カテナチオ

凡才が醜く天才を屠る異色サッカー譚 #1巻応援

カテナチオ 森本大輔
兎来栄寿
兎来栄寿

『ヤンジャン』で最近始まった2つのスポーツマンガが「天才」と「凡才」を描いた物語として対をなしており、どちらも非常に面白いです。 片方は『ダイヤモンドの功罪』。そして、もう片方が昨日1巻発売となったこの『カテナチオ』です。『ダイヤモンドの功罪』は既にSNSでもかなりバズっていますが、『カテナチオ』も単行本発売を機にもっともっと盛り上がって行って欲しい作品です。 圧倒的な天才を描く『ダイヤモンドの功罪』に対して、『カテナチオ』の主人公・嵐木八咫郎(あらきやたろう)は1P目から ″才能とは、美しさだ 才能のない俺は、醜い それでいい″ と吐露する圧倒的な凡才です。いくら努力しても、「天才」と呼ばれる人種には届かないと自覚しています。それでも、八咫郎は尋常ではない勝利への執着心と「10年以内に欧州のビッグクラブに移籍して欧州の頂点を獲るために人生を捧げる」という高過ぎる目標を持っており、またそれを実現するために1秒も無駄にしないように必要なすべての努力を断行する狂気的な精神力も持っていました。 そんな彼が、元々のポジションであるトップ下から ″CB(センターバック)とは サッカーの神に愛されなかった凡人が 持てる「すべて」で 才能を握りつぶす場所を言う″ と定義されるセンターバックにコンバートされ、躍動していく物語となっています。 面白いのは、『ダイヤモンドの功罪』では主人公がただ楽しみたいのに天才であるが故に勝利に拘る環境に身を置かせられてしまい周りを狂わせ孤立していくのですが、この『カテナチオ』においては八咫郎は凡才ではあるものの勝利に拘りすぎるあまり周りに理解されず孤立していくという、非常に対照的でありながら相似の構造になっているところです。八咫郎もサッカーセンスは並ではあっても、目標に向かって努力を続ける才能で言えばある意味で突出していて天才的なので軋轢が生じてしまうのは必然ではあります。 ともあれ、弛まぬ努力に加えてダーティな手段をも厭わず天才に抗っていく凡才主人公というのは珍しく、そもそもサッカーマンガで守備的なポジションの選手が主人公である作品も少ないので、数多のサッカーマンガがある中でも新鮮な楽しみを覚えられます。弱者が圧倒的な強者を倒すのは純粋にワクワクしますしね。 また、上手く行う反則はプロの間でも当然のテクニックであることや、観戦を前提としたスポーツとして抱える難点などサッカーという競技の本質的な部分にも肉薄していくところも面白いです。これが他のもう少しクリーンなスポーツだと違うと思うのですが、ある程度のダーティさが第一線でも許容されているサッカーであるからこそ、そこまで主人公へのヘイトも溜まらず成立する内容です。 昨年のワールドカップ開催中から推していたのですが、1巻発売を機に今後ブレイクしていって欲しい作品です。 読切版と1話を読み比べるのも乙です。 https://tonarinoyj.jp/episode/3269754496708401682

ハイパーインフレーション

クセ強めで内容も面白い漫画好きな人は垂涎の一作!

ハイパーインフレーション 住吉九
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

未読の君、まだ読んでないなんてもったいすぎるぜ…!! 読んでる奴らとはダチになれそうだ!! なぜなら俺たちはルークさんを知っているから!! 俺たちの救世主!!ルークさん!!はわわ……! と、読んだあとちょっと変なノリをしてみたくなるほどにこの漫画は魅力的です。 時代設定は我々の地球でいうどのへんか分かりませんが、17、18世紀あたりの技術レベルでしょうか?もっと前なのかな? ヴィクトニア帝国という大国があり主人公はその帝国に搾取される側の植民地に住む少数民族で、金貨や経済などあるもののわりと原始的な生活を送っていた。 幼少期に両親が奴隷狩りに殺害されてから7年後、12歳になったルークは奴隷狩りに対抗すべく知恵を使い騙したり工夫して帝国と商売しお金で安全を買おうとしていた。 しかし、その矢先に再び奴隷狩りにあってしまい、自らも捕まり大好きな姉を連れ去られてオークションにかけられてしまうことになり、殴られ朦朧とした意識の中で神にあい、とある能力を授かる。 本来、年頃の人間が当たり前のように享受しているのが「生殖能力」だが、神はその代わりにルークに授けたのが「金を生み出す能力」だった。 しかも、まだもろもろ不明だけど帝国の紙幣、しかも全て通し番号が同じ偽札…。この能力と知恵を武器にルークはどう戦っていくのか! お姉ちゃんを取り戻すことはできるのか!? という話です。 第1話→https://shonenjumpplus.com/episode/13933686331749163174 話の設定や展開、ハッタリや知恵比べのようなギャンブル的な部分はもちろん面白いのですが、合わせて注目してほしいのはこの作品の根底に流れるセリフ運びのテンションやリズムとキャラたちのノリ!! 初期のジョジョを彷彿とさせる! そこにシビれる!あこがれるゥ!!的な香りがするゥ!! みんな大真面目なので最初は真剣に読んでたんですが、途中からもしかしてこれって笑って読んでもいいんじゃないか?というシリアスな笑いに思えてきますし、実際そこはかなり意識されてるんじゃないでしょうか。 生殖能力の代わりに授かった能力なので、金を生み出す時にドクッドクッってなるのや、頬を赤らめてちょっと汗かいてはぁはぁしているのもおもしろい…。 そのクセの強さに、やみつきになってしまう自分が愛おしいです。 画像:第1話57pより