完兀
完兀
1年以上前
「銀と金」は福本作品の最高傑作に思う。 人に一番おすすめなのは「賭博黙示録カイジ」、自分が一番好きなのは「最強伝説黒沢」、作者の代表作を一つ挙げろと言われれば「天」、主人公が一番かっこいいのは「アカギ」、一番続きを読みたい読み切りは「かすみとゲンコツ」だが… 最高傑作を選べと言われれば私は迷いなく「銀と金」になる。 理由は物語から無駄が削ぎ落されていて、緊張の糸が最も弛まない作品だからである。 この条件には「賭博黙示録カイジ」も合致しそうだが、本作と比較してしまうとあちらはスリルを描写するのにある種仰々しい装飾を施しているように思う。読者に向けて最高の調理が施された究極のメニュー「カイジ」と、素材のあまりの良さに脳と舌がダイレクトに興奮する至高のメニュー「銀と金」とも言えるだろうか。 「ダイレクトに」というのは譬喩でもなんでもなく、本当に生々しい緊迫感が読者を襲うのだ。 口コミタイトルにあるように、冷たい武器が突き付けられているかのような感覚だ。イメージは刀でも銃でも水でも何でもいい。人を恐怖心で満たし行動を制限せしめるに最も機能美に溢れた武器がいくつも読書空間に充満し、自分に向けられている感覚が私はした。 とは言っても、最後の競馬勝負はその感覚からちょっと遠いところで読めてしまったかな… 森田が抜けたことで読者に空いた穴は、スリルの圧力を逃がすのに役立ってしまったように思えてならない。