私たち家族に必要な時間

地味だけど良作の予感 #1巻応援

私たち家族に必要な時間 こじまなおなり
六文銭
六文銭

読んでまず、すごく丁寧につくっている作品だなという印象でした。 自分が好きな作家八十八良先生(「不死の猟犬」「ウワガキ」)のようなやわらかい絵柄で読みやすく、昨今のストーリー漫画に多い、飽きさせないようにやたらとヒキをつくり「がち」なものが、この作品にはない。 (ない…は言いすぎたが、無理がなく、仰々しくもない。) 悪く言うと地味なのかもしれないが、家族を題材とした内容とよく合っており、個人的に好感がもてる。 さて、大まかなストーリーだが、地元でワルだった父親と娘の二人の話。 母はすでに他界しており、いない。 素行不良だった父親のせいで、周囲から孤立してしまった娘は、いつしか父親を恨み、避けるようになる。 父親も父親で「過去は変えられないから」と、昔に何があったか話そうとしない。 そんな父親の煮え切らない態度が原因で大喧嘩をし、父親が出ていってしまう。 数日後、帰ってきたときは、なぜか赤ちゃんになっていて…という話。 赤ちゃんになった父親とともに現れた、死神を自称する猫サンシロウ。 なんでも彼がミスったことが原因で、父親の肉体までもリセットしてしまったという。 しかも、成長速度が早い状態で。 そんな感じで、子供に戻った父親と娘の、少し変わった親子の物語。 面白いなと思うのは、娘に育てられてワルだった父親はどう変わるのかということと、結果娘と父親の関係はどうなるのかというところ。 過去は変えられないという父が、子供からやり直し、何かを変えていくのか。 父親がいなくなったことで、少しづつ明らかになる、子供になる前の父親の素顔と、それに伴って起きる娘の心境変化。 親子関係を中心に面白くなりそうな仕掛けが色々あり、どう転ぶのか楽しみです。また娘が現実を受け入れながら、学校と育児をこなして成長していく姿は、素直に応援したくなります。 大変で、愚痴るときもあるけど、何だかんだ頑張ってしまう姿は、リアリティあってグッときます。 久しぶりに完結まで続いて欲しいと思った作品でした。

アニウッド大通り

アニメ屋父ちゃんと家族の80年代

アニウッド大通り 記伊孝
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

Dr.スランプにうる星やつら(1981年)、マクロス(82年)、キャプテン翼やクリーミィマミ(83年)、そして風の谷のナウシカは84年……僕らが夢中になった80年代の、あの時のアニメ。 今になって気付くのは、それらを創っていたのは、実は誰かの「父ちゃん」だった、ということです。 アニメ屋の「父ちゃん」がいる日常って、どんなだろう……。そんな興味を漫画にしたのが、この『アニウッド大通り』です。 ★★★★★ 主人公の父は、TVアニメの演出家(監督)。かつてガンダムの名作回に関わり、今では有名作品を手掛ける父は、あまり家に帰らないけれど、家では子煩悩で愛妻家。子供と自作のゲームで遊び、TVを楽しみ、普通の父親が教えないようなことを教えてくれます。 そんな父を持つ主人公の小五男子は、みんなとバカをやりながら、ノートに次々と漫画を描く日々。そして父の仕事を見て、アニメや映画への憧れを持つようになります。 友達との遊びや二年生の妹との毎日は、懐かしい80年代の団地の風景。しかし妹は物凄く絵が上手かったり、父譲りの壮大な制作を兄妹で行ったりと、普通とはやはり、ちょっと違う。 こんな風に未来のクリエイターは生まれるのかな……と、ちょっと羨ましくもあり。 主人公の日々には、今までにない出会いがある一方、周囲に少しの変化があり、おバカ男子ではいられない寂しさが次第に訪れます。 時を同じくして父も、作家性が世間に受け入れられず、干されるように。「映画」に思い入れがある彼は、「巨匠が投げ出した映画作品」の代役を提示され、心が揺れます。そして……。 ★★★★★ よくよく見ていると、出てくる作品から年代がある程度絞られてきて、リアリティがあり、歴史物語としても楽しめます。 書籍版の巻末に入っている漫画は、作者の記伊孝先生が宮崎駿監督の「東小金井村塾」で学んだことを記したエッセイ。作者のギリギリ具合と現場の熱気が面白い! 最後に、この作品は記伊孝先生の個人出版。kindleで出版したものを星海社が書籍にしています。kindle版は2020年2月現在11巻に対して、書籍版3巻はkindle版6巻まで収載とのこと。単行本の早期対応を待望!