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新装版 天帝少年 中村朝短編集

不思議で前向きな光溢れる短編集

新装版 天帝少年 中村朝短編集 中村朝
兎来栄寿
兎来栄寿

『部長が堕ちるマンガ』でお馴染みの中村朝さんがコミティア等で出された読み切り作品5本を収録して以前に刊行した『きみが小説家をみつけたら』。それに描き下ろしの「天帝少年」を加えてBEAM COMIX名義で出された短編集です。 感動的なお話からサスペンス展開のあるお話まで、シリアスさマシマシで届けられます。突き抜けたテンションの『部長が堕ちるマンガ』でしか中村朝さんを知らない方は、作品内容の違いに驚くかもしれません。 基本的には表紙の色が示している通り明るい未来への希望の光を謳う作品がメインを占めており、読後感は総じて良いです。 饕餮や件、座敷童子など民話や伝承に登場する想像上の生き物が扱われた作品が複数あるのも特色です。作者の趣味嗜好が溢れ出していて、それが心地よい短編集です。 表題作で描き下ろしの「天帝少年」もネーム自体は10年ほど前に描かれた作品だそうですが、綺麗に纏められた読み応えのある良質な一話でした。 絵柄の変遷も辿れるという意味で、貴重な一冊です。『部長が堕ちるマンガ』も大好きですが、中村朝さんにはこういったタイプの作品も今後も読ませて欲しいなと思います。

この世界の片隅に

漫画と映画を久しぶりに見返した!

この世界の片隅に
かしこ
かしこ

2025年のお正月にNHK広島放送で映画「この世界の片隅に」が放送されたのは、今年で原爆投下から80年が経つからだそうです。この機会に私も久しぶりに漫画と映画をどちらも見返してみました。 やはり漫画と映画の一番の違いはリンさんの描き方ですよね。漫画では夫である周作さんとリンさんの関係について触れられていますが、映画ではありません。とくに時限爆弾によって晴美さんと右手を失ったすずさんが初めて周作さんと再会した時に、漫画ではリンさんの安否を気にしますが、映画ではそれがないので、いきなり「広島に帰りたい」という言葉を言い出したような印象になっていました。映画は子供のまま縁もゆかりもない土地にお嫁に来たすずさんが大人になる話に重点を置いているような気がします。それに比べると戦時下無月経症なので子供が出来ないとはっきり描いてある漫画はもっとリアルな女性の話ですよね。だから漫画の方が幼なじみの海兵さんと2人きりにさせた周作さんに対して、あんなに腹を立てたすずさんの気持ちがすんなり理解することが出来ました。個人的には男性達に対してだけではなく、当時の価値観で大事とされていた後継ぎを残せない自分に対しての悔しさもあるのかもしれないと思いました。けれどもあえて女性のリアルな部分を描きすぎない選択をしたのは、原作である漫画を十分に理解してるからこそなのは映画を見れば明らかです。 久しぶりに漫画と映画を見返してどちらも戦争が普通の人の生活も脅かすことを伝えているのはもちろん、すべてを一瞬で無いものにしてしまう核兵器の恐ろしさは動きのある映画だから強く感じた喪失がありました。そして漫画には「間違っていたら教えて下さい 今のうちに」と巻末に記載されていることに初めて気づきました。戦争を知らない私達が80年前の出来事を想像するのは難しいですが、だからこそ「この世界の片隅に」という物語があります。どんなに素晴らしい漫画でもより多くの人に長く読み続けてもらうのは大変なので映像化ほどの後押しはないです。これからも漫画と映画どちらも折に触れて見返したいと思います。

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