明日、私は誰かのカノジョ

定期的に心を抉られます

明日、私は誰かのカノジョ をのひなお
あいざっく
あいざっく

現代のニッチな層が抱える闇や悩みにスポットライトを当てる大きなきっかけになったと思います。 私も登場人物に共通する部分が多々あるので、 (整形や歌舞伎町など諸々。。。) 共感というよりは、定期的に心が抉られました。 例えば、萌ちゃんが楓にされていた言動は明らかに営業なので (分かる人には分かる!) 友達と心を痛めながら鑑賞しておりました笑 読む人によって色んな感情で読める、面白い作品だと思います。 「夜王」など歌舞伎町などをテーマにした作品は今までにもよくありましたが、 ゆあてゃなどのキャラクターが可愛くて印象に残りやすい、 パパ活やレンタル彼女など現代で注目され始めているテーマも取り上げている、 SNSが売上を左右するようになり、SNSで有名なホストがで一般人の目にもつくようになってきたタイミングでホス狂を取り扱ったなどのポイントが 明日カノがヒットした大きな理由なのかなと思います。 個人的には、今までのどの話よりも最新シリーズがリアルで共感もできるのかなと思いますが、 皆が求めているのはゆあてゃや萌ちゃんが出てくる辺りの、馴染みのない世界だけどリアルに感じるようなものなのかなとも思います。

娚の一生

不器用な大人の恋愛模様

娚の一生 西炯子
ゆゆゆ
ゆゆゆ

子供の頃は、大人になったらもっと自由かと思っていたけど、どうやら大人になっても、大人という枷のせいで、なかなかストレートにハッピーエンドとはいかないものらしい。 「娚の一生」は、バリキャリ街道を突き進み良い年齢になった女性・つぐみと、つぐみよりさらに年上の男性・海江田の恋愛物語。 恋愛ものは10代20代の子がキャピキャピ言っているものだと思っていたので、初めて読んだときは30代と50代という年齢設定に衝撃を受けた。 その年齢設定のせいか、なんだかリアルな感じがする。  歳を経ていても美男美女だったり、当時だと外国のIT企業なみのフルリモートワークを許可されたり、海江田先生のようなすてきな男性が存在したりと、リアルな感じは薄いのに。 海江田先生のシブい艶やかさにメロメロになりつつ、先生に愛されている恋愛下手のつぐみちゃんを応援しつつ。 読み進めていった先、物語がどのような展開になるかは、読んだ方だけのお楽しみ。 私の場合、良かった良かったったという思いと、エエエエエという困惑が混在した。 ちなみに、表紙イラストが次巻表紙につながる形式の単行本なので、並べると圧巻。 ただ3巻で突然引きのイラストになり、どうみても破廉恥で、買うのが少し恥ずかしかったのを覚えている。

ぼっち死の館

ヒューマンドラマの極致 #1巻応援

ぼっち死の館 齋藤なずな
兎来栄寿
兎来栄寿

生きて、死ぬ。すべての人間に例外なく訪れるその最後のときを、どのように迎えるのか。 40歳で漫画家を志してデビューし、現在76歳の齋藤なずなさんが数年前から少しずつ描き連ねた連作短編が単行本化されました。 「現在、読者のニーズは多様化しているにもかかわらず、『青年誌』『青年コミックス』という大きな呼称ではシニア読者に届けきらない時代になってきました。そのため、人生のフロントライン(最前線)に立つ70代以上の読者に向けたレーベルとして、新たな売場を創設していく必要性を感じ、今回『ビッグコミックス フロントライン』レーベルを誕生させました」 として「老いや介護、看取り、終活、終の棲家など、シニア世代向けの題材」を扱った新レーベル「ビッグコミックス フロントライン」の作品です。第一弾の『父を焼く』から始まり、読み応えのある作品を送り出してくれています。 内閣府のデータによると、1980年には65歳以上の高齢者を含む世帯数は800万世帯ほどで、その内単独世帯は90万世帯ほどでした。それが現在では、昨年厚生労働省により公表された「2021(令和3)年国民生活基礎調査の概況」によると、65歳以上の高齢者を含む世帯数は1500万世帯で、その内単独世帯が742万世帯と約半数を占めます。今後ますます高齢者を含む世帯、とりわけ単独世帯は増えていくことでしょう。 本作では、かつて「ニュータウン」と呼ばれた街のとある団地を舞台に、主に高齢者を中心にした群像劇が描かれます。1話完結型ですが舞台や登場人物は共通しており、それぞれの人物の語られる深度の違いや、異なる視点から見たときに感じられるものがまさに団地での人付き合いに似た手触りを覚えさせられます。現代的な、基本的に隔てられていながらも薄く繋がっている時代における「最期」を意識したお話たちは、来るべき未来のお話として切実です。 中心となっている人物のひとりは一人暮らしでマンガを描いている女性で、同じく団地暮らしであるという筆者の実体験や考えが多分に反映されているのでしょう。 自分から見れば羨ましく見える状況が、その人にとっては悩みの種であったり。 表には何の苦労もなく生きているように見える人が、裏ではとても辛い想いを重ねていたり。 人にはそれぞれの幸不幸、天国と地獄があってそれは簡単に外から推し量れるものではないということをさらりと鮮やかに見せてくれます。 自分は売れた経験もなく、若い才能はどんどん出てきて、苦労して描いたネームも没になり、それでも僅かな国民年金では生きていけないので体調不良を押して次から次へと死ぬまでマンガを描き続けねばならない。しかし、そんなことすらもある人からは「辛くても本気でやらなくちゃいけない、誰でもできることじゃない自分だけの仕事があることが羨ましい」と言われます。こういう所が本当にグッときますね。 どのお話もそれぞれの良さがありますが、1話のガラケーからスマホに変えて「フェースブック」を始める男性のお話がとても好きです。SNSは負の側面が取り沙汰されがちですしそういう部分もしっかり描かれますが、ひとりで暮らしていても繋がりを持てることや、アップする写真を撮るためにそれまで見向きもしなかったものに触れることで生まれる豊かさは良いものです。このお話は構成も良く、ラストの美しさに感じ入ります。 試し読みの冒頭から情報量が多く、最初は少し取っつきにくさも感じるかもしれませんが、本当に素晴らしい作品で広い世代に届けたい1冊です。

胚培養士(はいばいようし)ミズイロ~不妊治療のスペシャリスト~

おかざき真里さんが描く「不妊治療」 #1巻応援

胚培養士(はいばいようし)ミズイロ~不妊治療のスペシャリスト~ おかざき真里
兎来栄寿
兎来栄寿

夫婦5〜6組の内1組は不妊治療を受けていて、14人にひとりは体外受精で生まれていて、治療件数が世界で最も多く、しかし最も妊娠率の低いという超少子高齢化社会の日本。 『阿・吽』という傑作を完結させたおかざき真里さんが新たに挑むのは、そんな日本社会における不妊治療とそのスペシャリストたち。重いテーマを選ばれたなと思いますが、おかざきさんが描くのなら絶対に素晴らしい作品になるだろうという確信もあり、連載前から期待せずにはいられませんでした。 『コウノドリ』を読んでいる方であればご存知の通り、この世のすべての出産は奇跡です。残念ながら望んでいても授かることができなかったり、授かっても無事に産まれてくることができなかったりすることもままあります。 女優としてのキャリアと、子供を産みたいという願望が対立してしまい葛藤しながら妊活をする45歳の女性。 突然、無精子症を宣告された男性。 卵子凍結を希望する女子高生。 それぞれの、さまざまな理由を抱えた人々を通して、命をその手で扱う胚培養士の仕事の全貌が描かれていきます。「卵子凍結」と一言で述べられますが、それがどのような工程で行われているのか。綿密な取材をされたことが伝わってくる詳らかな描写は、現代に生きる者として一読の価値があります。 不妊治療に関しては、自分が死ぬ程苦労していることを他人があっさり成し遂げているのを目の当たりにして「何で自分だけ」と相対比較により苦しむことも、往々にして起きます。 「人は自分の見たいものしか見ない」 「見たいものだけ見られればどれだけ良いか」 という言葉が重いですが、見据えて立ち向かわねばならない現実が美化されず真摯に描き連ねられていきます。 特に、男性は不妊治療を「男である自分とは関係のないもの」と思ってしまっている方も少なくないでしょう。そういう方にこそ読んで欲しいと思います。本日1巻発売ですが、2巻で描かれることになるであろうエピソードは男性も考えさせられる人が多そうです。 『コウノドリ』と共に多くの方に読んで知って考えてもらいたい作品です。自分や家族が不妊治療を行なっていなくても、知っておくことで変わるものは必ずあります。