Wingsの感想・レビュー38件江戸×人情×料理 #1巻応援ふくふくまんぷく 碧也ぴんくstarstarstarstarstar兎来栄寿歴史に詳しくなくても楽しめる、心温まる人情グルメマンガです。 江戸後期、文化文政の時代を舞台にした料理人の娘である「ふく」が主人公の物語。母親を亡くして家のことも父の手伝いも率先してこなす健気な偉い子です。彼女が最も興味を示すのは料理。料理本を読み漁って読み書きを覚えてしまったほど、料理にのめりこんで育ちました。 元々は殿様にも仕えて料理を作っていて、 ″お殿様でも棒手振りでも うまいうまいと毎日笑って飯が食えりゃァ それが一番幸せよ たった4文の串にだってそんな力はあるのさ″ という尊敬できる父親と何年も休みなく働いて、遂に念願の料理店を居抜きで開業したものの、宣伝が足りず閑古鳥が鳴き父親は急逝。 ふくは残った借金のカタとして、料理茶屋という名目で女の子たちが男性を接待する店で働かされることになっていきます。 なかなか逆境の多い人生ですが、父親譲りの技術と人を喜ばせたいという想いで料理を作れるふくが、さまざまな人の心を動かす料理を作っていくさまにはカタルシスがあります。始めは偏屈だった人も、ふくの作ったものを頬張った瞬間にそれまでにない表情を見せるのが痛快です。 巻末の参考文献の多さからも解るように、江戸の風俗や食文化を丹念に研究して描いているのが伝わってきます。実際に現代でも手に入る食材を使った料理の数々は、シズル感が強くて幕間ではレシピもマンガで描かれているので実際に作って食べてみたくなります。口の中でしゅわしゅわ溶けると評される霰豆腐など、いいですね。 また、一方で人間ドラマとしての魅力も大きい作品です。食べることは生きること。人が食をきっかけに生きる力を得るシーンもたくさん描かれていて、読んでいるだけでも胸が一杯になります。五話のエピソードなど、特に好きです。 タイトル通り、読むと福を得られた気分になれる作品です。時代的には女性が料理人をやるのには数々の困難があると思いますが、すべて乗り越えていってたくさんの人をますます笑顔にしていく料理を作っていくさまを見続けたいです。「銀の匙」の原体験的な作品百姓貴族 荒川弘六文銭『銀の匙』の著者であり、『銀の匙』→本作という流れで読んだ身としては、漫画がリアルになった感じです。 『銀の匙』のエピソードって一部脚色ありのフィクションかな?程度で読んでいたのですが、どっこい、本作を読むとリアルのほうがもっとキツイ&生々しいのにたまげました。 あ、あの話マジなんだ と、謎の説得力が増す。 そんな副読本として読んでも面白い作品でした。 農業、畜産の過酷さ。 特に、家畜を動物ではなく食料としてとらえて処理していく姿は、そんな感情はエゴだとわかっていても、胸にクルものがある。 時に面白おかしく、あっさりと書いているけど、だからこそ、読んでいて行間に残るものがある。 ただ切々滔々と農業の過酷さやエグさを語られるよりも、よっぽど残る。 普段の食卓にのる食材はすべて、農家の方々のおかげなんだとあらためて感謝したくなる、そんな本でした。 読みやすいし、小さい子供の食育にもいいんじゃないか?と思いました。農家の苦労がよく分かる!百姓貴族 荒川弘starstarstarstarstar_borderこめつぶ家族の関係の良さが目につく漫画です。 タイトル通り生粋のお百姓さんの話。 北海道の酪農、農業なんて想像もつかないので読んでへぇーとなるトリビア的なのがすごく面白い。 作者さんの表現力の高さが際立っていて、農業がさっぱりわからない人でも楽しめる事間違い無し!! 農業の大変さが深刻になりすぎる事なく読めるので面白くもあり勉強にもなる。幻想文学とミステリーと人情 #1巻応援十次と亞一 コドモペーパー兎来栄寿切り絵作家でもあるコドモペーパーさんが描く、大正期を舞台にした独特の空気感を纏う作品です。紙の装丁は、その影響もあってかオシャレで素敵なデザインとなっています。時折、普通の絵に交えて切り絵による描写が差し挟まれるのも印象的です。 物語は、タイトルの通りふたりの青年が中心となって紡がれます。 うだつの上がらない漫画家である十次。 色男で売れっ子の小説家でありながら字の書けない亞一。 亞にも「次」の意味があるという点では非常に近しい名前を持つふたりの出逢いから、本作は幕を開けます。 最初は償いから始まり、やがてひとつ屋根の下で暮らすようになり、文字を書くことができない亞一に代わって十次は口述筆記を行います。その、ふたりの力を合わせて幻想文学を作り上げていくところは何とも言えないワクワク感があります。ふたりの関係性を強固にする理由が描かれた上での、134Pのセリフがとても好きです。人間の営みは目に見えないところで誰かに大きな影響を与えているものですね。 しかし、亞一にはどこか妙なところがあり、読んでいるといくつかの謎が出てきます。ある日それは十次に対するとある行為の予告として立ち現れます。コドモペーパーさんの絵は温かみがあってかわいらしいのですが、その絵柄に反して不穏な雰囲気が流れ始めます。 最後まで読めば、すべての謎は綺麗に氷解します。それを踏まえて読む2周目は、端々の描写がまた味わい深くなります。 主人公が物書きであり、また実在の文学作品が登場することもあって文学好きの方はより楽しめるでしょう。そうではなくとも、1冊で綺麗に完結している作品としてお薦めです。 自己犠牲の強い主人公に強い共感 #1巻応援ギブギブの悪魔 四ツ原フリコ エイタツ兎来栄寿刺さる人にはとても深々と刺さりそうです。 競争が嫌いで、自分が得をするために他人を蹴落としたくはない。 自分が得られないことで、他人が得られて幸せになるならそれもまた良い。 小中学生の頃から自己犠牲や譲ることが基軸にあり同級生から「もっと強欲になっていい」と言われて生きてきた私は、かなり深い共感を得た作品です。 常に自分より他人を優先してきて、作曲家崩れのヒモと暮らす女性・ひろ野が、ライトノベル作家・涼と出逢ったことでその考え方や生き方を徐々に変えていく物語です。 本作で、特に印象的だったのはバイト先の後輩である友枝とのエピソード。 ひろ野が慎み深さとは裏腹に「人のために何かをする」という相手の喜びを取り上げているのではないか、という部分は考えさせられました。 相手の好意への遠慮は、語弊を恐れずに言えば相手の好意を摘むこと。遠慮せずに受けた方が良い好意も、世の中にはままあることでしょう。大事なのは、それをしっかり見極められる目を持っておくことでしょうか。 自己評価がとことん低いところも共感してしまうのですが、相手が気に入ったり認めてくれていたりする自分という存在を自分で貶めるということは、相手の考え方をも貶めるということに繋がっています。 謙虚さは、時に自分に優しい者を傷付ける悪魔となってしまう。肝に銘じておきたいです。 程よく笑いも交えながら大事なことをしっかり描いている素敵な作品です。BLじゃなくても夏目先生が好き!(告白😆) でもちょっとそれっぽいよwあやかり草紙 夏目イサクstarstarstarstarstarるる※ネタバレを含むクチコミです。続きが気になるけど・・家族ごっこ りさりstarstarstarstar_borderstar_bordermotomi絵が好みだったので試し読みしてみました。 児童養護施設で育った姉妹の話。はじめは施設内で楽しく過ごす姿が描かれているけど、どんどん読むのが辛くなっていきそうな予感が・・幸せになってほしいなと続きが気になるけど、子供たちが犠牲になるなら見たくないなと考えてしまう。。。 ネタっぽく描いていますが、農家の人って改めてすごい!!百姓貴族 荒川弘starstarstarstarstarあいざっく荒川弘先生やそのご家族が牛のキャラクターとして描かれていて、 出来事もネタっぽく描かれているので、笑えるしすごく面白いのですが、 農家の人って大変だなと改めて思いました。 しかし、そんな大変なお仕事も面白おかしく描けるのが荒川先生の才能であり魅力だと思います。 あと、シンプルに荒川先生のご家族もみんなパワフルで面白い方々だなと思いました。 農家の生活をこんなに面白く読める漫画は他にないと思いますので、 みなさんにおすすめしたいです。少年よ、境遇にあらがえ!そして恋もせよ!三番町萩原屋の美人 西炯子starstarstarstarstar_borderママ子西先生の絵の感じって男性も女性も色っぽいんですよねぇ。 時代の変わり目を感じる設定で、亡くなった奥様を「カラクリ」で蘇らせようとする呉服屋のご隠居と、恋愛ごとより理論が気になる理系青年のお話。 着流しのご隠居が、息子より若く美しくこれがまたセクシー。でも時々作画壊れたかなって思うぐらいのアホ顔書かれます。 それなりに巻数出てますがオムニバス形式なので、重くなく読めますね。美男子だらけプリンセス・プリンセス つだみきよ 蔵王大志名無し懐かしい! 友人の部屋で読んだ記憶あります。 男子校で男だらけの環境に癒しを与えるため、美男子が女装する…という今の時代だとちょっと色々問題になりそうな話です。 「ホモ」とか気持ち悪いとかちょっと差別的な表現もあるので今の時代にはそぐわないかも。。 が!今読んでも絵が綺麗だし読みやすくてびっくりしました。もう十数年前に読んだはずなのに! 女顔にもなれる美男子っていいですよね…きっとジャニーズ系。 イケメンで嫌々で女装するんだけど家庭環境が重かったり時にシリアス、時にギャグ。 さらっと読めます。 "恋多きマンガ家"のままならない恋愛を描くコミックエッセイ #1巻応援女×女のうまくいかない恋愛エッセイ parlor 藤生sogor25この作品は恋愛対象が女性である著者の藤生さんが日常のいろいろな場面で遭遇する恋の様子を描くコミックエッセイです。 自らのことを"恋多きマンガ家"という藤生さんが様々な場面で出会うトキメキの数々を、最短で2ページのマンガでテンポよく、でも彼女の恋や人生の核心にある部分は逃さず描いていく作品です。 また、彼女がルームシェアしている"同居人先生"やこの作品の担当編集、彼女の夜遊び友達の先輩など様々な人物が登場し、彼女の恋についてあれやこれや語り合う、そんな様子も楽しい作品です ちなみに前作『えりちゃんちはふつう』を連載していた関係だと思いますが、同時期に楽園で『ろみちゃんの恋、かな?』を連載していた武田春人さんとのエピソードも登場するというちょっとしたサプライズもあります。 1巻まで読了花々が織りなす秀逸なオムニバス #1巻応援星降る花屋 平澤枝里子兎来栄寿流れ星が落ちたある夜から開店した、選ばれた人しか辿り着けない不思議な花屋の物語。 1話ごとに登場するさまざまなキャラクターの悩みや課題が、カトレア、フリージア、アネモネ、チョコレートコスモスといったその人に合った花々を贈られることで解決に導かれていきます。 悩みの内容も恋愛に関することから作家としての悩みまで十人十色ですが、かなり現代的なものも多く、人によっては人一倍共感してしまうキャラクターもいることでしょう。読んだ後はとても優しい気持ちに浸れます。 物語は1話完結の読み切りとしても読めながら、キャラクター同士は連綿と繋がりを持って展開していく構成が巧みで面白いです。 全12話で1冊完結ですが、最後まで読むことで大きな満足感を得られます。 端的に言って、好きな物語でした。人が3人に獣が3匹、魔女の家で過ごすほのぼの日常ファンタジー #1巻応援東の森の魔女の庭 越田うめsogor25ある魔女は森の中の洋館で長い間1人で暮らしていました。 しかし、その魔女の家にいつの間にか1匹の黒猫が寄り付くようになり、 さらに黒猫がいろいろな人や動物を拾ってくるようになり、 気付けば魔女と子供2人、そして獣が3匹という大所帯になっていました。 この作品はそんな魔女の家の日常を描く物語です 魔女の家に住んでいるうちのほとんどが黒猫に"拾われてきた"ということで誰1人として血の繋がりのない3人と3匹なんですが、長年一緒に暮らしているうちに"家族"のような絆が出来上がっています。 そして、1人で暮らしていたときは静寂を好んでいたという魔女も、一見気難しく見えるのですが、"家族"の世話を焼くのにまんざらでもない様子。 そんなほのぼのとした雰囲気に癒やされる作品です。 また、日常を過ごしていく中で各キャラの成長が見られる場面もあり、ほのぼのとした中にもそこにはちゃんと物語がある作品です。 1巻まで読了 続きは…続きはまだか!八百夜 那州雪絵さいろく2巻が出てから早1年。 まだ2巻なんだぞ!この物語はきっと長く、深いものになると思う。 不老不死の主人公がふらりと訪れたトオワの国は一体どうなるのか、本当に気になる。 久しぶりに良作を探し当てた気分。 マンバの「フォロー」や「また読みたい」ボタンはこういうときにこそ押すものなんだきっと。タンスの引き出しがトラウマになるホラーヒキ 南国ばなな名無し※ネタバレを含むクチコミです。人は生きながらロジックツリーを広げてゆく #完結応援ロジックツリー 雁須磨子nyaeテレビでよくやる「大家族モノ」が大の苦手で、ああいう中でどうやって自分を保ちながら生きていけばいいんだと思ってしまうんですが、この漫画の主人公・螢ちゃんという高校生は8人兄弟のど真ん中にいる女の子。雁須磨子さんが描く8人兄弟ですから、個性の強さはもちろんのこともれなく美男美女です。こういう家庭だったらいいかもなとか思ってしまうくらいに。 ただ物語としては大家族ものというよりは、螢ちゃんの成長記といったほうが近いと思います。 大家族という大きな海から一歩外に出てみたら、いろんな人に出会って、いろんな感情を知って、いろんな自分を知ってゆく。最初は「それってどういうこと?」「なんでこうなの?」を繰り返していた螢ちゃんが時間が進むにつれ自分なりの生きるロジックを作り上げてゆく。読んでいてワクワクします。 頭のいい大人達が、壁にぶつかり悩み迷う子どもに、どうせ子どもだしと見捨てるのではなく、ていねいに教え、時には何も言わず見守る様子がよい。そういう意味で嫌な大人が出てこないので安心して読んでほしい。 群像劇っぽさもあるので、決して視点は螢ちゃんだけではなく悩み迷う大人たちも描かれます。柚木くん、お幸せにな…!! いやーでもあれですね、雁須磨子さんが描くちょっと陰気なこじらせ男子がほんとに私は好きですね。読んで一番言いたいことは結局それかもしれない笑 あとこの作品、2015年から連載してていまやっと単行本化されたと知りびっくりして腰抜けた お前のような総理大臣が居るか!世紀末プライムミニスター 影木栄貴ANAGUMADAIGOといえばおじいちゃんが総理大臣で有名ですね。つまりDAIGOのお姉さんである影木栄貴先生もおじいちゃんが総理大臣ということです。 そしてこの『世紀末プライムミニスター』は女子高生が弱冠25歳の総理大臣に街中で一方的に婚約者にされてしまうという漫画。この前情報だけで読みたくなってきませんか? 随所で「お前のような総理大臣が居るか!」と突っ込みたくなってしまいますが、どうも裏話としては影木先生のバックグラウンドが記事になってしまい政治ネタが書きづらくなったという向きもあるようです。そんなわけであくまでファンタジーとして読むのが正しいのでしょう。総理番の記者も官邸付きのSPも全員総理の幼なじみなところとか好きです。 一方でところどころの政治家ネタがその世界の関係者でないと出てこないようなリアリティを持っているのも面白い。イロモノだと思って読み始めたら真面目に日本の未来を憂いていたりして…という具合に終始情報量多めで圧倒されながら読んでしまいました。これが『世紀末プライムミニスター』…。謎の多い和風な世界八百夜 那州雪絵名無し2年位積ん読してたものを読んでみた。ファンタジーで和風な世界で800年生きている不老不死の男・ヤオが主人公。国同士の情勢やなぜ先王が女を皆殺しにしたのかなどとにかく謎が多くてすごく気になる。アケトには幸せになってほしい…。僕が在るべきは、彼岸の国?カナシカナシカ 紺野キタあうしぃ@カワイイマンガこの作品を読み始めて、最初に感じるのは、主人公の少年の「モブ」感。紺野キタ先生のいつもの美少年とは明らかに違う、意志の弱そうな、精気の無い目。主役感に欠けるのだ。 それは読み進めていくと納得いく。確かに少年は、この世に生きる自信に欠けていた。 ★★★★★★ 自分にだけ見える入口、話しかける動物、感じる気配……己がここにいる事に不信を覚えた時、少年は彼らに導かれ、異界に足を踏み入れる。そこにはいつも側に感じていた、分身の少女がいた。 彼女の存在に納得する少年。本当は自分が彼女の影なのだ、という諦めが悲しい。 あちらの世界は和洋折衷でヘンテコだが、なかなか美しい。不思議な異界の〈女王〉になるよう誘われる少年が、異界から出られない少女と対話し、自分の意思を示す物語は、最後まで切ない。己の居場所を知るための、ごく短い「神隠し」の時間を、惜しみ懐かしがりながら眺めていたい。 付喪神と空っぽ少女を巡る冒険!まぼろしにふれてよ 雨隠ギドあうしぃ@カワイイマンガ付喪神と言うと、長年使った道具に魂が宿るモノですが、こちらの作品の付喪神は人間の欲望が漂って物に取り憑き、仮初の命を宿すというモノ……これが愛らしい!幼くて無垢だったりヤンチャだったりして、これは愛着持ってしまいそうです。 そんな付喪神に憑いた欲望を集めて回る、女子高生の百地ひとこ。彼女は真っ直ぐで優しい、いい子。なのだけれど、ちょっと不思議なのは、彼女が「薄っぺらい」こと。考え無しで欲望もハッキリせず、ただ「ワクワクしたい!」の一念で狸に貰った力を振るう。 彼女はその「薄っぺらさ」に辛い思いをし、自覚してちゃんと考えようとしても、なかなか思考が働かない。その「薄っぺらさ」を巡る物語は彼女の血筋や過去、背景の大きな物語に繋がり、手には汗、目には涙が止まりません。 そして私達が普段、後ろめたさを持つ「モノを大切にするとは、どういう事か?」について、キチンと回答を出していて、納得させられます。ビニール傘から彗星まで、モノが持つ感情って、本当にこんなかもしれないなぁ、と温かな気持ちになれる、深い物語です。人の悪意が「見える」という事ファンタズム 雨隠ギドあうしぃ@カワイイマンガ母と折り合えず祖父と暮らしていた女子中学生は、祖父の死後、兄の元に引き取られる。彼女は人の「悪意」が見える。その事で苦しい思いをしてきたが、ある時それ迄の悪意と次元の異なる恐ろしいモノと、出会ってしまう。 ■■■■■ 彼女に見える「悪意」の描き方が恐ろしい。人を飲み込む闇や、覆い隠す煤といった表現で、まるでタチの悪い怪異の様な緊張感を演出する。 しかし「悪意」は、怪異の様に固定した存在ではない。怒っている人も優しくされれば悪意は消える。犯罪者でも悪意の無い者もいるし、善良な人が悪意を増減させることもある。揺れ動く「悪意」の描かれ方は、リアルに感じられる。 悪意を食べて回る「恐ろしいモノ」に対抗して、人の悪意を減らそうと働きかける女子中学生。その在り方は、私達が「悪意」とどう付き合っていけばいいのか、「悪意」に飲み込まれない為にはどうすればいいのかを考えさせる。 感情の御し方について、何か掴めそうな気がする、本質的な物語だと感じた。BLかと思ってたら違ったおじさんと野獣 糸井のぞさいろく私はもう心が汚れているようでした。 この「おじさんと野獣」は所謂「美女と野獣」の美女がおじさんになったもの…と思えばいいだろう。 ただちょっと違うのはおじさんには美しい双子の娘達と無口だけどかわいい息子、そして義母に従順で無感情な妻と、美しい事で有名なタレントでもある義母というちゃんとした家族がいて、おじさんは婿養子で色々と情けないという事だ。 だけど、そんなおじさんはとても魅力的だった。 おじさんに感情移入してしまうところも多々あり、おじさんが周囲から受けるアドバイスが心に刺さり、おじさんのようになりたいと思った。 一方野獣は野獣だった。 本当に野獣で、意味がわからない。唐突だ。 なんでやねん、と言いたくなる展開だ。でも良いと思う、なぜなら全3巻を読み終わる頃にはきっと読者は彼のことが好きで、応援してしまうから。 守り神×バトルツインバード 高嶋ひろみyrsk加瀬さんシリーズでお馴染み高嶋ひろみ先生のファンタジー。1巻で完結しています。 頼りにしていた姉を亡くした主人公が、姉のパートナーだったという八東寺と出会い、勢力を広げるため自分達の祠を狙っている敵に立ち向かうストーリーです。 八東寺は力はあるが姉のパートナーだったため、自分と契約してくれる相手を探さなければならず、そのあたりの話も面白いです。 3巻分くらいの内容を凝縮しているのでやや物足りない感はありますが綺麗に終わっています。旬と八東寺のその後が読みたい。安心感のある作風上條先生のお嫁さん 鈴木有布子ナベテツ鈴木有布子先生の作品を読むようになってそこそこの時間が経ちますが、どの作品も安心して読める、信頼感の置ける漫画家さんだと勝手に思っています。 本作はあらすじにもある通り、作家と年の離れた奥さんとの北海道での生活を綴った1巻完結の物語ですが、あとがきで鈴木先生が描いている通り、主人公の上條先生のネガティブさが物語をコミカルにしてくれています(最早卑屈と言っても良いくらい)。 日常の中での些事に疲れた時に、ふっと息を休めることが出来る。そんな柔らかさと優しさを持った作品です。<<12>>
歴史に詳しくなくても楽しめる、心温まる人情グルメマンガです。 江戸後期、文化文政の時代を舞台にした料理人の娘である「ふく」が主人公の物語。母親を亡くして家のことも父の手伝いも率先してこなす健気な偉い子です。彼女が最も興味を示すのは料理。料理本を読み漁って読み書きを覚えてしまったほど、料理にのめりこんで育ちました。 元々は殿様にも仕えて料理を作っていて、 ″お殿様でも棒手振りでも うまいうまいと毎日笑って飯が食えりゃァ それが一番幸せよ たった4文の串にだってそんな力はあるのさ″ という尊敬できる父親と何年も休みなく働いて、遂に念願の料理店を居抜きで開業したものの、宣伝が足りず閑古鳥が鳴き父親は急逝。 ふくは残った借金のカタとして、料理茶屋という名目で女の子たちが男性を接待する店で働かされることになっていきます。 なかなか逆境の多い人生ですが、父親譲りの技術と人を喜ばせたいという想いで料理を作れるふくが、さまざまな人の心を動かす料理を作っていくさまにはカタルシスがあります。始めは偏屈だった人も、ふくの作ったものを頬張った瞬間にそれまでにない表情を見せるのが痛快です。 巻末の参考文献の多さからも解るように、江戸の風俗や食文化を丹念に研究して描いているのが伝わってきます。実際に現代でも手に入る食材を使った料理の数々は、シズル感が強くて幕間ではレシピもマンガで描かれているので実際に作って食べてみたくなります。口の中でしゅわしゅわ溶けると評される霰豆腐など、いいですね。 また、一方で人間ドラマとしての魅力も大きい作品です。食べることは生きること。人が食をきっかけに生きる力を得るシーンもたくさん描かれていて、読んでいるだけでも胸が一杯になります。五話のエピソードなど、特に好きです。 タイトル通り、読むと福を得られた気分になれる作品です。時代的には女性が料理人をやるのには数々の困難があると思いますが、すべて乗り越えていってたくさんの人をますます笑顔にしていく料理を作っていくさまを見続けたいです。