幼いロマンシスと喪失の海 #1巻応援 #完結応援ネコと海の彼方 星期一回收日 陳巧蓉(巧喵)あうしぃ@カワイイマンガ本作を読み終えて数日が経った。その印象はあまりにも鮮烈で、私は日々の隙間を見つけては主人公と、彼女の大切な人について考える。美しい友愛と、その喪失を。 主人公を暗闇から助け出してくれたあの子。二人の日々は眩しくて、私は自身の幼い恋や友情を思い出す。 ナイショがあってもいい、寄り添うことが相手への想い。そんな二人だけの独特な関係に、心温まりつつ強く魅了される……それだけに、後半の展開は辛い。 主人公は単純に悲しむだけではない。その言動はキューブラー・ロスの「死の受容5段階」がモデルにあるのだろうか。喪失を否定するように怒ったり、取り戻そうとしたり。 「彼女を留めておきたい、忘れたくない」という強い想いはしかし、足掻けば足掻くほど苦悩の深みに嵌まっていく……絶望感を共有する。 しかし生き残った人には、明日が来る。 恐らく友情も恋も、人生の目的ではない。それは人生を支えるもの。大切な物を沢山くれた、特別なあの子を特別なままに相対化する主人公の、漆黒の海に夜明けは来る……その静かで晴れやかな終局は、今もさざなみのように心に打ち寄せる。未知の文化に飛び込む勇気銀太郎さんお頼み申す 東村アキコあうしぃ@カワイイマンガこの作品で印象深いのは「言葉の通じなさ」だ。 カフェ店員の主人公女性が、お客の着物美女を師匠と仰ぎ着物文化に入ってゆく物語だが、この主人公、徹底的に素人。文化が違う。 師匠が発した言葉が誤変換されて主人公に届くやりとりが面白いのだが、そこにあるのは完全な文化の断絶。懸命に喰らいつく主人公だが、一つの用語を理解するまでがもどかしい。 私は着物文化に憧れて、いくつかの着物マンガ(『恋せよキモノ乙女』『またのお越しを』など)を読むのだが、知識が足りずについてゆけないことがある。詳しく解説がついているにも関わらずだ。 『銀太郎さんお頼み申す』は、主人公のゆっくりな理解速度が素人の私を置き去りにしない。そして彼女に教える師匠や周囲の女性たちが(時々呆れながらも)きちんと教えてくれるのが良い。失敗のフォローも優しい。 主人公はどうして助けてもらえるのか。それは彼女が本気で喰らいついているから……それくらいしか今のところ思い当たらないが、案外そういうことが大事なのかもしれない。 恐らく私が未だに着物物文化を理解できないのは、そこに入ってゆかないから。一方本作の主人公は無知だが、自分の求めるものはこれと決めて飛び込み、上手くいかなくても諦めず、少しずつでも成長を喜ぶ。そんな姿勢が文化を楽しむための、いちばんの「センス」だとしたら……そう思うと、不器用な彼女を羨ましくさえ思った。喪失と影が生に輪郭を与える百合 #1巻応援琥珀の貴女 東河みそあうしぃ@カワイイマンガあらゆる物事は始まり、終わってゆく。生まれ、死んでゆく。物語も、恋も、そして命も。 死の波打ち際で生を振り返る時、または仮初の死から生還するとき、生は強く輝く。あるいは現実感がない喪失は、反芻していつまでも心を縛る。喪失が生きることに、輪郭を与える。影が光の世界にディテールを与える。 そんな影と光が描かれるのが、この大人百合短編集だ。強い物語も、ふんわりとした物語も、そこには喪失や影があり、それゆえに登場人物たちは複雑で、切実になってゆく。 どの物語もなかなか真相が明らかにされず、ショッキングな体験をくれる。そしてその核を貫くのはまごうことなき百合だ。昏くても明るくても、その百合は暗闇に差す細い光のように印象的だ。 ●chandelier 恋を失い死を願うレズビアン風俗のキャストは、好きな人との予行練習だと言う客に惹かれる。死の淵で手を取る二人。 ●ふたりの楽園 政略結婚に臨む花嫁と、彼女を束縛する幼馴染。昏い関係の真実に驚く。 ●えりちゃんのハイヒール 二丁目で私にキスをした、ゴツいハイヒールの小さな女性。たまさかの出会いと不在にぼんやりと心を縛られる感じ、なんかわかる。 ●水際 レズビアン風俗の30代のキャストは日本画の大家の女性にモデルとして雇われる。「よぼよぼのババア」に惹かれてゆく恋は強力だった。 ●転石苔むさず バイト先の苦手な先輩を、一晩泊めてやる。一瞬近づき、離れてゆくその距離感をこちらも想像する。 ●ひかり 母を亡くした新興宗教二世は、昔世話してくれた信徒の女性のために「神の子」になる。信頼を巡る物語は複雑に正しさを挫いてゆく。すごいものを見た……。妙にリアルな近未来ウィズコロナ #1巻応援旅に出るのは僕じゃない いけだたかしあうしぃ@カワイイマンガまさかの「204X年まで続くコロナ禍」という世界観は、枠組みから細部に至るまで徹底していて驚く。 技術が進んでいたり、変わらない伝統があったりという世界各国の楽しさを、明るい絵柄でたくさん描きつつシリアスな内容も多い。 例えば「日本人を嫌うベトナム人」という描写がある。技能実習生の問題を知っていれば「こういうことはありえる」と想像できるはずだが、何故か誰もそれを口にしない。他にもこういった「つい目を背けてしまいがちな可能性」を描き、考えさせられながら世界観に引き摺り込まれる。 奇妙にリアルで楽しいけれどシリアスな近未来を、主人公と共に旅行する。そこには創作物にしかできない、心を動かす実感がある。 VR旅行のための「体験」データを集めてまわる主人公の青年。彼の旅に強い印象と深みを与えるのは、各地で出会う女性たち。その出会いは彼にとっても女性たちにとっても、忘れたくない重要さを持つはずなのだが……。 旅の記憶を保持できない主人公の特性が、これらの出会いをより強く、切なく印象付ける。これらの旅は一つひとつバラバラに見えるが、今後もそうなのだろうか、それともこの先……?あうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『極東キメラティカ』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『アリスと蔵六』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『徳川おてんば姫 ~最後の将軍のお姫さまとのゆかいな日常~』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『わたしは壁になりたい』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『カノジョになりたい君と僕』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『酔いとゆくすえ ~酒村ゆっけ、小説コミカライズ短編集~』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『春あかね高校定時制夜間部』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『ウオズミアミ』をフォローをしました « First ‹ Prev … 13 14 15 16 17 18 19 20 21 … Next › Last » もっとみる
幼いロマンシスと喪失の海 #1巻応援 #完結応援ネコと海の彼方 星期一回收日 陳巧蓉(巧喵)あうしぃ@カワイイマンガ本作を読み終えて数日が経った。その印象はあまりにも鮮烈で、私は日々の隙間を見つけては主人公と、彼女の大切な人について考える。美しい友愛と、その喪失を。 主人公を暗闇から助け出してくれたあの子。二人の日々は眩しくて、私は自身の幼い恋や友情を思い出す。 ナイショがあってもいい、寄り添うことが相手への想い。そんな二人だけの独特な関係に、心温まりつつ強く魅了される……それだけに、後半の展開は辛い。 主人公は単純に悲しむだけではない。その言動はキューブラー・ロスの「死の受容5段階」がモデルにあるのだろうか。喪失を否定するように怒ったり、取り戻そうとしたり。 「彼女を留めておきたい、忘れたくない」という強い想いはしかし、足掻けば足掻くほど苦悩の深みに嵌まっていく……絶望感を共有する。 しかし生き残った人には、明日が来る。 恐らく友情も恋も、人生の目的ではない。それは人生を支えるもの。大切な物を沢山くれた、特別なあの子を特別なままに相対化する主人公の、漆黒の海に夜明けは来る……その静かで晴れやかな終局は、今もさざなみのように心に打ち寄せる。未知の文化に飛び込む勇気銀太郎さんお頼み申す 東村アキコあうしぃ@カワイイマンガこの作品で印象深いのは「言葉の通じなさ」だ。 カフェ店員の主人公女性が、お客の着物美女を師匠と仰ぎ着物文化に入ってゆく物語だが、この主人公、徹底的に素人。文化が違う。 師匠が発した言葉が誤変換されて主人公に届くやりとりが面白いのだが、そこにあるのは完全な文化の断絶。懸命に喰らいつく主人公だが、一つの用語を理解するまでがもどかしい。 私は着物文化に憧れて、いくつかの着物マンガ(『恋せよキモノ乙女』『またのお越しを』など)を読むのだが、知識が足りずについてゆけないことがある。詳しく解説がついているにも関わらずだ。 『銀太郎さんお頼み申す』は、主人公のゆっくりな理解速度が素人の私を置き去りにしない。そして彼女に教える師匠や周囲の女性たちが(時々呆れながらも)きちんと教えてくれるのが良い。失敗のフォローも優しい。 主人公はどうして助けてもらえるのか。それは彼女が本気で喰らいついているから……それくらいしか今のところ思い当たらないが、案外そういうことが大事なのかもしれない。 恐らく私が未だに着物物文化を理解できないのは、そこに入ってゆかないから。一方本作の主人公は無知だが、自分の求めるものはこれと決めて飛び込み、上手くいかなくても諦めず、少しずつでも成長を喜ぶ。そんな姿勢が文化を楽しむための、いちばんの「センス」だとしたら……そう思うと、不器用な彼女を羨ましくさえ思った。喪失と影が生に輪郭を与える百合 #1巻応援琥珀の貴女 東河みそあうしぃ@カワイイマンガあらゆる物事は始まり、終わってゆく。生まれ、死んでゆく。物語も、恋も、そして命も。 死の波打ち際で生を振り返る時、または仮初の死から生還するとき、生は強く輝く。あるいは現実感がない喪失は、反芻していつまでも心を縛る。喪失が生きることに、輪郭を与える。影が光の世界にディテールを与える。 そんな影と光が描かれるのが、この大人百合短編集だ。強い物語も、ふんわりとした物語も、そこには喪失や影があり、それゆえに登場人物たちは複雑で、切実になってゆく。 どの物語もなかなか真相が明らかにされず、ショッキングな体験をくれる。そしてその核を貫くのはまごうことなき百合だ。昏くても明るくても、その百合は暗闇に差す細い光のように印象的だ。 ●chandelier 恋を失い死を願うレズビアン風俗のキャストは、好きな人との予行練習だと言う客に惹かれる。死の淵で手を取る二人。 ●ふたりの楽園 政略結婚に臨む花嫁と、彼女を束縛する幼馴染。昏い関係の真実に驚く。 ●えりちゃんのハイヒール 二丁目で私にキスをした、ゴツいハイヒールの小さな女性。たまさかの出会いと不在にぼんやりと心を縛られる感じ、なんかわかる。 ●水際 レズビアン風俗の30代のキャストは日本画の大家の女性にモデルとして雇われる。「よぼよぼのババア」に惹かれてゆく恋は強力だった。 ●転石苔むさず バイト先の苦手な先輩を、一晩泊めてやる。一瞬近づき、離れてゆくその距離感をこちらも想像する。 ●ひかり 母を亡くした新興宗教二世は、昔世話してくれた信徒の女性のために「神の子」になる。信頼を巡る物語は複雑に正しさを挫いてゆく。すごいものを見た……。妙にリアルな近未来ウィズコロナ #1巻応援旅に出るのは僕じゃない いけだたかしあうしぃ@カワイイマンガまさかの「204X年まで続くコロナ禍」という世界観は、枠組みから細部に至るまで徹底していて驚く。 技術が進んでいたり、変わらない伝統があったりという世界各国の楽しさを、明るい絵柄でたくさん描きつつシリアスな内容も多い。 例えば「日本人を嫌うベトナム人」という描写がある。技能実習生の問題を知っていれば「こういうことはありえる」と想像できるはずだが、何故か誰もそれを口にしない。他にもこういった「つい目を背けてしまいがちな可能性」を描き、考えさせられながら世界観に引き摺り込まれる。 奇妙にリアルで楽しいけれどシリアスな近未来を、主人公と共に旅行する。そこには創作物にしかできない、心を動かす実感がある。 VR旅行のための「体験」データを集めてまわる主人公の青年。彼の旅に強い印象と深みを与えるのは、各地で出会う女性たち。その出会いは彼にとっても女性たちにとっても、忘れたくない重要さを持つはずなのだが……。 旅の記憶を保持できない主人公の特性が、これらの出会いをより強く、切なく印象付ける。これらの旅は一つひとつバラバラに見えるが、今後もそうなのだろうか、それともこの先……?あうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『極東キメラティカ』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『アリスと蔵六』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『徳川おてんば姫 ~最後の将軍のお姫さまとのゆかいな日常~』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『わたしは壁になりたい』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『カノジョになりたい君と僕』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『酔いとゆくすえ ~酒村ゆっけ、小説コミカライズ短編集~』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『春あかね高校定時制夜間部』をフォローをしましたあうしぃ@カワイイマンガ1年以上前『ウオズミアミ』をフォローをしました
本作を読み終えて数日が経った。その印象はあまりにも鮮烈で、私は日々の隙間を見つけては主人公と、彼女の大切な人について考える。美しい友愛と、その喪失を。 主人公を暗闇から助け出してくれたあの子。二人の日々は眩しくて、私は自身の幼い恋や友情を思い出す。 ナイショがあってもいい、寄り添うことが相手への想い。そんな二人だけの独特な関係に、心温まりつつ強く魅了される……それだけに、後半の展開は辛い。 主人公は単純に悲しむだけではない。その言動はキューブラー・ロスの「死の受容5段階」がモデルにあるのだろうか。喪失を否定するように怒ったり、取り戻そうとしたり。 「彼女を留めておきたい、忘れたくない」という強い想いはしかし、足掻けば足掻くほど苦悩の深みに嵌まっていく……絶望感を共有する。 しかし生き残った人には、明日が来る。 恐らく友情も恋も、人生の目的ではない。それは人生を支えるもの。大切な物を沢山くれた、特別なあの子を特別なままに相対化する主人公の、漆黒の海に夜明けは来る……その静かで晴れやかな終局は、今もさざなみのように心に打ち寄せる。