夏の魔物

これは決して夏のせいなんかじゃない #1巻応援

夏の魔物 ノムラララ
せのおです( ˘ω˘ )
せのおです( ˘ω˘ )

ララ先生は、個人的にコミティアの新刊の中で一番楽しみにしていた作家さんですが、遂にデビューされました! 私がララ先生の作風で、そして『夏の魔物』で一番好きな点は、 人物たちが抱える、あらゆる方向性を持った複雑な感情が、全て綺麗に表情に現れているところです。 微妙に変わったり、コロコロと変わったりと、1コマ1コマ全て違う表情をしている人物の顔に、我々は釘付けになります。 『夏の魔物』の中で、主人公の佐藤さんと村田くんが複雑な感情を持っているのは、枷になっていることがあるからです。 それは、絶対に覆ることのない、女性アルファと男性オメガの、オメガバースの関係性です。 オメガバースには、オメガが弱者、アルファが強者という、カースト制が存在します。 (詳しくはググっていただけると助かります…笑) オメガは、ある時期に入ると、無条件にアルファを惹きつけてしまうので、恋愛・肉体関係においてオメガに選択権や決定権はないものとされています。 『夏の魔物』の魅力は、 "絶対的なカースト制がある世界観のもとで生まれたこの感情は、自身の体質≒階級(アルファ・オメガ)を排除したものだと信じたい(信じている)" という想いから溢れ出る、主人公たちの言葉や行動です。 オメガは無条件にアルファを引き寄せますが、その中でも特別惹かれあったアルファとオメガの繋がりを「運命の番」などと言います。 しかし、本作は違うんです…! 2人はアルファだから・オメガだから惹かれあっているんじゃないんです。 佐藤さんは、第一話で村田くんに告白するために空き教室に呼び出しますが、 そこで初めて自身がアルファであること、また、村田くんがオメガであったことに気づき、 「この気持ちは、ずっと恋だと思っていた。でも違った!私がアルファだから!」と混乱し、取り乱してしまいます。 ここで取り乱してしまうのも、今までの村田くんに対する感情は本物の恋であったことを信じている故なのです。 なので、読んでいてとても苦しいシーンでした。 村田くんも、オメガだから佐藤さんを受け入れた(ナニがあったかはもう是非読んでください…!!笑)訳ではないという気持ちを打ち明けるタイミングが、また絶妙なんですよね…!! 彼は佐藤さんに対して、少し投げやりな台詞や行動をとるのですが、それはまるで、 "自分は決してアルファ=佐藤さんに支配される側ではなく、アルファとオメガの関係性とは全く無縁のところで、佐藤さんを想っている" ということを遠回しに言っているかのようです。 そんな村田くんのちょっと生意気な性格と表情、是非みなさんにも見て欲しいです。 絶対虜になります…!笑 本作は、2020年4月現在、コミックシーモアにて先行配信されていますが、今後各電子書籍サイトでも配信予定だそうです。 もしかしたら、「オメガバース」というジャンルに抵抗を持っている方もいるかもしれませんが、まずは試し読みをしてみて欲しいです…! もちろん、オメガバースを知らなくても楽しめます。 この作品のあの空気感に触れたら、読者は「夏の魔物」に取り憑かれること間違いなしです。 …余談ですが、過去のコミティア出展の際に、Twitterで大童澄瞳先生から絶賛のコメントを頂いたことのある作家さんなので、 作画や構成力はピカイチです!

思春期生命体ベガ

地球を守るのは、先輩のキス!?

思春期生命体ベガ 林家志弦
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

西暦2030年、地球は宇宙生命体の脅威に晒されていた。それに対抗するのは、一人の宇宙人・琴平ベガ(通称ベガ子)。闘い続ける高校生の彼女は、ある日急に能力の大部分を失う。取り戻す為に必要なのは……同じ部活の鷲峰先輩のキス!? ♡♡♡♡♡ 冒頭少しだけ試し読みされた方は「芸能人お料理番組百合」だと思うことだろう。これはこれでいい!しかし本編は、この料理番組が終わってから。 怪獣と闘う宇宙人・ベガ子の腕には光る石、それを囲むストライプ紋様。本来は巨大化し、光線で怪獣を倒す……要はウルトラ的なやつ。 しかし彼女はある時から、同じ料理部の鷲峰先輩が原因で力を失い、先輩とのキスで力をチャージしないと闘えないと言い出す。キスをせがむベガ子だが、力の事ばかりを言う無神経なベガ子を、鷲峰先輩は拒絶する。 一冊を通して、大事な事をすっ飛ばしている宇宙人ベガ子の「見えない本心」に鷲峰先輩は翻弄される。 何しろ相手は宇宙人。地球人の心の機微や物事の順序がすっかり抜け落ちていて、二人は見事にすれ違い、やきもきさせられる。鈍感な人に振り回される王道ラブコメが、もっとすっとんきょうになった感じ……これは普通でない面白さ! 「キス」を巡る二人の派手なボケ&ツッコミを笑いながら、想いが噛み合う至高の瞬間を待ちたい、そんな作品だ。 そして締めはまた別の(本編と関連する)芸能界百合だ!

γ―ガンマ―

ヒーローお悩み相談課、担当は姉妹百合!

γ―ガンマ― 荻野純
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

宇宙人の侵略をきっかけに、怪人や怪獣の脅威に次々と晒される近未来の地球。しかし地球人の中からは、それに対抗するヒーローも生まれ続けていた。 あちこちで繰り広げられる様々なヒーロー達の闘い。しかし、ヒーロー達にもそれぞれ悩みがあった……そんな彼らの相談に乗るのは、防衛軍相談課の北鹿姉妹。妹は、かつて最強ヒーローだった……。 ★★★★★ 特撮フィクションのお約束を打ち壊すように、怪獣も怪人もあちこちで同時に出現するし、それに対抗するヒーローも盛り沢山。ライダー系、ウルトラ系、戦隊系、マーベル系、魔法少女系……アベンジャーズもビックリの多彩さだ。燃える! 宿敵を倒して力を失ったヒーローは闘えないことに悩み、特殊能力を得たばかりの人間は力の振るい方に悩み、強力なヒーローも時に心折れ闘えなくなり……様々な事情を抱えた超人達は、相談課の世話になる。 それに対応する北鹿姉妹の妹は、無類のヒーローオタク。そして、かつて最強のヒーローとして活躍し、今は力を殆ど失っている存在。そんな彼女はヒーローの本心を突き、的確なアドバイスをするが、実は少しだけ残った力のせいで自分の呪縛を解けずにいる。そしてそんな妹を、姉は心配し、何が何でも守ると誓う。 妹の為にあろうとする姉と、苦しみ故に甘えずにはいられない妹の過剰に想い合う心は、甘いトキメキに近い感情を感じさせる。 暗躍する勢力に削られ続けるヒーロー達。その残酷さとグロテスクさ、黒幕の壮大な世界変革のストーリーは、現人類の終末を悲愴に演出する。 コメディもありながら、かなり暗く生々しい物語に引きずり込まれる。平和の無い世界で寄り添う姉妹の行く末と、希望の光として闘うヒーロー達の超パワーが炸裂するド派手なバトルを、手に汗握りながら見つめたい。 全てのヒーロー・特撮・魔法少女好きの心に、熱く・甘く・不穏に響く作品! (勿論百合好きにもね!)

ウダウダやってるヒマはねェ!

主役でもないのに、いちいちかっこ良すぎる天草銀。

ウダウダやってるヒマはねェ! 米原秀幸
華子
華子

ヤンキーマンガと言えば同じチャンピオンで連載されていた、クローズが若手俳優総出演で人気をはくしましたが、ワタシはこちら派でした。 箕輪道伝説が好きだったので、一巻が発売されていると知ったその日に近所の本屋へ走って予約に行った程です。 受け付けたのが凄いおばあちゃんだったので、タイトルを聞き取って貰えず、五回ぐらいレジで復唱した遠い記憶。 二回目くらいから、半笑いでした。 ヤンキーバディと言えばトオルとヒロシが定番ですが、こちらはナオミとアキ。 名前がオシャレ(?)。 かたや硬派で案外真面目なナオミと、ちゃらちゃら軟派だけど、本当は真面目なアキのコンビがヤンキー相手に全国喧嘩行脚(?) というかヤンキーなのか?最後は巨悪と闘うヒーローへとなって行きます。 喧嘩強すぎて。 ちょっと暑苦しい部分はご愛敬。 一番お気に入りだったのはアマギンです。 古いベンツのカブリオレに乗ってるし、ハーレーに乗ってるし、グリーングリーングラスオブホームがテーマソングなところも十九ごときで渋すぎる。 作者が一番思い入れのある登場人物なのかも知れませんね。 最終巻の最後のページは感涙しました。

ほしとんで

セリフや表情でピンボールしている俳句漫画

ほしとんで 本田
名無し

絶妙に面白かった。 「ガイコツ書店員 本田さん」を読んだときから 絵もセリフも面白いなあ、とは思っていた。 「ガイコツ~」では主人公がガイコツキャラだったからか、 基本的な表情は一定で、なのに感情の機微がすごく 伝わってくるのが印象的だったが、 今回は普通の顔のキャラなので、当たり前だが 表情が物凄く豊か。 なので感情というか心境がさらに伝わってくる。 全体的な絵も独特だし、セリフはあいかわらず秀逸。 「だれがそんなうまいこと言えと」 と思ってしまう面白セリフが連発で出てくる。 上手い会話のやり取りを「会話のキャッチボール」とか 言ったりする。 この漫画も会話を主にストーリーが進んでいくような漫画だし、 上手い会話をしているな、とは思ったが けしてキャッチボールはしていないなと思った。 言葉をキャッチボールのように互いに相手の胸元に正確に投げ、 聞くほうは脇をしめてガッチリとキャッチして、とかしていない。 各キャラが皆でピンボールをしている感じだ。 かつてゲームセンターに必ずあった、 パチンコのように鉄球を弾いて派手な音や光を楽しむゲーム。 言葉をピンボールのように結構な固くて重い弾と化して 色んな角度から緩急をつけて互いにあらぬ方向に 弾き飛ばしあいながらストーリーが進んでいく。 その様からはまさにピンボールゲームを眺めているような 楽しさを感じてしまった。 扱っているテーマは、地味の代表のような 「俳句」なんですけれどね。 で、そんなピンボールみたいな感じの、 読んでいて頭がグワングワンしてしまうような 振幅の激しいセリフのやり取りに翻ろうされるのだけれども 読み終えると俳句について「ああなるほど」と なんだか理解出来たような気になってしまう。 ほんとに妙な、凄く面白い漫画だ。

遥かなる甲子園

号泣保証

遥かなる甲子園 山本おさむ 戸部良也
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

自分は、漫画や映画のようなフィクションに触れてウルウルすること、実際に「涙を流す」ことの多いセンチメタルな人間なのだが、その多くは、あくまで個人的な心情にフィットして、だ。つまり、自分自身の経験や環境と類似するシチュエーションにいるキャラクターに、感情移入をして泣くのである。 だが『遙かなる甲子園』は、あくまで物語内のキャラクター、自分とはまったく異なった存在に作品を読むと同一化させられ、オンオンと号泣させられる。 自分でもおかしいんじゃないかと思うくらい、涙でページが見えなくなってしまう。 感動作という表現がこれほど相応しい漫画はない。 山本おさむはキャリアの長い人で、初期の青春物から近年の『そばもん』『赤狩り』まで、篤実な作風とはこのことか、という誠に得がたい才能だが、なんと言っても本作『遙かなる甲子園』『わが指のオーケストラ』『どんぐりの家』という、聴覚障害や重複障害の人々を描いた「人権三部作」とも呼び得る圧倒的作品群が素晴らしい。 漫画読んで泣きたい人は、ぜひ。 不思議と読後に心がすっきりします。 余談だが、山本には、漫画作品ではないが『マンガの創り方』という隠れた名著があり、これを読むと、その真率に創作に向かう姿勢の一端を知ることができる。簡単に言えば、彼の作品には常に読者への強い心配りがあるのだ。だからこそ、自分と関係のない存在にも、あれほど感情移入させることができるのだろう。(この本、古書でも高額で、あまり薦めにくいのだが)