野愛
野愛
1年以上前
ごく普通の女の子が悪を成敗する物語はたくさんあるけれど、どれもあまりリアルじゃない。 可愛いキラキラの衣装はおそらく動きづらいだろうし、武器なんてすぐに使いこなせないだろうし。 打撃天使ルリも、普段はごく普通の女子高生である。ルリは打撃人類として生まれ、悪に対する怒りを拳で成敗するのだ。 なんの理由があってかルリは大体全裸だし、両親は普通の人間だし、ルリが打撃人類である説明は何もされない。 歪んだ正義感の警察やら死んだ恋人似の悪人やら、むちゃくちゃな悪に出会すたびに彼女は「だしゃあ!!」と拳を貫く。 この作品だってもちろんリアルじゃない。全くもってリアルじゃない。 でも、ルリの境遇や心理描写には妙なリアルさがある。 正義とは何か、何のために拳を振るうのか。女という性に向けられる視線、生きることへの渇望など。 普通に恋もするし、迷ったり傷ついたりもする。そんなルリが怒りを込めて「だしゃあ!!」と拳を振るう瞬間、勧善懲悪だけでは語れない、自らのカタストロフごと破壊されるような感覚に襲われるのだ。 むちゃくちゃさ加減を笑って読んでしまおうなんて斜に構えた心までルリにぶち壊された気がした。
六文銭
六文銭
1年以上前
いつの時代でも三国志ってアツいんですけど、漫画の世界も同様。 「龍狼伝」「蒼天航路」今だと「パリピ孔明」いろんな形で三国志をベースに味付けをした作品が、たえず何かしら出ているような気がします。 本作も、そのうちの一つ。 単純に三国志の物語をなぞるだけでなく池上遼一✕武論尊節ともいえるハードボイルド的独特な世界観が、三国志でも大暴れです。 特筆点は、劉備が日本人としていたり(正確には、劉備だった人間を殺して、劉備を名乗る日本人)、趙雲が女性だったり、張角が生きていたり、これも独自の設定をいれて読者をわかせてくれます。 三国志の熱狂的なファンの人は、この改変に怒られるかもしれませんが、 自分は全くアリです。 歴史作品は、むしろこういう想像力かきたててくれるほうが好きだったりします。 本当は何が起きたかなんて誰もわからないわけだし。 (もともと、池上遼一✕武論尊のタッグが描いた名作「HEAT-灼熱-」も好きだったというのも一理あります。) ベースは史実通りすすんでいるのですが、上記の様に独自の解釈で変化球つけてくるので、まずは横山光輝「三国志」なりで大本の全体像を把握してから読むと、 「お、そうきますか」 と楽しめる1作だと思います。 最初にコレ読んで三国志を知ろうとするのは注意が必要です。 それ以外は呂布を筆頭に、池上遼一の描く漢気(おとこぎ)溢れたキャラが、三国志に登場する野心に燃えるキャラたちと非常にマッチして、物語を彩ってくれます。 数ある三国志漫画に一石を投じた異端的な作品で、いつもの三国志に飽きた人には是非おすすめしたい作品です。
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
1年以上前
岡田索雲先生の妖怪読切シリーズの新作。 今回のお話も、現代社会の一場面を切り取ったような話を妖怪に語らせていて社会批判とユーモアを合わせたような作りになっていてすっごくよかったです。 https://comic-action.com/episode/3269754496533565977 「病欠」のもじりで、社会に傷つけられ無遠慮な言葉をかけられて引きこもる猫又で「猫欠」。 周囲はどこまでいっても無責任に声をかけ、かき乱し、期待し、勝手に失望し、あまつさえ罵倒し、ときに狼狽え、去っていく。 度々出てくる腕の傷が痛々しく映る。 本人が動き出せるまで静観し、ただ寄り添うことの難しさ。 かの喜劇王チャップリンは言った。 「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」 箱の中の猫に深く共感して読めば悲劇で、最後はどんな形であれ一歩踏み出しているという点で希望が差してくる。 しかしすこし引いて見れば、最後のシーンまで「箱から出ない」ということを引っ張って引っ張って、前の場面で暗い中から一瞬顔を覗かせ「箱から」一歩踏み出すかと思ったら、踏み出したけど思ってたのと違う形、というきれいなオチをつけていて、意図的な笑いの型を作っているので思わず笑ってしまう。 いや一歩踏み出すのは素晴らしいことだけど箱ごとなんかい!!出てはこないんかい! とツッコミたくなる。 メッセージ性とユーモアを高度に同居させている岡田索雲先生は素晴らしいです。 https://twitter.com/kittyomz/status/1446323518493233159?s=20