入って奮闘する『みるくちゃんご用心』、それに加えて初期の漫画家生活が垣間見えるショート作『土手物語』も2本、入っています! ラストにはなんとなんと、本書向けに『ガンモvs肉丸 in令和』を描き下ろし! 人気キャラの初対決を描いた衝撃作を収録です! 細野不二彦ファンならずとも必読の1冊です! *ボーナストラックとして、『1978年のまんが虫』第一話を特別収録! 「ビッグコミックオリジナル増刊」にて好評連載中!
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戦後漫画史の貴重な記録でもある、連載期間43年に渡った藤子不二雄A先生の自伝的作品。満賀道雄と才野茂。北陸で出会い、“漫画”に魅入られた2つの才能が、漫画家という夢に向かって共に歩んでいく長編ロマン。青春の悩みや歓びを丹念に描き、読んだ者誰もが引き込まれる日本漫画の金字塔。
脱サラ41歳のマンガ家再挑戦 王様ランキングがバズるまで

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「王様ランキング」作者・十日草輔氏本人が、自らの挫折と再挑戦の日々を振り返り描く、エッセイマンガ。マンガ家を目指し、 がむしゃらにマンガを描いた20代。 だが、夢破れ、社会人生活を送る日々。 それから十数年後―― 諦めきれない夢に一区切りすべく、一大決心! 不安と挫折、 そして勇気と覚悟の再挑戦の日々がはじまり……。コミックスでしか読めない描き下ろしエピソードや裏話など約30Pを収録した全240P! 【担当編集より】なぜ41歳で再挑戦することを決めたのか? 必ずしも誰もが成功するとは限りませんが、成功する道もひとつではありません。作中でも作者の十日さんが触れていますが、行動し、挑戦したその経験は、どこかでなにかに繋がり、役立つことがあると思います。作者が歩んだ“再挑戦”の道のりから、マンガ家を目指す方だけではなく、何かをはじめようとしている人、仕事で悩みを持つ人たち等々……、本作品が何かのヒント・参考になりましたら幸いです。 【目次】第一話/第二話/第三話/第四話/第五話/第六話/第七話/第八話/第九話/第十話/第十一話/第十二話/最終話 【描き下ろし】はじめての商業連載
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漫画家を夢見るティーンエイジャー島袋全優は、原稿とバイトに明け暮れる毎日を送っていたが、いつしかトイレに行くたび便器が血まみれスプラッター状態に。はじめは腸炎と診断されるものの入院治療でも一向に容態は回復せず……改めて検査を受けてみると実は難病特定疾患「潰瘍性大腸炎」だった!? 「取材」と称して入退院を繰り返し、片手にGペン、片手に点滴を携えたエキスパート患者の筆者が、発病した学生時代から商業デビューを果たして漫画家になってからも続く闘病生活の実体験をもとに明るく描く奇跡のギャグコミックエッセイ。GANMA!&ニコニコ漫画で絶大な支持を受ける『腸よ鼻よ』、待望の書籍化!! 読後、貴方はこう思うはず……「セカオピ、めちゃくちゃ大事」。
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ジョーも松太郎もてつやから。名作の裏に… いつしか老作家となったマンガ家・ちばてつやは、様々な社会的役割を務め多忙だった。だが… ある日、コミック雑誌から執筆依頼が来た。最初断ろうと思ったちばだが、その脳裏には幼い頃の満州の物凄い夕焼け、人生の節目で出会った素晴らしい人々、そしてどんなときも不器用に苦しみながらマンガを描いてきた自分の姿が去来する。オールカラーショートコミックで描く半生の記。ちばてつや18年振りの最新作、今ここに結実!
失踪日記

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「全部 実話です(笑)」(吾妻) 突然の失踪から自殺未遂・路上生活・肉体労働──『アル中病棟』に至るまで。著者自身が体験した波乱万丈の日々を、著者自身が綴った、今だから笑える赤裸々なノンフィクション。 ・第34回日本漫画家協会賞大賞・平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞・第10回手塚治虫文化賞マンガ大賞・第37回日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門 数々の賞を受賞した名作が待望の電子書籍化! さらに、電子書籍限定特典として関連作品を収録! これはもう総てのアズマニア、だけでなく総ての現代人にとっての福音の書だと思いました。面白くて面白くて、泣く暇も震える暇もありません。[足の丸い四頭身で描かれた現代の新約聖書]て事でどうでしょうか。受難の煉獄とも言える全編を覆う、強烈な生命力が軽妙ですら有ります。──菊地成孔(ミュージシャン) ●単行本カバー裏 インタビュー『裏失踪日記』収録●【電子書籍限定特典】・『放浪日記』2006年・『失踪こぼれ話』2001年 【目次】夜を歩く/街を歩く/アル中病棟/巻末対談 吾妻ひでお×とり・みき/裏失踪日記/失踪日記 電子書籍限定特典
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あだち充・勉の兄弟青春譚! 1970年代初頭――― 漫画の黄金期、その前夜。あだち充19歳。あだち勉22歳。ありま猛16歳。まだ何者でもなかった漫画少年3人の破天荒な共同生活が今始まろうとしていた。あだち充を漫画家にした男・実兄あだち勉を中心に漫画に人生を懸けた男たちの青春群像劇を『連ちゃんパパ』のありま猛が描く! 前代未聞の実録漫画家青春物語。
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