新黒沢 最強伝説

ごくごく一部の人にはおすすめできる続編漫画

新黒沢 最強伝説 福本伸行
完兀
完兀

個人的評価☆1の新黒沢、正直わざわざ読む漫画ではない。 ハッキリ言って、名作と呼ぶにふさわしい前作に泥を塗った長大な蛇足だ。これを読むのは(ベクトルと所要時間が違うが)最強伝説仲根を読むのと同じぐらいつらい。もっとわかりやすく言えば、賭博黙示録カイジの後に(破壊録堕天録等々をすっ飛ばして)直接の続編として24億円脱出編が来るぐらいつらい。 しかし私はごく一部の人にはおすすめだと思う。 その理由は愛生流影の大黒柱にして中盤以降立ちはだかり続ける敵役、神林春樹の存在にある。 実にチンケで不快な手強さが特徴的悪役の彼だが、読んでいて「福本キャラ」のニオイを感じることができる。 恐らくは神林が全福本作品で最後の「生きた福本キャラ」、「福本伸行先生との距離が近いキャラ」になるだろう。彼の言動には作者の血が通っていると私は感じた。 逆に言えば、作者の血が通った福本キャラは神林を最後に消えてしまった。私見だが、最近の福本漫画には舞台装置または客観的観察対象としてのキャラしかいない。 つまり以上のような独断と偏見に満ちた福本漫画ファン視点からの資料的価値が神林、もとい新黒沢にはあり、この漫画がおすすめできるのはこの口コミに賛同できるか、口コミに騙されても寛容な精神で許してやろうじゃないかと言える人ぐらいに限られると思う次第である。 いるかっ…!そんな人間…!

史記列伝

こころに響く教えの数々

史記列伝 横山光輝
酒チャビン
酒チャビン

史記にはメインのストーリーとなる「本紀」の他にも色々あって、こちらはその中で、本紀に描ききれなかった人物で特に取り上げたい者にスポットライトを当てる「列伝」というシリーズもののコミカライズです。 コミカライズ担当はお馴染みの横山先生に白羽の矢が立っています。 列伝とかいっても結局本紀では取り上げられなかった人たちなので、どうせ大したことないだろうと完全にナメていたのですが、面白い!! というか本紀にもゲスい人物とか道徳観ヤバめの人物とか大量に出てる中で、むしろ列伝で取り上げられている人物に素晴らしい方が多くないですか??話もすごく今読んでも「なるほど」「酒チャビンもかくありたい」と思わせるものが多く、善い価値観の普遍性を確認することができました。 「士は己を知るもののために死す」とか「法律によって指導し刑罰によって統治しようとすれば、民は少しでも抜け道を探そうとして恥を知らない。徳によって指導し礼によって統治すると恥じることを知り、正しい道をふみおこなう」などほんまにそうやねんな、とありがたく拝読しました。 勉強になりすぎて、明日から出世してしまうかもしれません。

ドラえもん 0巻

すごーく おもしろいんだ! すごーく ゆかいなんだ!

ドラえもん 0巻 藤子・F・不二雄
酒チャビン
酒チャビン

通常版のドラえもんのコミックスは、いろいろな雑誌に掲載されたものをF先生が取捨選択し、順番も四季の流れに沿って再構成されたものなので、雑誌に掲載された作品でも、コミックスに収録されていないものもあります。 本作品は、そんな中から、ドラえもんが世の中に初登場した際の作品と、関連する作品を集めたものになります!!! ちなみにコミックス1巻に収録されている第1話は、このうち小学四年生版を再構成したものです。 長寿マンガではありがちですが、現在われわれが認識しているドラえもんと違う点も散見されます。 ・ドラえもんが四つ足でギャロッピング ・小学二年生版はボディが異常にテカっている ・「イヌとネコのできそこないのロボット」との設定 ・尻尾を引っ張ると透明になる 後ろの方には、貴重な資料が満載で、有名な1969年12月号に掲載された新連載予告(ドラえもんのアイデアが固まっておらず、描かれていない)や、ドラえもん誕生をマンガで描いたもの、コミックス収録話のリストなどが収録されています。これだけでも買った甲斐があると思います。 ドラえもん収録話リスト ■「よいこ」第1話(1970年1月号) ■「幼稚園」第1話(1970年1月号) ■「小学一年生」第1話(1970年1月号) ■「小学二年生」第1話(1970年1月号) ■「小学三年生」第1話(1970年1月号) ■「小学四年生」第1話(1970年1月号) ■「小学三年生」第2話(1970年2月号) ■「小学五年生」第1話(1973年4月号)

ボクの手塚治虫

矢口先生の自伝的マンガです!

ボクの手塚治虫 矢口高雄
酒チャビン
酒チャビン

タイトルこそ「手塚治虫」と堂々と入ってますが、内容は作者である矢口先生の小学生時代を描いた自伝的マンガになります!!! 矢口先生は小学生時代に、メトロポリスやジャングル大帝などをリアルタイムで体験され、立派なヅカラーとしてご成長されたようなので、その話が結構入ってます。 わたしが本作品を手に取ったきっかけは「手塚治虫」の文字に惹かれたからだったので、最初はその内容に多少戸惑いました。だって矢口先生の話やねん。 ただ、読み進めていくうちに、すっかり矢口先生のマンガや、イキイキとしたキャラクターに魅了されてしまいました!!!お・おもしれえ。 内容も半分以上は手塚先生が関連するエピソードなので、タイトルが「ボクの手塚治虫」でも全然間違ってはないのですが、翻って考えてみると、他人の自伝的マンガのタイトルにまでなってしまう手塚先生の影響力に神々しさすら感じます。 手塚先生に関係ないエピソードも全部面白く、魅力的です!!この作品自体の面白さ、作中で描かれる手塚先生のマンガに対する姿勢、作中で手塚先生のマンガに一喜一憂する主人公が、三位一体となって「マンガ」というものの本来の魅力を改めて気づかせてくれます!!!! 正直バリ面白いので、もし私が権限を持ったとしたら重要文化財クラスの指定をすると思います。 矢口先生作品は、釣りキチ三平が子供の頃近所の大新飯店に置いてあったのくらいしか接点がなかったのですが、これを機に他の作品も含めて読み進めようと心に誓いました。まず三平が65巻あったので覚悟が試されますが、本作の主人公のように心からマンガを楽しみたいと思います。

彼女の沈清

奥様と物乞いの共闘は…

彼女の沈清 seri biwan
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

韓国の百合マンガと聞いて読み始めた本作。恐ろしさと怒りに最初から最後まで、体を震わせながら読んだ。 人の「悪」が次々と炙り出される。恐ろしいのは、一見いい人が「悪」に反転してゆく描写。頼りたい人、愛されたい人から無辜の市民まで自己中心的で醜い心、それを悪びれもしない様が次々と露呈し、主人公の絶望感が共有される。 そうして描かれる「悪」とは、家父長制の中で生じる歪み。 男の自尊心を守るために、そしてイエのために自己を消し、イエに守られるために反目さえする女たち。社会で押しつけられる息苦しい女性像に、逃げ場なく従う女たちの無力感にやるせなさを覚える。 そんな社会を生きる、老大臣の若すぎる後妻「奥様」は物乞いの少女と出会う。 物乞いの少女に豊かさと女性らしさを伝える「奥様」は、社会常識から少し自由な物乞いに闘う気力と自由を貰い、二人は次第にイエの中で共闘を始める……と書くと綺麗だが、実は二人の心中はかなり複雑。でもその複雑さが、相手への純粋さへと次第に変わる様子は、間違いなく百合。 閉塞感溢れる社会で、二人に明るい未来が待っている気がしない。それでも、先を見たくてページを縦スクロールする手が止まらない。そして怒涛の展開の末、訪れる感慨に……そして番外編の意外すぎる楽しさに、ようやく安堵のため息をつくことができた。

競馬狂走伝 ありゃ馬こりゃ馬

最高クラスに近いくらいの面白さ

競馬狂走伝 ありゃ馬こりゃ馬 土田世紀 田原成貴
酒チャビン
酒チャビン

わたしが贔屓にしているマンガ家である土田先生と、元スタージョッキーである田原さんのタッグによる競馬マンガです。駄作のできようがありません。 前半4巻くらいまで一話完結のギャグものなのですが(しかもさすが土田先生のギャグは面白い)、後半にいくに従って、かなりレースの奥深いところまで描いてくる本格競馬マンガに変身していきます。 さすが元超一流ジョッキーの原作(というか監修)が入っているだけあって、必殺技などのファンタジー路線ではなく、徹底してリアルなスポーツとしての競馬が描かれており、読み応えたっぷりです。 出場している全ジョッキーの位置どりや、その時々で考えていることなどが、すごく丁寧に描写されており、競馬が好きな方はまず間違いなくどハマりすることができると思いますし、昨今のソシャゲブームで競馬を見始めたよって方も、深く競馬を知ることができるきっかけとなることは間違いないと思います。 そういった意味で、完全に☆5でいいマンガなのですが、一点、ちょっと特に後半ジメッぽさが過度になりすぎてしまっていて、そこが個人的な好みに合わなかったので、一応4にしておきました。ジメッとした部分は土田先生の持ち味でもありますし、それが熱さや感動につながることが多いのですが、本作品の終盤は少しメメしく写ってしまいました。個人の感想ですが、悪くいうつもりは本当になかったです。すいません。