キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~

人はやり直せる

キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~ 田房永子
野愛
野愛

ヒステリックにブチギレて暴力をふるう人は「いつだって自分が正しい」というタイプだと思っていました。 殴りたくて殴ってるんじゃないとか言うけどサンドバッグ探してストレス解消してるんだと思っていました。 なので、狂ってる人って幸せだろうな〜狂っちまいたいな〜なんて羨ましくなる日もありましたが、そうじゃないんですね。 自分が異常であることに気づきながら異常性を飼い慣らさない、これはかなり恐ろしいことです。 ヒステリックな母親や高圧的な元彼に抑圧されて生きてきた筆者が旦那を怒鳴ったり殴ったりしてしまうことに悩み、どのようにして改善していったかを描いたエッセイです。 旦那を殴ったり物を投げたりしながらもいつのまにか子どもができていたので、どうか子どもは殴らないでくれ!と思いながら読んでいました。 子どもに矛先が向いたらまずいという感情がいい方向に進んでいったので安心しましたが、筆者のように考えられない人もいるだろうな……。 自分の異常さに気づきながらも見ないふりをして暴走していく人もいるでしょう。愛しているからと配偶者や子どもを殴ったり怒鳴ったりする人もいるでしょう。 そういう人たちにこの作品が届くといいなと思います。 自分を見つめ直すのに遅いも早いもないのだなと感心させられる作品でした。

家族、辞めてもいいですか?

子は親を選べないとは言うけれど・・・

家族、辞めてもいいですか? 魚田コットン
六文銭
六文銭

この手の子供の虐待(ネグレクト含)的なエッセイって、読むのもキツイのわかっているのですがなぜか読んでしまうんですよね。 今までは、 「自分はまだ恵まれているということを確認したい」 という意図があったと思うのですが、最近は 「自分は子供にこんなことしない抑止力」 のために読んでいるんだと、本作を読んで気づかされました。 なので、読むたびにツライ気持ちになると同時に、家族に対して こんなことは絶対しないようにしようという強い気持ちになります。 本作も、主人公も幼少期の寂しさは目を覆いたくなります。 まだ保育園くらいの小さい時に朝起きて家族の誰もいない状態とか。 子供にとっては恐怖でしかないのに、それができる親の神経を疑うし、可哀想すぎる。 ネズミが出るような汚部屋の環境、親の離婚、そして再婚によって振り回される様(再婚相手に性的虐待をうけたり)、どれも親の都合でしかない。 著者である主人公にはこれが「普通」なんだ思い込んでいるのも悲しい。 そんな幼少期の凄惨な状況にもかかわらず、ご自身も家庭をもち子供に対して、かつての親のようなことを自分はしないと決意する様が、上記の私の考えとリンクしました。 同じようなことをしてしまうかもと悩み苦しみながらも、前向きに決断していった主人公に勇気づけられました。 最初のほうは胸糞悪く、悲しい気持ちでいっぱいになりますが、不思議と読後感は悪くないのも良かったです。 著者を応援したくなりました。

小春と湊 わたしのパートナーは女の子

このふたり甘すぎにつき #1巻応援

小春と湊 わたしのパートナーは女の子 ひあるろん&達磨
兎来栄寿
兎来栄寿

このふたり、カスドースよりもグラブジャムンよりも甘い! しかも驚くべきことに実話ベース! 10歳差の相思相愛な女性同士による日常のイチャイチャや惚気が縦横無尽に繰り出されるお話。百合姫にはそんなお話は無数にありますが、こちらは何と作者のひあるろんさんと達磨さんの実際のエピソードが描かれているそうです。 年上の小春は湊のことをハチャメチャにかわいいと思っており、年下の湊は小春のことをハチャメチャにかっこいいと思っていて。一見すると外見的には逆なのでは? と思えてしまいそうなそのギャップもまたディモールトベネなのですね。 お互いへの矢印が強すぎて、知能が低下し胸焼けしそうなほどの甘々さ加減なのですが、気持ちはとてもよく解ります。ささやかな喜びですら潰れるほど抱き締めるというのに、こんなに大きな喜びが怒涛のように押し寄せる状況ではキャパオーバーになってしまうのも致し方なし。 事実は小説よりも奇なり。創作でやったらやり過ぎではないかと思うようなことも、むしろ現実でこそ行われてしまう。世界の存続と崩壊を天秤にかけている神様すら、この世界もまだ捨てたものじゃあないと思ってくれるであろうレベルです。 ふたりでいるからこそ世界が美しく輝いて見えるし、そんな関係をおばあちゃん同士になっても続けていたいと願える。何と素晴らしいことでしょう。ずっとずっとお幸せでいて欲しいです。 基本的に、ひたすらイチャイチャしてるのを眺めて幸せをお裾分けしてもらう感じですが、「馴れ初め」のエピソードは一味違ってまた別種の良質な栄養素を補給できます。SNSや配信文化のある時代ならではの、そうした文化にも助けられて育まれたふたりの想いの萌芽と成長はとてもとても良いものです。 仲睦まじい女性ふたりのやり取りを見て元気を得られる人にお薦めです。

すてきな退屈日和

日常のささやかな愛しみ #1巻応援

すてきな退屈日和 宮田ナノ
兎来栄寿
兎来栄寿

校正の仕事に加えて書店員としても働いている夏子の退屈だけれどすてきな日常を描いたこの作品には、取り立てて大袈裟なことではないにせよ日々の片隅にある微かな心の動きがたくさんピン留めされています。 何でもない日常の何とも言えない「おかし」を掬い取って描くことは、本作でも少し登場する『枕草子』の時代から行われてきた営為で、私たち日本人の心の奥深くに根付いているものかもしれません。 お母さんが持ってきてくれたレモン水の黄色と、庭に咲く紫陽花の青とのコントラストが美しく映えていたこと。 プール開きした瞬間に雨が降って昼ご飯だけ食べて帰ることになったけれど、そこで食べたカップ麺が何だかとても美味しく感じられたこと。 まったく同じ体験ではなくとも、記憶の奥底にある幼き日の思い出を蘇らせてくれます。今は無きとしまえんのプールの後に食べたエビピラフは、最高に美味しかったなぁ……。 また、飲食店でたまにある「たっぷり3種のチーズ&フレッシュバジルのパスタ」のような長い名前のメニューを「バジルのトマトパスタを」のように適度に略すのも解ります。頑張ってフルネームで言っても店員さんの方が略すこともままありますからね。 そして、校正という仕事について描かれている部分も興味深く面白いです。私も文章を書く仕事もあり、人並み以上に興味があるところで、日常に職業病が出てしまうのは少し解ります。「どんなに頑張って気を付けて誤植や人のミスはあるので気にしない」という精神性には少し救われる思いです(最大限気を付けますけども)。 地味に好きなポイントは、買ったコートすべてが短命に終わってしまう夏子に対して「『深夜食堂』にそういう人いたよね」という友人ゆきちゃんの絶妙な返しです。「私は海原雄山か」などオシャレ美人がちょいちょい繰り出してくるグルメマンガネタ、良いです。流石は『ハラヘリ読書』の宮田ナノさん。 巻末には本作に登場した実在する書籍の一覧もあり、読書好きの方はより楽しめそうです。