「フルver.」がもうすぐ完結するので読んでみた
スピリッツで連載中の「私の息子が異世界転生したっぽい フルver.」がもうすぐ完結するので原作であるこちらを読んでみました。「フルver.」の方が画力も高いしページ数も多いから丁寧で分かりやすい作りになってるけど、これはこれで好きですね。特に堂原のキャラデザはこちらの方が好みかも。ただネタのフックの強さの割にオチがよくあるやつだったので物足りなさはあったかも…。「フルver.」のラストではもう少し踏み込んだ何かを期待してしまいます。
死んだ息子は実は異世界に転生して生きていると主張する母親と、彼女の元同級生(オタク)が繰り広げる、悲しみに向き合う物語。誰かが死んだ時、残された人々はどうやって前を向き、立ち上がるのか。
異世界モノがブームとなってから相当な時間が経ちますね。フィジカル最強の大統領が転移したり、昏睡状態のセガ大好きおじさんが目覚めて異世界から戻ってきたり、ヤクザが異世界の素材でタピオカ作って儲けたり、公務員のお父さんが悪役令嬢に転生したり、転生してエルフになってからも生前の借金返済に追われたり。画期的な設定が次々と生み出され、いつの間にやらこのジャンルはものすごい発展を遂げました。
そして!ついに!ようやく!ここに来て初めて!
残された遺族の辛さを真正面から描くお話が登場しました……なんか感慨もひとしおです。
そもそも異世界転生はなろうやラノベの得意分野。
エロ・チート・ハーレム・スローライフ・婚約破棄・追放・ザマァなどなど、気持ちいい要素で楽しませることがとにかく重要で、正直それ以外の記述(現実に残された遺族の気持ち)は邪魔なだけで読者も作者も求めてないんですよね(エロ漫画と一緒。細けえことは今はどうでもいいんだよっていう)。
作者も読者も、現実から遠く離れた異世界に思いを馳せてとにかく楽しく夢想したい。
だから「転生者の遺族視点」という誰にでも思いつくような簡単なアイデアなのに形にする人が今まであらわれなかったんですよね。
こんなシリアスな話、もし本職のラノベ作家だったら書けないですよね……楽しさ全部載せのチーレム作品みたいにボンボン売れるわけないですし。
『私の息子が異世界転生したっぽい』
この作品の作者がかねもと先生だと知ったとき「ああ、この人だったら絶対タイトルどおりのすごいやつ描いてくれるだろうな」と思いました。
勇者パーティで働くワーママの辛さを真剣に描いた「伝説のお母さん」の作者さんなら、ラノベでは都合よく省かれてる「親」という存在を真剣に掘り下げられるはず。
そして実際読んでみて、全くその期待通りの内容でした。
残された母親の苦しみが正面から描かれていました…。
オタクコンテンツと縁のない若い美人なお母さんと、ラノベオタクな元同級生。
2人は異世界に行く方法を探して同じ時を過ごすなかで、今生きているこの現実を捉え直していく。
「ファンタジーとエンタメ」重視のラノベ業界では決して描けない「現実と痛み」の物語で読んで良かったです。
常日頃異世界モノを読んで現実逃避してる身なので、たまには真剣に残される側がどんなに辛いかを考えるの大事だな…としみじみ思いました。
こちらのかねもと版では旦那がほとんど出て来ず、この先お母さんはどうやって生きていくんだろうと気になります…。夫婦の決着が現在連載中の『私の息子が異世界転生したっぽい フルver.』で描かれるのを楽しみにしています。