兎来栄寿
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2023/05/03
世界線を越える想いを観測する #1巻応援
もしも人生の「あの瞬間」に、別の選択肢を選んでいたらどうなっていただろうか…… そんな風に考えたことがある人は多いことでしょう。 新歓コンパで出逢った日から片想いをしていた春呼(はるこ)さんと絶妙に仲を深めながらも想いを告げる瞬間を逃し、最終的に他の男と結婚されて血の涙を流す男・夢路浪(ゆめじろう)。そんな彼が、別の世界線に飛んでかつての後悔を取り戻そうとする物語です。 タイムリープややり直し系の物語は昨今数多くありますが、多くの作品は過去に戻りまったく同じ状況に対して違う選択肢を取って未来を変えて行くものが多いです。 ただ、本作においてはあくまでパラレルワールド、並行して存在する世界なので、そのやり直したい瞬間に戻ったとしても、そこは数多の分岐を経て辿り着いた無数の世界線の内のひとつなので、自分の記憶通りではなく相手の性格や外見もランダムに変化しているというのがミソです。 テセウスの船のような問題ですが、一体何がどこまで残っていたらそれは自分の好きな相手だと言えるのか。SF的な、哲学的な問題もはらみながら純粋な想いが主人公を駆動させ続けていきます。果たして、サルがシェイクスピアの小説を書くような世界線ガチャの当たりを引けるのか。個人的に、アカシックレコードを可視化したようなシーンが好きです。 また、そんな夢路浪のことを昔からずっと気に掛け続けてくれた、幼馴染のサトイモこと里井桃がかわいいです。前作の『恋、ヒトゴトに及ぶ』でも見られたような、絶妙な片想いに心を擽られます。 恋愛ものが好きで、そこにSF的要素が加わったものは更に好きという方にお薦めしたいです。
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2023/05/02
現場の苦しみを理解されない悲劇が減りますように #1巻応援
一部の人は、タイトルを聞いただけで胃が痛くなりそうな小説のコミカライズ作品です。 現場のことなど何も解っていない上の決定によって、現場が大混乱に陥るのは古今東西どこにでもある話ですね。 「何事もその基は人です 人を得る国はさかんになり 人を失う国は亡びましょう」 とは『三国志』の周瑜公瑾の言葉ですが、会社にも同じことは言えるでしょう。人を大事にする会社は栄え、そうでない会社は亡びます。 本作も、主人公・佐藤愛が新社長のリストラによってタイトル通り解雇されてしまったことで亡びへの一途を辿っていきます。愛が1人で管理していたシステム運用に、後任の社員が「最低8人は必要です」と訴えるも新社長は「前は1人でできていたものがそんなに掛かるわけない、エンジニア特有の大げさな方便だ」とバッサリ切り捨てるさまは現実ならそら恐ろしい話ですが、お話として見る分には『アリとキリギリス』のキリギリスの末路を見ている気分です。音速で有給消化に走り転職していく人事の姿や愛を信頼していた同僚がこぞって辞めていく姿も滑稽で、この後どのように社が転覆していくか、社員なんていくらでも代わりの利く歯車だとしか思っていない経営者がどのように慌てふためくかは見所のひとつとなっています。 一方、会社を辞めた愛は新たに幼馴染のスタートアップにジョインし、そこで新たに「真のプログラマ塾」を開いて、迷える社会人たちを救済していきます。超ブラックな環境下で死ぬ気で努力し続けても報われなかった愛ですが、そこで培った知識と経験で多くの人を救っていくことになります。普遍的な悩みを持つ受講生たちへの実践的なアドバイスや、それによって彼らが生活を立て直し人生のハリを取り戻していくさまは、読んでいて心が軽やかになります。個人的に本作で最も好きなポイントはここです。 「通常業務でも手一杯なのに同じ人が同じ質問を何度もしてくる  質問するのは良いけどせめて少し感謝の言葉が欲しかった  どんなことでも『やってもらって当たり前』はダメ」 という節なども、強く頷き共感する人が多いところではないでしょうか。そして、それが何もビジネスの場だけでなく家庭においても大事なことなど、解ってはいても実践できていないという人も少なからずいることでしょう。 本書を読むことで日々の行動をほんの少しでも改善して、仕事や家庭で昨日より良い日を迎えられる人が増えたらいいなと思います。また、そうでなくともマンガを担当する伊於さんの上手さによって非常に読みやすく、物語としても純粋に楽しめるものになっているのでお薦めです。
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2023/05/01
お嬢様×百合×麻雀=小宇宙 #1巻応援
『咲-Saki-』を読み始めたころ、世間でもっと麻雀が流行ったら良いなとは思っていましたが、Mリーグも大きな盛り上がりを見せ女流プロ雀士が大活躍し、ここまで流行るようになろうとは想像していませんでした。嬉しい誤算です。 そんなご時世もあってか、また新たな美少女麻雀ストーリーが登場しました。 麻雀打ちはどこか狂っている人が多く、そんな狂った雀士が編み出した常にお嬢様言葉で話さないとペナルティを受ける「お嬢様麻雀」という狂気的な遊びがありますが、本作では正真正銘本物のお嬢様による麻雀が行われます。 本格的な麻雀マンガとは趣を異にしており、麻雀を題材としながらも登場人物は皆麻雀初心者。ゆるくふわっとした雰囲気で、麻雀のルールを知らない方でも十分に楽しむことができます。 グレードの高いお嬢様が集う高校・鳳女学院に、疎外感を覚えながらも通う庶民の主人公の冴が、学院内でのトップオブトップお嬢様である千星(ちせ)と麻雀を介してお近づきになるところから物語はスタート。徐々に仲を深めていきながら、千星を慕う乃々花を始め、魅力的なキャラクターたちもゆっくりと増えていきます。 きらら系らしい、キャッキャウフフの男性が登場しない楽園的百合百合しさと麻雀の掛け合わせが好きな方には間違いないであろう作品です。 主人公である冴が、学院に入ってからのみならず昔から疎外感を覚えていた理由が語られ出したとき、この作品全体がギュッと締まって魅力がより輝き出した印象です。麻雀が対人ゲームであるというところの良さが、お話に上手く作用しています。 余談ですが、あとがきマンガによると筆者が麻雀マンガの企画を持ち込んでから担当編集がすぐに麻雀のルールを符計算まで覚えてくれてミスを指摘してくれたと言うエピソードが素晴らしいなと思いました。どこかの十数年連載している大人気麻雀マンガシリーズの担当編集にも頑張ってほしいなと思ってしまう今日このごろです。
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2023/05/01
羽鳥さんは抱かれたい #1巻応援
人はみんな愛し、愛されたい。 でも、それが簡単には叶わない。 叶ったら苦労しない。 だから、不器用に藻掻いて、傷ついて、傷つけてしまう。 大学生のころにマルチにハマリ、友人もお金も失ってしまったOL・羽鳥美鈴が主人公。趣味はAV鑑賞。配信サイトの新着通知が来るように設定までしているガチ勢です。そして、自分では未経験のセックスに憧れを抱いています。 美鈴の上司・藤堂は、イケメンで最近課長に昇進もしたデキる男。しかし、過去に女性向け風俗でセラピストをしていたという秘密がありました。その秘密に気づいた美鈴が、藤堂に抱いて欲しいと懇願するところから始まる物語です。 美鈴がセックスをしたいと望むのは、その行為が誰かと深く心から繋がることのできる他に代替のない行為だと想像しており、誰とも心を通わせたことがない美鈴はそれに憧れているから。しかし、そのために「元そういうお仕事」の上司にお願いするというのは、自分でも「普通に最低なのでは…?」と自問している通りでこれが男女逆だったらセクハラどころでは済まない案件でしょう。 ただ、藤堂も訳あり感を全身から溢れ出しており、かつ美鈴の想いが切実であることも伝わって課題をクリアできたら美鈴の願いを叶えることを約束してきます。果たして、美鈴は望みを叶えることができるのか……。互いの状況的に簡単にくっつけるような関係でもなく、ふたりの行く末が気になるところです。願わくば、傷だらけで真面目に生きてきた美鈴に真の幸せが舞い降りてきて欲しい……。 本作は脇役たちも良い味を出しています。特にイケ美女先輩の神埼さん。仕事はできるけどサバサバしており厳しくも優しそうな良い姉御キャラなんですが、一抹の闇を感じさせる描写に彼女が裏に抱えているものも気になります。 電子限定ですので、書店では見つからないためご注意ください。
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2023/04/30
令和の読むドラッグ爆誕 #1巻応援
レジェンド級のベテラン作家すらもデジタル作画に流れて行きつつあるこの時代に、フルアナログでこんなマンガが描かれようとは! 異質で異様で異彩を放って止まない独特の画面は、衝撃的です。古き良き技術を凝らして描かれた絵は、あまりにも現代の他作品とは違った空気を纏っています。狂気的な、執念のような点描による描き込みの凄まじさ。世界、宇宙、次元を横断してトぶ『ウルトラ・ヘヴン』を髣髴とさせるようなトリップ感を呼び起こされます。 そして、そのサイケデリックですらある画に呼応するかのような、夢想感たっぷりのストーリー。どこか破綻しているようで、筋や諸々の設定はしっかりとある夢を視ているときのような感覚に陥ります。 私は嬉しくて堪りませんでした。まだこんなマンガに出逢えるんだ、マンガの世界はやはり無限だなあ、と。 素晴らしいのは、筆者の佐藤達木さんが50歳の新人というところです。67歳の新人として話題になったハン角斉といい、マンガはいつからでも描けるし描いて良いのだと勇気を与えてくれます。 極限まで研ぎ澄まされた、この作品でしか味わうことのできない世界を垣間見てみてはいかがでしょう。
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2023/04/29
闇を欲する本能にフィットする男と女の話 #1巻応援
Twitterで大人気にして謎の描き手である東京日記さんの作品が単行本になりました。Twitter掲載作品の他に、今回の刊行に当たって3割ほどが描き下ろしとなっています。 若い男女間におけるアレやソレやの掌編が、数多く載っています。 普段からバリバリにマンガを読んでいる層というよりは、『明日、私は誰かのカノジョ』や『深夜のダメ恋図鑑』や『サレタガワのブルー』などが好きな20〜30代女性がコアなターゲット層になっているであろう作品です。 「意味がわかると怖い話」的な部分もあり、ちょっと考察したり言及したりなる部分が多分に含まれていること、また男女関係が絡んだ内容は多くの人の自分の経験からの共感や反感を生むものになっていることもあいまってSNSとの相性抜群です。諸々計算してやっていると思うのですが、しっかり20万人以上のフォロワーができており効果は抜群です。 ある種の救われなさや、愚かさ、歪み捻じ曲がった感情もたくさん描かれますが、逆にそうした部分もシンプルに明るく正しいものよりも陰鬱なものや不条理なものをどこかで求めてしまう現代人の荒んだ心にもフィットしています。あるいは、より深い闇を見ることでどこか自分の境遇に安心する心理にも働き掛けているのかもしれません。 描き下ろしの(東京日記さんの作品としてはかなり長い)短編も、実に「らしい」お話でした。 絵はかなりラフで背景なども最低限ではありながらも、これらのお話にはとてもマッチした画風なのも東京日記さんの良いところですね。 Twitterではアシスタントやバックスタッフの募集もしており、今後活動の幅を広げていきそうな予感がして楽しみです。
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2023/04/28
煽り合うお嬢様からしか得られない栄養素がありますの #1巻応援
今日、ラジオ出演で六本木ヒルズに行ったんですよ。 そして台本を見たら、インターバル部分に「♪星座になれたら」(『ぼっち・ざ・ろっく』)って書いてあったんです。 もう、神かと。最高かと。 内心ノリノリで、マンガ紹介も捗りました。 ただ来月のライブ、会場がキャパ3000人らしく戦争が過ぎると思うのでもう少し大きいハコでやってくださったら皆幸せだったのでは、と思わずにはいられない今日この頃いかがお過ごしでしょうか。 というわけで、『ぼざろ』効果もあってロックが盛り上がっている丁度いいタイミングに、この作品の1巻が発売となったので推さずにはいられませんわ! 店頭で帯を見たら、帯もはまじあきさん激推しとなっていて激熱ですわね! 本作はタイトル通り、お嬢様たちが熱情を懸ける対象がロックとなっておりますの。 にわかお嬢様でありながら、それを隠して学園一のお嬢様である「高潔な乙女(ノーブルメイデン)」の称号を得んとする主人公の鈴ノ宮りりさ。 そして、りりさをそのドラムテクニックで誑かしてセッションに巻き込む黒鉄音羽。 彼女たちの奏でる音が交わるとき、物語は幕を開けますわ! パッションとテンション全開の演奏シーンの熱さもさることながら、その後にそれ以上の勢いで繰り広げられるとてもお嬢様とは思えない煽り合いが最高ですわね。 『ゲーミングお嬢様』や『対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~』などでも見られますが、普段は優雅でお淑やかなお嬢様が荒々しい行動と共に口汚く相手を悪罵し、餌を獲るのに成功して勝ち誇るゴリラのように荒振り猛っている様は大変に趣深いものですわよね。ましてや、黒鉄さんの方は黒髪ロングストレート。ここからしか得られない栄養素を、バッツンバッツンに補給できますわ。 このマンガ、驚愕(パネ)ェですわ……! お嬢様学校でバンドを組むという時点で情熱(エモ)いのですが、二人だけですら激熱なところに今後新メンバーが加わっていったらどんな化学反応が起きるのか……楽しみで仕方ありませんの!
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2023/04/27
センシティブなシリアスからグルメコメディまで #1巻応援
先日、『最果てのセレナード』の記事で触れたひの宙子さんの短編集です。2021年から2023年にかけて『フィール・ヤング』に掲載された5つの作品が収録されています。 ただ、それらの作品の温度差たるや最近の三寒四温な気候に匹敵するほどです。作者自身があとがきで言及しているように「振り幅すごい」。でも、そんなところもまた短編集の味わいの良さの内であろうと思います。 14歳になった主人公が「はる」に手紙を送るシーンから始まる表題作である「やがて明日に至る蝉」は、一見青春群像劇のように見えます。が、読み進めていくとただのそういったお話ではなく、あるテーマに取り組んだ作品であることが解ります。苦心しながら描き切ったであろうことが伝わってくる内容ですが、相変わらず構成力が高いなあと唸らずにはいられませんでした。 続く「折って切らない」も、『フィール・ヤング』らしさを感じる1篇です。マイノリティの生き難さ、とりわけ一番身近な存在である家族から理解を得られない辛さは特別大きいものですよね。最終ページのメールの文面にとても共感してしまいました。同じような共感をするであろう、かつての友人たちが元気に平穏に暮らせていることを祈ります。 「ホタテガイの女」と、「タラバガニの男」はひの宙子さんがギャグやグルメに振り切っても素晴らしい作家であることを示すお話です。1コマ目のセリフが "あなた七輪持ってるでしょう" から始まる男女の物語、端的に大好きです。ここで描かれる、最高のホタテガイやタラバガニのシズル感たるや、並のグルメ番組が裸足で逃げ出しそうなレベルです。色も、音も、匂いも、存在しないはずのモノクロの画面からすべてが伝わってきます。最高のホタテガイを最高に美味しく食べるために、ジョルノ・ジョバーナのように敬語でまくし立てるところの愛しさよ。読んだら貝焼き味噌という犯罪行為を犯したくなること請け合いです。 総じて、お薦めの短編集です。連載の『最果てのセレナード』や、4年前に発売された『グッド・バイ・プロミネンス』とあわせてぜひ。
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2023/04/26
山本さほさんが暖かく語る家族の思い出 #1巻応援
『岡崎に捧ぐ』や『無慈悲な8bit』でお馴染みの、山本さほさんが自らのルーツである父と母を中心に、姉や兄など家族との思い出を綴ったエッセイ作品です。 非常に温厚でマイペースで多趣味な父親・てつおと、心配性で過保護で無趣味な母親・よしえの夫婦は、一見非常に対照的。ただ、逆にそうであるが故に上手く折り合いをつけながら家庭を回している様は読んでいてほっこりします。端的に良い夫婦で良い家族だなぁ、と読んでいて随所で感じられます。そして、そんな両親の姿に憧れをいただく山本さほさんの気持ちもとてもよく解ります。 「普通の家庭」の、その「普通」というのは決して当たり前に存在するものではなく、どこまでも掛け替えのない稀有で大切なものなんですよね……。 ただ、そんな羨まれるような家庭であっても昔は母親から常に将来を心配されてあれこれ言われるのが非常に鬱陶しく厭であったり、姉や兄とは上手くいっているとは言い難かったり、悩みを抱えて生きてきたことが綴られます。たとえ側から見てどんなに幸せそうであっても、人にはその人なりの痛みや苦しみがあるものですからね。自分では経験できず想像がし難いとしても、こうした作品を読むことを通して他者の喜怒哀楽に少しでも近づくことは意義のあることであろうと思います。 10話の「温泉とサラミ」などは、山本さほさんの良さが非常によく出ている回で好きです。山本さほさんの思い出を通して、忘れていた自分の過去にあった瞬間のことが脳裏に蘇りました。 読み終えた後、今自分がこうして生きていられるのもこれまでの人生で助けてくれた沢山の人のお陰であることを改めて噛み締めずにはいられない、そんな1冊です。 山本さほさんがそうしたように、生きている内に、できる内に、できるだけの恩返しもしていきたいものです。
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2023/04/25
犬たちも人間たちもかわいい #1巻応援
初々しい爽やかなラブコメ 100点 犬たちのかわいさ 10000点 優勝です。 元気でパワフルな小型犬・門十郎(ポメラニアン♀)と、おっとりした大型犬・つぶ(ロットワイラー♂)の対照的な2匹。 そして、それぞれの飼い主である男女ふたりもまた対照的な性格で、愛犬を通した交流が始まってから次第に仲良くなっていきます。 うちの子は門ちゃんほど活発ではないものの、同じ女の子の白ポメ飼いとしては、頷けるシーンや共感するシーン多々でチェック不可避の作品でした。 10話の、家に帰ると笑顔で駆け寄ってくる白ポメの姿は、うちの子とそっくりで思わず破顔してしまいました。全体的に、犬の所作がリアルかつ愛情たっぷりに描かれているのが伝わってきます。 家に愛犬がいるから、仕事で理不尽な仕打ちを受けても明日を頑張れるのだというところなども非常に解像度高く描かれています。 「うちの子しか勝たん」、毎日観たい……。 丁度、Twitterでは飼い犬や飼い猫の「#初めて撮った写真」というタグが流行っているようで、思わずうちの子の最初の写真を眺めて長生きしてほしい……と願うことしきりでした。 人間のラブがコメる姿も、非常にかわいく初々しくて、応援したくなるふたりです。つぶちゃんと門ちゃんなら多頭飼いになってもきっと大丈夫だと思うので、末永く幸せになって欲しいです。
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2023/04/24
ドイツに行った気分で #1巻応援
『少年の残響』や『ヒーロー探偵ニック』の座紀光倫さんの新作です。 筆者が実際に大人になってから3ヶ月のドイツ留学をし、ハイデルベルクで生活した実体験やドイツ各地への取材によって描かれる、ドイツを舞台にしたロードムービー的な作品です。 24000枚以上のマイセン磁器タイルを張り合わせた長大な壁画「君主の行列」が有名なドレスデン城であったり、ライプツィヒの中央駅やメードラー・パッサージュなど有名な観光名所も数多く描かれていきます。読んでいるだけでも、ドイツ旅行をしている気分になれて楽しい作品です。そして、旅といえばモノだけでなく人との出会い。旅先で出会うからこそ、普段は話さない・話せないことでも語れてしまう不思議。座紀光倫さんは『少年の残響』のときから変わらず少年の描き方が良いなと思います。彼らがこの旅を通してどのように変化していくのか、成長していくのか、目的は果たせるのか。楽しみです。 なお、単行本だとあとがきマンガが8ページもあり、しかもかなり赤裸々で面白く良い内容でしたので、こちらだけでもお薦めしたいです。『少年の残響』が連載終了となってしまっていたのと時を同じくして結婚を前提に人生で生まれて初めてお付き合いをしていた方にフラれてしまったことで失意のどん底に陥ってしまっていたという筆者が、人生を大きく変えることになった海外旅行のお話となっています。 2022年には、来場者7万5千人のアニメイベントも行われたということで、ドイツでもアニメ・マンガが大人気で嬉しいですね。この作品も、ドイツ語に翻訳されて現地の方々にも楽しまれてほしいですね。 余談ですが、私は『聖闘士星矢』や『ジョジョ』や『ARIA』、それとミッフィーちゃんが好きすぎてヨーロッパ旅行に行った際にはギリシャとイタリアとオランダを最優先にしてしまいましたが、ドイツも非常に行きたい国の1つでスケジュールにめぼしいところはピックアップしていました。シェーンブルクの古城ホテルであったり、筆者も旅行に行ったというノイシュヴァンシュタイン城は人生で一度は行きたい場所です。そして、ビールを飲みながら焼きたてのパンやカリーブルストを食べたいです。
兎来栄寿
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2023/04/23
生けとし生きる推しを推す者に幸あれ #1巻応援
オタクは、好きですよね。推しの過剰供給を突然に受け幸福と歓喜に満ち満ちて、慄き震え、悶えのたうちまわり、涙を流し、語彙力を失い、奇行に走り、人の形も失い、生と死の境を彷徨い、やがて天へと還るオタクの姿を見るのが。 そんな尊死し続けるオタクたちの姿を摂取できる、読んでいてとても楽しく幸せな作品がこちら、『死がふたりを分かつとも』の天色ちゆさんの新作です。 学校一のイケメンである河合くんと、美少女である栫さんのカップリングを至上の推しとし、日々供給される栄養素によって幸せになり続ける音成くんが主人公の物語。面白いのは、音成くん自身もまた超絶美形であり、同担のクラスメイトである遠巻さんから実はリア恋の対象になっていること。そう、タイトル通り関係性が連鎖しているのです。 イケメンなのに名前が「河合(かわいい)」、美少女なのに「栫(かっこいい)」なのにも理由があり、ふたりの見せる様々なギャップは音成くんや遠巻さんでなくとも拝みたくなります。天色ちゆさんの絵力によるところも大きいですが、メインキャラのヴィジュがとにかくいいのがいい。 ″立てばムービー 座ればスチル 歩く姿は劇場版″ ″テトリスじゃねぇんだよカップリングは…!!″ ″母校が聖地″ などなど、パワフルな言の霊が溢れているのも良きです。 「天下泰平」と書いて「推しカプの平和」 と読む。ンっン〜、名ルビだなこれは。 昭和の少女マンガのようになってるモブたちや、宗教画になるシーン、BL好きで弟の創作を褒めてくれる3つ上の姉、察しの良い友人・旗谷くん、各回のノリノリの煽り文、音成くんより遠巻さんの方が身長が5cm高いところ、かわいいヒロイン顔して盗撮してる遠巻さんなども好きです。 そして、1巻最後の引き。今後もますます楽しみです。
兎来栄寿
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2023/04/22
あらすじを読まずに1巻を読んでみて欲しい。 #1巻応援
『グッド・バイ・プロミネンス』で鮮烈な才気を惜しみなく発揮して現れた新星・ひの宙子さんの注目の連載作品がついに発売されました。 公式のあらすじが物語の内容をかなり克明に書いてあるのですが、ネタバレを気にするタイプの人で初めて読む方はあらすじは避けてから読んだ方がより楽しめるかもしれません。 冒頭の8ページがフルカラーから始まりますが、その僅かなページだけでも「上手さ」が伝わってきて、その後の面白さを予感させてくれます。小夜の顔を、表情を印象的に見せる無言の大ゴマの魅力たるや。ウユニ塩湖の上でピアノを弾いているような扉絵も、関係性や特性・属性を暗喩しているような構図でありながら、シンプルに美しく心惹かれます。 ピアニストの転校生小夜と、そのピアノ教師の娘であり小説家になる夢を持つ律の何とも言えない関係性の萌芽、そして花笑み。しかし、そこに小夜の母親のただならなさが一抹の不穏として去来し、物語を攪拌していきます。 ひの宙子さんの、名前を付け難い感情や想いを絵ですこぶる巧みに表現する力が素晴らしいです。加えて、マンガとしての構成も秀逸で初連載としては非常にレベルが高いと思わされます。 25日に発売予定の短編集『やがて明日に至る蝉』と併せて、強く推したい間違いなく面白い作品です。
兎来栄寿
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2023/04/21
王道と覇道が激突する漫画道 #1巻応援
4月の激推し作品の1つです。 「超絶怒涛 バッチバチの漫画道!!」 という1話最後のナレーションがこの作品の本質で、その言葉通りに毎回滾らせてくれる熱い漫画家ストーリーです。 主人公は世界1億5000万部の超人気作家・花神臥龍。現実で言えば『ワンピース』の尾田栄一郎さんでしょう。そんな臥竜が、誰の画風も完コピしてしまう「カメレオン」の異名を持つアシスタント深山忍と体が入れ替わってしまい、自身の地位や功績を乗っ取られてしまうところから物語は始まります。 カメレオンは「変色竜」とも書きます。紛い物の竜であっても、やがて本物の竜となり竜vs龍の対決が描かれていきます。 『聖闘士星矢』の老師曰く、「亢竜悔いあり」。昇り詰めてしまった龍はそれ以上高みへ至ることはできず、後は落ちるのみ。臥竜は高みへ達してはいても、ある意味では執筆している大ヒット作やその責任に縛られており、その先はある種そこまでの成功の延長線上、既定路線とも言える状況でした。 ところが、「よわくてニューゲーム」のような状態でまたLV1からのリスタートを求められる状況となり、逆に「自分の最高のヒット作を超える」、「そのために今まで以上に成長する」という新たな目標が生まれたことにより臥竜は燃え盛ります。その熱さがたっぷりと伝わってきて、シンプルに「面白い!」と思える作品です。 ライバルキャラクターである深山の底知れない不気味さも魅力的で、キャラが物語を駆動させている疾走感があります。 個人的に1巻で特に好きなのは、第3話「作者のあんたが」でアシスタントに出向するシーン。 既に打ち切りが決まってしまって、「こんな漫画に」と自作を卑下する作家に対して、どんな漫画ではあってもアンケートで他の作品より面白いと言ってくれている読者がいるはずだ、それなのに「作者のあんたが」そんなことを言っちゃいけねえと臥竜が熱く諭すところはグッときます。その後の担当編集者の言動も併せて、熱さで泣ける良いお話です。 『ONE PIECE episode A』にも携わった石山さんだからこそ、よりリアルに描ける部分もあるかもしれません。強く応援していきたい作品であり、作者です(この内容をアシスタント無しで描かれているということで、お体は大事にして頂ければと思います)。
兎来栄寿
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2023/04/21
Nirvanaを聴きながら #1巻応援
先日公開されたコミックHOWLのインタビュー記事で、マンガ愛溢れる編集長が今一番注目している作品として挙げ、更にはできるなら自分で担当したかったとまで言っていたのがこちらの作品です。 https://manba.co.jp/manba_magazines/22111 Twitterで公開され始めて以来絶大な人気を誇る、説明不要レベルの作品でしょう。 この作品、まず何と言っても新井すみこさんの絵が良いわけです。表紙イラスト1枚見れば解る絶妙なアングルを描ける画力。更にファッションセンスや表情も光ります。敢えて表紙もフルカラーでないところもニクいですね。これが、作中では更にヴィヴィッドになります。 メインとなるJK2人が、洋楽好きを切っ掛けに仲良くなるというのもグッとくるポイントですね。同じ物を好きな者同士が共感して距離を縮める瞬間の美しさ。思わずNirvanaを流しながら単行本を読み返しました(そう言えば最近はSonata Arcticaとかどうしてるんだろう、と思わず昔好きだった海外バンドの動向を調べてはまだ元気に活動をしているのに嬉しくなるなど)。 そして、この物語に厚みを与えているのが彼女たちを取り巻く人物も含めたバックボーンです。そもそも何故彼女たちはそんなに洋楽を好きなのか。それをどのように愛していたのか。その掘り下げ方からもたらされるえも言われぬ想いの丈が、良さみを凝縮した弾丸となって胸を撃ち抜かれます。いい……。 細かい好きポイントも無数に生まれざるを得ない、細部にまで手を入れられた素敵な作品です。 今年を代表し、さまざまな賞などでも顔を見そうな注目作。未チェックの方はぜひこの機会に読んでみてください。
兎来栄寿
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2023/04/19
欠けているから、誰かの救いになり得る #1巻応援
″教室にいるほとんどの人にはわからなかったとしても、隅っこで窓の外を見て 実は泣いてる、そんな子を見つけ出して、大丈夫だよ。と言ってあげられるような、 そんな作品が描きたいといつも思っています。 それは商業的に見たらとても頭の悪いことなのかもしれないし、 数字の面で言えば需要はあまりないのかもしれないけど、それでも僕はそういうものが好きだし、 そういうものに救われたし、 この先もそういう作品を死ぬまで描き続けると思います″ (作者解説より) そんな切なる想いで象られた作品を、どうして好きにならずにいられるでしょうか。 私は、物語の力を信じています。 私自身、物語があったからこそ今この瞬間まで生きていられているからです。 私を生かしてくれる素晴らしい作り手の方々には常々感謝し、尊敬しています。 本作は、寺田浩晃さんが2022年の5月にインディーズ版として刊行したものに加筆修正を加えた全国流通版。4篇の短編が収録されています。世界の片隅で喘いでいる人たちに届けたい物語群です。 表題作の「黒猫は泣かない。」は、優秀なOLになったが故に人間として大切なものを気付けば失ってしまっていた女性の話。自分の内なる声に耳を塞いで、気付かないフリをして心を麻痺させながら生きている人は今の時代多くいることでしょう。日々の行動や選択の積み重ねの中で、少しずつ自分が削られていき本当に大切なものを奪われてしまう……そんなことが起きないよう、まだ進路修正が効く内に進む方向を正したいものです。 「くろいりんごときいろいそら」は、この本の中でも特に大好きなお話です。多くの人と、自分が違うということの苦しさ。常識という名の幻想から外れたところにいるが故に、異端として排除され迫害されるのは人類の歴史上ずっと続く負の側面です。過去に比べれば現代は少しずつ良い方へ向かってはいますが、それでもまだ現実的にかず多く存在するこの哀しみや辛み。それでも、そんな痛みを背負って生きていた人を慰撫し、背中を押してくれるこの物語の優しさに世界における救い、物語の意味と可能性を感じます。最後の見開きは、とてもとても美しいものでした。 『世にも奇妙な物語』で実写化もされた「三途の川アウトレットパーク」の読切版は、設定の面白さがまずあります。三途の川の岸辺にアウトレットが建っているというアンバランスなヴィジュアルの珍妙さ。そして、前世の行動によって来世用の買い物ができるというシステム。その設定を十全に生かした展開の妙が光ります。私たちは、まだアウトレットに行く前なのでこれから徳を積んでいくことを選んでいけるでしょう。 最後の「ELECTOPIA」は、欠けた少女と少年の美しいお話です。現実には居場所がなく、それが虚構と解っていてもVRゲームの中でだけ生き生きと生きることができる主人公に共感する人も多いはずです。何を考えているか理解不能な少年の、素敵な幸せの見つけ方が好きです。生きている内に世界の美しさに気付けるのは、本当に幸せなことですね。 この短編集は、おでんで言うとちくわぶです。 なお、単行本購入者には豪華声優陣(春名風花さん、内山昂輝さん、ファイルーズあいさん、悠木碧さん、岡本信彦さんなど)によるボイスコミック動画の視聴権も付いてきます。第一線で活躍する声優さんたちが命を吹き込むと、一度読んだマンガもまた全然別の作品のように感じられます。
兎来栄寿
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2023/04/17
雲のように自由な旅路 #1巻応援
多くの人が一度は夢見るかもしれない、何にも縛られず目的もない自由な旅。 筆者の過去作に登場した20歳の女性・キサが、各地を奔放に転々とながらその土地の人たちとお茶を楽しみながら交流をしたり、名所や名物を楽しんだりしていく4コママンガです。 「中学の時は3年間進学塾に通っていたけど時間の無駄だった」 「そのせいで綺麗な夕焼けや数十年に1度の流星群を見逃してもったいなかった」 「だから今は高校時代からバイトして貯めたお金が尽きるまで自由気ままに旅をする」 というキサのスタンスが好きです。 第一話から私の地元の世界遺産・吉野山がガッツリと出てきて驚かされました。春の桜だけでなく、新緑の夏や紅葉の秋、雪景色の冬とすべての季節に魅力があること、またその名の通りに数多くの桜を観ることができる「一目千本」を決めシーンで迫力たっぷりに描いてくださっていて嬉しかったです。柿の葉寿司や見目美しい桜羊羹なども地元民として親しんでいる品で、残念ながら桜の時期を逃して訪れたキサでしたがまた満開の桜も見にきて欲しいです。 試される大地で日本国内ではなかなか見られない景色を観たり、時には奇妙な労働もしたり、秘境の温泉に浸かったり、寂れた宿の再建に携わったり……。 筆者自身がコロナで旅に出掛けられなくなってしまった鬱憤を晴らすために描いたということですので、旅気分を味わいたい方は読んでみてはいかがでしょうか。
兎来栄寿
兎来栄寿
2023/04/14
大正時代の台湾における食文化 #1巻応援
近年、台湾のマンガが話題に上ることが多くなってきました。 昨夏には日本橋に「台湾漫画喫茶」ができたり、 『緑の歌 - 収集群風 -』が各マンガ賞で上位になって話題になったりしていたのも記憶に新しいところです。 最近では『モーニング』の『紛争でしたら八田まで』でも台湾編をやっていたこともあり、台湾への興味関心は高まっている昨今。 『千と千尋の神隠し』の舞台のような街・九份など、一度は行ってみたいなと思う台湾。 本作は、そんな台湾の食文化について大いに学びながら楽しめる物語です。 1920年代を舞台に、老舗料亭の娘である友繪(ともえ)を主人公として、まだ女将である祖母からはひよっことしか見られていない彼女の奮闘記が綴られていきます。 私も、料亭ではないですが300年の歴史ある旅館で働いていた経験から、いかに心を尽くしてお客様をおもてなしするか、予想のつかないアクシデントが起こった際にどう対処するかなど共感できる部分が多々あります。 「雑用なんて一つもないのよ」 といった言葉や、外国の方と接する際には拙くても努力して相手の言葉を使うようにすることで相手から信頼感を得ることなど、時代を経ても普遍的だなと感じました。 友繪が、家族や仲間に助けられながらさまざまな挑戦をして、ときには失敗もしながら少しずつ成長していく王道感も心地よいです。また、女将の過去にあたる料亭の成り立ちの物語も面白く、バックボーンがしっかりと語られることで全体が引き締められています。 愛玉や割包、鶏管や炸香蕉など現地で食べてみたいメニューがたくさん出てきてお腹が減りますので、ダイエット中に読むのは向かないかもしれませんが、そうでない方にはお薦めです。
兎来栄寿
兎来栄寿
2023/04/07
初々しすぎて悶える恋 #完結応援
2021年から連載していた山本中学さんのラブコメが先日完結し、本日完結巻発売となりました。 杉村くんと檜さん。両片思いのふたりのあまりにも初々しくたどたどしいやり取りや、その日好きな人の前で取った言動を反芻してベッドの上で煩悶し奇声を上げてしまう姿に、読んでいる方も身悶えせずにはいられません。人を好きになるということのアンコントローラブルな喜怒哀楽や気恥ずかしさ、陶酔が詰め込まれています。ふたりとも優しいいい子なのが、また応援したくなる気持ちをブーストしてくれています。 何が良いかと言えば、山本中学さんが『繋がる個体』や『サブスク彼女』の先にこの『青春は変態』を描いてること。あれらの作品の後に、こんなピュアオブピュアな恋愛を見せられる。でも、そこは山本中学さんなので、完全に『マーガレット』テイストだけでは終わらない。「青春は変態」だから。そこも確かに紛れもなく大事な青春の要素なのです。 それこそ、2巻完結の本作ですがもし『別冊マーガレット』で連載されていたらあと10巻くらいは擦った揉んだが続いていたことでしょう。正直、このふたりに関してはそこも見たいという気持ちは否めません。じっくりじっくり気を揉ませてくれても構わないし、2巻の最後まで読んでこのふたりのその後をもっともっと読んでいたいと思うのは自然なことでしょう。 ただ、本作はその先に待ち受ける無限は読者の想像に委ねられています。それもまた一興。 1巻だけ読むと別の意味で悶えると思いますので、この機会に2冊まとめて買い、一気に読むことを推奨します。
兎来栄寿
兎来栄寿
2023/04/06
野草グルメ×学園ラブコメ #1巻応援
「特典色紙を無償で1000枚以上描かされた」という『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』が話題になった、佐倉色さんが2021年より連載している新作4コママンガです。現在は無事に普通に創作をできていらっしゃるようで、何よりです。 万年学年2位止まりの主人公・穂高小麦(ほだかこむぎ)が、1位の苧環有利(おだまきゆうり)に対して対抗心を燃やすところから始まるラブコメです。苧環くんは動物を助けたり、「病気で苦しむ人の助けになりたい」と薬学の知識を深めたいと思っていたりと、性格もとてもイイ奴であるところも含めて『彼氏彼女の事情』の雪乃と有馬の関係性に近しさを感じます。 ただ、苧環くんは野草に非常に詳しく、それを日常的に食べているという特徴があります。『おだまき君の道草ごはん』というタイトルは、ある種(寄り道的な意味での)道草ではありつつ本当に「道に生えている草」を美味しく食べる、あるいは小麦に食べさせていくマンガとなっています。 小麦は、苧環くんに敵愾心を燃やしながらも彼が作ってくれる野草グルメや野草ティーの美味しさに徐々に絆されていってしまいます。その懐柔されていく様子が絵柄も相まって何ともかわいく、面白おかしいです。そして、徐々に徐々にラブがコメっていきます。笑いはもちろんのこと、しみじみと「ああ、良いなぁ」と思えるシーンも。 イケメン過ぎて魚の被り物を常にしている女性恐怖症の志津宮や、学年3位のかなで、苧環くんの家族など、サブキャラたちも物語を賑やかに盛り上げていきます。小麦のお父さんも、娘を持つ父親の悲哀を醸し出しており良い味を出しています。 ラブもコメればグルメシーンもあり、野草の知識も身に付く。1粒で3度美味しい作品です。
兎来栄寿
兎来栄寿
2023/04/05
不意に異性化する世界での青春群像劇 #1巻応援
ある朝目覚めたら突然、股間に見慣れないものが生えていたら貴女はどうしますか? 本作は「異性化症」というものが存在しており、主人公の凛子が突発性の症状によって男性化してしまうところから物語が幕を開けます。 生えてきてしまったものそれ自体や、それに伴って今までには存在しなかった情動に翻弄されていく様、またそれに対する周囲のリアクションが臨場感たっぷりに描かれていきます。 ある種、その筋の薄い本の導入にありそうなifであり、実際にそれに近いシチュエーションが登場したりエロコメチックな部分もあったりします。5話の「デスたわわ」(※サブタイトル)などはその真骨頂であり、ある意味見所のひとつと言えるでしょう。ただ、本作の魅力はそこに留まりません。 自分の意思ではどうしようもない外的な要因によって心を悩まされたり体のあり方に戸惑ったりする様は、誰しもが思春期に抱く体験と実質的に同質です。そんな状況下で、学校という社会の縮図で他者と関わりながら生活を営み続けねばならない。当然、そこでは諸々の問題も発生しますし、逆にそこで触れる人の優しさがありがたさの極みであったりもします。 憧れの結城先輩、美人の真央先輩、クラスメイトのエキセントリックな紗夜と豊満なすばるなど、魅力的な脇役たちとの関係性の変化も含め、サスペンスフルな部分もあり続きが気になります。 なお「細かすぎて伝わらない『私たちは元女子です』の好きなところ」を挙げるとすると ・「柔術廻戦」 ・ぱおん!→んっ… ・レベル4:りんご ・凛子の父親がシュトレンを好きすぎるところ です。
兎来栄寿
兎来栄寿
2023/04/04
クセになるシュールな師弟コメディ #1巻応援
突然ですが、『大門寺と問題児』1巻の範囲で好きな大門寺先生のツッコミランキングを発表します。 第5位 「沖縄の妖怪がなんでこんなところにいるんだ」 突然出てきたキジムナーという単語に対して、確かな知性を感じさせながら的確に冷静に突っ込む様が好きです。 第4位 「急ぐとディスが入るってのはどういう理屈なんだ」 息を吸うようにまひるにディスられる先生。「ディスに対するアンサーは先生のスキルじゃ返せないぞ」というアンサーも含めて好きです。 第3位 「相手は魔王じゃなくて1組とか3組だぞ」 もしかしたら1組とか3組に村を焼かれたり親を殺されたりしてまひるは感情が表に出てこないのかもしれません。あ、父親は登場してました。好きです。 第2位 「学校で酒池肉林しようとするんじゃない」 学級委員の職権を濫用して、妲己の如く贅の限りを尽くそうとする、小学生にあるまじき深い欲望を湛えたまひるが好きです。 第1位 「神話になろうとするんじゃない」 王を超えて神話の域まで達そうとする貪欲なるベイロスより貪欲で強欲な壺より強欲なまひるが好きです。少年よ神話になれ。 「マリオのスーパーピクロスクリアしてんだ」、「ウィザードリィじゃないんだぞ」、「ファイナルファンタジー5」などレトロゲームの名前がちょこちょこ出てくるのも好きです。マイディガードのラーニングは大変なんです。 校長が突然UKロックを好きになるところも、まひるの父親の狂い具合も、あかねちゃんも小春ちゃんも暮先生も好きです。 つまるところ、私はこのマンガがとても好きです。