公式ガイドブックマンガの感想・レビュー10件モデルを持たない僕達の、たとえ稚拙な芝居でも…機動戦士ガンダム THE ORIGIN 安彦良和 矢立肇 富野由悠季 大河原邦男starstarstarstarstar阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)2024年3月17日 「また、死ぬよ!」(伝説の大根役者ロバート・コーツの「迷演技」,リーダーズダイジェスト『世界不思議物語』より引用) 安彦良和による表情がコミカルでいいんだけど、一年戦争後期のギレンとかシャアが中々しやがらないんだ、これが。仏頂面や一物抱えた薄笑いばっかりでさも自分等をアレクサンダー大王やナポレオンと思ってるんだろうね。あの芝居がかった態度は。それが大変不気味であるんだが、不気味ゆえに彼らは強い。彼らの心持はナポレオン、カエサルであるからだ、英雄は容赦を知らない、それ故負けも知らない。 それに比べるとホワイトベースの乗組員はケツの青いひよっこもイイとこ。たかが仲間が将軍を尻に敷くと言う粗相をした程度で目を丸くして開いた口が閉まらない。彼らの振る舞いもまた芝居がかってるが、ギレンやシャアと違ってそこには英雄を憑依させた凄みなんか無い。あるのは一身上の苦悩と戦場での生の証を立てようと足掻く青臭さ、それだけだ。 然し、彼らはハムレットやヒットラーを憑依させて何かしらの大物になろうとしているシャアやギレンと違って自分を生きている。彼らが英雄にのめり込み過ぎて自分でも何でもない暴力の化身になり果てているのに対し、ホワイトベースの乗組員はちっぽけな自分でしかないが、それを貫徹していく最中に英雄に届かなくても何かしら自分を語るヒストリーを身に着けた。詰り立場は逆転したのだ、余りにも豊かな教養とバックボーンにより得た資格で歴史に寄り過ぎた男たちは、逆説的に歴史の中での自分の立ち位置を忘れて骸か神か以外の自分の存在を忘却した。これは結局誰よりも歴史と己の対比に自覚的であり、メタ的にシャアやギレンの思想的師となっていたマ・クベが結局不出来な部下一人教育できず、歴史のダイナミズムを意識したアムロたちに敗北を喫した(『アムロ0082』)姿を見ても窺えよう。 『ガンダム』は45年続くロングランのシリーズだ。その中で築き上げられた設定や歴史はとてつもなく膨大で長くそれを専ら漁るファンも大勢いる。然しそのような流れの中に於て『THE ORIGIN』はフラットな設定に紐づいた歴史に異を唱えるように、そこでの「健全なダイナミズム」を描き出す。勿論、これは安彦良和の一存の作品であり、とても「粛清」の域に至らないのであるが、それでよいではないか(安彦もそこまで考えてはいない)。 結局、こういう作品が打切にならず大団円を迎えた辺りに「ガンダム」は恵まれた作品であり、我々はそれを盲信の観念を払拭して健全に引き継がねばならない。これは『ガンダム』の意匠を用いた歴史漫画であり、この歴史に『ガンダム』が含まれているとの告白だろう。 P.S: 或いはジオンが、事故演出家した歴史とするなら彼らはヨーロッパで、逆に自分を規定する歴史を持たず力で押しがちな連邦はアメリカなのかもしれない。然し少なくとも作品の後者には、己を語る語彙を得ようとするチャンスがあるのだ。作品ラストにジオンの残党が連邦で再就職するオチは「何物でもない」余地、ナポレオンでもヒットラーでもないモデルをさがす余地をアメリカに求めた隠喩なのかもしれない。これは余談の通り、根拠の無いトンチキ歴史観だ。忘れてくれて結構。完成度が高すぎる奇跡のガンダムマンガ機動戦士ガンダム THE ORIGIN 安彦良和 矢立肇 富野由悠季 大河原邦男starstarstarstarstar酒チャビン初めて読んだとき本当にびっくりしました。完成度が高すぎます。アニメのコミカライズになりますが、アニメの全43話の完成度がかなり高いように感じていたので、どうせそれよりは面白くないだろうとタカを括っていたのですが、全然そんなことありませんでした。 どうしてもアニメのコミカライズとなると、アニメ見てるのが前提になってるのか、ストーリーが端折られていたり、薄まることが多いと思いますが、これはかなりストーリーが過不足なく濃密にしっかりと描写されているうえ、アニメではうまく描ききれなかった部分を補足し、なおかつオリジナルエピソードまで入れ込んでくるという離業をやってのけています。 マンガってすごいんだって心底思いました。 圧倒的な完成度を誇りすぎていて、もう多分これを超えるガンダムマンガは出てこないと思わせられます。可能だったらでいいのですが、この感じでゼーターガンダム&ダブルゼーターガンダムを描いてほしいです。必ず描います(豪華版の方で)。 ガンダムに興味がある人で読んでない人はいないと思いますが、もしいれば、絶対に読んだ方がいいと思います。なるべく早めに。龍ひみつ図鑑が面白い空挺ドラゴンズ 公式コミックガイド 桑原太矩 講談社(編)名無し本編が7巻くらいのときに発売されたガイドブック。これまでのミカたちの旅の道のりや世界観設定などたっぷり書いてあるガイドです。 なかでもクィン・ザザのクルー、沢山いるのでそれぞれの紹介がまとめてあるのは本編を読む上でもかなりありがたいかも。 一番ワクワクしたのは龍ひみつ図鑑。これまでに出てきた龍の生態や特徴が設定イラストとともに解説されています。大きさとか習性とか細かく書いてあって、これだけでも本にしてほしいくらい。モンハンの攻略本とかを思い出して嬉しくなりました。 それとインタビューに書いてあったんですが、クィン・ザザの名前の由来が映画のキンザザだっていうの、読むまで全然気づかなかった…。これを読んで『地獄楽』の解像度を上げよう!地獄楽 解体新書 賀来ゆうじANAGUMAジャンプ本誌に掲載された読み切り2作や一部の登場人物にフォーカスした描き下ろしの小編5篇と設定集、対談などなどという構成。単行本のオマケマンガなどでも薄々感じられてはいましたが、本編には出てこないキャラの個性やバックグラウンドなどかなり緻密に設定されていることがわかって面白いです。 最初の頃にいた死刑囚の紹介読むと「懐かし~!」って嬉しくなっちゃいますね(転び伴天連のモロマキヤ!)。 個人的に一番面白かったのは藤本タツキ先生との対談。お互いの作品の魅力に思うところや、どんなことを考えながら週刊連載を乗り越えたのかなどなど…。近しい関係だからなのか、創作に対する姿勢が鋭い着眼点で語られていて読み応えありました。 特に『地獄楽』1話のナレーション演出に対するお二人のコメント、かなり細かい演出論まで踏み込んでいて勉強になります。 本編の情報がグンと増えて解像度が上がること間違いなし。本編をもう一度読み返したくなる素敵なファンブックだと思いました! 秘密ファンの漫画家によるイラストも見どころ!秘密 パーフェクトプロファイル 清水玲子名無しキャラクターのプロフィールやこれまで捜査してきた事件について載っているのはもちろんですが、秘密製作時のネームやプロットも見れちゃうのはすごいです!ネーム絵の時点でもかなり綺麗に描かれているので驚きました。萩尾望都先生との対談だけではなく、一条ゆかり先生、日渡早紀先生、麻生みこと先生、山田ユギ先生による描き下ろしイラストも収録されています。ご、豪華メンバーすぎる…!!読み終わるのに2時間かかるマジもんのバイブルだったダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル 完全版 九井諒子starstarstarstarstarたか本編に載ってない事実と描き下ろし漫画が想像の120倍入っててマジでバイブルだった。 「ど〜せ本編しっかり読み込んでるファンは当然知ってることしか載ってない、既存の情報とイラストを〇〇ページに薄めただけのよくあるファンブックなんでしょ〜?」と思って読み始めたらブッたまげた。 普通のファンブックなら読み飛ばしてしまいがちな文章によるキャラのプロフィールデータの中に、ザクザクと新情報が入っててひっくり返ってしまった。九井諒子先生太っ腹すぎる…! ・マイヅルさんの年齢と当主との関係性 ・東方忍者たちの本名 ・イヅツミの生い立ち ・トーデン兄妹が村を出た年齢 ・トーデン家の犬たちの思い出 ・チルチャックの3人の娘たちの詳細 ・ハーフフットの名前の構成 ・ノーム体系とエルフ体系の魔術の違い ・世界地図 ・クロにまつわる衝撃の事実 ・キキとカカがなぜタンスじいちゃんに育てられたか ・ミスルン隊長と兄の話 ・オッタの恋人の趣味 ・リシオンが侵した罪 ・交配で子を成せるハーフ人種について ・シェイプシフターの答え合わせ ・ダルチアンの一族コミカライズ ・トーデン兄妹のパーティー性別逆転IF ・センシの手記 …etc!!! とにかくビックリする情報が多すぎて書ききれないほど。 本編でサラリと匂わせる程度で出てきた情報がじっくり丁寧に解説されている素晴らしい1冊。 こういう緻密で濃厚なワクワクさせてくれるバックグラウンドがダンジョン飯の面白さの理由なんだなと、あらためて感じました。 もし買うか迷ってる人がいたら今すぐ買って間違いないやつなので安心して買ってください。 【追記】 個人的にはマイヅルさんについての掘り下げがヤバかった。大好きなのでトシロー坊ちゃんと同じくらい衝撃を受けたし、お陰様で新しい性癖の扉が開きました。ここまでとはダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル 完全版 九井諒子狐優曇華もっとありあわせの素材とかそう言うので構成されてるのかな?って思ってたけど全然違った・・・ これは普通にコミックスの新刊が出るよりはるかに情報量が多く、読むのが楽しい。全巻持ってる人は絶対買おう。こりゃすごいや・・・ キャスバル=シャアのミッシングリンク機動戦士ガンダム THE ORIGIN 安彦良和 矢立肇 富野由悠季 大河原邦男あうしぃ@カワイイマンガ宇宙世紀0080年1月1日、連邦とジオン公国の間に終戦協定が結ばれた……とのことで、1月1日は(ガノタ的には…)一年戦争終戦記念日です。ここでは最新の戦史としての『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の見所をご紹介します。 まず、前のさいろくさんのレビューの通り、現代にこの物語を、丁寧な解釈で蘇らせて下さった事が有難いですよね! ジオンにも真っ当な大人(ドズル・ザビやランバ・ラル)がいる一方、 連邦にだって阿呆な士官もいる。『THE ORIGIN』では、敵味方関係なく、様々な大人達が紡いでいる大小の物語を、余す所無く丁寧に纏め上げています。 アムロ・レイとホワイトベース隊中心史観だったアニメの1stガンダム。『THE ORIGIN』はそこに沢山の、別視点からの物語を加えることで、ジオン建国から一年戦争終結までの歴史の全体像を、偏り無く記述した戦史として、新たな発見が沢山ある作品となっているのです。 (偉そうな割に功績がよく分からなかった、マ・クベやレビルの活躍なども面白いですね) そこを踏まえて、敢えて一点。この物語が、ガンダム史の重要人物でありながら、謎の多い「シャア・アズナブル」の欠けていた部分を、沢山のページを割いて埋めている点を、紹介しておきたいのです。 ジオン建国の祖、ジオン・ズム・ダイクンの息子、キャスバル・レム・ダイクン。彼は名を変え、ジオン軍のパイロット・赤い彗星のシャアとして出世し、公国を私物化するザビ家に接近します。 それにしても、彼はどうやってジオンの亡き後、ザビ家の監視から逃れたのか。そしてシャア・アズナブルの名の由来とは……。 更にはガルマ・ザビとの友情の日々から、シャアが仮面を被る迄、卓越したMS使いの理由からララァ・スンとの出会い等々、様々な秘密が破綻なく描かれ、その後の彼の行動原理がしっくりくるようになっています。 キャスバル(シャア)は、人として真っ当な理想を持ちながらも、それを先鋭化させ、人に本心を露わさず孤立し、そして力がありながら、誰も幸せにしませんでした。 その後のZや逆襲のシャアにまで通じる、彼の哀しみの源泉……命懸けの日々の中で理想とプライドを保ちつつ、歪んでいく過程が、この作品ではじめて描かれているのです。 是非若いキャスバル(シャア)の真っ直ぐな冒険と、そこに潜む哀しみを、ご一読いただきたい!アムロとシャアだけじゃない!「ガンダム」を知ろう機動戦士ガンダム THE ORIGIN 安彦良和 矢立肇 富野由悠季 大河原邦男さいろく安彦良和先生のガンダム。 これこそがORIGIN。本当にありがたい。 アニメの機動戦士ガンダムをちゃんと見れてなかった世代としてはガンダムがゲームやカードダスで一世を風靡しているにも関わらず本当のシナリオを全て理解出来ていなかった事が心残りというか悔しいというかだったんですが、このORIGINはアニメ版以上に安彦良和で(そりゃそうなんだけど)思っていたガンダムが本当に今描かれているんだと。 ものすごく古い時代のマンガだったらちょっと手を出しづらいとこあるじゃないですか、正直。 でもこれは最近になって描かれてるんですよ。ようやくガンダムを知る事ができる!と嬉しくなって読み始めたら見事に期待を上回る作品だった。 小さい頃、小学生低学年の頃はアニメも疎らに見てカードダスとかガン消しとかしか持ってなくて知識も乏しくて。。。そんな頃、悪役だったザビ家は馬鹿な悪いやつなんだと思ってたんですよ、ガルマのせいかもしれないけどさ。でもORIGIN読んだらドズルのファンになるよ、絶対。 ガンダムという日本が誇る壮大なスルメコンテンツを今になってこんなに丁寧な作品として出してくれた安彦先生とKADOKAWAに感謝したい。池上遼一画集阿羅紫~ARASHI~ 池上遼一画集 池上遼一マウナケア「漫画を描く場合、自分の世界は抑えて原作者のイメージを膨らませることに腐心している」とのコメントが販売ページにありますが、そう言われると、個人の仕事であるこの画集の世界観は、数ある漫画作品と根本的な部分で違っていることがよくわかります。「人の心の動きを画にしたい」ともあり、描かれているのは快楽主義的で破滅的、欲望と道徳心の間で悶絶する世界。そう、本作に収められているのは、作家・池上遼一の本質はここにある、と言わんばかりの作品の数々なのです。何が素敵かって、エロチシズムを前面に出しているのにまだ何か隠していそう、といったもどかしさ、それと男の目線でしょうか。この画集に登場する美女たちの横に立つのは、漫画の主人公タイプではなく下卑た男のほうが似合う、と思っていたんですが、これってよく考えると願望交じりの男目線で描かれているからで…。まんまと同化させられてしまいました。巻末には短編ストーリーも収録されていますが、もちろんこちらもコンセプトは変わっていませんので、じっくりご堪能ください。
2024年3月17日 「また、死ぬよ!」(伝説の大根役者ロバート・コーツの「迷演技」,リーダーズダイジェスト『世界不思議物語』より引用) 安彦良和による表情がコミカルでいいんだけど、一年戦争後期のギレンとかシャアが中々しやがらないんだ、これが。仏頂面や一物抱えた薄笑いばっかりでさも自分等をアレクサンダー大王やナポレオンと思ってるんだろうね。あの芝居がかった態度は。それが大変不気味であるんだが、不気味ゆえに彼らは強い。彼らの心持はナポレオン、カエサルであるからだ、英雄は容赦を知らない、それ故負けも知らない。 それに比べるとホワイトベースの乗組員はケツの青いひよっこもイイとこ。たかが仲間が将軍を尻に敷くと言う粗相をした程度で目を丸くして開いた口が閉まらない。彼らの振る舞いもまた芝居がかってるが、ギレンやシャアと違ってそこには英雄を憑依させた凄みなんか無い。あるのは一身上の苦悩と戦場での生の証を立てようと足掻く青臭さ、それだけだ。 然し、彼らはハムレットやヒットラーを憑依させて何かしらの大物になろうとしているシャアやギレンと違って自分を生きている。彼らが英雄にのめり込み過ぎて自分でも何でもない暴力の化身になり果てているのに対し、ホワイトベースの乗組員はちっぽけな自分でしかないが、それを貫徹していく最中に英雄に届かなくても何かしら自分を語るヒストリーを身に着けた。詰り立場は逆転したのだ、余りにも豊かな教養とバックボーンにより得た資格で歴史に寄り過ぎた男たちは、逆説的に歴史の中での自分の立ち位置を忘れて骸か神か以外の自分の存在を忘却した。これは結局誰よりも歴史と己の対比に自覚的であり、メタ的にシャアやギレンの思想的師となっていたマ・クベが結局不出来な部下一人教育できず、歴史のダイナミズムを意識したアムロたちに敗北を喫した(『アムロ0082』)姿を見ても窺えよう。 『ガンダム』は45年続くロングランのシリーズだ。その中で築き上げられた設定や歴史はとてつもなく膨大で長くそれを専ら漁るファンも大勢いる。然しそのような流れの中に於て『THE ORIGIN』はフラットな設定に紐づいた歴史に異を唱えるように、そこでの「健全なダイナミズム」を描き出す。勿論、これは安彦良和の一存の作品であり、とても「粛清」の域に至らないのであるが、それでよいではないか(安彦もそこまで考えてはいない)。 結局、こういう作品が打切にならず大団円を迎えた辺りに「ガンダム」は恵まれた作品であり、我々はそれを盲信の観念を払拭して健全に引き継がねばならない。これは『ガンダム』の意匠を用いた歴史漫画であり、この歴史に『ガンダム』が含まれているとの告白だろう。 P.S: 或いはジオンが、事故演出家した歴史とするなら彼らはヨーロッパで、逆に自分を規定する歴史を持たず力で押しがちな連邦はアメリカなのかもしれない。然し少なくとも作品の後者には、己を語る語彙を得ようとするチャンスがあるのだ。作品ラストにジオンの残党が連邦で再就職するオチは「何物でもない」余地、ナポレオンでもヒットラーでもないモデルをさがす余地をアメリカに求めた隠喩なのかもしれない。これは余談の通り、根拠の無いトンチキ歴史観だ。忘れてくれて結構。