専業主婦の上野舞子は、同居の実父母の分も含めた家事を一手に引き受け、忙殺される毎日です。
夫の高男との間にふたりの子どもにも恵まれ、幸せなはずなのに、どこかが、何かが、満たされない。
そんなある日、疎遠にしていた中学生時代の友人、水島麻子に連絡を取ったことから物語は動き始めます。
「好きな人、いるわよ。 男の人ではないけれど」
独身のイラストレーターである麻子の恋愛事情を問うと、返ってきたのはこんなカミングアウトでした。戸惑いながらもそれを受け入れる舞子と麻子は頻繁に会うようになります。
麻子の想いびとは舞子ではなく、ふたりの間に恋愛感情は生まれません。
けれど会うたびにふたりの会話は深いものになっていき、心をえぐるような言葉を投げかけ合う時さえあります。立場が違うからこその優越感、または相手への嫉妬心もあるようです。ここまでズケズケ言い合える友だちがいたら心強いような…いや、恐ろしいような。
そんな丁々発止とも言えるやり取りの中で、ふたりは自分の心の奥底に潜む知らない方が幸せだった真実に気づきます。舞子は、資産家の母に建ててもらった広い家に暮らす自分は、ひとりの自立した人間ではなく、「母親の娘」でしかないことに。そして麻子は、望むように愛してくれなかった母への想いから、女性を求めてしまうという自分の幼児性に。彼女もまた、母という存在に囚われたままの「母親の娘」だったのですね。
1984年連載の作品ですが、舞子と麻子の会話は「専業主婦VS独身キャリアウーマン」の典型のような、今でも十分に通じるものもあります。
昔から人の言うことに大した変化はないということなのか、樹村みのりさんがとても新しい目を持つひとなのか。
さて、舞子と麻子は「母親の娘」だけの自分から脱却できるのでしょうか。
この人間臭いふたりの結末を、是非見届けていただきたいと思います。
(正直、舞子の選ぶ道は共感できないのですが…)