おひとりさまホテル

これはどうみても、おひとりさまだからできるゴージャスホテルライフ

おひとりさまホテル マキヒロチ まろ まろ まろ
ゆゆゆ
ゆゆゆ

そう、高級ホテルも一人なら、がんばれば手が届きそうな値段のときがあるんだよね。 若い頃、泊まってみたい!と予約サイトをウキウキ眺めていた時期がある。 遠すぎて泊まれない、せっかく上京しても仕事が忙しくて深夜にたどり着いて寝て起きるだけになってしまうから、泊まるのがもったいない。 そんなことを考えて実行しなかったら、泊まる機会もなくなってしまった。 本作に登場するのは、ホテルを仕事にするほど好きで、一人でどんどん泊まっていく人たち。 そして、ホテルに泊まっては用意された空間を我が家のように満喫して過ごす。すごい。 私は旅先だと時間がもったいなくて、そんな贅沢な真似ができない。一泊二泊と言わず、もっとゆとりのある旅を選べたら、ゆっくりと過ごせるんだろうか。 登場人物たちが、満たされているようで、足りない感じがあるのは『おひとりさま』の演出だからかと思いきや、恋人がいる人の悩みも描かれていて、生きていたら悩みはあるよねと腑に落ちた。 悩みや不満は尽きないから、好きなことで薄めたい。

ポンコツ魔王の田舎暮らし

笑えて癒されて少し泣けるスローライフ魔王 #1巻応援

ポンコツ魔王の田舎暮らし 渡邉ポポ
兎来栄寿
兎来栄寿

『埼玉の女子高生ってどう思いますか?』の渡邉ポポさん最新作です。今作も推せます。 最強にして最凶でありながら、その性格は圧倒的に陰キャでコミュ障というアンバランスな魔王が本作の主人公。 ″骨″との闘いに疲れて 「知っているか 魔王は逃げられる」 とばかりに魔界から人間界の田舎に逃げてきた彼女が、奇妙な新生活を送っていくゆるいコメディとなっています。 話しかけられることを極端に忌み嫌い、無人販売所や自販機を見ては人間界とは何とコミュ障に優しい住みやすい世界かと感激する魔王が憎めず楽しいです。 個人的に特に好きなのは、ゆるさ極まったドラゴンちゃんたち。ヴィジュアルからしてとてもかわいくて大好きですが、いろいろな仕草もまたかわいい。ぬいぐるみなどがもしあったら欲しいレベルです。 渡邉ポポさんの描くかわいいキャラと田舎の風景とゆるい空気を纏ったギャグが合わさった心地よさときたらないのですが、本作はそれだけでは終わりません。エピソードによっては少し切なくなるところもまた味わいのひとつ。普段のゆるさとのギャップもあって堪りません。 『よつばと!』と『ぼっち・ざ・ろっく!』と『葬送のフリーレン』の要素を併せ持つ作品、というと売れ線感がある気がしてきますね。

ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話

美ドールを愛でるおじさんを眺めるのがこんなにも幸せ #1巻応援

ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話 さとうはるみ
兎来栄寿
兎来栄寿

先月の新刊でもトップクラスに大好きな『133cmの景色』に続いて、こちらも『月刊コミックバンチ』で連載中の大好きな新作です。 タイトルがすべてを物語っていますが、端的に言えば42歳の冴えないおじさんがドール沼にハマるお話です。 まず作者のさとうはるみさんの絵がとても良く、もうひとりの主役であるスターレットちゃんを始めドールたちが美麗なタッチで抜群に可愛らしく描かれているのが大きな魅力です。絵の説得力により、おじさんが急激にドール沼の深みにハマっていくのも自然に感じられます。今後、どんどん可愛くさまざまなおめかしをしていくであろうスターレットちゃんも楽しみです。 そして何より、本作で良いなと思うのはドールに出逢ったことで輝き出すおじさんの「生」です。 人生すべてを賭けることに何ら躊躇いのない推しとの運命的な出逢いを果たした瞬間のドラマチックさ、その出逢いによって世界が輝きに満ち、日々自然と人に優しくなり善行を積めるようになったり今まで気にも留めていなかった路傍の花の美しさに感動したり、といった描写が実に鮮やかに行われているのが良いのです。 彼は、いい歳をしたおじさんの自分が人形に興味を持ち好きであるということが社会的にどう見られるか、というところにはしっかりと自覚的です。それでもなお堰き止め切れず想いが溢れるシーンの数々を見ていると、しみじみとしながら口元が緩んでしまいます。 "ただの挨拶なのに… なんでこんな染みんだよ" というシーンなどは本当に好きです。 少しずつ、明らかになっていくおじさんの過去の事情がまた良いんです。 恋人もおらず会社でも疎まれて何のために生きていたのか解らない日々から一転、ドールによって「救われた」男性の物語は、きっと誰かの人生を救ってくれることでしょう。何もないと思っている人生にも、ある日突然予想もしないところから何かが起きることは往々にしてあります。 球体関節人形を作る友人はいても私自身はドールにそこまで詳しくなく、ラジオ会館の店の前も通ったことはあるくらいですが、読んでいるとドール知識が身に付いていくのも楽しいです。 細かい好きポイントとしては、 "ウィドマンシュテッテンの輝きは幾星霜の祈りの記憶" という1ページ目冒頭の文学的な書き出しからして、最高です。 マンガイントロクイズがあったら「ウィドマンシュ/」くらいで押して「『ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話』!」と力強く回答したいです。人の力では作り出せないものたちと、人によって生み出され人の形をしているドールという存在の絶妙な対比も美しさを感じます。 読んでいて心底幸せになれる作品で、人間ドラマとしての面白さがあるので特にドールに興味がない人にもお薦めです。