甲子園の空に笑え!

初めて「クワドラプル」という言葉を覚えた『銀のロマンティック…わはは』について

甲子園の空に笑え! 川原泉
兎来栄寿
兎来栄寿

北京の冬季五輪では、羽生結弦選手が挑戦した前人未到のクワドラプルアクセルが大きな話題になりました。 私が「クワドラプル」という言葉を知ったのは、川原泉さんの『銀のロマンティック…わはは』でした。 川原泉ファンの間でも屈指の名作とされており、花とゆめコミックス版では単巻で発売されていたのですが、電子化されているのは文庫版『甲子園の空に笑え!』の中に収録されているものだけです。『川原泉傑作集 ワタシの川原泉』というシリーズの3巻にも収録されていますが、こちらも紙版書籍のみとなっており、電書派の方からは非常に見付かりにくくなっていると思うので、これを機に紹介しておきます (『甲子園の空に笑え』自体や「ゲートボール殺人事件」も面白いのですが、そちらは別で非常に熱いクチコミが書かれていますのでそちらをご参照ください)。 本作は、元々スピードスケートの選手だったものの競技中に怪我をしてしまいフィギュアに転向することになった影浦忍と、父親が世界的な天才バレエダンサーでありながら母から教わったスケートの方が好きで初のジャンプでトリプルアクセルを飛べてしまう才能を持つ由良更紗の二人がペアを組み、ペアスケートという道で戦っていく物語です。 この作品が書かれた1986年には、まだ公式戦でクワドラプルを成功させた選手は現れていませんでした。それから2年後、カナダのカート・ブラウニング選手が1988年の世界選手権で初めて4回転トウループを成功させることとなります。伊藤みどりさんがトリプルアクセルを決めて世界を沸かせて本格的なスケートブームが日本に訪れるのもその後の時期です。川原さんがフィギュアスケートを題材として選び、(「アーティスティック・インプレッション」など現在では採用されていない基準ですが) ルールの解らない読者にも懇切丁寧な解説を挟みながら、クワドラプルに挑戦していく様を時代を少し先取りして描いたのは流石の慧眼と言うべきでしょう。 本作のみならず川原泉作品に通底する特徴としてシリアスとギャグのバランスの良さが挙げらます。中でも、この作品は特に抜群です。時にメインキャラクターが酷い境遇であったり、理不尽が襲い掛かったりするのですが、抜け感のすごい絵柄によって悲しみが緩和されながらも心の奥底にはしっかりと届く作りとなっています。シリアスな絵柄と混ざり合い、しかし決めのようなシーンでも絵が抜けているところはあり、それでいて深い感動を与えられる……。こんなにも軽やかでありながら沁みるマンガを描ける人はそうそういません。「川原節」と言うべき、独特の読み味を実現しています。 元々はB6サイズ1冊に収まるお話ですが、その分テンポも良く充実感も大きく、何度も何度も読み返したくなる名作です。 時代は移り変わり、とうとうクワドラプルアクセルを現実に行う選手が現れたことに目を細めながら、クワドラプルという単語を聞くといつもこの作品の「ある見開き」と、最後の二人の表情を思い出さずにはいられないのです。

ニセコイ

ザクシャ イン ラブ

ニセコイ 古味直志
Nano
Nano

「いつか大きくなって再会したら、結婚しよう」 鍵を持つ女の子とかつてそう約束した、錠を持つ男の子一条楽。 10年経つ今でも、いまだにその錠は開かないまま。 高校生になった楽は、家がちょっとヤクザなだけあってか、周囲に好奇の目に晒されがらも普通の学校生活を送ろうとしていた。 が、しかし、それは転校生桐崎千棘によって脆く崩れ去る。 初日から千棘に飛び膝蹴りを食らわされたり、殴られたりと、散々。 おまけに大事な錠を、おそらく千棘に蹴られた時になくしてしまい、放課後二人で毎日探す羽目に。 錠はどうにか千棘が見つけ、それ以降お互い一切関わらないことを約束した。 これであの暴力猿女ともおさらば……と思っていたのもつかの間。 なんとヤクザの実家とギャングとの抗争を阻止すべく、楽はギャングの方の娘と恋人同士になれと言われてしまい!? しかもその娘が、あの桐崎千棘で!? というまあ超王道ラブコメ作品ですね。 10年前の約束の女の子は誰!?千棘と楽はこれからどうなるの!? 一話でもう面白い。 女の子はもちろん、個性的なキャラクターもたくさん出てきます。 私は舞子くんが好きです。 舞子くんのエピソードがめっちゃ好きです。 とりあえず舞子くんとあの子のエピソードまででいいので読んでくださいお願いします。

復讐の教科書

俺は正義マンだ!

復讐の教科書 河野慶 廣瀬俊
toyoneko
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「復讐の教科書」は,タイトルのとおり,復讐を扱った漫画です。 高校でひどいイジメにあって殺されかけた主人公は,屋上から落下した衝撃で,学校の先生と人格が入れ替わってしまう。 先生の体と立場を手に入れた主人公は,これを機に,いじめっ子たちへの復讐を始める…というストーリー。 「いじめ」シーンは1話で終わって,あとはずーっと復讐が続きます。 常識的に考えて,かなり酷いこともするのですが,何しろ主人公ははいじめで殺されかけた立場なので,理性に歯止めが効きません。正義感から,復讐はどんどんエスカレートしていきます。 しかも,いじめっ子の奴らは,性格も悪く,本当にろくでもない奴らばかり。こいつらは復讐されても仕方ないな,と思えてしまいます。 エスカレートした復讐の結果として,いじめっ子たちは次々に破滅します。 つまり,読者からすると,正義の御旗のもとに,主人公が,性格の悪い悪党どもに延々と過激な制裁を加えるのを見ることができるわけで,正直,エンターテイメント性は高いです(なお,いろいろ細かい突っ込みどころはありますが,そこは気にせず勢いで読みましょう)。面白いのです! …でも,少し冷静になって客観視すると,この,「復讐を楽しむ」気持ちって,実は「いじめを楽しむ」気持ちと大差ないのでは?とも思えてしまいます。 つまり,本作は,読者の嗜虐心を煽り,読者自身に「いじめを楽しむ」心を植え付ける,実に悪意に満ちた作品なのです。嫌な作品ですねえ。 …と言いたいところなのですが,実はそういう一直線な復讐が続くのは7巻の途中くらいまでで,そこからは,方向性が少し変わります。 方向性が変わったあとの展開も,別につまらないわけではないのですが,個人的には,延々と一直線に復讐を成し遂げた主人公が最終的には読者をも巻き添えにして破滅するような終わり方を期待していただけに,少し残念でした。 とはいえ連載はまだ続行中(コミックは既刊10巻)。今後の展開に期待します。

幼なじみがイケメンすぎる

イケメン×イケメンの両思い#1巻応援

幼なじみがイケメンすぎる 茶畑真
六文銭
六文銭

幼なじみがイケメンというので、男キャラ(あおい)がイケメンかなと思ったら、ヒロイン(いつき)もイケンメン(精神的に)だったという話。 ヒロインがイケメンというのは、いうなれば宝塚の男役のような、女性が女性に惚れる的な格好良さ。 そして、その二人、なんと両思い。 普段のわたしなら、爆発して欲しいなと怨嗟が渦を巻くのですが、 この二人は格別です。 というのも、あおいもいつきも お互いにとって、ふさわしい人間になるべく鍛えようとする という、なんとも古臭・・・もとい奥ゆかしい姿勢。 イケメンや美女に無条件で愛されちゃう~といったハーレム系作品とは一線を画します。 かくして、ふさわしい人間になるべく、二人の努力は続く。 この向上心、素敵ですね。 この流れから察するように、基本的にちょっと常人とはズレた二人の天然ボケ路線ですすむギャグテイストなのですが、これがなんともいえず素敵です。 二人とも、性格が真っ直ぐな才色兼備なので、邪悪な心をもった自分には眩しすぎて、ホント尊い。 二人が、本作のクラスメイトたちのいわゆる「推し」と化しているのもうなずけます。 恋愛よりもラブコメ的な展開ですが、絵もキレイで、今後が楽しみな作品です。