フルカラー縦スク時代の2020年、読んでおいてほしいフルカラーMANGAにコメントする
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たか
たか
1年以上前
読み終わって「はあーーー……」と深い溜め息が出てしまうくらいも〜面白い。 ほぼ15年ぶりに読んだのですが、バスケ部だった中学生のときと同じように新鮮にワクワクしてしまいました。 当時はちょうど「スラムダンクあれから10日後」というイベントがやっていた頃で、それでイベントについて検索したときに井上雄彦のHPを見つけ『BUZZER BEATER』を知ったという流れだった思います。 (ちなみに井上雄彦先生は電子書籍嫌いで作品が電子化されていないことで有名だそうですが、私は『BUZZRE BEATER』を自サイトで掲載していた印象が強かったので「えっ、そうなの」とかなり驚きました) そもそも突然読もうと思ったきっかけは、先月「永里優季、“歴史的”な男子チームへのレンタル移籍が決定!」というニュースを見たことです。 https://www.soccer-king.jp/news/japan/japan_other/20200910/1117148.html このニュースを見て真っ先に、「いやこれアピルじゃん…!!」と思ったんですよね。それでどんな話だったか思い出すために15年ぶりに読んだんですが……。もう本当に無駄なく美しく完成されていて圧倒されました。 ### 手描きフルカラーがヤバい いや、手描きフルカラーですよ? 吹き出しの中のセリフすら全て手書き。普通にヤバい。 コピックで塗られる絵が本当に眼福でパラダイス。絶妙な影を作るために2色を重ねて塗ったり、その回のテーマカラーを決め色数を制限して統一感を出したり、ショックを受けているシーンでは人物が真っ青に塗られたり……。 井上雄彦というものすごい実力を持った漫画家が「漫画をカラーで描く」ことで、漫画という表現媒体の持っているポテンシャルがギュンギュン引き出されているのを感じられます。 グラフィック・ノベル、アメコミ、バンド・デシネだってフルカラーで横書きですが、「漫画」を描く一流の技術を持った人がフルカラーで描くとこれほど漫画って進化するのかと。もう、普通にすごすぎてすごい。 ちゃんと「漫画み」を感じるものの1つに、「扉絵」があります。 6ページから構成される各話の冒頭の1ページ目か2メージ目が必ず「扉」となっており、作品名・作者名・話数がドーーーンと挿入されるんです。 いやこれがもう、本当めっっっちゃかっこよくて。 タイトルロゴがドーンって、アニメでも漫画でも万人に愛される演出でみんな大好物だと思うんですけど、それを毎回やってくれるんですよ。 手を変え品を変え、毎回違う手描きタイトルロゴを見せてくれて……こんな贅沢あっていいのかという感じ。 (ただ後半はこの手描きロゴはなくなり、デジタルなデザインのロゴで固定になります)    ◆ ◆ ◆ ちなみに当時、HPではページが上下に6つ並べられて掲載されていました。上から下に、スクロールして読む。 そう考えると『BUZZRE BEATER』ってようは2020年の今どこでも読める「フルカラー縦スクロールウェブコミック」なんですよね。 井上先生の公式サイトによると、『BUZZRE BEATER』はオンラインコミック(スポーツアイ-ESPNのHP)として1996年5月より連載開始したそう。 いやもう、途方もなくすごい……。時代の先を行き過ぎ。 「フルカラー」で「縦スク」で「ウェブ連載」で、現在、星の数ほどある無料アプリコミックと共通する部分はたくさんあるのですが、先に書いたように「漫画を描く一流の技術を持った人がフルカラーで描く凄まじさ」は唯一無二なので、マジで1回味わってほしいです。ヤバいので。   ### 正方形のページに広がる無限のコマ割りがヤバい 最初から英語版と中国語版を出すことを想定していたのか、この作品のセリフは横書きで描かれており、正方形のコマ内は左上から右下に読みます。 正方形のページをコマで割るって……割れるか…??? って感じですけど、もうバリバリ割ってるんですよねー。 途中からページが正方形ってこと忘れるぐらい、それはもう普通の漫画のように迫力があってクールなコマ割りの連続。 茶室は宇宙なんていいますけど『BUZZRE BEATER』読んでそれが理解できました。 こんな狭くて制限されたスペースでも無限の可能性を見出せるんですね。   ### 多様性があまりにも自然に描かれ、2020年の今読んでも引っかかる描写が1つもないのがやばい 舞台は西暦2×××年。金も名誉も手にした老爺・ヨシムネが、宇宙リーグに地球チームが参加するという夢を叶えるため、地球最強のプレイヤー12人を集めることを計画。 そこへストリートチルドレンの主人公・ヒデヨシが一攫千金を求めてセレクションに参加し物語が始まります。 地球全体から選ばれ作られた最強チームだけあり、選ばれた12人の人種はみごとにバラバラ。日本、ロシアなどルーツが推測できるメンバーもいる一方で、見た目からは国籍不明の人物も多い。 サポート陣も多様で、白人女性、白人男性、黒人男性、そして医療スタッフの中には女性的な話し方をする男性がいます。 そして、最強のプレイヤーを集めるため必然的に大人ばかりになってしまったところへ、主人公・ヒデヨシとイワン、そしてヨシムネの孫娘・チャチェが待ったをかけメンバーに加わる。 こうして地球最強チームは、大富豪とストリートチルドレンという貧富の差を含むあらゆる人種・年齢・性別が結集した、まさに「地球代表」と呼ぶにふさわしい編成になったわけです。 大切なのは、意図的に多様なメンバーを集めたわけでなく、「優秀なバスケプレイヤーが同じ目標のために集結した結果、多様なバックグラウンドを持つ人間が集まっただけ」だということ。 そのため物語の中でその多様性を誇示することは一切なく、ただありのままにいろんな人達が描かれていて、それが本当に心地いい……! それぞれが地球最強チームに加わるだけの実力がきちんとある。だから子供や女性という、物語において「苦労する弱者」という役割を任されがちな属性を持っていても、周囲に貶められる展開にはならない。 たとえば、孫娘・チャチェがマルにシュート勝負を挑んだとき、マルは子供に舐められ内心カッとするけれど礼を欠くことは決してせず、それどころか「世界一のシューターに挑戦する君に敬意を表して」と尊重する。 物語の鍵を握る最強のポイントガード・DTには、女性的な喋り方の男性が担当の医療スタッフとして付いていますが、彼のことをからかったり馬鹿にしたりする人は出てこない。 こんなふうに、物語全体がフラットな人間関係で出来ている。 「どんなバックグラウンドを持つ相手であろうと、相手に対して敬意を持って対等に接する」というフラットな姿勢が物語の根幹にあるからこそ、四半世紀前に描かれた作品でありながら鼻に付く箇所がまったくないのだと思います。 (あとポケベルや携帯電話のように、後の世の読者が古いと感じるガジェットが登場しないというところも重要かもしれない)   ### 中学生のときオッサンだと思ってた登場人物が年下になっててヤバい 漫画はNGという方針の家庭だったのであまり幼少期に漫画を読んでいないため、これが初めての「あのキャラが年下に…!?」体験でした。マルが出てきた瞬間にマンガを放り出してベッドに崩れ落ちました。 マル27なのかよ〜〜〜〜!!! 妻子いたよね!? えーっ! 27〜? 27かぁ……。そしてモーも27なのかよ……! 彼らの年相応の大人らしい落ち着きぶりと、自分の人間的な成長のなさを直視してしまい見事に打ちのめされました。シンプルにつらい。 でも結果として「自分もこんなふうにちゃんとした大人になりたい」と、気持ちを新たにできたのでよかったかなと思います。   ### 当時気づかなかった細やかな伏線・小ネタがヤバい **【今回読んで気付いたこと】** **・DTとヒデヨシだけが合宿初日からご飯をもりもり食べられた** **・地球チームのユニフォームの柄はただの模様じゃなくてひらがなの「ちきう」を図案化したもの** **・「ディフェンスを飛び越えるジャンプ」はマジで存在する** 2000年シドニー・オリンピックのヴィンス・カーターの人間越えダンク https://twitter.com/olympicchannel/status/956945965486870536?s=20 https://the-ans.jp/news/16338/ **・ラズーリは正体を明かすまでずっとユニフォームやビブスの下にTシャツを着ている**    ◆ ◆ ◆ 特にラズーリのシャツは、気付いたときゾワッとしたほど感動しました。 バスケの、昔ながらの肩ひもが細いランニングシャツ型のユニフォームは、脇ベロベロなので着ると胸が見えちゃうんですよね。 (なのでこのランニングタイプの場合、女子用ユニは男子に比べると襟ぐりが浅くて脇が詰まったデザインになっている) 現在は男女ともに、胸も脇も空いてないノースリーブのTシャツ型のデザインが主流となっていますが、90年代の作品なので地球チームのユニフォームはこのランニングシャツ型。 そのためチャチェは練習中にはビブスの下にシャツを着ているものの、正式な試合では着ていません(なので黒いインナーが見えてしまっています)。 しかし、試合中でも下にシャツを着ているキャラが1人だけいるんですよね。それがラズーリ。 最初から女子メンバーとして参加しているチャチェとは違い、ずっと正体を隠していた彼女はインナーを見られるわけにはいかず、ずっと下にシャツを着ていたんだな……とやっと気づきました。    ### ストーリーについて 『SLAM DUNK』といい『BUZZER BEATER』といい。一番いい所で寸止めして、これからも登場人物たちの人生は続いていくのだと、未来の様子を少しだけチラ見せする終わり方が本当に良すぎる。 うまく言えないのですが……未完に感じられるところであえてストーリーを終わらせるのって無茶苦茶切なくて美しい。 ……もしやこういう味わいを「未完の完」というのでしょうか。 茶室の次は徒然草に繋がってしまった。    ◆ ◆ ◆ ストリートチルドレンのヒデヨシは、地球チームに入ったことで、初めて衣食住が足りた状態でバスケが出来るようになります。 自ら勝ち取ったチャンスとはいえ、このように多大な恩を受けている状態に置かれ、初めヒデヨシは医者やコーチといった周囲の大人たちに従順に従っていた。 それはおそらく、ヒデヨシ自身が路上で育ったこと、学がないことに起因している。大人はストリートチルドレンのことなんて金と力でどうとでもできる。よくわからないけれど、こういう偉そうな、ちゃんとした大人の言うことは素直に言うことを聞いた方がいい――経験からそう考えたのではないか。 しかし驚くべきことに、自分をプレイで圧倒してみせたDTは一切医療スタッフの言うことを聞いていなかった……! これはヒデヨシにとって、価値観を変えるほどのものすごい衝撃だったと思う。 食うのにも寝るのにも困っていたストリートチルドレン時代、大人に反抗したところで、その先に待つのは死しかなかったはず。 元気いっぱい生意気で勝ち気なヒデヨシだけど、大人には従順にしたほうが良いと、無意識に刷り込まれていたのではないだろうか。 「大人に反抗して良いんだ」という気づきを得たヒデヨシは、DTの真似をして大人の言うことを聞かない反抗期に入る。 大人になった今、このヒデヨシが普通の子供のように健全に成長している姿にもうジーンときてしまいました。 ハリー・ポッターもそうですが、虐げられて育った子供が心から安らげる場所を手にしたことで、普通の子供らしく反抗できるようになるって本当にいいですよね……泣いてしまう。    ◆ ◆ ◆ ヒデヨシはチームを外されることを恐れ酷い頭痛を隠し続けていたわけですが、隠しきれない状況に追い込まれたときに頼ったのはDTなんですよね。 屋外でのシュートの癖とか、頭痛に苦しんでることとか。DTは最初っからちゃんとヒデヨシを見てたし、ヒデヨシもまたそのことに気付いてたという。 ふざけたところもあるけど頼れる大人のDTが導き、まだまだ子供のヒデヨシがそれを慕うという、兄弟のような関係。 そしてこの2人は物語の最後で、同じ道を別のスタンスで行くことになる。 家族との唯一の繋がりであるアイデンティティ守りゴル星人として宇宙リーグに挑戦することを選んだヒデヨシと、地球人たちに「地球人でも宇宙リーグに行けるという」という“夢”を見せるため地球人として臨む“Dream Time”。 ヒデヨシという少年が、仲間と尊敬できる存在と出会い、変わり、成長し、そして別れてまた新しい一歩踏み出す。    ◆ ◆ ◆ もうめっちゃ少年漫画だ……めちゃめちゃ少年漫画。 1996年にこの作品が描かれてから24年。 その間にJBLスーパーリーグができ、bjリーグと分裂し、JOCから資格停止処分を受け、2016年には悲願のBリーグという統一プロリーグが誕生。そしてついに2019年には男子バスケが44年ぶりとなるオリンピック出場を決め、八村塁選手がNBAドラフト一巡指名を受ける。 漫画も、スマホでタダで読むのが当たり前となった。 デジタル作画の普及もあって、漫画よりもスマホに適した「フルカラー縦スクロールコミック(=ウェブトゥーン)」という新しい形態のコミックが親しまれつつある。 そんな2020年だからこそ、このちょっとすごい「フルカラー縦スクロール“マンガ”」を読んでみてほしいなと思います。こんな感じでヤバいの連続なので。
ぶざーびーたー
BUZZER BEATER
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