カワイイなんて聞いてない!!

ストレスフリーで感じられるギャップ男子の魅力 #1巻応援

カワイイなんて聞いてない!! 春藤なかば
sogor25
sogor25

少女マンガの"かわいい年下男子"が大好きな女子高生の河原まどか。 ただ現実の彼女は、実家の食堂の手伝いもあり、なかなか新しい出会いがありません。 そんな折、その実家の食堂に1つ年下の男子・志倉百喜がバイトとしてやってくるところから物語が始まります。 初対面のまどかに対する志倉の態度はとても悪く、第一印象は最悪。 しかし、志倉のその態度が“ただ女性を警戒していただけ”ということが判明し、それと同時に彼の可愛らしい素顔が顔を出してきます。 この作品、出会った瞬間の印象は最悪だった無愛想なイケメン男子のかわいい内面が徐々に見えてくるというギャップが魅力の作品ですが、志倉が無愛想だった理由が序盤に説明されて、それによって彼の本来の性格の良さがすぐに読者に伝わる作りになっています。 また、志倉が女性を警戒する理由についても特に暗い過去があるような描かれ方をしておらず、作品に対して余計なストレスを感じることなく、純粋に志倉のキャラクターのギャップ、そしてまどかとの関係性の変化を楽しむことができる作品です。 1巻まで読了

新婚だけど片想い

黒髪クールイケメン男子高校生が垣間見せる優しさにやられたい人へ

新婚だけど片想い 雪森さくら
兎来栄寿
兎来栄寿

『箱庭テレパシー』、『微熱男子のおおせのまま』などの雪森さくらさんがなかよしで連載している新作です。 ヒロインの皐月は頭脳明晰・才色兼備の女子高生。旧名家の家柄ではあるものの経済的に苦しい家の事情で、IT社長の息子であり囲碁七段のプロ棋士である久遠と政略的な婚約を果たし、高校生同士にして同棲を開始。 しかし、「氷の王子」の異名を持つ久遠は家でも囲碁一筋で皐月に対して超塩対応。部屋にも常に立ち入り禁止の札を掲げて付け入る隙も与えてくれない……というところから始まります。 ただ、久遠は基本冷たいんですが、そこは少女マンガですので極稀にプレミア感のあるデレの瞬間をくれるわけですね。否応なくキュンキュンしてしまいますね。 少し現実離れした設定、クール9割デレ1割の絶妙なヒーロー、申し分のない甘々さ。こういうのですよね、こういうのが良いんですよ。ヒーローが強すぎて当て馬が完全に噛ませ犬になっているところも明快爽快。 雪森さんの絵もかわいくてカッコいいですし、なかよしの王道恋愛マンガとして求められている成分が必要十分しっかりと詰まっています。

ほろ宵セレナーデ

真面目系クズなヒモ男の絶妙なリアルさ

ほろ宵セレナーデ 玉置勉強
兎来栄寿
兎来栄寿

顔は良いのに社会生活を送るのに少し向いてない若い青年が、ダブルワークの女性に体目当てで養われる物語。 絶妙なのは、青年が基本的な気質は真面目であるにも関わらず、純粋に仕事ができないのとコミュニケーション能力にも長けていないことで、自分にもっとできることはないかと日々罪悪感を覚えながらヒモ生活を送るところです。女に稼がせて自分は悠々自適、というヒモとは一線を画します。 しかしながら、そんな中でもナチュラルなクズっぷりも各所で発揮していき、総体として表出する人間らしさのリアルな描写に感じ入ります。 単巻で綺麗にまとまっており、読後感はとてと良いです。夜の街に漂う世の中の酸い・甘いをしみじみ味わいたい方にお勧めです。 巻末で触れられている、ゴリラスロウ名義での『ツインズシング』も面白いのですが、玉置勉強さんはこういったテイストの作品で一際輝きを放むと感じます。 勤め先のバーで起こる、「ワリヤス」に頼み忘れてドリンクが足りなくなってしまうことや、少し空気の読めない客への対応など、バー的なお店をやっていた身として共感を覚えるシーンも多々ありました。

青い花

恋の舞台裏は、みっともない。

青い花 志村貴子
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『青い花』の中で一番印象的な人、と問われると、私は実のところ、主人公の奥平あきら(あーちゃん)や幼馴染の万城目ふみ(ふみちゃん)よりも、ふみちゃんの先輩の杉本恭己を思ってしまう。 杉本先輩は所謂「王子様」。あらゆる女子の好意を一身に浴びる彼女は、ひと時ふみちゃんと付き合うものの、すぐに破局する。 彼女を印象付けるのは、完璧な仮面の裏に潜ませた、どうしようもなく幼い片想い。そのみっともなさは、美しい外面と落差がありすぎる……まるで派手な舞台と、その舞台裏の埃臭さのような。 舞台裏は暴かれてしまえば、表の煌びやかさを失わせる。しかしそれを観る事もまた、興味深い。舞台裏の必死さとツギハギな工夫、人間ドラマは、飾った美しさとはまた別な良さがある。 ◉◉◉◉◉ 演劇部の活動を通じて、しっかり者だがどこか幼いあーちゃんは、裏方からメインキャスト、部長として大きく成長し、幼さを捨てて変貌していく。一方ふみちゃんは、自分を振った先輩を叱り、あーちゃんに対する恋心から逃げないと覚悟する強さを得る。 しかしそんな二人の裏には、やはり美しくない物が隠される。 成長したあーちゃんだが依然恋心が分からず、それでもふみちゃんを傷つけたくなくて付き合う事に苦しむ。そしてふみちゃんは、この恋で傷ついてもいいと思いながら、いざ傷つくと泣いて執着する。 真摯で優しい二人の物語だが、決して美しい所ばかりでは無い。こうありたいと願う美しさの裏に、ままならなさと必死さを隠して、それはある時、ふと見えてしまう。しかしそんな彼女達の覚束なさを見る時、私は演劇公演の舞台裏を覗く様にドキドキし、剥き出しの心に同調する。うん、そういうこともあるよね、と。 心は不可解で、美しいのにみっともない。そう『青い花』は繰り返し描く。私はそんな美しさもみっともなさも、どうしようもなく好きなので、何度でも『青い花』を手にするのだ。

狂人関係

諸行無常の響きあり

狂人関係 上村一夫
野愛
野愛

天才浮世絵師・葛飾北斎という圧倒的な存在を軸に、弟子・捨八や娘・お栄らの生活を描いた作品。 捨八と彼を取り巻く女達の姿が艶っぽく、移ろいゆく四季と相まって心を掻き乱されるのです。 捨八への想いを内に秘めたまま彼を見守るお栄と、派手好きで大胆なお七、正反対のような女2人がなんとも魅力的。 どちらも激しくて悲しくて、どうしようもないくらいに「女」として描かれています。 個人的に一番感嘆したのはお栄の手の描写です。冬は北斎や捨八の世話を焼く手があかぎれだらけになり、だんだん暖かくなるにつれてもとの白い手に戻っていく。綺麗になった頃にはまた厳しい冬がやってくる。 季節の移り変わりとともに、お栄という女の強さと儚さがこの描写に凝縮されているように思います。 手が綺麗になっても、男と女が関係を持っても、浮世絵が完成しても、終わりに向かっているだけである。失われていくだけである。 激情に満ちていながらも、根底に流れる諦念のようなものが美しく儚い作品でした。純文学に出会えました。 決して理想的ではないけれど捨八に惹かれてしまうのは女の性だし女の業ですね。狂おしいほど好きです、捨八。