こんなによいとは…
『運命とか信じるきみだから』『まりすのせいなる墓あらし』『成人式』『航海』は雑誌掲載時に読んでいたんですが、あらためて単行本で読んで、こんなによかったか…!?と愕然としてしまった。とくに『まりすのせいなる墓あらし』。ビームで読んだときに面白いなーと思った記憶があるけど、2回め読んだらなんか泣きそうになっちゃった。いい話すぎて。 『運命とか信じるきみだから』も、初めて読んだとき、あんまり意味分かんないなって思ったのに、2回め読んだら良い〜〜〜〜〜!!ってなってしまった。 なんなんだこの変化は!すごい。 ほとんど売野機子さんの漫画って読んでないんで、他と比べてどうっていう感想はかけないんですけど、これは他のも読まなくてはならんなと(なにから読めばいいのやら)。 あと、これもいつもがどうなのか知らないですけど、良いあとがきを書く方ですね。読者の読みやすさとかよりも、作者が思ったこと、書きたいことをまんま書いてますという気がして、それがむしろ良かった。日記みたい。
売野機子さんは長編ももちろん面白いのですが、改めてこの短篇集に収録されたエッジの利いた短篇たちを読んで、やはり格別だなぁとしみじみ思いました。
最初と最後こそ、連載したかったものの企画をどこにも受け入れられなかったことでコミティアで本にすることとなったという外連味溢れるSF「ロボットシティ・オーフェンズ」でスカッと楽しいです。しかし、その間に挟まれた作品、とりわけ「痴者の街で」や「成人式」などはビターな味わいで、順風満帆でない環境で躓いてしまった人にこそ刺さるであろう作品です。
物語を楽しむ必要がないほど現実が充実している人は幸せです。そのまま、世界に笑顔を増やしていって欲しいと思います。しかし、そうでない、笑えなくなってしまった人。そういう人に寄り添うのがこうした作品であり、その意義だと感じます。
売野さんには、人生や社会の理不尽に翻弄されて傷を抱えた少女を、その少女が傷を歯を食いしばって堪えたり痛みに喘いだり、克服したり圧倒されたりしながら生きていく時の生々しい息衝きをこれからも作品に宿して欲しいです。
なお、後書きで「〜しか勝たん」という表現を売野さんが使うようになっていたところもまたエモさを感じたところです。