兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
横山光輝さんの数多の作品の中でも、『鉄人28号』、「魔法使いサリー』、『三国志』などと並び代表作として有名なのが『バビル2世』です。 週刊少年チャンピオンが創刊されたのは1968年。『バビル2世』は1971〜1973年まで連載され、チャンピオンの初期を支えました。そして、数年後にチャンピオンは200万部を突破し黄金期を迎えます。 遥か昔、地球に不時着したバビルの子孫である浩一がその力を受け継ぎ、世界征服を目論む超能力者・ヨミの目論見を防ぐべく闘いを繰り広げる物語です。 ユリゲラーが初来日して超能力の大ブームが巻き起こったのが1974年ですが、その3年前から超能力ブームの礎を築き上げたのがこの作品。テレパシーやサイコキネシスという単語を本作で覚えた少年は非常に多いでしょう。同時期に萩尾望都さんらによる少女マンガSFの台頭があり、『精霊狩り』などエスパーを題材にした作品が出されたことも、ブームを後押ししていました。 『超人ロック』然り、物語において超能力者やエスパーというのは異端で孤独な存在とされることが多いです。多分に漏れず浩一も世間には知られないまま孤独な闘いを続ける少年として、暗い時代のマインドを反映しているかのように描かれました。71年の『仮面ライダー』や72年の『デビルマン』など、純粋な熱血タイプではない陰を背負った主人公の物語が多く出始めた時代とぴったり重なります。 なお、『ジョジョの奇妙な冒険』第三部主人公の空条承太郎も、『バビル2世』の砂漠+学ランというヴィジュアルイメージに大きく影響を受けていると荒木飛呂彦さんが語っていました。私自身はその記述を見てから興味を持ち、読みました。バトルに単純な力比べだけではなく頭脳戦的な要素が盛り込まれていたのも、人気を博した要因であり後の作品への影響を感じられるところです。ジョジョ好きには一つのルーツとしてぜひ読んでみて欲しい作品です。 余談ですが、アニメ版で主人公の浩一を演じたのは当時はまだ新人だった神谷明さん。オーディションでは既に売れっ子だった野沢雅子さんと最後まで争ったという逸話があります。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
『忍者ハットリくん』、『怪物くん』、『オバケのQ太郎』といったビッグタイトルを藤子不二雄Aさんが生み出した1960年代。 藤子・F・不二雄さんは『パーマン』や『21エモン』などを描いていた時期であり、二人共「児童向け作家」というイメージが定着していました。今でも、『ドラえもん』でしか藤子不二雄の名前を知らない人はそのイメージが強いかもしれません。 しかし、1960年代の終わり頃から二人は大人向け・ブラックな題材の作品も数多く発表するようになります。 Aさんの代表作である、『笑ゥせぇるすまん』のせぇるすまんシリーズ第1作である『黒ィせぇるすまん』が連載化され、その後に週刊少年チャンピオンで始まったのが『魔太郎がくる!!』でした。 少年誌というフィールドでありながら、非常に残酷なシーンも混じえたサイコサスペンス・復讐譚は当時から大人気を博しました。70年代にチャンピオン黄金期が訪れる直前に『ブラックジャック』や『エコエコアザラク』のような作品が載る土壌を形成したパイオニアと見られることもあります。 『デトロイト・メタル・シティ』でも「恨みはらさでおくべきか」という曲が歌われていましたが、元々落語や歌舞伎で用いられていた「この恨み晴らさでおくべきか」というフレーズを流行らせたのも、この作品の功績が大きいです。 しかし、70年初頭にはよど号ハイジャック事件や浅間山荘事件などもありフィクション以上に現実でおぞましい事件が起き、更に少年犯罪の悪質化もあり、連載中に配慮が行われ内容が変遷していき最終的にはダークファンタジーとなりました。 また、何度か様々な形で新版が出版されていますが、最初の秋田書店のチャンピオンコミックス版以外は改変されたり削除されてしまったエピソードが多数存在します。すべての話が元のまま読める秋田書店版は現在プレミア価格で取引されていますが、もし機会があればぜひそちらで読んで頂きたいです。 とはいえ、改変されたバージョンでも面白く読めるのは確かです。可能なら比較して読むと一番楽しめるでしょう。
いさお
いさお
1年以上前
 本作は、ノーベル文学賞を受賞したジャーナリストによる同名のインタビュー集を、小梅けいと先生がマンガにしたものです。第二次世界大戦におけるナチス対ソ連の戦いに兵士として身を投じ、余生を送る女性たちの肉声が集まっています。  ソ連では、男女平等を強調する共産主義思想の影響も受け、他の国よりもはるかに多くの女性が自らの意思で従軍し、最前線に立っていたのです。  皆さん、「戦争」ってどう思いますか?  日本で育った私たちは、敗戦国として徹底された反戦教育の中で生き、漠然とした「絶対あってはならないもの」といったイメージを持っています。しかし、もう日本人のほとんどは戦争を体験したことのない世代です。だから、「戦争=あってはならないもの」という公式を形式的には認識していても、なぜあってはならないのか、実際のところ自分の国が戦争に突入するとはどんな感じなのか、その中身を本当の意味では理解していません。  本作では、原作著者であるインタビュアーが、年老いたかつての女性兵士から丹念に収集した声が、情景が、丁寧に再現されています。  では彼女たちの語る戦争は、単に血も涙もない、ひたすら凄惨を極めるものであるのかといえば、そうではないのです。彼女らの語る戦争は本当に千差万別です。正気を捨てて戦地に赴き、その狂気の痕が心から消えない人、過酷な環境の中でささやかな幸せを見出した人、死の恐怖より、女性の存在を想定していない住環境への忌避が勝った人… その全てに、過酷で凄惨な環境の中でもきらめきを失わないそれぞれの個性が、人間味が、激情があるのです。  加えて、それらの当事者が(戦地にいることがイレギュラーな存在である)女性であるがゆえに、そこで語られる戦争は、私たちが知る「戦争」の視座から、少しずれています。かつて動物を愛した女性が、命を奪うことに躊躇しないようになっている自分に気づいたときの衝撃、復員後数年ぶりに履くスカートへの違和感、男ものの下着を無理やり身に着けることへの嫌悪感… そんな、これまで戦争という文脈では表出してこなかったエピソードが、次々と語られるのです。  そう、私たちがひとえに「あってはならない凄惨なもの」としてとらえてきた戦争という現象をもっと目をこらして眺めてみると、そこにはこれまで見たこともなかった多様で強烈な情景が、パッチワークのように広がっているのです。  このことから読者が思い知らされるのは、「戦争というのは決して一つの現象ではない」ことです。戦争を歴史としてしか知らない私たちは、それを「あってはならない凄惨なもの」としてひとくくりにして処理し、それ以上戦争について考えることをしません。しかし実際は、戦争というものは決して均質な現象ではありません。一口に戦場といっても、そこには個々人固有の多様な時間が、何千層にも、何万層にも折り重なっているのです!  本作は、原作の丹念なインタビュー、そして収集された物語を最大限汲んだ精緻なマンガ化をもって、「戦争という現象を眺める眼」としてはもはや最高峰と言っていい解像度を獲得し、そのレンズで戦争というものの中味を、私たちに覗かせてくれるのです。  あなたはこの作品を読むと、戦争の中で走り、生き、笑い、泣いた一人ひとりの女性の鮮烈な過去を目にすることでしょう。それらの物語を覚悟をもって受け止めた上で、「戦争」とは何なのかもう一度じっくり考えなおしてみても、きっと遅くはありません。
せのおです( ˘ω˘ )
せのおです( ˘ω˘ )
1年以上前
2020年、1月に単行本全3巻にて完結です。 普通な日常を過ごしていたのに、急に氷河期を迎えてしまった地球・日本が舞台です。 気候が急変し、避難所へ向かう途中で親とはぐれてしまった女の子・リッカと、大学入学を機に上京してきた青年・ユキが出会い、一緒に生活することになりました。 食料は不足、物価も高騰し、生活するどころか、仕事をしてお金を稼ぐのも簡単でなくなってしまった世の中、ユキの願いは、「一日三食絶対たべたい」!!! しかし、これはユキだけの願いだけでなく、身体の少し弱いリッカのためでもあるのです。 そのため、実はクズな(笑)性格のユキは、危険と言われる外の仕事に就くことになりました。 本編では、なぜ氷河期になったのかなどあまり触れられず、ユキの仕事先でのお話がほとんどです。 そんな中で生まれる、職場のスギタ先輩との辛辣な(笑)会話や、氷河期前の生活を懐かしく思う姿、時々ハッとさせられる仕事に対する姿勢が、とっても面白く読んでいてなんだか元気がでます 私はタイトルを見た時、「グルメ漫画かな?」と思いましたが、全く違いました。 この漫画は、 "絶望的な世界になってしまったけれど、こんな世の中でも自分らしく、自分のやりたいことを叶えるために生き抜く。 そのために、まずはご飯をしっかり食べる!健康で元気にいる!そして自分とその周りの人のために働く!!" そんな漫画でした。 個人的に、リッカとユキの関係が大好きです。 家族でも、恋人でもない、でも友人というには何かが足りない。なんにも無くなってしまった世界でなんとか生きるために、ただお互いを大切に想い合う、そんな素敵な関係です。