TOKYO WONDER BOYS

あまりに酷すぎて逆に印象に残った作品

TOKYO WONDER BOYS 下山健人 伊達恒大
名無し

物語の切っ掛けにしても第一話で飛び出すJリーグ罵倒と、主人公たちのプロとは思えない、いい加減すぎる態度が酷すぎてジャンプの正気を疑った作品。 作画と原作が分かれているのだが、どちらも題材の資料に当たっているとは到底思えない描写が多発しており、悪く言えば海外厨でしかない脚本なのでJリーグの制度は詳しくないとしても、金網に突き刺さったようなゴール、寒すぎるギャグ、プロ意識の欠片も感じられない主人公、部活の女子マネと混同されてるようなホペイロetc。 二部リーグとはいえ、れっきとしたプロクラブ題材でこれは流石に酷すぎた。(実業団や部活でも酷い事には変わりないが) 一応作画に関しては、競技以外の絵はそこそこ小奇麗だが80年代ならまだしも、サッカーがこれだけメジャースポーツと化した時代に、いったいどんな資料を参考にしたのか純粋に興味がわく。 ワールドカップイヤーでサッカー漫画の企画が通りやすかったしても、10週打ちきりは妥当すぎる結末。 作画は空知英秋のアシスタントだったそうで連載時は巻末でエールが送られてたが、エールよりダメ出しする方が本人の為になったのではないかと考えざるを得ない。

SPUNK - スパンク! -

″好き″こそパワー! #1巻応援

SPUNK - スパンク! - 新井英樹 鏡ゆみこ
兎来栄寿
兎来栄寿

いま私は……『SPUNK - スパンク! 』が大好き!! この楽しいは譲らない!! 難しいことを平易に、子供でも解るように変換して伝えられることこそが真の賢さであるという風に言われることがあります。部分的には解らなくもありません。 しかし、世の中にはどう頑張っても単純化できない(あるいはすべきでない)複雑なものも存在します。それは、まさしく新井英樹作品のようなものです。 新井英樹さん待望の最新作『SPUNK - スパンク! 』を3行でまとめろと言われれば、まあできなくはないでしょう。あらすじに書かれている情報をまとめて呈することは可能です。しかし、本作は第1話だけでもあまりに膨大な情報量が詰まっています。3行まとめでは、そこに存在する数多の機微を欠いてしまうわけです。 主人公の栗田夏菜が、幼い頃から人形より怪獣やゾンビが好きで、男子と遊ぶのが好きだったこと。 絵やマンガやロックや映画が好きだったこと。 吉田戦車や岡崎京子の良さが解る中学生で、自分でもマンガを描いてたこと。 男子とばかり遊んでいたら、女子グループからイジメられたこと。それに対して、全校集会で校長と取引して大々的に反抗したこと。 自分と同じ白線の上を歩くのが好きな返り血塗れの女(彼氏を刺殺した直後)の「譲るなJK どんと行け人生こっからだ」という言葉が心に刻まれていること。その女は次の瞬間トラックに跳ねられ潰れ肉片となったこと。それを見て何故だか元気を貰って笑ったこと。 その夏にナンパして来た男とホテルで初体験を済ませたこと。その頃に酒・タバコ・薬も一通り通ってお金のために法律無視のバイトも色々とやったこと。 高校卒業後は映画を撮りたくなり専門学校に通い始めたこと。 その後、六本木のクラブでホステスとして働く中で暴力団の若頭に気に入られたこと。 その若頭が実はドMであり、そこから女王様としての道に開眼していったこと。 縦横無尽にS道を驀進する自分が大好きであること。 これでもかなり端折っており、実際の第1話ではより濃密な人生が詰め込まれています。ひとつひとつの表情や、手指の演技に明確な意志がたくさん込められています。この文章を読むより、1,2巻をまとめて買ってそれを読み通し味わって欲しいです。切に。 そうした複雑さこそ世界や人間の在り方や本質に迫り相似している部分でもあります。人は往々にしてシンプルで解りやすい答えや飲み込みやすいものを欲します。しかしながら、こうした複雑で咀嚼も嚥下もし難いものと全力で格闘し、自分のものにしていく時間は人生において非常に大切であろうと思います。 『SPUNK - スパンク!』1話が世に出たときのキャッチフレーズ、「『好き』をナメるな」という言葉が私は心底大好きです。 人間の好きという気持ちから発せられるエネルギーを信じているから。 自分自身も、好きだけを突き詰めて生きてきたから。 他者の好きを突き詰め煮詰めたものが、大好きだから。 嫌いが生むものより、好きが生むものの方が強くて素晴らしいことが圧倒的に多いから。 わざわざ嫌いなものに自分から近付いていって誰も(自分も)幸せにしないことに貴重な人生の時間を費やすより、自分の好きな対象を愛することに1秒でも多く使った方が皆幸せになるのに、と常々思っています。故に、この作品の主人公・夏菜の自分の感情にとことん素直で好きを貪欲に突き詰める生き方は大変痛快で大好きです。 そして、本作の鍵となる人物は夏菜と対照的な冬実。SMバーの面接に行ったところで「私ごときが」と、入門を躊躇している彼女。名前の字面からして夏と冬で、性格的にもイメージそのままで奔放な夏菜に対して真面目で大人しく抑圧的な冬実は、夏菜から見ても理解しがたくつまらない存在です。しかし、常連客のひとりは冬実の潜在能力を感じ取っており、冬実の変化と共に物語はドライヴ感を増して疾走していきます。疾走感マシマシのパートの一連のセリフは、声に出して読みたくなる魅力があります。そして、読んでいるだけで新しい扉が開けるようなパワーが宿されています。 「SMも人生も笑いである」 「切実と滑稽の世界へようこそ」 酸いも甘いも散々噛み分けた先にある人の生の境地が、ここにはあります。SMバーを訪れる客たちも、それぞれ物語の主人公になれるような人生を背負っています。普通なら悲劇と呼ばれる話であっても、笑い話として笑い飛ばし蹴り飛ばす。そんな力強さと優しさに満ち溢れていて、読むとSPUNKを与えられます。 普通のマンガの主要人物たちには幸せになって欲しいなと思うことが多いのですが、彼女たちに関してはもう幸も不幸もすべて人生の一部であり等価値で何が起こってもいいし、どっちでも面白いと思えます。ただただ、見ていたい。何とも不思議な読み心地です。 雑誌で読んでいても十分面白いのですが、『SPUNK - スパンク!』は単行本になってこの世界だけに集中・没入して読むのが最も楽しめるなと感じました。1,2巻が同時発売となった理由も、よく解ります。2冊まとめて買って一気に読むことを強く推奨します。続きが気になった方は、新発売のビーム最新号で続きを読むこともできます。 『ザ・ワールド・イズ・マイン』、『なぎさにて』、『SCATTER あなたがここにいてほしい』、『ひとのこ』など超大な物語を経てこの個々人の物語に辿り着いているその意味も、読むことで言葉でなく心で伝わることでしょう。