日本をゆっくり走ってみたよ

男子たるもの、一生に一度ぐらいはバイクで日本一周したい

日本をゆっくり走ってみたよ 吉本浩二
マウナケア
マウナケア

そうそう男子たるもの、一生に一度ぐらいはバイクで日本一周!なんて思うよね。それは自分探しの旅だったり、まだ見ぬ日本各地の風景に憧れたり。その旅が終わるころには何か新しいものが待っていて、道中の経験が明日への糧になる、みたいな清々しさがこの手の物語にはあるはずなんですが、ああなのにこの作品はとっても息苦しい。主人公は30代半ばの連載が終了して先のあてがない漫画家。秘かに憧れる女の子に告白するため、強い男になってくると奮起して旅に出る…、などど20代ならともかく、これ実話って言ってしまっていいの?って感じ。で、旅先でもやたら変な人に声かけられるし、風俗にも飛び込めずウジウジするしで、もうイタさオーラ全開。”てめーしっかりしろよ”って突っ込み入れたくなってしまいます。引いてしまう人は多いかもしれません。でもね、ダメ男の日本一周なんてこんなもの、とありのままに見せてくれてるのが潔いとも思うのです。最後はなんだかんだ思っても”頑張ったな”と言いたくなりましたもの。まあ、強くなってはいないぶん小声で、ですけどね。

武士道シックスティーン

メディアミックスと同時多発コミカライズ

武士道シックスティーン 安藤慈朗 誉田哲也
ひさぴよ
ひさぴよ

「薬屋のひとりごと」が話題になってますね。なろう原作の大ヒットからのコミカライズですが、2019年現在、別々の雑誌(「月刊ビッグガンガン」「月刊サンデーGX」)で同時期にコミカライズを連載するという事態になってます。これはまぁ、色々とメディアミックスに関わる事情があってこういう事が起きてるんでしょうか。 で、過去にも同時コミカライズパターンあったな〜と思い出したのが、この「武士道シックスティーン」です。2009年に、「アフタヌーン」と「マーガレット」が同じようにコミカライズを展開していたのですね。結局どっちの方が売れたのか?今更ながら気になるところですが、とりあえずここではアフタヌーン版の感想を書こうと思います。 作画は安藤慈郎。「しおんの王」のコミカライズを経験し、次の作品で今度は武士道シックティーンの作画を手掛けています。他作品と比較してみて、特に違いを感じるのはキャラの性格付け。個人的にはアフタ版の方が地味…いや、落ち着いた雰囲気があって好きです。逆に、「地味なのは嫌!」という人はマーガレット版を読むのがいいかと。 キャラの性格の違いについて。剣道エリート・磯山香織に関して言うと、表情の変化こそ少ないものの、武士のような真剣味や生真面目さ、気迫のこもった表情が良いんですよね。これは、青年誌だからこそ磯山の「男っぽい」部分をより上手く引き出せたのかなと。 対する西荻早苗についても、ウザくなりすぎない天真爛漫さ(←ここ大事)と、舞踊の経験から来るしなやかさ、芯の強さを感じます。磯山と西荻、どちらも過不足なく、対比の描き分けが秀逸です。 メディアミックス化作品の場合、小説、映画、漫画のどこから触れるかで、作品の印象は変わるものだと思います。そういう意味では、最初にこの漫画から読めたのは自分にとって幸せなことでした。

ひゃくえむ。

人はなぜスポーツをするのか?(あるいはなぜ生きるのか?)

ひゃくえむ。 魚豊
いさお
いさお

人はなぜスポーツをするのか? 簡単に見えるこの問いだが、全てのスポーツに通ずるような、真理となる答えを見つけるのは難しい。 人に注目されたいから? その答えは、マイナースポーツに対しては通じない。 ともに戦うことで他人と交流ができるから? その答えは、シングルスのスポーツに対しては通じない。 楽しいから? その答えは、確かに存在する、苦しいのにスポーツを続けている者らに対しては通じない。 冒頭の問いに対して、全てのスポーツに通ずる答えを求めるにあたって手がかりとなるのが、「100m走」であろう。 100mを走る。 道具は使わない。チームメイトもいない。速さを求めないなら、ほぼ誰にでもできる。あまりに単純で孤独に見えるスポーツ、それが100m走である。そんなスポーツで、日々最速の地位を求めて努力する選手がいる。 100m走に、彼らは何を求めるのだろうか?この極めてシンプルな、全てのスポーツの原型とも言うべきスポーツに通ずる答えであれば、それはきっと根源的で、真理に近いものであるだろう。 そしてその答えの真理性は、スポーツという枠組みを超えて、人生にまで通ずるものになるかもしれない。 すなわち、わたしたちは100m走を通じて冒頭の問いに思いをはせることで、こんな問いにも、少しだけ答えを垣間見ることができるかもしれない。 人はいずれ死ぬのに、なぜ生きるのか? という問いに。 主人公のトガシは小学生のころから足が速く、そのおかげで人気者でした。 しかし上に行くにつれて、日本トップレベルの速さまで手が届いたとしても、自分よりも速い人も現れるでしょう。 「一番足が速い人」という価値の維持のために人生の全てを捧げてきたのに、その価値が失われていくとしたら、その後、トガシの人生に残るものは何なのでしょうか? スポーツ漫画であり、哲学読本のような作品です。 ぜひ、その真理に触れてみてください。

真夏のデルタ

満足感の高い1巻完結作品。

真夏のデルタ 綿貫芳子
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

とある3人の高校一年生、ひと夏の出来事。 人の顔色を伺っていい子のふりして勝手に不満を溜めて落ち込む女の子、椎葉。 背が高くてかっこよくて運動も勉強もできて周りの期待とプレッシャーの中で空気を読み続け「いい奴」を演じる男の子、三辻。 周囲からの視線、評価を一切気にしないで好きな美術と好きなだけ向き合う、伸。 付き合っている椎葉と三辻。孤独を楽しむ伸。 椎葉の歪な歯の形をきっかけに、ひと夏限りの三角形が浮かび上がる痛くて淡い思春期の記憶をそれぞれの視点から描くオムニバス。 https://twitter.com/atomicsource/status/1169210747240402944?s=20 「空気読まなきゃ」とか「嫌われないようにしよう」といった部分は多くの人の思春期に共通する息苦しくってたまらない問題ではあるんだけど、その分かりやすい手前の痛々しさだけをピックアップするべきではない奥行きを持った漫画だなと思った。 この漫画の、夏の強い陽射しとそよ風と木陰と美術室の匂いと蝉の声の中で鮮やかに描かれているのは、その時期の一点ではなく成長と変化の軌跡だ。 それぞれの立場の人間がこの出来事を機にそれぞれの方向へ軌道を変えていく。 そのときは運命的に感じるかもしれないが長い目で見ると偶然そこに居合わせたそれぞれの通過点に過ぎない。 それでも多感な時期に起きた出来事は、人生の行く末を変え得る力を持っているものだ。 読んですぐは、 ・変われた人(脱却、変化) ・変われなかった人(後悔、反芻) ・変わらなかった人(自分の価値観を信じて美しいものを追い続ける) の三者を描いているのかもと思ったけど、発言の内容だけ見ればそう単純ではない気もする。 当時は全てだった何もかもは、久しぶりに会えばあの日はあんなこともあったね、なんてささいな想い出のように語られるだろうけど、本当は誰しもが何かしらの形で一生その時代に囚われている。 そんな三者の羽化した先まで美しく描いているので一冊としての満足感がとても高い作品。

金のタマゴ

新人編集者珠子、走る!

金のタマゴ カツヲ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

高校時代に誓った二人の夢、それは 「一千万部売る編集者!」 時は経ち、同じ大手出版社に入社した桜井珠子と高瀬数真。珠子は立ち上げ三年目のライトノベル編集部に、高瀬は主力漫画雑誌編集部に、それぞれ配属。編集部の規模は違えど夢は同じ、二人の編集人生が始まる! 直感で走る珠子とデータ重視の高瀬は正反対の性格だが、時に相手に刺激を与え、時に相手に助け舟を出すいい関係。これは隠れた良質な「フロマンス(friendship+romance、男女の強い友情譚)」作品。 珠子のラノベ編集が主に描かれるが、考え無しに突っ走る珠子は、呆れられながらも編集の基本を叩き込まれ、全2巻でしっかり成長する。編集にまつわる基本事項や業務内容、お金の話などの内情もたくさん描かれて為になる上、キレのある名言がポンポン飛び出て面白い。 個性的な作家達とのやりとりも、珠子の土壇場の発想力で面白おかしく乗り切り、作家が育つ様はワクワクする。 絵柄は均一な線と美しいシルエットで頭身も高く、決して萌え系ではない。全年齢向けの読みやすい漫画になっている。 珠子がドタバタ繰り広げるコメディを笑いながら、社会人漫画、お仕事漫画としてももっと注目されて欲しい作品。 (添付画像の答えは1巻のどこかにあります)

ひとりぼっちの○○生活

コミュ障女子のトモダチ作戦!

ひとりぼっちの○○生活 カツヲ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

たった一人の友達に、絶交されちゃう! 仲直りの条件、それは 「クラス全員と友達になること」 親友と同じ学校に行けなかった新中学一年生の「一里ぼっち」。極度のコミュ障の彼女に、親友は友達作りミッションを与えた。最初に声をかけたのはちょっと怖そうな......。 「友達になってください」の一言がなかなか言えずに行動がおかしくなる「ぼっち」にヤキモキし、勇気を振り絞った「ぼっち」をホッとしながら見ていると、自分の中のコミュ障を呼び起こされつつ感情移入してしまう。 基本女の子達の笑えるやりとりで進行する、テンポのいいコメディだか、その中には友達一人作ろうとするたびに、様々な事情から来るドラマがあって、ひとつひとつが切なくて泣ける。 少しずつ増えていく友達たちが5巻あたりで集合すると、ものすごい感慨があるので、そこまで頑張って読むと幸せになること間違いなし! カバーや扉から可愛いトーンづかいまで、徹底して女子中学生っぽい空間を演出、こちらの脳内をカワイイ雰囲気に染めてくれる。 たくさんの笑いの中に、友達へと踏み込む大変さを思い出しながらほろっときてしまう、外見からは意外なほど心に響く作品。