ツレない釣り女子に釣られる乙女
初心者との釣行はメンドクサイと、ある釣り人から言われた事がある。 教えながら自分の釣りをするのは大変だ。大抵の釣り教師は、自分の釣りを半ば諦めている。なので初心者は、教師が目を輝かせて釣りの蘊蓄を語るのを、きちんと聞かなければならない。教師はそうやって、語り合える釣り仲間を増やしたいと思っているのだから……だそうだ。 十年以上前に聞いたこんな言葉を、『つれづれダイアリー』を読んでいてふと、思い出した。 ★★★★★ 橘音々子は、女子高生ながら極端な釣り至上主義者。人との交流を一切断ち、釣りのためだけに行動する。 そんな彼女を気に入ってしまった、同級生の森野アリス。何とかしてお近づきになりたいが、名前も覚えてもらえない。 しかし、アリスが「釣りに興味を示した」瞬間だけ、音々子が反応する。そして釣りについて滔々と話し、釣り方をレクチャーする。 独りで釣りをしたいという「釣り愛」と、釣りに興味のある者を無碍に出来ない「釣り愛」のせめぎ合いの結果、音々子はアリスに遭うと「チッ」と舌打ちしながら(恐っ)釣りを教えてしまう。 音々子の釣法の説明は丁寧で、魚の食べ方まで詳しい。釣りの教科書として初心者から、割とできる人でも楽しめる内容。(『週間つりニュース関東版』掲載の出張四コマが巻末にあるが、色々な釣りのあるあるが満載)陸っぱりの釣りにはかなり詳しくなれるので、初心者の方はこれを読んでから経験者と釣行すると、話が弾んで喜ばれるかもしれない。 描かれるフィールドは浜名湖。汽水域の広がる好漁場で魚種も多く、楽しそう。ウナギにまつわる回はひたすら音々子がかっこよく、必読! そして、あくまでアリスに興味が無い音々子を、アリスは少しでも振り向かせることが出来るか?という、ちょっと「片想い百合」的な楽しみ方も出来る作品でもある(出張四コマの二人の、本編との落差……これはアリスの妄想なのかも)。
勉学に励んだりスポーツに打ち込んだり、
若いときにしか出来ない人生経験を積もうとしたり。
そういう青春を尊重し正しく美しいと評価する。
それは世間的には当たり前であり正論だと思う。
では、友達を作りたいと思い、そのために釣りを始める、
そういう青春を世間はどう評価するだろうか。
概ねで微笑ましくは見守ってくれるとは思うが、
「もう少しなにか」とか「もっと大事なものも」とか、
「遊んでばっかりだね」とか言われそうな気がする。
「釣りもスポーツですけれどねえ・・」とか。
しかしながら、むしろそっちのほうが普通の青春であり
普通の青春時代の過ごし方ではないかとも思うのだ。
童話のアリとキリギリスとかウサギとカメとかが説くところの
「真面目が正義」はある意味でまさに童話だ。
実際には人は日常生活の中で楽しそうなものや
興味を持ったものを優先する。
多感な時期ならなおさらに。
それが普通であり本能だと思う。
そう考えれば「つれづれダイアリー」の登場人物は
現実的で正直に素直に青春を謳歌している。
興味を持ったクラスメイトと仲良くなるために釣りをはじめ、
釣りの魅力にもハマっていく森野アリス、
普段は人と接しようとしないが、釣りを介すれば
饒舌にも親切にもなる橘音々子。
釣りに興味が無かった子と釣りしか興味がなかった子が
出会ってすこしづつ距離を近づけていくという
ごく日常的な女子高校生生活漫画。
二人はこの出会いで学力やスポーツ能力を
とくに高めるわけでもない。
だがこの漫画は、さして変わらぬ日常が
釣りと友達?というものにちょっと関わるだけで
とても楽しくなるということ、
青春時代って、ちょっとしたことをとても楽しく
嬉しく感じることが出来る時代だということ、
そういうことをこの漫画は思いださせてくれた。
また、釣り知識とアルアル体験談、それと魚料理に関しては
楽しみながら勉強になる漫画でした(笑)。